黒字倒産しやすい業種は?企業の事例や対策を紹介

「黒字倒産」とは、損益計算書は利益が出ていて「黒字」なのに、資金繰りがうまくいかず手元の資金不足で事業を継続できなくなることです。

帳簿上に問題はなく、むしろ利益を生み出している状態なので、倒産リスクに気がつきにくいといえます。

しかしどれほど売上や利益が伸びていても、手元の資金が枯渇すれば会社は倒産してしまいます。

黒字倒産に陥らないためには、キャッシュフローなど管理を徹底することが重要です。今回は、黒字倒産とは何なのか、なぜ起きてしまうのかその理由と回避方法について解説します。

黒字倒産しやすい業種

東京商工リサーチの「「退出法人(倒産+休廃業・解散)」動向調査」によると、2022年の法人企業退出(倒産・休廃業・解散)件数は47,578件でした。

このうち、最も多いのがサービス業他の13,812件、次いで建設業の7,228件です。いずれの業種も例年、退出件数の多い業種となっています。サービス業その他が多いのは新規開業の件数が多い一方で、入れ替わりが激しいのが要因の1つといえます。

なお、倒産・休廃業・解散の件数が多い業種のなかでも、建設業は黒字倒産しやすい業種です。工事には多額の経費がかかるものの、完成するまで報酬を受け取れないためです。

また、予実の差が発生しやすく長期の工事や経済状況の変化などで予算を超える可能性があることや、業界特有の入出金サイクルがあることも理由にあります。

その他、在庫を抱える製造業や卸売業、小売業なども黒字倒産しやすいです。業種にかかわらず、従業員数の少ない小規模企業も黒字倒産しやすい傾向にあります。

参考:2022年法人の市場退出率 1.65%で2年ぶり上昇  過去10年間、 情報通信業が退出率トップで推移|株式会社東京商工リサーチ

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黒字倒産した企業の事例

なぜ黒字にもかかわらず会社が倒産してしまうのでしょうか。黒字倒産した上場企業の事例を2つ取り上げます。

  1. 不動産関連の企業のケース
  2. 化学薬品関連の企業のケース

不動産関連の企業のケース

まず、不動産関連の事業を営んでいたA社の黒字倒産のケースです。A社は損益計算書(PL)上では利益が上昇しており、一見すると業績が好調に見えました。しかし、会社の資金繰りが悪化して倒産に至ります。

A社が黒字倒産したのはキャッシュフローに問題があったためです。A社は営業活動(本業)での稼ぎがよくなく、資金調達によってその不足分を賄っていました。

本業の稼ぎが好転しなかったことから負債が増加し、黒字でも経営が厳しくなったのです。上場していたものの、会社更生法により倒産しました。その後、社名を改め再生しています。

化学薬品関連の企業のケース

化学薬品関連の事業を行っていたB社の黒字倒産のケースを紹介します。B社はアジア諸国に進出するなど、黒字倒産前は事業が良好に見えました。

B社が黒字倒産するきっかけとなったのは、取引先からの売掛金回収です。海外展開に力を入れていたB社は、ある国の経済成長の鈍化による影響を受け、海外の大口取引先から代金をうまく回収できなくなります。

さらに、多額の貸倒引当金の計上に加え、海外子会社の不正取引による特別損失の計上も重なり、多額の債務超過に陥りました。貸倒引当金については損益に影響しないことから、黒字でも危機的な状況になってしまったのです。

事業は好調でしたが、資金管理やリスク管理が不十分であったために、上場廃止と倒産に至っています。

黒字倒産とは

そもそも黒字倒産とは何か、倒産や赤字との違いも含めて説明します。

  1. 倒産とは
  2. 黒字倒産の意味
  3. 赤字=倒産ではない

上記3点を順に確認していきましょう。

倒産とは

「倒産」という言葉は正式な法律用語ではありません。

もともとは東京商工リサーチが1952年から開始した「全国倒産動向」の調査で知られるようになりました。

1964年12月4日に開催された衆議院商工委員会で、中小企業が事業継続できなくなる問題について東京商工リサーチのデータに基づいた国会質疑が行われたとき、「倒産」という言葉が使われ多くで使用されるようになったといえます。

「倒産」とは、企業が債務を支払うことができない状態に陥ったときや、経済活動を継続できなくなった状態を指す言葉として使われえています。

さらに定義として、次の2つに分類されます。

  • 法的倒産 再建型(会社更生法・民事再生法)・清算型(破産・特別清算)
  • 私的倒産 銀行取引停止・内整理

企業の資金繰りが悪化し、支払い能力を失っている状態が倒産であり、「経営破綻」や「破綻」など経営に行き詰ったことを意味する言葉と同義語として使われることもあります。

黒字倒産の意味

「黒字倒産」とは、帳簿上は利益を生むことができているのに、支払いに充てるお金が手元になく支払い能力を失っていることで事業を継続できなくなった状態です。

例えば売掛金が入金されず、支払いに充てるお金が不足しているときや、売上が奮わずに不良在庫を抱えてしまったときなどに起きてしまいやすいといえるでしょう。

起業したばかりのときは、売上が現金化されるまで時間がかかるため、手元の現金が枯渇しやすく黒字倒産リスクが高い状態にあるといえます。

以上のように、黒字倒産に大きく影響を与えるのが企業のキャッシュフローです。利益があるように見えても、キャッシュフローに問題があると黒字倒産が起こりやすくなります。

赤字=倒産ではない

会社が倒産しそうなときは、利益も出ずに赤字続きの状態をイメージする方もいるでしょうが、実際に赤字だからといって倒産するとは限りません。

仮に損益計算書上は赤字だとしても、支払いに充てる資金が手元にあれば、資金繰りに困ることがないからです。

あくまでも会社が倒産するのは、黒字や赤字であることではなく、手元の資金が十分あるか不足しているかによって決まると理解しておいたほうがよいでしょう。

黒字倒産する原因

なぜ黒字倒産してしまうのか、主な原因を4つ取り上げます。

  1. 売掛金の回収に問題がある
  2. 過剰に在庫を抱えている
  3. キャッシュフローを把握できていない
  4. 設備投資に問題がある

売掛金の回収に問題がある

後日入金される予定の売掛金が、期日になっても売掛先から支払われなければ、手元資金が不足しやすくなります。

回収の見込みが低くなると貸倒引当金(負債)には計上されますが損失にはならないことから、損益計算書だけでは実態を把握しにくいです。

上場企業の例でも紹介したように、貸倒れが多額になると資金繰りにも影響を及ぼすようになります。また、入出金のタイミングが適切でなく、売掛金入金の前に多額の資金が流出してしまうことも黒字倒産の原因です。

過剰に在庫を抱えている

商品を仕入れるとき、収益化できる見込みを立てておかなければ、過剰に在庫を抱えることになるでしょう。

なかなか収益化できない不良在庫が過剰にあると、現金流出により黒字倒産することがあります。不良在庫は売りたくても思うように売れず資金の回収が進まないためです。

キャッシュフローを把握できていない

黒字倒産を防止するには、損益よりも現金の出入りのほうが重要です。キャッシュフローが把握できていないと必要なときに資金調達ができなくなります。また、手元の現金が不足して支払いができないこともあるでしょう。

キャッシュフローはキャッシュフロー計算書でも確認できます。貸借対照表や損益計算書だけでなく、キャッシュフロー計算書などで資金の流れを把握しておくことも重要です。

設備投資に問題がある

設備投資がうまくいかず、当初の計画通り回収できないことも原因です。設備投資が不調だと、本業の稼ぎが下がったり、返済額のほうが回収可能額を上回ったりしてしまいます。

設備投資の回収には時間がかかることから、多額の設備投資で失敗したときは資金不足により黒字倒産に陥りやすいです。

黒字倒産リスクを測る指標

黒字倒産リスクに直面していないか確認するために、損益計算書で収支バランスをチェックすることが必要といえます。

なぜなら損益計算書と実際の現金の流出入は一致しないからです。

収支バランスの見極めで黒字倒産リスクを図るとき、次の3つの指標を確認するようにしてください。

  1. 自己資本比率
  2. 自由資金比率
  3. 当座比率

それぞれ説明していきます。

自己資本比率

黒字倒産リスクを図るとき、貸借対照表では純資産と負債のバランスを確認しましょう。

その上で、次の計算式により「自己資本比率」を算出します。

自己資本比率(%)=純資産÷(純資産+負債)×100

「自己資本比率」とは、返済不要の自己資本が資本調達全体の何%を占めているか示す指標であり、純資産と負債のバランスを確認できます。

会社の安全性を示す指標ともいえますが、製造業など固定資産が多い業種なら20%、卸売業や商社など固定資産が少ない代わりに売掛金や在庫など流動資産が多い業種は15%が目安です。

自由資金比率

「自由資金比率」とは、利益剰余金増加に占めるフリーキャッシュフローの割合です。

自由資金比率(%)=フリーキャッシュフロー÷自己資本増加額×100

「フリーキャッシュフロー」とは会社が自由に使えるお金ですが、自由資金比率が高ければ利益が自由に使えるお金として残りやすい状態であり、借入金に頼ることなく安定した資金繰りを保つことができると判断できます。

一般的に40%以上あれば安全とされるため、まずは確認してみましょう。

当座比率

「当座比率」とは、流動負債に対する当座資産の保有割合であり、流動資産からすぐに現金化できる資金がどのくらいあるか確認できます。

当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100

会社の短期的な支払い能力を分析・判断するときの指標とすることができ、100%を超えていれば余裕があるものとされますが、130%以上を目指しましょう。

黒字倒産を防ぐには

繰り返しになりますが、損益計算書など帳簿上の損益と手元のお金の流れは必ず一致するとは限らず、資金繰りが安定していない状況で帳簿上の売上や利益ばかりにとらわれていると黒字倒産リスクを高めます。

黒字倒産してしまうことを防ぐために、キャッシュフローをプラス維持できる経営を心掛けることが必要ですが、そのために必要なことは次の5つです。

  1. キャッシュフローの管理を徹底する
  2. 売上と費用のバランスを調整する
  3. 入金・支払いのサイトを見直す
  4. 資産管理を徹底する
  5. 資金調達方法を強化しておく

それぞれ説明していきます。

キャッシュフローの管理を徹底する

手元の現金の流れの円滑化に必要なことは、キャッシュフローを徹底して管理することです。

収入と支出のバランスを確認し、支払いが多く手元の資金が不足しそうなタイミングには、何らかの方法で資金調達する計画も立てておきましょう。

収支バランスが悪化している場合には、その原因を洗い出し改善することも検討してください。

販売した商品の代金がいつ・いくら入金されるのか、仕入れ代金もいつ・いくら支払わなければならないのか、「資金繰り表」を作成し将来的な入出金を先に記載しておくことが必要です。

売上と費用のバランスを調整する

売上を向上させることは大切なことですが、仕入れなどの経費が多くかかりすぎれば利益は出ません。

利益を多く得ることができる売上と経費のバランスを保つことができれば、手元のキャッシュフローにも余裕が出てきます。

仮に売掛金などの回収トラブルが発生した場合でも、キャッシュフローが潤っていればある程度対処できるはずです。

入金・支払いのサイトを見直す

資金繰りの円滑化には、入金はできるだけ早く、支払いはできるだけ遅くすることが必要です。

仕入れ代金の支払いサイトと売掛金の入金サイトを見直すことで、資金繰りを楽にすることができるでしょう。

ただし、仕入れ代金の支払いを遅らせてもらうことや、売掛代金を早く支払ってもらうことは、取引先に協力してもらうことが必要です。

交渉することで、資金繰りが悪化している状態にあることを勘繰られてしまい、その後の取引に影響が出ないとも言い切れないでしょう。

安易に交渉するのではなく、例えば契約を更新するタイミングに持ち掛けてみることや、取引量や単価など取引先にメリットがある内容に変えるなどの対応も必要になると考えられます。

資産管理を徹底する

仕入れた商品が在庫となり、販売して現金化されるまでには一定の時間がかかります。

そのため過剰に在庫を抱えれば、売れ残り価値を低下させた状態のまま抱えるリスクが高くなるため、適切な在庫管理を行うことが大切です。

不良在庫を抱えることは、管理費などのコストもかかるため、早めに処分するなどの対応が求められます。

また、使わない資産のうち、現金化できるものは売却して手元のお金を増やしたほうがよい場合もあります。

付き合いで購入したゴルフ会員権や株式などは、価値が低下するリスクを抱えています。

眠ったままの土地や建物なども、管理費や固定資産税など保有するだけでコストが発生します。

事業に影響を与えず使用していない資産は、現金化して手元の資金を増やすことを検討しましょう。

資金調達方法を強化しておく

キャッシュフロー管理の中で、資金不足に陥りそうなタイミングのとき、すぐに銀行から融資を受けて資金調達できるとは限りません。

必要なタイミングで必要な金額を調達できなければ、黒字倒産してしまうリスクが高くなるでしょう。

資金調達の方法を銀行融資一択に絞るのではなく、調達先を多様化しておくことで資金調達方法が強化できます。

銀行は相談すれば必ずお金を貸してくれるわけではないため、万一融資を受けることができなかったときや、必要な金額などに応じて他の方法を選ぶことができるようにしておくことをおすすめします。

まとめ

黒字倒産とは、損益計算書では利益が出ているのに、手元のキャッシュフローに問題があり倒産してしまうことです。

収支バランスが悪く、在庫管理が適切でない場合など、黒字倒産するリスクを高めてしまうといえるでしょう。

黒字倒産を回避するためには、手元の現金の流れを把握し、管理を徹底することが重要です。

もしも手元の資金が不足してしまいそうなときには、手遅れとなり黒字倒産する前に、ファクタリングなどで資金調達することも検討してみてください。

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