人手不足倒産が急増する背景とは?中小企業がすぐにできる防止策を解説

人手不足倒産は、2024年問題として取り上げられることが多かったといえますが、すでに2023年からその傾向が見られています。

特に建設業と物流業では、時間外労働の上限規制適用により、今後さらに現場の人材不足が進むことが懸念されており、人手不足倒産も増加する可能性があります。

そこで、人手が足らないことを理由に事業継続が困難な状況に陥ることを防ぐためにも、人手不足倒産が急増する背景や、中小企業がすぐにできる防止策について解説していきます。

人手不足による倒産急増の背景

人手不足による倒産が増えている事実は、2024年1月12日に帝国データバンクが公表した情報からも確認できます。

情報から確認できる内容は以下の2つです。

  1. 人手不足倒産が懸念される業界
  2. 人手不足の原因

それぞれ説明します。

人手不足倒産が懸念される業界

2023年に人手不足で倒産した企業件数は、前年比86%増の260件に達したと発表されています。

特に建設業や物流業の中小企業でその割合は顕著に増えており、共通していえるのはどちらの業界も2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されることです。

今後はさらに人手不足に陥ることが懸念されるといえるでしょう。

人手不足の原因

法的整理のみの倒産企業のうち、従業員の離職や採用難で人手不足に陥ったことが原因の倒産件数は、2013年調査開始以来で過去最高件数となっています。

全体の増加率を上回る水準で推移している業種は、建設2.7倍、物流2倍となっており、2024年問題とされる時間外労働の上限規制の対象業種であることが共通しています。

また、規模別に見た場合では、従業員10人未満の企業が8割弱を占めており、体力不足の中小にその傾向が強く見られるといえるでしょう。

以上のことから、人手不足倒産してしまう会社には、次の2つの特徴があると考えられます。

  1. 体力が足りていない
  2. 労働分配率が高い

それぞれ説明します。

体力が足りていない

人手不足倒産してしまう会社の多くは、資金面での不安を抱えているなど、体力不足であることが挙げられます。

2024年問題に対応するため、大手建設企業や物流企業では、社員確保を急ピッチで進めています。

しかし中小企業は賃金など条件面で大手と見劣りする場合が多く、人材獲得が困難な状況です。

人手不足で外注委託が増えてしまい、借入金が膨らんで手元の資金も足らなくなり、債務超過に陥り倒産してしまうケースもめずらしくありません。

労働分配率が高い

人手不足倒産してしまう会社は、「労働分配率」が高めの傾向といえます。

労働分配率とは、付加価値に占める人件費割合で、財務分析における生産性を表す指標です。

儲けに対する人件費がかかり過ぎていると割合が高くなるため、人手が足らずに過剰な労働になっていると判断できます。

現場の人手不足を解消するためには賃上げなどの対応も必要といえますが、労働分配率が高く賃上げ余地が少ない中小などの場合、無理な賃上げで収益を悪化させるリスクもあります。

そのため生産性向上と価格転嫁を進めていくなどの対応が急務といえるでしょう。

人手不足倒産の種類

人手不足倒産に陥らないためには、現場の人員が足らない状況に陥らないための対策が必要といえます。

そのためにも、次の4つの人手不足倒産の種類について理解を深めておきましょう。

  1. 後継者難型
  2. 求人難型
  3. 従業員退職型
  4. 人件費高騰型

それぞれ説明します。

後継者難型

「後継者難型」の人手不足倒産とは、経営者などが高齢や病気で現場に出ることができなくなり、会社を引き継ぐ後継者が見つからないことで事業継続ができなくなるケースです。

経営者として会社経営に携わる人材を育てることができなかったことで、事業を運営できなくなってしまいます。

求人難型

「求人難型」の人手不足倒産とは、人手不足解消に向けて求人募集したものの、応募がないなどの理由で人員を補充できず事業継続を断念することです。

人手不足倒産の中で比較的多く見られるパターンであり、人気の高い業種や仕事には人が集まるのに、3Kと呼ばれる人気のない業界では求人募集に対する応募がない事態に陥ってしまいます。

従業員退職型

「従業員退職型」の人手不足倒産とは、従業員の退職で現場の人員が足らなくなり、事業継続が難しくなることです。

たとえば中核社員や幹部層などの定年による退職で、現場を取り仕切っている人員やノウハウのある人材が足らなくなることで、事業継続できなくなるケースが多いといえます。

人件費高騰型

「人件費高騰型」の人手不足倒産とは、人件費が高くなることで収益のバランスが崩れてしまい、事業継続が難しくなることです。

最低賃金の見直しにより、引き上げがあれば人件費は高騰します。

固定費の多くを占める人件費が上がれば、資金が足りなくなり倒産してしまう可能性も十分あるといえるでしょう。

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中小企業が人手不足である理由

人手不足倒産する企業の特徴からわかるとおり、時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」が懸念される業種や、団塊の世代が後期高齢者に到達する「2025年問題」で事業継続を左右する会社にその危機が迫っているといえます。

具体的に中小企業で人手不足であるのは、次の3つの理由が関係しています。

  1. 知名度が低い
  2. 賃金・福利厚生の充実性に欠ける
  3. 将来性が期待できない

それぞれ説明します。

知名度が低い

中小企業が人手不足である理由として、大手企業よりも知名度が低いことが考えられます。

広告の打ち出しや採用活動なども、大手のように資金体力が十分でないため、限られた予算で行います。

新卒者の約半数は大手にこだわっているわけではなく、中堅中小企業でもよいと回答しているデータもあるため、知名度だけで就職先を選んでいるわけではありません。

しかし就職した後の職場の人間関係や社風などに馴染めるのか心配になったとき、情報量が大手よりも少ない中小企業で働くことに不安を抱えるケースもあるようです。

さらに業務内容や希望職種への配属や勤務地への不安などに関しても、大手より払拭されにくいことが中小企業の選ばれにくさにつながっているともいえるでしょう。

賃金・福利厚生の充実性に欠ける

中小企業が人手不足である理由として、雇用条件や待遇など、賃金・福利厚生の面での充実性に欠けることが挙げられます。

資金面での体力が十分な大手と比べて、一般的な中小企業の賃金や福利厚生はどうしても見劣りしてしまいます。

そのため待遇や処遇を重視する傾向が強い人には、中小企業は選ばれにくくなるといえるでしょう。

将来性が期待できない

中小企業が人手不足である理由として、先行きが不透明であり、大手企業のような将来性が期待できないことが挙げられます。

大企業は安定していて倒産しにくいイメージがあるのに対し、景気の影響を受けやすい中小企業は経済や市場の変化で倒産するリスクがあると考えられてしまいがちです。

先行きが不透明な中、安定した企業に就職したいと考える新卒者などは、まずは中小企業よりも大企業へ応募するという傾向が見られます。

人手不足倒産を防ぐ対策方法

人手不足倒産は、今後も中小企業で多く発生すると考えられます。

仮に黒字だとしても現場の人員が足らなければ倒産してしまう可能性はあるため、防ぐためにも次の4つを対応策として検討してください。

  1. 定着率を向上させる
  2. 求人への応募を増やす
  3. ノウハウを継承できる環境を整備する
  4. 助成金を活用する

それぞれ説明します。

定着率を向上させる

人手不足倒産を防ぐためには、従業員が長く働き続けることができる環境を整備し、定着率を向上させましょう。

そのために必要なこととして、次の5つが挙げられます。

  1. 雇用条件を充実させる
  2. 働きやすい職場環境を整備する
  3. 教育・研修を充実させる
  4. キャリアアップ制度を導入する
  5. 社内交流の場を設ける

ぞれぞれ説明します。

①雇用条件を充実させる

人手不足倒産を防ぐための定着率向上に向けて、雇用条件を充実させましょう。

若い世代は雇用条件の良好な求人を好む傾向が高いため、省人化投資などで休日数を増やすといった対応も必要です。

土日祝日だけでなく、アニバーサリー休暇など従業員のプライベートに合わせた休暇制度の導入で、仕事と私生活を両立できる職場と認識してもらいやすくなります。

また、入社後の成長やキャリア形成などを想像できるように、社内研修制度の導入や人事考課制度の確立なども必要といえます。

②働きやすい職場環境を整備する

人手不足倒産を防ぐための定着率向上に向けて、働きやすい職場環境を整備することが必要です。

風通しのよい職場環境づくりを基本とし、ハラスメント被害に遭ったときに相談できる窓口や目安箱の設置や、相談者のプライバシーを完全に守ることができる配慮や体制整備も必要です。

長時間労働を防ぐためのサービス残業の廃止はもちろんのこと、ノー残業デーを設定して有給休暇を取得しやすい環境を整えることも必要となるでしょう。

③教育・研修を充実させる

人手不足倒産を防ぐための定着率向上に向けて、入職後に適切な教育や研修を受けることのできる制度を充実させましょう。

また、悩みや不安があるときに相談できる定期面談なども実施することで、職場に慣れない新人の離職を防ぐこともできます。

日頃から環境整備に取り組むことで、問題が発生することを未然に防ぐことができるでしょう。

④キャリアアップ制度を導入する

人手不足倒産を防ぐための定着率向上に向けて、キャリアアップ制度を導入しましょう。

職務における能力や知識を継続して磨き、身につけることで経歴を高めることができれば、長く同じ職場で働き続けたいと考えやすくなります。

昇進・昇格などにより、役職やポジションを付与することや、非正規から正規の正社員へ雇用形態を変更するといったことが主な方法として挙げられます。

⑤社内交流の場を設ける

人手不足倒産を防ぐための定着率向上に向けて、従業員同士が気軽にコミュニケーションを取れるように、社内交流の場や機会を設けましょう。

交流が盛んで良好な人間関係が構築できている職場なら、仕事でミスやトラブルが発生したときも、互いにフォローし合える環境をつくりやすくなります。

信頼関係でつながっている仲間がいれば、悩みを相談し合うことで、退職を未然に防ぎやすくなるでしょう。

求人への応募を増やす

人手不足倒産を防ぐためには、人材を募集する際の求人に対する応募数を増やしましょう。

求人募集をしても、応募がなければ現場の人員は埋まりません。

そこで、求人に対する応募を増やすために、次の3つを踏まえた上での募集を行う必要があります。

  1. 業務内容・待遇は明確に記載する
  2. ハローワークとインターネットを併用する
  3. 採用活動の制度を上げる

それぞれ説明します。

①業務内容・待遇は明確に記載する

求人に対する応募数を増やすために、業務内容・待遇は明確に記載しましょう。

たとえば未経験者でもどのような仕事かイメージしやすいように、携わることになる業務について、専門用語などで難しい言葉を並べるのではなくわかりやすく記載したほうがよいといえます。

仕事内容を重視している求職者は、業務や待遇面が明確に記載されている求人でなければ、注目しにくいと考えられます。

②ハローワークとインターネットを併用する

求人に対する応募数を増やすために、ハローワークとインターネットを併用しましょう。

まずは自社のホームページへ経営者の考えや従業員の業務風景などに関する最新の情報を掲載します。

特に若い世代はSNSを活用する傾向が高いため、画像や動画によるアピールが必要です。

ハローワークの求人票では、職種が28文字、仕事内容が360文字という文字制限があります。

求人票で伝えきれない部分は、事業所からのメッセージとして600字まで記載できるため、うまく活用しましょう。

③採用活動の制度を上げる

求人に対する応募数を増やすために、採用活動の制度を上げましょう。

人材を採用後、想像していた仕事の内容と異なるという理由で退職してしまうケースも少なくないため、ミスマッチを起こさないためにも採用段階で求職者の条件を確認することが大切です。

求職者の仕事に対する姿勢や能力を事前に把握し、適性判断ツールなども併用することでミスマッチを防ぐことにつながります。

ノウハウを継承できる環境を整備する

人手不足倒産を防ぐためには、培ったノウハウやスキルを次の世代に継承できる環境を整備していきましょう。

人材を雇用してもすぐに退職してしまう職場は、従業員の入れ替わりが激しいため、ノウハウが継承されにくい傾向にあります。

企業としての強みが薄れれば、倒産を招く原因に繋がるため、ノウハウを継承できる環境を整備しましょう。

助成金を活用する

人手不足倒産を防ぐためには、資金不足で従業員を雇用できない状況に陥らないための補助金・助成金の活用も必要です。

主に人手不足対策においては次の3つの助成金を活用することができます。

  1. トライアル雇用助成金
  2. キャリアアップ助成金
  3. 人材確保等支援助成金

それぞれ説明します。

①トライアル雇用助成金

トライアル雇用助成金」とは、無期雇用契約へ移行することを前提として一定期間試行雇用した場合に受けることのできる助成金です。

求職対象者に応じたコースの申請が可能であり、たとえば一般トライアルコースであれば、支給対象者1人につき月額4万円の助成額となっています。

②キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金」とは、有期雇用労働者・短時間労働者・派遣労働者など非正規雇用労働者を正社員化することや、処遇改善に取り組む事業者に対する助成金です。

複数のコースが設けられていますが、たとえば正社員化コースでは以下の助成額が支給されます。

有期雇用非正規労働者を正社員にした場合 57万円
有期雇用非正規労働者を正社員にし、生産性向上要件を満たす場合 72万円
無期雇用非正規労働者を正社員にした場合 28万5千円
無期雇用非正規労働者を正社員にし、生産性向上要件を満たす場合 36万円

 ③人材確保等支援助成金

「人材確保等支援助成金」とは、魅力ある職場づくりに向けて取り組む事業者などを支援する助成金です。

複数のコースが設けられていますが、活用しやすいコースを以下の通り紹介します。

中小企業団体助成コース 内容 改善計画の認定を受けた中小企業団体(事業協同組合)などが、構成中小企業者の人材確保や職場定着を支援する事業を行ったとき助成する制度
助成額 1年間の中小企業労働環境向上事業の実施にかかった経費の3分の2の額
支給限度額 大規模認定組合等(構成中小企業者数500以上) 1,000万円
中規模認定組合等(同100以上500未満) 800万円
小規模認定組合等(同100未満) 600万円
外国人労働者就労環境整備助成コース 内容 外国人労働者の職場定着に取り組む事業者を助成する制度
対象事業者 以下の要件を満たす事業者
・外国人労働者に対する就労環境整備措置を新しく導入し、外国人労働者全員に対し実施する
・就労環境整備計画期間終了後の一定期間経過後、外国人労働者の離職率が10%以下である など
支給限度額

支給対象経費の2分の1(上限57万円)

生産性要件を満たした場合は3分の2(上限72万円)

要件 就労環境整備措置(雇用労務責任者の選任・就業規則等の社内規程の多言語化など)の導入や実施・離職率目標の達成など
内容

質のよいテレワークを制度導入・実施し人材確保や雇用管理改善に取り組む中小企業事業者を助成する制度

対象となる経費は最大6か月分の合計77万円までであり、賃金要件(賃上げ加算)を満たした場合は目標達成助成の助成率が割り増しで支給

テレワークコース 助成金額 機器等導入助成:1企業あたり支給対象となる経費の30%
目標達成助成:企業あたり支給対象となる経費の20%(賃金要件を満たす場合35%)
要件 機器等導入助成:評価期間(機器等導入助成)において1回以上テレワーク実施対象労働者全員がテレワークを実施 など
目標達成助成:評価時離職率が計画時離職率以下であること など

まとめ

人手不足倒産は今後増えることが予想されており、特に建設業と物流業では2024年4月からの時間外労働の上限規制適用によって、厳しい状況に追い込まれる可能性があります。

黒字だとしても現場の人員が足らず倒産してしまう会社も増えると予想されるため、人員の定着率を向上させるための取り組みや、求人への応募を増やすこと、助成金などの活用も検討していきましょう。

なお、助成金は後払いで入金されるため、一時的に資金面での立て替えが必要となります。

資金調達の方法で迷ったときには、売掛金を現金化するファクタリングの活用で、借入金を増やすことなく手元の資金を増やすことが可能となるためご検討ください。