「下請け」として仕事を続けるのではなく、脱却して一定の取引先に依存することから抜け誘うとする事業者も増えつつあります。
大企業の受注力に任せていた時代は終わり、先行き不透明な今では独自の顧客開拓が必要となったからです。
しかし実際には下請けからの脱却は簡単なことではなく、営業力やデータ分析力が必要とされています。
そこで、下請けから脱却するにはどうすればよいのか、抜け出せない背景や抜ける効果もあわせて解説していきます。
目次
下請けとは
「下請け」とは、元請けから委託された業務を引き受けることで報酬を得る事業形態です。
建設業や製造業などで多く見られる「重層下請構造」は、1つの事業に対し、複数の下請けがピラミッド型で存在します。
元請けから下請けへの発注においては、一定以上の金銭が中抜きされるため、得ることのできる収入は重層下請構造の下位に位置するほど少額です。
3次または4次と次々に下請けへと丸投げされていけば、実際に業務を担当する最終的な下請けの利益がかなり少なくなるだけでなく、入金されるまで時間もかかります。
十分な収益を得ることができないだけでなく、実際に手元のお金が増えるまでの時間も長いため、資金繰りが悪化してしまうでしょう。
元請けとの違い
「元請け」とは、発注者から仕事を直接請け負う業者です。
下請けと「元請け」の違いは、誰から仕事が発注され、請け負っているかといえます。
依頼主である発注者から仕事を請け負う業者が「元請け」であり、「下請け」は元請けが請け負った仕事の一部または全部を引き継ぎます。
元請けと下請けの違いとは?仕組みやそれぞれのメリット・デメリットを解説
下請けのデメリット
下請けとして仕事を請け負うことによる「デメリット」の多くは、立場的に不利な状況に置かれることです。
仕事を与える優位な立場の元請けから、仕事をもらう不利な立場の下請けへと、悪条件での提案がされるといったケースも少なくありません。
下請けの要望は通りにくくなる可能性も否定できますが、主なデメリットとしては次の3つです。
- 取引先に依存する
- 不利な条件を押し付けられる
- 営業力等が低下する
それぞれどのようなデメリットがあるのか説明していきます。
取引先に依存する
下請けのデメリットの1つ目は、一定量の仕事を元請けから依頼してもらえる状況にあるため、1つの取引先に依存しやすいことが挙げられます。
元請けから発注がなければ下請けの仕事はなくなってしまうため、特定の取引先に依存するのではなく、直接発注先から仕事を請け負うことができる立場へと変えていくことが必要です。
不利な条件を押し付けられる
下請けのデメリットの2つ目は、優位な立場にある元請けから、不利な条件を押し付けられる可能性があることです。
仕事を与える立場である元請けよりも、仕事を与えてもらう立場の下請けは、仕事量や単価などで不利な条件のまま契約せざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
強気で交渉すれば、元請けから別の依頼先へ発注されてしまい、仕事がなくなる可能性があるからです。
相場よりも低い金額で仕事を依頼されないように、下請けからの脱却を検討するべきでしょう。
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営業力等が低下する
下請けのデメリットの3つ目は、安定して元請けから仕事を請け負っている状況に慣れてしまい、営業力などが低下することが挙げられます。
常に元請けから安定して仕事を発注してもらえていれば、新規の取引先を獲得する営業活動は必要なくなります。
仕事を請け負う活動をしないまま顧客開拓ができない状況が定着すると、独自商品の開発やブランドの強化もできず、価値を高めて収益を増やす発想は育ちません。
提案力や企画力が低下し続ければ、仮に元請けから仕事を打ち切られたときに、次の取引先を見つけることはできないでしょう。
下請けのメリット
下請けとして仕事を請け負うことはデメリットが大きく、早期に脱却を図りたいと考えてしまうものですが、実際には次の3つのメリットもあります。
- 安定して仕事を確保できる
- 生産性・信頼性が向上する
- 企業規模を拡大できる
それぞれのメリットについて説明していきます。
安定して仕事を確保できる
下請けのメリットの1つ目は、安定して一定の仕事量を確保できることが挙げられます。
元請けが自社の安定した資金力や営業力で多くの仕事を獲得し、その仕事を依頼してもらえる状態が続けば、安定した収益を得ることができます。
下請けが営業活動をしなくても、一定の仕事量と収入を毎月確保できることはメリットといえます。
生産性・信頼性が向上する
下請けのメリットの2つ目は、依頼されたモノやサービスを作り提供するため、生産性や信頼性が向上することが挙げられます。
与えられた仕事や業務へ対応すればよいため、開発や営業に費用をかける必要がなく、その分、生産性を上げて収益率を高めることができます。
さらに大手からの下請け業務であれば、社会的な信頼性も上がり、アピール材料とすることもできます。
銀行融資を受けるときの評価も高まるなどのメリットにもつなげることが可能です。
企業規模を拡大できる
下請けのメリットの3つ目は、たとえば中小企業の場合、大企業から仕事を受注することで企業規模を拡大できることが挙げられます。
元請けから受注した仕事が特定の部品の製造であった場合、その業務に特化することで受注量を増やし事業拡大も検討できます。
その結果、従業員の雇用や事業拡大に向けた設備投資へつなげることができれば、自然と企業規模も大きくなっていくでしょう。
下請けから脱却できない理由
下請けのまま仕事を請け負っていても、仮に元請けから仕事を打ち切られたときには、たちまち収入が激減します。
そのため下請けのまま仕事を受注するのではなく、脱却して元請けとして依頼される立場になるべきといえますが、簡単なことではありません。
下請けから脱却できない理由として、次の3つが挙げられます。
- 営業力不足
- データ分析不足
- 挑戦意識の不足
それぞれどのような理由か説明します。
営業力不足
下請けから脱却できない理由として、毎月一定量を元請けから受注するスタイルが定着してしまったことにより、営業力が不足していることが挙げられます。
元請けから依頼された仕事について、要望に従い生産・納品する流れが定着していれば、新しく取引先を獲得する姿勢は弱くなります。
そもそも営業能力の高い人材が不在であるなど、営業スキルが身についていないことも少なくありません。
データ分析不足
下請けから脱却できない理由として、客観的にデータを分析できる能力が足りていないことが挙げられます。
営業で新規取引先を獲得する場合、たとえば技術をアピールする上での客観的なデータ分析が必要です。
しかし根拠となるデータを揃えて解析する能力がなければ、説得力のある営業トークにはつながらず、新規取引先の獲得は難しくなります。
挑戦意識の不足
下請けから脱却できない理由として、現状から抜け出そうとする挑戦意識が不足していることが挙げられます。
そもそも下請けとして元請けの指示通りに業務を行えば、毎月安定した収入を得ることができる環境を確保できます。
その安定した環境を維持するのではなく、新規取引先を獲得するチャレンジ精神がなければ、下請けから脱却はできません。
下請けからの脱却による効果
下請けから脱却することは簡単なことではないものの、抜け出すことで次の3つの効果が期待できます。
- 収益が改善する
- 事業リスクを分散できる
- 価格主導力を獲得できる
それぞれ説明します。
収益が改善する
下請けから脱却することにより、収益が改善する効果が期待できます。
元請けからの受注を継続すれば、安定した仕事量と収入を確保できますが、独自に販路を獲得することでさらに収益性が増します。
新規の売上の比率は少なくても、利益構成の比率を高めることにはつながるでしょう。
事業リスクを分散できる
下請けから脱却することで、万一のことが起こったときの事業リスクを分散できます。
発注先から直接仕事を請け負うことができていれば、元請けが倒産した場合や仕事を打ち切られたときのリスクに備えることができます。
できるだけ多くの取引先を獲得することで、事業リスクを分散させ、一定の取引先への依存度を下げることができるでしょう。
価格主導力を獲得できる
下請けから脱却することで、従来までの元請けから伝えられたままの価格での契約するのではなく、金額を提示する価格交渉力を獲得できます。
元請けとして仕事を請け負うことができれば、従来までの言われるがままの価格での契約ではなく、交渉して決めることも可能となります。
不利な条件で契約する必要がなくなるため、業績にもよい影響を与えることになるでしょう。
下請けからの脱却方法
先行きが不透明な今、元請けに対する依存をなくし、下請けとしてではなく発注者から直接仕事を依頼される立場になることも大切です。
そこで、下請けから脱却するために、次の5つの方法を実践していきましょう。
- 市場を把握する
- 強みを洗い出す
- 戦略を立てる
- 取引先を増やす
- 社内の意識改革をする
それぞれどのような方法か説明します。
市場を把握する
下請けから脱却するために、まずは市場を把握しましょう。
属している業界の市場環境は常に変化しているため、市場動向を調査し業界をしっかりと分析しましょう。
その上で次のうちどのポジションを希望するのか検討することが必要です。
- 下請けとして取引先事業者数を増やしたい
- 強みを活かすことのできる別市場へ事業拡大したい
- 元請けとして独自商品で取引したい
下請けからの脱却を目指す上で、まずは現在の事業で基盤を作り上げ、現状と市場環境を考慮しつつ立ち位置を選んでいきましょう。
強みを洗い出す
下請けから脱却するために、競合との差別化を図ることのできる自社の強みを洗い出しましょう。
元請けとして仕事を請け負うのなら、他社にはない独自の技術や性能などをアピールすることが必要です。
強みは競合と比較したときに優れている部分であるため、販売する商品やサービスに限らず、経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報などから検討できます。
また、品質・コスト・納期などでも差別化は可能です。
競合との優位性の要素を複数洗い出し、新規取引先を獲得する上で何をアピールしていけるかしっかりと検討していきましょう。
戦略を立てる
下請けから脱却するために、どの市場環境へ進むのか戦略を立てましょう。
新たな市場へ進む場合には、新規取引先に業務の幅を広げた自社の強みをアピールすることが必要です。
受注量を増やすといった戦略も必要となるため、余裕がないときにはまずは下請けのままで自社の強みを活かしつつ、新規取引先を増やしていくとよいでしょう。
取引先を増やす
下請けから脱却するために、新規取引先を増やす営業活動を積極的に行いましょう。
たとえば業界が開催する展示会に自社の製品などを出展し、取引先候補の目に触れてもらうといった方法も可能です。
自社の製品などに興味を持った取引先候補がブースを訪れたときには、他社にはない強みをアピールしていきましょう。
展示会に来場する取引先候補も、新たな取引先を探している可能性が高いため、成約できる見込みは高いといえます。
製品そのものよりも技術でできることをアピールすれば、より競合と差別化しやすくなります。
社内の意識改革をする
下請けから脱却するために、従来の取引意識は捨てる意識改革を行いましょう。
新規取引先が増えれば、従来の取引業務をしつつ、新しい取引先の業務も行うことになります。
元請けから与えられた仕事をこなせばよい状況とは異なり、自社の強みを活かして要望に応えることが必要です。
従来までの取引に対する意識は捨てて、新たな仕事に対する姿勢や強みを活かす努力が求められるでしょう。
まとめ
下請けから脱却することは、けっして簡単なことではありません。
しかし、新たな販路を見つけることと、自社の強みを洗い出し、アピールできる環境を整備することで元請けとして直接発注を受ける立場へ変わることはできるでしょう。
顧客にターゲット層の見極めやセールスポイントを絞り、下請けから脱却する高い意識で積極的に営業活動を行うことも必要です。