運送業の経費負担拡大!高騰する軽油価格で求められる「燃料サーチャージ」とは?

軽油など燃料費の高騰で、経費負担が大きくなり、運送業の経営者を悩ませているところといえます。

どれほど経費削減に努めても、燃料費の価格が上がってしまえば自助努力では対応できず、運送コストの影響はかなり大きくなります。

運送業の経営リスクを高める問題といえますが、「燃料サーチャージ」を導入することが、高騰する燃料費とリスク軽減対策となるはずです。

そこで、運送業が経費負担を抑えるために理解しておきたい「燃料サージャージ」と、それに関連する「標準運賃」「標準的な運送」について解説していきます。

 

運送業に求められる「燃料サーチャージ」とは

トラック運送の「燃料サーチャージ」とは、荷主と運送事業者間で取引をするときの基準となる価格を定めておき、燃料価格が上昇した分は運賃や料金に反映するというものです。

燃料価格が上昇したり下落したりすると、その分コストも増減することになりますが、その増減分を別建てで運賃として設定するための制度といえます。

この燃料サーチャージは、元々、1970年代に海運業界が導入したものであり、後に航空業界や陸運業界でも拡大されました。

国土交通省やトラック協会などが燃料サーチャージを導入するように働きかけていることもあって、少しずつ導入する企業が増えてきています。

 

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燃料サーチャージの導入が進まない理由

運送業にとってはメリットがあると考えられる燃料サーチャージですが、実際にはあまり導入が進んでいません。

その理由として、燃料サーチャージは最初に原価計算や燃料高騰時の影響額など、現状を分析・把握することから始めなければならないからです

その上で取引先と導入に関する交渉を行うことが必要ですが、この取引先との交渉が最もハードルが高く、次のような理由が妨げになっているとされています。

  • 未導入の運送事業者に荷主を奪われてしまう
  • 価格変動が激しいため複数回に渡り値上げが必要
  • 導入した場合には運賃を値上げしにくくなる
  • 算出上の軽油基準価格について荷主から理解を得られない
  • 価格沈静化後に燃料サーチャージがなくなる
  • 荷主が燃料サーチャージそのものの仕組みを把握できていない
  • 荷主との契約手続が煩雑

他にも、システム変更や構築コスト運賃の届出作業が煩雑といったことが理由として挙げられるでしょう。

ただ、一番の懸念は導入していない企業に仕事を奪われてしまうことです。荷主との関係が強固なものであればよいですが、弱い立場であるなどの理由で契約を打ち切られることを恐れ交渉できない状況と考えられます。

そもそも運送事業者の中には、行政処分を受けるリスクが高い状態とわかっていながら原価割れで仕事を引き受けているケースもあるため、燃料サーチャージを導入したくてもできなくなってしまうといえます。

そのため燃料サーチャージ導入や運賃値上げはすべて契約に一律に行わずに、取引先や契約内容で柔軟に設定したほうがよいでしょう。

 

トラック配送料金の「標準運賃」とは

標準運賃」とは、旧運輸省である国土交通省が1999年(平成11年)まで発表していたトラック配送料金の標準料金表(運賃タリフ)です。

当時も「標準運賃」が守られることなく、すでに形骸化していたため、1999年を境として発表を取りやめました。

しかし運送業界ではその後も古い標準運賃が幅を利かせ、2017年に実施された調査でも約6割の運送業が運賃決定において、1990年(平成2年)以前の「標準運賃」をベースにしていることがわかっています。

そのような状態で、運送事業者が健全経営を維持できているかといえばそうではありません。

働き方改革による時間外労働上限規制も、いよいよトラックドライバーに対し2024年から適用されます。

現状のままでは、運送事業者の経営状況は今よりもさらに悪化してしまうと考えられるでしょう。

どれほどたくさんモノを作ったとしても、運送業界が健全に機能しなければ社会のインフラといえる物流が滞り、経済も活性化しません。

そこで国も運送ビジネスの主役といえるトラックドライバーの待遇改善に向けて、「標準的な運賃」を発表しました。

 

「標準的な運賃」とは

国土交通省が令和2年4月24日に告示したのが、トラック運送業界の「標準的な運賃」です。

標準的な運賃」とは、トラックドライバーの労働条件を改善させてドライバー不足を解消し、安定した輸送力確保のために参考とされる運賃を示したものといえます。

この「標準的な運賃」のは、以下の費用は含まれていません。

  • 待機時間料
  • 積込・取卸料
  • 付帯業務
  • 高速道路
  • フェリー利用証
  • 燃料サーチャージ

そのため別途収受することとされているため、運賃・料金・実費について、どのようなルールで適用させるのか割増や割引の適用方法など補完する事項についてそれぞれのトラック運送事業者が「運賃料金適用方」として定めるのがルールです。

取引先ごとに、契約書や覚書で取引条件を規定します。

 

標準運賃と標準的な運賃の違い

「標準運賃」と「標準的な運賃」は、どちらも「貨物自動車運送事業法」に定めがあります。

 

【標準運賃(貨物自動車運送事業法第63条)】

  1. 発動条件…景気などに左右され、「運賃」が著しく高騰または下落する恐れがあるとき
  2. 目的…公衆の利便または運送会社の健全経営を確保するため
  3. 基準…適正な原価と利益を基準とする

【標準的な運賃(貨物自動車運送事業法附則第1条の3)】

  1. 発動条件…2020年4月24日~2024年3月31日
  2. 目的…トラックドライバーの労働条件を改善し、運送事業の健全運営確保による貨物流通機能維持向上のため
  3. 基準…運送事業の能率的な経営のもとで適正な原価と利潤を基準とする

 

全日本トラック協会の「燃料サーチャージ制」導入と「標準的な運賃」活用に向けた動き

現在、燃料価格は高騰が続いていますが、全日本トラック協会はトラック運送の「燃料サーチャージ」導入と「標準的な運賃」の活用を求める特設サイトを開設しています。

燃料価格上昇分を別建てで運賃とする制度が燃料サーチャージですが、燃料価格が高騰するたびに議論されてきました。

しかし導入されたケースは少なく、中小の運送会社の場合、荷主と価格交渉を行うことすら難しい状態です。

燃料価格の変動で輸送力を安定して確保できなくなっていますが、これは持続可能な物流とはいえません。

運送事業者の経営に打撃を与えることである上に、そもそも運送業界はトラックドライバー不足に悩まされています。

それに加えて働き方改革による時間外労働上限規制が2024年から適用され、新型コロナウイルスなど課題も山積している状況です。

このままでは燃料価格高騰により、倒産してしまう運送会社が増えてくるとも考えられるでしょう。

そこで、全日本トラック協会では2022年1月25日から特設サイトを公開し、荷主に対し「燃料サーチャージ」導入と「標準的な運賃」について協力を求めているのです。

 

インターネットバナー広告による呼びかけ

2022年2月下旬まで、「燃料価格が1円上がるとトラック業界全体で約150億円負担が増えます!」というキャッチコピーを使ってインターネットでバナー広告も展開していました

燃料サーチャージにより、燃料価格の上昇・下落によるコスト増減分が別建てで運賃として設定されます。

「標準的な運賃」でも、軽油価格は1リットルあたり100円で算出され、この価格を超えたときには別途運賃を収受できます。

しかし実際には、航空業界などでは燃料サーチャージが浸透していますが、運送業では価格交渉さえできず燃料価格上昇分を運賃として収受できていません。

燃料価格変動に左右されずに輸送力を安定して確保するためには、荷主から理解を得て協力してもらうことが欠かせないといえます。

 

「標準的な運賃」に基づく「燃料サーチャージ」の考え方

「標準的な運賃」では1リットルあたり100円基準価格にしていますが、2022年に入ってからの軽油価格は1リットル130円を超える水準で推移しています。

そこで「燃料サーチャージ」の導入が重要になりますが、仮にトラック運送事業者から燃料費の上昇分を運賃・料金に反映することを求められたのに不当に荷主が据え置いたときには、「私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律」に違反する可能性もあります。

さらに「貨物自動車運送事業法」でも、荷主への働きかけ、要請・勧告・公表などの対象となると考えられます。

荷主が燃料値上がり分を負担するのであれば、輸送力は燃料価格に左右されることなく安定して確保することができます。

トラック運送は国内輸送の9割を占めているため、輸送力を安定して確保することは、結果的に消費者や荷主にも利益となると考えるべきでしょう。

新型コロナウイルス感染拡大の影響によりECサイトの利用が増え、サプライチェーンが注目されるようになった今だからこそ、持続可能な物流について考えていかなければならないのです。

 

「燃料サーチャージ」導入を成功させるための4つのポイント

「燃料サーチャージ」を導入するためには荷主との交渉が欠かせませんが、理解を得て導入を成功させるためには、次の4つのポイントを実践していきましょう。

①積極的な省燃費活動をアピールする

荷主は常にエコドライブなど省燃費に対して行った努力を評価するため、燃費性能が高い車両導入や、ドライバーに対するエコドライブ教育指導などを行いましょう。

また、東京都離発着地の運送事業者の燃費を評価する「貨物輸送評価制度」などの認証を得ることで、燃費削減をアピールできます。

②適切な原価管理を行う

トラックの走行距離や燃料消費量などをもとに原価計算し、軽油単価の値上がり額が確認できれば原価管理もそれほど難しくないため実行していきましょう。

③荷主とコミュニケーションをとり強固な関係をつくる

荷主に自社の状況を理解してもらうためには、普段から荷主とのコミュニケーションを大切にしましょう。

強固な関係を作っておくことで、燃料サーチャージを未導入の他社に仕事を奪われてしまうといった不安を解消することができます。

④差別化を図る

誰でも仕事内容が同じなら、できるだけ安い業者に依頼したいと考えるものでしょう。

荷主も同じく、仕事を頼むならできるだけ安い運送事業者と契約したいと考えているはずです。

しかし安かろう悪かろうでは意味がなく、たとえ価格が高くても仕事を頼みたいと選んでもらえる工夫が必要といえます。

たとえば

  • Gマークやグリーン経営認証など各種認証や資格の取得
  • サービスの工夫

などで差別化を図り、荷主に安心してもらえるサービスの提供を心掛けることも必要です。

荷主と直接関わりが下請の運送事業者の場合には、原価計算など適切に行い元請運送事業者に示せば、元請運送事業者が荷主に交渉するときの材料に使うことができます。

運送にかかるコスト増を転嫁することが燃料サーチャージの仕組みなので、元請と下請が協力することも大切です。

 

「燃料サーチャージ」導入に成功した後は届出が必要

「燃料サーチャージ」では、新しく別建で料金を設定することになるため、設定した後は30日以内に所轄の地方運輸支局に届出が必要です。

貨物自動車運送事業報告規則第2条の2には、次の事項を記載した運賃料金設定(変更)届出書を提出することが必要としています。

なお、一般貨物自動車運送事業および特定貨物自動車運送事業者は所轄の地方運輸局ですが、貨物軽自動車運送事業はその主たる事務所の所在地を管轄する運輸管理部または運輸支局にそれぞれ提出が必要とされていますので注意しましょう。

運賃料金設定(変更)届出書に記載する項目は以下のとおりです。

  • 氏名または名称・住所(法人はその代表者の氏名)
  • 事業の種別
  • 設定または変更しようとする運賃・料金を適用する運行系統または地域
  • 設定しまたは変更しようとする運賃・料金の種類・額・適用方法
  • 実施日

運賃料金設定届出書は事後報告することになるため、忘れないようにしてください。

 

まとめ

運送業界はドライバーの高齢化も進み、労働時間が長いのに賃金が低いと、若い世代に敬遠されがちです。

そのため人手不足が解消されず、このままでは安定した輸送力確保は維持できなくなるでしょう。

そのために告示されたのが国土交通省の「標準的な運賃」であり、それによる「燃料サーチャージ」の導入が急がれます。