人材派遣業の資金調達にも、ファクタリングは有用といえます。
ファクタリングは、保有する売掛債権をファクタリング会社へ譲渡し、現金化することで資金を調達できるサービスです。
人材派遣業では、派遣先から派遣会社へ支払われる報酬が、譲渡の対象となる売掛債権といえます。
そこで、人材派遣業におけるファクタリングの有用性や、利用するべきケースを解説します。
中小企業経営者向け!

目次
人材派遣業とは
「人材派遣業」とは、派遣会社の雇った派遣スタッフを派遣先に紹介する事業です。
「人材派遣」は労働者派遣法で以下のとおり定義されています。
己の雇用する労働者を当該雇用関係の下で他人の指揮命令を受け他人のために労働に従事させることを業とする |
これは、以下がそれぞれ別であることを示します。
- 労働者と雇用契約を結ぶ会社
- 労働者が実際に仕事をする会社
通常、会社に雇われた正社員やパート従業員は、直接働く企業と雇用契約を結び働きます。
しかし人材派遣の場合、労働者は派遣スタッフとして派遣会社と雇用契約を結び、派遣先から指揮を受けて働くという違いがあります。
給与や福利厚生になどは、派遣先ではなく雇用主である派遣会社が対応します。
派遣先は、派遣スタッフが時間単価で労働した時間分を派遣料金として派遣会社に支払います。
そのため人材派遣を利用すると、成果の有無に関係なく、派遣スタッフが稼働した分を報酬として派遣会社に支払うことが必要です。
人材派遣業開業で満たすべき要件
人材派遣業を開業するときには、事務所を開設するために満たさなければならない要件に注意しましょう。
2020年4月1日から労働派遣法が改正され、届出制から許可制へ変更されています。
開業後の継続においても、一定以上の経営状態を保つことが求められ、経営状況が悪化の状態では続けることができません。
労働派遣法改正前は届出で開業できたのに対し、現在は許可制へと変更されてます。
資金面で満たすべき以下の営業許可要件についても、理解しておくことが必要になったといえます。
- 資本金 基準資産額を「2,000万円×事業所数以上」準備することが必要
- 預金 現預金を「1,500万円×事業所数以上」保有することが必要
- 基準資産額 基準資産額は負債総額の7分の1以上であることが必要
一定の資金を保有していることが必要であり、負債額があまりに大きければ営業できません。
事務所を借りる場合には賃料×10か月分の保証金や不動産仲介料、その他事務所の備品・事務機器・パンフレットや名刺の印刷代などもあわせれば、250万円程度は必要となるでしょう。
事務員や派遣スタッフ募集の広告宣伝費なども必要となり、法人設立費用も必要です。
事務所は派遣スタッフが登録に出向きやすい駅近物件など、立地良好な場所を選ぶことが求められます。
地域によっては賃料が高額になり、十分な資金計画が必要になるでしょう。
人材派遣業の資金リスク
人材派遣業では、事前に運転資金を十分用意しておくことが必要です。
派遣先からどのくらい依頼を受けるかによって、事業活動が左右され売上も変動します。
派遣先の経営状態が悪化すれば、派遣の依頼はなくなり、発生している報酬(売掛金)も回収できない恐れがあります。
支払われるまでの期間が長ければ、資金に行き詰まる可能性も否定できません。
派遣スタッフに支払う給与は、派遣先の事情には関係なく遅れず支払う必要があるため、事前に運転資金を準備することが必要です。
人材派遣業ではさまざまなリスクを想定しておくことが必要であり、特に以下の4つは注意しておきましょう。
- 派遣先からの入金が数か月先
- 派遣先の経営状況悪化
- 競合他社との競争激化
- 派遣社員不足による売上減少
それぞれのリスクを説明します。
派遣先からの入金が数か月先
人材派遣業は、派遣先から報酬が入金されるのは数か月先であることが多いといえます。
派遣スタッフに対する報酬は、当日または週払いなどであるため、資金不足に陥りやすくなります。
さらに人材派遣業では様々な経費が発生し、派遣スタッフの募集費・広告費や教育・研修にも時間やお金がかかります。
派遣スタッフが登録しやすい環境を整備するため、最寄り駅から近い物件で居心地のよいオフィスづくりも欠かせず、高い賃料や設備費も発生します。
以上の支払いは派遣先から報酬が入金されるより先に発生するため、常に資金不足に陥るリスクを抱えているとも考えられます。
派遣先の経営状況悪化
派遣会社は派遣先から受け取る報酬が資金源であるため、派遣先の経営が悪化すれば回収できなくなる恐れも発生します。
期日を伸ばせば支払ってもらえる場合はまだよいものの、派遣先の倒産で回収不能状態へと陥ります。
契約を結ぶ派遣先の与信や見極めも重要であり、経営悪化を見抜けなければ、負担が派遣会社にも及びます。
派遣先で派遣スタッフがトラブルを起こせば、損害賠償請求される場合もあるため、突発的な多額の出費が発生する恐れもあると留意しておきましょう。
競合他社との競争激化
人材派遣業は競合他社が多く、競争が激化しやすい環境です。
競合他社との競争で、報酬を安く設定した状態で請け負えば、十分に売り上げは上がらず収入も減少します。
安い報酬に魅力を感じた企業からの依頼が殺到すれば、派遣先へ送り込む派遣スタッフを増やさなければなりません。
人材が増えれば増えるほど、資金不足に陥るという可能性も否定できないでしょう。
入出金のバランスを崩せば、資金繰りが急速に悪化するリスクについて、十分に留意が必要です。
派遣社員不足による売上減少
派遣業界も人材獲得が容易とはいえず、派遣スタッフが不足すれば売上を上げることはできなくなります。
しかし派遣スタッフは、時給の高い派遣会社に登録する傾向が高いといえます。
派遣料金が相場とかけ離れているときや、競合他社よりも低い時給を提示していれば派遣スタッフ獲得につながりません。
高い能力や経験を持つ人材は、一般的な登録者よりも多く紹介が入り、時給は優先順位が高いと考えるべきです。
競合他社よりも見劣りすると受け取られてしまえば、人材不足を解消できず、売上が足らない状況が続きます。
創業時の人材派遣業の資金調達の悩み
人材派遣業を始めたばかりのときは、特に資金調達に関する悩みが大きくなります。
スタートしたばかりのタイミングで売上自体が発生しておらず、初期投資だけが発生している状態だからです。
創業まもない状況の人材派遣業の資金調達に関する悩みとして、主に次の2つが挙げられます。
- 実績がなければ融資審査が通りにくい
- 運転資金の融資を受けにくい
それぞれ説明します。
実績がなければ融資審査が通りにくい
新たに創業する会社は、人材派遣業に限らず過去の実績がありません。
そのため銀行から融資を受けるときは、実績の代わりに代表者の積みあげてきた経験や能力をアピールします。
同業界や同業種の経験やこれまでの職種が、これからスタートする事業にどのように関連するのか、経営者としての資質や能力なども確認されます。
そのため経験や能力が乏しく、経営者として資質も欠けると判断されれば、融資の審査に通ることは極めて難しくなるでしょう。
運転資金の融資を受けにくい
人材派遣業は運転資金の融資を受けにくいといえます。
銀行が資金を貸し付ける判断基準は、貸し付けた元金と利子を、期日どおり遅れず支払うことのできる返済能力の高さです。
売上や収益を伸ばすことができる企業で、回収見込みが高いと判断されれば、融資審査に通りやすくなります。
しかし創業したばかりの企業や、集客についての実現性や戦略などが十分でなければ、融資は受けにくくなるでしょう。
融資を受けて調達したお金の使い道や、返済可能であることを根拠を示し説明できなければ、審査に通ることはありません。
人材派遣業のファクタリングの特徴
人材派遣業のファクタリングは、派遣先から受け取る報酬を売掛債権としてファクタリング会社に売却し現金化します。
ファクタリングには次の2つの契約形態があります。
- 2社間ファクタリング
- 3社間ファクタリング
人材派遣業で2種類のファクタリングを利用した場合の流れをそれぞれ解説します。
2社間ファクタリング
2社間ファクタリングは、利用者である派遣会社とファクタリング会社のみで契約を結ぶファクタリングです。
売掛先となる派遣先に知られることなく、派遣会社がファクタリング会社に代わって期日に売掛金を回収します。
人材派遣業の2社間ファクタリングの流れは、次の6つです。
- 派遣会社が派遣先から依頼を受ける
- 派遣先に派遣スタッフを派遣する
- 派遣会社が派遣先から受け取る予定の報酬をファクタリング会社に売却する
- ファクタリング会社から派遣会社に買取代金が入金される
- 派遣先から派遣会社に報酬が支払われる
- 派遣会社からファクタリング会社に回収した報酬を支払う
3社間ファクタリング
3社間ファクタリングは、利用者である派遣会社とファクタリング会社だけでなく、売掛先である派遣先も関与するファクタリングです。
派遣先に売掛債権がファクタリング会社に譲渡されることを通知し、承諾を得た上で取引が進みます。
ただ、本来派遣会社が受け取る予定だった報酬は、期日に派遣先からファクタリング会社に直接支払われます。
派遣会社に報酬を使い込まれるリスクがない分、売買手数料は安く抑えることができます。
人材派遣業の3社間ファクタリングの流れは次の7つです。
- 派遣会社が派遣先から依頼を受ける
- 派遣先に派遣スタッフを派遣する
- ファクタリング会社から派遣先に債権譲渡通知を行う
- 派遣先から承諾を得る
- 派遣会社が派遣先から受け取る予定の報酬をファクタリング会社に売却する
- ファクタリング会社から派遣会社に買取代金が入金される
- 派遣先からファクタリング会社に報酬が支払われる
人材派遣業にファクタリングが有用な理由
人材派遣業の資金調達では、銀行から融資を受けるよりもファクタリングが利用しやすいといえます。
その理由として、次の5つが挙げられます。
- 入金と出金のズレを短縮できる
- 資金調達までのスピードがはやい
- 審査では派遣先の信用力が重視される
- 急な出費に対応できる
- 派遣先の倒産リスクを負わない
それぞれの理由を説明します。
入金と出金のズレを短縮できる
人材派遣業にとってファクタリングが活用しやすい理由は、入金と支払いの時間ロスを短縮できることにあります。
派遣先から支払われる報酬は、翌月支払いであることが多いものの、2か月以上かかるといったケースも見られます。
派遣先からまだ報酬が入金されていない状況でも、給料や事務所の賃料など固定費の支払いは必要です。
しかし入金と支払いの時間のズレにより、資金繰りが悪化する可能性があります。
この場合、ファクタリングを活用することで、派遣先から入金予定の報酬を待たずに、先に現金を受け取れます。
入出金の時間のズレを短縮することは資金繰り改善につながるため、ファクタリングは一時的な資金不足を解消する方法として有効な手段といえます。
資金調達までのスピードがはやい
人材派遣業がファクタリングを活用するとよい理由として、資金調達までのスピードがはやいことが挙げられます。
派遣先から入金される予定だった報酬が支払われなかった場合、予定していた入出金のバランスは一気に崩れてしまいます。
そのような場合でも、事前にファクタリングを利用し現金化しておくことで、手元の資金が不足してしまう事態を防ぐことが可能です。
審査では派遣先の信用力が重視される
人材派遣業がファクタリングを利用したほうがよい理由として、派遣先の信用力で資金を調達できることが挙げられます。
銀行から融資を受けるときには、債務者となる派遣会社の信用力が低ければ審査には通りません。
赤字決算や債務超過、税金などの滞納がある状態で銀行から融資を受けることはまず難しいでしょう。
しかしファクタリングであれば、派遣先の信用力を重視した審査が行われるため、派遣会社の信用はそれほど重視されることはありません。
派遣会社の取引相手は派遣を利用してでも、人材が欲しい中小企業や大企業です。
ファクタリングで求められる信用力の高い企業との取引が多いと考えられます。
そのためファクタリング審査にも通りやすく、決算1期目を迎えていなくても信用力の高い売掛債権を保有していれば申し込むことができます。
業績悪化後に資金調達する手段は限られるものの、ファクタリングなら赤字決算や債務超過、税金滞納などがあっても利用できる可能性は十分といえます。
急な出費に対応できる
人材派遣業がファクタリングを利用しやすい理由として、急な出費にも対応しやすい方法であることが挙げられます。
仮に派遣先で派遣スタッフがトラブルを起こし、損害賠償を請求されたときには多額の資金が必要です。
多く派遣スタッフを抱えている派遣会社では、スタッフの数だけ派遣先でトラブルが起きるリスクもあると考えておくべきでしょう。
派遣先での派遣スタッフと社員のトラブルや、物を破損させた事故などが起こったために損害賠償請求されても、ファクタリングなら素早く手元の資金を増やせます。
派遣先の倒産リスクを負わない
人材派遣業がファクタリングを利用したほうがよい理由として、報酬を現金化した後に派遣先が倒産しても、その責任を派遣会社が負わないことが挙げられます。
一般的なファクタリングでは、買戻し請求権や償還請求権のない契約を結びます。
派遣先が倒産したため、報酬が回収できない事態に陥ったとしても、その責任は派遣会社ではなくファクタリング会社が負います。
ファクタリング会社に対し売掛債権を譲渡した時点で未回収リスクも移転されるため、派遣会社に買取代金を返還する義務はありません。
売掛金の貸し倒れのリスクヘッジに活用できることは、派遣会社にとって大きなメリットといえます。
人材派遣業がファクタリングを利用するべきケース
ファクタリングを利用することは様々な業種でメリットがあるといえます。
特に人材派遣業でファクタリングを活用したほうがよいケースとして、次の4つが挙げられます。
- 入出金のズレで資金繰りが苦しい
- すぐにお金が必要
- 融資審査に通らない
- 借金を増やしたくない
それぞれのケースを説明します。
入出金のズレで資金繰りが苦しい
人材派遣業がファクタリングを利用するとよいケースとして、設備投資・人件費・納税などで資金が圧迫され、資金繰りが苦しいときが挙げられます。
派遣先から報酬が支払われるまでの期間が長期に渡る中、設備投資に費用をかければ、その支払いは先に発生します。
人件費や税金の支払いなどは待ってくれないため、すぐにでも支払うことが必要です。
事務所賃料や光熱費、広告宣伝費などさまざまな費用負担が必要であり、入出金のズレで資金繰りが厳しくなることはめずらしくありません。
しかしファクタリングを利用することで、早ければ即日まとまった資金を調達することが可能となり、様々な支払いに充てることができます。
すぐにお金が必要
人材派遣業でファクタリングを利用したほうがよいケースとして、すぐにお金が必要など資金調達の緊急性が高い場合が挙げられます。
数日でまとまった資金を準備しなければならないときなどでも、ファクタリングならはやければ即日売掛金を現金化できます。
銀行から融資を受けるときと比べると必要書類も少なく、かなりスピーディに審査が進むため緊急性の高い資金の調達にはぴったりです。
もしも急いでお金が必要という場合には、ファクタリングを活用することをおすすめします。
融資審査に通らない
人材派遣業でファクタリングを利用したほうがよいケースとして、銀行融資を受けたいけれど審査が通らず資金調達できない場合が挙げられます。
銀行融資の審査は、債務者となる派遣会社の信用が重視されるため、代表者の人的保証を求められれば信用情報悪化で通過は厳しくなります。
また、不動産など担保として差し入れる資産を保有していなければ、借入れ審査には通りにくくなるとも考えられます。
しかしファクタリングの審査は、派遣会社の信用力ではなく派遣先の信用力が重視されます。
信用力の高い派遣先の売掛債権があれば、銀行融資の審査に落ちた場合でも、利用できる可能性は十分にあるといえます。
借金を増やしたくない
人材派遣業でファクタリングを利用するとよいケースとして、資金は調達したいけれど借金は増やしたくない場合が挙げられます。
人材派遣業では手形を扱うことも多いため、資金調達に割引手形を活用することも可能です。
ただ、割引手形は、決済期日に不渡りになったとき、割り引いた手形を買い戻さなければなりません。
ファクタリングと違って融資扱いとなり、貸借対照表では流動負債に分類されます。
割引手形は手形を担保にお金を借りる仕組みであるのに対し、ファクタリングはあくまでも売掛金を売却する売買による資金調達です。
資金調達で決算書の見た目を悪化させたなくないな場合も、ファクタリングは有用な手法といえます。
まとめ
人材派遣業におけるファクタリングとは、派遣先から回収する予定の報酬を売掛債権として、ファクタリング会社に売却し現金化することです。
得た資金を借入金の返済などに充てることも、派遣スタッフの給料の支払い資金にすることもできます。
人材派遣業でファクタリングが利用しやすい理由は、資金繰りが悪化しやすいことや銀行融資を頼りにくいことが挙げられます。
派遣先から回収する予定の報酬が入金されるよりも前に人件費を支払わなければならないときや、税金滞納で資金がショートしてしまいそうなときなどに利用するとよいといえます。
人材派遣業で資金調達の方法に悩んでいるのなら、ファクタリングの活用を検討してみてはいかがでしょう。
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