人材派遣業の資金繰りは悪化しやすい?その原因と改善方法

人材派遣業を営む経営者の大きな悩みとして挙げられるのが資金繰りです。

そもそも人材派遣業は売上が大きくなるほど売掛金もふくらむ傾向が高く、その一方で売上原価となる派遣社員に対する給与は売掛金が入金されるよりも先に支払うこととなります。

そのため運転資金をどのように調達すればよいか悩みを抱える経営者も少なくないのですが、どうすれば円滑な経営が可能となるのか分析していきます。

 

人材派遣業はなぜ資金が不足しやすい?

人材派遣業を営む中で、資金調達が必要となったとき銀行融資を申し込むというケースが多いことでしょう。しかし銀行に融資の相談を行い、資金を借り入れないか審査をしてもらっても通らず、他にどのような方法で資金を調達すればよいのか悩んでしまうこともあるようです。

そこで、ケースに応じてなぜ運転資金が不足するのか考えてみましょう。

無借金経営を続けていたのに運転資金が不足するケース

ずっと借金は行わず、出資金だけを運転資金に充てることで長年経営を続けることができたとしたら、売上が減少すれば運転資金を調達する必要はなくなるということになります。

しかしそれなのに運転資金が不足してしまうという場合は、次のことが要因として考えられるでしょう。

  • 派遣社員ではなく、営業担当者や事務員に対する人件費が負担となっている
  • 派遣先から受け取る派遣料の単価が低いのに、派遣社員に対する社会保険料や交通費、残業代などは高い
  • 特定派遣ではなく一般派遣の場合、派遣社員が派遣先で稼働しない期間に発生する派遣社員に対する給与の支払いが負担となっている

いずれも赤字を生む要因として考えられますが、不足する運転資金を銀行融資など借入金で補うことは好ましくありませんし、銀行に融資を申し込んでもこのような赤字を補てんするための貸し付けは行われないはずです。

そのため、銀行融資ではない方法での資金調達が必要になりますし、営業担当者や事務員を削減すること、派遣先に対する見積もり方法を見直すこと、社会保険料など分割での支払いに変更してもらうよう交渉することなど、赤字を生んでいる原因を解消し利益に繋げることができるような方向へ転換させることが求められます。

売上が縮小してきたのに資金繰りが楽にならないケース

売上が縮小してきたとしたら、拡大しているときと資金は逆回転するため、本来であれば資金繰りは楽になるはずです。

しかし、それでも資金繰りが楽にならないのは、売上が減少することで売上高から派遣社員に対する給与を差し引いた粗利益が少なくなるので、固定費が経営を圧迫し赤字になりやすい環境を作ってしまうからといえます。

仮に売上が上がったタイミングに派遣社員に対する給与以外の人件費や家賃といった固定費を増やし、利益がギリギリ出ていた状態だったとしたら、売上が縮小したことにより赤字になることが見えています。

そこで、売上が縮小してきた場合には、営業を強化して派遣社員の採用を増やし、売上を向上させることの検討が必要です。

売上を向上させることが難しい場合は?

売上を向上させることは難しいという場合には、早急に次の対応を行うことを検討してください。

まず、単価を低く設定してしまっていることで派遣社員1名に対する人件費が負担になっているのなら、給与や社会保険料、交通費が負担となり利益は出なくなってしまいます。

派遣社員が派遣先で稼働していない待機時間を縮小すること、求人サイトに掲載する場合に発生する広告宣伝費の費用対効果を分析し、広告を見直すこと、営業担当者や事務員の人件費、事務所家賃を再検討することが必要です。

派遣先から受け取る派遣料、派遣社員に対する給与や社会保険料、交通費など、月ごとの利益を計算した上で派遣単価や給与を見直すようにしてください。

事業計画書を提出しても融資を受けることが難しい場合

赤字状態であるのに銀行に融資の申し込みを行っても、銀行側も融資を実行することは難しい状態です。その状況で銀行から融資を受けて資金調達を検討するのなら、黒字に転換させるための対策を踏まえた事業計画書を作成した上で交渉を行うことが必要といえるでしょう。

それでもやはり銀行からの融資は受けることができないという場合には、一旦、社会保険料や税金などの支払いをストップさせて資金を作ることを優先しましょう。

人材派遣業は人を多く雇用する必要があるので社会保険料の負担は拡大しやすいことが通常です。その負担が大きな社会保険料を支払わないことで、資金繰りは改善しやすくなるでしょう。

ただ、社会保険料と税金、どちらも支払う義務がありますのでずっとストップさせたままではいられません。黒字化させることを前提に、年金事務所や税務署など管轄の公的機関に分割での支払いに変更してもらえないか交渉するようにしてください。

 

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人材派遣業界の資金繰りを圧迫しやすい3つの要因

先に述べたように、人材派遣業は売上高が上がれば売掛金や給与の支払いが増えることで資金繰りは悪化しやすくなります。

他にも資金繰りを悪化させやすい要因はありますので、それぞれの項目について詳しく内容を把握しておきましょう。

派遣社員に対する給与の支払い

派遣社員に対する給与の支払い方法は、日払いという場合もあれば、他にも週払いや月払いなど、就業形態によって異なります。

遅れることなく派遣社員に対して給与の支払いを行わなくてはならない一方で、派遣先から受け取る派遣料の入金は売掛金として保有することとなり、回収できるのは翌月や翌々月になります。

支払いは先、入金は後、というこの資金の流れに加え、残業代が想定しているより多く発生することでもさらに資金が不足しやすい環境を生むこととなるでしょう。

そこで、派遣先との契約金額の70%程度が派遣社員の給与となり、販売管理費などの経費を差し引いた金額が利益として残ると考えておき、資金が不足しないように準備をしておくことが必要です。

人材の確保

人材派遣業も深刻な人手不足に陥っている状況で、人材を確保できずに売上を向上させることができないというケースもあるようです。

派遣社員を確保できたとしても、一定条件を満たす場合は社会保険や雇用保険へ加入させることとなるので、法定福利費が経営を圧迫することもあります。

資金が不足しないように資金を調達しておくことが必要であると改めて認識しておきましょう。

人材派遣業特有のトラブルが要因になることも

人材派遣業特有ともいえる問題が、トラブルが発生したときなど、その責任の所在は派遣元と派遣先のどちらにあるのかという部分です。

事前に起こりうるトラブルを予測しておき、回避できるように責任の所在や線引きを明確化させておくことが必要ですし、派遣先も見極めながら選ばなければ発生した売掛金が期日通りに入金されないというトラブルも発生してしまいます。

 

これから人材派遣業を始めるという場合に注意しておきたいこと

人材派遣業を始めようという場合、事業が円滑になり売上高が増えればその分、資金繰りが悪化しやすいことを把握しておき、事前に十分な事業資金を準備しておくことが大切です。

そして派遣先との関係により活動が左右される傾向があるため、不測の事態に備え堅実な経営を続けていける体制を構築するようにしてください。

たとえば派遣先の経営状態が悪化することで、本来なら回収できたはずの売掛金の入金が滞ることもあるでしょうし、そもそも派遣先との間で取り決めた支払いサイクルが長めに設定されているということもあるでしょう。

しかし、派遣社員に対する給与の支払いは派遣先の事情には関係なく遅れず行うことが必要です。

そして人材派遣業を営む企業は数多いため、価格競合に勝つために安い料金で請け負うことになることもあるかもしれません。そのような場合、派遣先に送り込む人材が増えるほど資金が不足にしてしまう可能性も抱えます。

考えられるリスクは他にもいろいろあるかもしれませんが、特にこれらのリスクを事前に想定した上で資金計画を立てておくようにしましょう。

スタート前に準備しておかなければならない資金の金額

人材派遣業を営むのなら派遣法の定めに従うこととなりますが、この派遣法は現在内容が改正されており、新しく定められた基準が新規参入の妨げになるケースもあるようです。

事前に事業資金を確保しておかなければならない点が以前よりも重要視されており、特に人材派遣業を営む法人設立には資本金2千万円以上が必要という点には注目です。

さらに基準となる資産額は負債総額の7分の1以上でなければならず、現金・預金の金額も1千5百万円×事業所数以上必要です。

事前に多くの資金を確保しておかなければ人材派遣業を営むことはできないのは、先にのべたように運営する上で様々な資金が必要になるからといえますが、それでも資金準備が新規参入の妨げとなる点は否めません。

スタート後に必要となる費用の目安

人材派遣業として事務所を開設する場合、必要となる費用の総額は1千万円程度を目安として考えておきましょう。

仮に事務所の賃料が50万円の場合、保証金として賃料の10か月分である500万円が必要となります。

それに加え、仲介手数料なども発生するでしょうし、オフィス設備や備品、OA機器なども準備することとなります。

事務所の設備が整っても、名刺や広告用パンフレットなど、準備に必要なものは他にもあります。

そもそも法人を設立する上で登記にかかる費用や、申請を依頼する司法書士に対する報酬など、いろいろな費用がかかります。

事業の規模やそれぞれにかかる費用や金額にもよりますが、それらをすべて事前に準備しておくとなると、1千万円くらいは必要になると予測しておくことが必要です。

想定していた金額よりも多く広告宣伝費や販売促進の費用がかかることもありますので、余裕を持って資金準備しておくと安心といえるでしょう。

 

事業を開始後に資金繰りが悪化したら…

実際に事業を開始した後、売掛金が入金されるまでの間の支払いに充てる資金が不足してしまったら…。そのように考えると本当に人材派遣業をスタートさせて大丈夫なのだろうか?と不安になるものでしょう。

もちろん、運転資金が不足しないように、事前に事業資金を準備しておいた上で事業を開始するでしょうが、それでも想定していたよりたくさんのお金が必要になることも考えられます。

特に事業が円滑で売上が上がれば上がるほど、資金は不足しがちという人材派遣業の特徴を考えると、やはり不安を完全に払しょくすることは難しいのかもしれません。

ただ、売掛金を多く保有しており、その売掛金の入金を早めることができたとしたらどうでしょう。

支払いに充てる資金を借り入れなどで補おうとすれば借金が増えてしまうこととなり、その後の返済負担が心配されますが、売掛金の回収を前倒しにできるのならもともと受け取る予定のお金なので借金も増えません。

 

どのように売掛金を前倒しで受け取る?

売掛金を早く入金して欲しいと派遣先に交渉し、早めに回収できれば問題ないでしょう。しかし一度契約で決めた期日を早めることは容易なこととはいえませんし、なぜ早めに入金して欲しいと求められるのだろう?資金繰りが苦しいのだろうか?と余計な不安を抱かせることになってしまいます。

そこで、直接派遣先に交渉することが難しいのであれば、ファクタリングを利用してみることを検討してみてはいかがでしょう。

ファクタリングとは?

ファクタリングとは、保有する売掛金をファクタリング会社に売却して現金化する資金調達の手法です。

融資を受けるわけではなく、まだ入金されていない売掛金を前倒しで受け取る形となるため、借金を増やさず資金調達が可能となります。

ファクタリングを利用する際にも審査がありますが、重視されるのは売掛債権の信用力なので、もし財務状況が悪化していて銀行融資などで断られてしまったという場合でも利用できる可能性が高いことが特徴です。

派遣先に知られずに利用できるので、回収期日までの期間が長めに設定されている取引の売掛金がある場合には、ファクタリングを利用することで資金繰りが改善されやすくなります。

人材派遣業の場合、派遣社員を定期的に同じ取引相手に派遣するケースも多くあるはずなので、取引が継続している売掛金を保有しているという点でも有利です。

ファクタリングを利用しやすい業種はいくつかありますが、建設業や運送業、製造業などと同じく、人材派遣業もその中に含まれます。

もし資金不足に陥った場合、融資ではなく売掛金を現金化するファクタリングを資金調達の方法として活用することを検討してみましょう。

 

まとめ

人材派遣業は事業を営む中で、売上高が上がればその分、売掛金もふくらんでしまいがちです。そして売上原価となる派遣社員に対する給与の支払いは、その売掛金を回収するよりも前に支払うこととなるため、資金不足に陥りがちです。

新たに参入するためにも事前に準備しておかなければならない資金のハードルはけっして低いともいえませんし、実際に事業が開始されてからも色々な出費がかさみます。

そのため運転資金をどのように確保しておくのか事前に考えておくことが必要ですが、もし売掛金がふくらんでしまい、回収できる期日までの支払いに困ったら、ファクタリングという方法も活用できると知っておけば安心です。

銀行融資など、借り入れで調達することも可能かもしれませんが、中小企業の場合、銀行からの融資をスムーズに受けることができるとも限りませんし、何より負債が増えるのでその後の返済負担が苦しくなることが予想されます。

安定した経営を続けるためにも、業種に合った資金調達の方法を選び、その後の資金繰りを改善させその状態を維持できるようにすることが大切です。