無借金経営には大きなデメリットがあり、倒産要因になってしまうことさえあります。
日本では借金をしない無借金経営がよいと考える経営者も少なくありません。
しかし金融機関との信頼関係が築きにくくなり、銀行融資などで資金調達できなくなることはデメリットです。
そこで、無借金経営のデメリットやメリット、本来望ましいとされる実質無借金経営とは何か解説します。
中小企業経営者向け!

無借金経営とは
「無借金経営」とは、お金を借りるなど負債を増やす方法で資金を調達せずに、会社を経営することです。
会社経営において金融機関から事業資金を借りていない状態であり、返済負担に追われることなく経営している状態といえます。
投資家やベンチャーキャピタルなどから出資してもらった上で会社経営している場合などは、返済不要な資金を調達できているため無借金経営に含まれます。
ただ、出資してもらう上で返済義務はないものの、返済以外の条件が設けられていれば無借金経営と断言できない場合もあります。
たとえば出資を受ける際の契約書に、株価上昇などが条件と記載されていれば、純粋な意味での無借金とは言えません。
東京商工リサーチによる「2023年全国 無借金企業調査」の結果を見ると、全国で無借金経営を行う企業は6万6,370社、無借金率は21.6%でした。
無借金経営の企業は実際には少なく、多くの企業が事業資金の調達に銀行融資などを頼っている状態と考えられるでしょう。
出典:『「無借金」企業率は21.6%、コロナ前より2.8P下落 コロナ支援のゼロ・ゼロ融資などの活用でダウン』(東京商工リサーチ)
無借金経営のデメリット
無借金経営は借金をしていない状態のため、返済負担に追われないことはメリットです。
しかし実際には、次の4つのデメリットがあるといえます。
- 融資を受けにくい
- 事業規模を拡大しにくい
- 雇用を創出できない
- 資金ショートのリスクがある
それぞれ説明します。
融資を受けにくい
無借金経営のデメリットとして、銀行から融資を受けにくいことが挙げられます。
融資を受けにくい理由として、主に次の3つが関係します。
- 新規取引である
- 信用度が低い
- 自己資本が少ない
それぞれ説明します。
なお、銀行融資の仕組みや審査の流れに関しては、以下の記事を参考にしてください。
銀行融資の仕組みとは?融資の種類や審査の流れをわかりやすく解説
新規取引である
無借金経営の企業が融資を受ける場合、銀行と新規で取引を始めることになります。
取引銀行に多く預金があれば融資を受けやすくなるとも考えられますが、何の取引もなければ多額の資金の借入れは困難と考えられます。
新規事業や設備投資などでは多額の資金が必要となり、調達方法を銀行融資に頼らなければならない可能性もあります。
必要なときに融資を受けて資金を調達するためには、普段から付き合いのある取引銀行を作っておくことも大切です。
信用度が低い
無借金経営の企業は、銀行にとって信用度が低い相手といえるため、融資は受けにくくなるでしょう。
銀行融資で資金を借入れ、毎月期日までに遅れず返済をしている企業は、信用度が高いといえます。
銀行に利子を支払っている企業でもあるため、お得意様として扱われることになるでしょう。
無借金経営の企業は、銀行にとって取引実績がない事から、信用度が低い先といえる為、融資相談を行った際、審査時間が通常よりかかる場合や、融資が受けられないケースもあります。
その為、日頃から銀行融資で資金を借入れ、毎月期日までに遅れず返済している企業は、信用度が高いといえます。
自己資本が少ない
銀行融資の審査では、自己資本を保有する割合である自己資本比率が重視されるため、自己資本が少ない場合は銀行融資を受けにくくなります。
銀行融資の審査では、自己資本を保有する割合である自己資本比率が重視されます。
無借金経営なら返済義務のある借金を抱えていない健全経営といえるものの、返済義務のない資本(純資産)も多くないことがほとんどです。
自己資本比率は、以下の計算式で算出できます。
自己資本比率 = {(総資本-他人資本)÷総資産} × 100
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総資本は、株式や準備金、余剰金など返済する必要のない自己資本と、銀行などから借りた返済義務のある他人資本の合計です。
無借金経営の場合、他人資本はゼロといえるため、自己資本が多ければ健全で安定性を保った経営ができていると判断されます。
しかしもともとの自己資本が少ないと、自己資本比率が下がるため財務基盤の脆弱性が疑われ、銀行融資の審査に通らない恐れがあります。
なお、銀行融資の審査に関しては、以下の記事を参考にしてください。
事業規模を拡大しにくい
無借金経営のデメリットとして、事業規模を拡大しにくいことが挙げられます。
時代に合った商品やサービスを提供しなければ、競合との争いに負けてしまい、生き残ることはできません。
ビジネスチャンスを逃さない資金力は重要であり、競合他社との差別化や新規事業の創出、事業規模の拡大等においては、多くの場合、先行投資が必要になります。
無借金経営で商品開発や研究費、設備投資や人材採用に資金を投じることができなければ、事業規模は拡大しにくくなります。
雇用を創出できない
無借金経営のデメリットとして、雇用を創出できないことが挙げられます。
人を雇用するためには、人件費を支払うだけの資金力が必要です。
手元の現金が乏しければ人を雇うことはできず、売上も大幅に伸ばすことはできなくなります。
資金ショートのリスクがある
無借金経営のデメリットとして、資金ショートのリスクがあることが挙げられます。
会社経営に資金繰りは欠かせないといえますが、借金をしない経営スタイルにこだわりすぎると、手元の資金が枯渇してしまう可能性もあります。
資金ショートすれば、たとえ利益が出ていても黒字倒産してしまうため、資金ショートさせない経営を行うことが必要です。
無借金経営のメリット
無借金経営は、銀行融資を受けにくいことや事業拡大や雇用創出において、手元の資金を増やしにくいといったデメリットがあります。
資金ショートするリスクもあるといえますが、その反面で次の5つのメリットがあると考えられます。
- 資金管理が楽である
- 返済負担を負わない
- 決算書の見栄えがよい
- 意思決定で外部の影響を受けない
- 円滑に企業売却や事業承継できる
それぞれ説明します。
資金管理が楽である
無借金経営のメリットとして、資金管理が楽になることが挙げられます。
借金をしていれば、いつまでにいくら返済しなければならないといった管理が必要です。
しかし無借金経営なら、返済義務を負うことはないため、資金管理が楽といえます。
返済負担を負わない
無借金経営のメリットとして、返済負担を負わないことが挙げられます。
毎月の返済にばかり気をとられるなど、資金面でのプレッシャーに悩まされることはありません。
返済に伴う利子の支払いもないため、余計な費用は掛からないことがメリットです。
決算書の見栄えがよい
無借金経営のメリットとして、決算書の見栄えがよいことが挙げられます。
借金が多ければ決算書上の負債が増えます。
負債は他人資本であり、自己資本比率を下げることになるため、銀行からの評価も低くなると考えられます。
今は無借金経営を続けているものの、いずれは銀行から融資を受けたいと考えている場合には、決算書の見栄えはよいほうが審査に通りやすくなります。
意思決定で外部の影響を受けない
無借金経営のメリットとして、意思決定で外部の影響を受けないことが挙げられます。
仮に銀行など金融機関からお金を借りている場合でも、融資を受ける代わりに利子を支払うことになるため、債権者と債務者は対等な関係であるべきです。
しかし実際には、決算書の状況がよいといえなくても、代表者の人柄など熟知している担当者が融資担当者に掛け合い、追加融資を受けられたケースもあります。
反対に、金利が低いことで融資希望額を増やすことを銀行担当者に勧められ、本来借りる予定だった額より多く借りてしまうケースも見られます。
経営者と銀行の担当者との間で普段からコミュニケーションを取り、密度の濃い関係を築いていれば、銀行の影響を受けやすくなります。
しかし無借金経営であれば、銀行担当者と密接なコミュニケーションを取ることも少なく、意思決定で銀行など外部の影響を受けることがありません。
円滑に企業売却や事業承継できる
無借金経営のメリットとして、円滑に企業売却や事業承継できることが挙げられます。
借金を多く抱えていれば、負債分を差し引いて売却されるため、売却益が少なくなります。
無借金経営で借入れのない状態であれば、会社売却において高く売ることができます。
また、中小企業が銀行から融資を受ける際には、経営者の人的保証を付けることが求められます。
経営者の人的保証は、事業承継において後継者にも引き継がれるため、手続を進める上での妨げになる可能性があります。
無借金経営であれば、経営者が借金の保証人にならないため、後継者が会社を引き継ぐことを嫌がるなど事業承継の妨げにはなりにくいといえます。
少子高齢化が進む日本の中小企業では、事業承継を本格的に進めていくことが必要です。
借金のない財務状況がシンプルな状態であれば、手続を簡素化させることができ、事業承継もしやすくなると考えられます。
実質無借金経営とは
会社経営において、理想といえるのは「実質無借金経営」をすることです。
実質無借金経営とは、借入れはあっても借金を上回るだけの資金を保有している状態といえます。
銀行など金融機関から融資を受けている場合でも、借入金以上の資金があるため、いつでも完済できることが特徴です。
ただし手元の資金が借入金を超える額でなければ、実質無借金経営とはいえません。
たとえば借入金が5千万円あるものの、資金を5千万円保有している状態では、すべてを借入金返済に充てると手元のお金がゼロになります。
借入金を超える資金を保有していることが実質無借金経営の条件であり、資金を返済に充てても運転資金が十分に残る状態でなければなりません。
借入れはあっても、実質的に無借金に等しい財務を維持している状態が実質無借金経営です。
実質無借金経営について、次の2つを詳しく説明します。
- 借金経営との違い
- 無借金経営との違い
借金経営との違い
「借金経営」とは、適度に融資を受けて借金を返済しながら、経営を続けることです。
実質無借金経営は借金完済がいつでも可能な状態であるため、最低限の返済資金を保持した状態で借金がある借金経営とは異なります。
借金が増えすぎることはよいこととはいえないものの、利益を増やすための前向きな借入れは悪いことではありません。
新たな商品や製品の開発、収益向上に向けた機械や設備の導入などで、会社を成長させる基盤作りが可能となるでしょう。
ただし借金経営では、事業承継の場面において、経営者の人的保証も後継者に引き継ぐことになります。
借入金の人的保証が残った状態では、後継者が会社を引き継ぐことを避ける可能性があります。
借金経営で十分な返済資金を保持していなければ、返済不能状態に陥ることで経営破たんするリスクが高まります。
対する実質無借金経営では、そもそも手元資金が潤沢であるため、資金繰りを維持しやすく、破たんリスクは高くありません。
無借金経営との違い
「無借金経営」とは、銀行融資などの借入れがゼロの状態で経営を続けることです。
実質無借金経営はいつでも完済できるものの借金がある状態なので、無借金経営とは大きく異なります。
無借金経営では返済負担がないのに対し、実質無借金経営では返済義務は負います。
また、無借金経営では決算書の見た目がよいのに対し、実質無借金経営では負債を抱えている状態であるため、決算書の見た目が悪くなり自己資本比率も下がります。
さらに資金繰り管理や銀行担当者との付き合いなど、実質無借金経営では、単なる無借金経営と違って外部の影響を受けます。
ただし実質無借金経営では銀行から優良企業と判断されるため、追加融資の場面でも銀行から優遇されやすくなるでしょう。
まとめ
無借金経営は、銀行など金融機関から融資を受けていない状態であるため、返済義務を負わない経営が可能です。
実際、中小企業でも無借金経営を目指す経営者は多いといえますが、デメリットについても理解した上で選択することが必要といえます。
無借金経営は、多額の資金が必要になったときに銀行から融資を受けにくくなります。
ビジネスチャンスを逃し、会社を成長させる機会を損失するなど、デメリットは様々です。
また、手元の資金が少ないため、借金はないものの資金繰りが大変というケースも多く見られます。
そのため無借金経営ではなく、借入れ金を抑えつついつでも借金を完済できる状態を維持する実質無借金経営を目指しましょう。
無計画に借入れする借金経営では返済不能状態に陥る可能性があるため、融資に頼らない実質無借金経営が理想的です。
中小企業経営者向け!

