源泉所得税は、源泉徴収義務者が給与などから徴収する所得税のことです。
給与から徴収して一旦は預かっている税金であるため、納税が漏れてしまい未納となった場合には、源泉徴収義務者である事業者がペナルティを受けます。
そこで、源泉所得税の未納付による問題とは何か、ペナルティや延滞税について解説していきます。
源泉徴収とは
「源泉徴収」とは、給与や報酬を支払う事業者が、支払うときに所得税を差し引いて徴収することです。
徴収した所得税は、源泉徴収義務者である事業者が納めます。
本来、所得税は納税者本人がその年の所得から税額を計算し、自主的に申告・納付する申告納税が原則です。
しかし給与や報酬など特定の所得については、支払う事業者が事前に一定額を徴収し、代わりに納付する源泉徴収が採用されています。
このとき徴収される所得税が「源泉所得税」ですが、徴収するのは1月から12月までの12か月間のうち、実際に給与や報酬を支払うタイミングです。
仮に所得の支払いは確定している場合でも、支払いはまだ行われていなければ、源泉徴収する必要はありません。
源泉徴収税の種類
「源泉徴収税」とは、給与や報酬が支払われるタイミングで差し引かれる次の2つの税金です。
- 所得税
- 復興所得税
どちらの税金支給月の翌月の10日までに納めることが必要とされているため、10月に給与振込が行われた場合には11月10日が納付期限となります。
それぞれの税金について説明します。
所得税
「所得税」は、1月1日から12月31日までの1年間の所得から、所得控除で差し引いた金額に一定税率を適用して計算される税金です。
確定申告などで計算した税額を納めますが、たとえば給与所得に対して会社員それぞれが申告してしまうと、漏れや不備が発生しやすくなってしまいます。
そこで、手続の簡素化や徴税コスト削減のために事業者が源泉徴収しています。
給与所得の場合、給与から健康保険や厚生年金など社会保険料を差し引いた金額を「給与所得の源泉徴収税額表」にあてはめて、該当する源泉徴収税額を差し引きます。
給与以外の報酬については、一部所得を除いて所得税および復興所得税の合計10.21%を徴収します。
ただし一度に支払う報酬のうち、100万円を超える部分については20.42%の徴収税率で計算して差し引きます。
復興特別所得税
「復興特別所得税」とは、所得税額に対する付加税であり、復興のために必要な財源確保を目的として徴収される税金です。
平成25年から令和19年まで、各年分の基準所得税額の2.1%を、所得税とあわせて申告・納付することが必要となります。
源泉徴収義務者とは
「源泉徴収義務者」とは、給与や報酬などを支払うときに、所得税や復興特別所得税を源泉徴収して国に納付する義務がある者です。
個人事業者や会社に限らず、社団法人・財団法人・協同組合・学校・官公庁などで源泉徴収の支払い対象である報酬などを支払っていれば、源泉徴収義務者となります。
源泉徴収が必要になる給与や報酬として、たとえば以下の支払いが挙げられます。
- 従業員に対する給与・賞与・退職金
- 税理士や弁護士などに対する顧問料・報酬
- 広告宣伝のため支払う賞金
- 原稿料(1回5万円を超える場合)
- 講演料
- 外交員に対する報酬
なお、従業員の給与が月に8万8,000円未満である場合は源泉徴収を行う必要がありません。
支払先が法人の場合にも、ほぼ徴収義務はありません。
また、賞品が旅行に限定されている場合や、50万円以下の賞品または賞金は源泉徴収の対象外です。
源泉所得税の納期の特例とは
「源泉所得税の納期の特例」とは、源泉徴収した所得税や復興特別所得税を年2回で納めることができる措置です。
本来、源泉所得税は徴収日の翌月10日が納期限となっています。
しかし、給与支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者については、年2回にまとめて納めることができます。
なお、「源泉所得税の納期の特例の承認」の対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収した所得税・復興特別所得税と、税理士や弁護士などの報酬から源泉徴収した所得税・復興特別所得税に限定されています。
「源泉所得税の納期の特例の承認」について、さらに詳しく次の3つを説明していきます。
- 納期の特例の納付期限
- 納期の特例のメリット
- 納期の特例のデメリット
納期の特例の納付期限
源泉所得税の納期の特例が適用された場合の納付は年2回となりますが、それぞれの納付期限は以下のとおりです。
- 1~6月までに支払った所得から源泉徴収した所得税・復興特別所得税…7月10日
- 7~12月までに支払った所得から源泉徴収した所得税・復興特別所得税…翌年1月20日
納期の特例のメリット
源泉所得税の納期の特例のメリットは、本来であれば年12回に分けて納める手続が、年2回で済むことです。
事務負担の軽減や、滞納による延滞税発生のリスクを低減させることができます。
納期の特例のデメリット
源泉所得税の納期の特例のデメリットは、資金繰りが悪化するリスクがあることです。
半年ごとにまとめて源泉所得税を納めることになるため、1度で納める金額が大きくなります。
資金面での負担が重くなれば、資金繰りが悪化するリスクも高くなるでしょう。
あくまでも源泉徴収した源泉所得税は従業員から預っているお金であるため、納税のタイミングに合わせて確保しておくことが必要です。
源泉所得税の納付方法
源泉所得税は未納状態にならないように、遅れず納めることが必要ですが、納付方法として次の2つを押さえておきましょう。
- 納税地を確認する
- 納付手続をする
それぞれ説明します。
納税地を確認する
源泉所得税の未納状態を防ぐためにも、まずは納税地を確認しましょう。
源泉徴収義務者が源泉徴収した所得税と復興特別所得税は、事業所の所在地などを所轄する税務署に納めます。
納付手続をする
源泉徴収した所得税と復興特別所得税は、最寄りの金融機関や税務署で納付書を使って納めるか、e-Taxによる電子納付で支払います。
e-Taxを利用した場合、納付書の印刷や窓口に足を運ぶ手間を省くことができます。
源泉所得税の未納に対するペナルティ
源泉所得税は、給与支払いや源泉徴収対象の支払いをした月の翌月10日までに税務署に納めることが必要です。
しかし源泉徴収が漏れていたり徴収後に完納せず未納となっていたりした場合には、次の2つのペナルティが課されます。
- 不納付加算税が発生する
- 延滞税が発生する
それぞれのペナルティについて説明します。
不納付加算税が発生する
源泉所得税を納めず未納状態になった場合、ペナルティとして「不納付加算税」が発生します。
たとえ1日納付期限に遅れただけでも課せられる税金であり、納期限を過ぎた後で自主的に納付した場合には5%、税務署から指摘されて納めたときには10%の追加納付が必要です。
この不納付加算税には日割りの概念がないため、次に説明する延滞税よりも負担は大きくなります。
ただし以下の場合においては、不納付加算税が課されることはありません。
- 納付期限が1か月以内で過去1年以内に納付漏れがない場合
- 加算税額が5,000円未満の場合
延滞税が発生する
源泉所得税を納めず未納状態になった場合、ペナルティとして不納付加算税だけでなく、「延滞税」も発生します。
ただし本税額が10,000円未満であれば、端数切り捨てられ延滞税はかかりません。
原則、法定納期限の翌日から納付する日まで、その日数に応じて次の計算した利息相当額が、延滞税として自動的に課されます。
- {納付すべき本税の額×延滞税の割合×期間(法定納期限の翌日から完納日または2月を経過する日の日数)}÷365(日)
- {納付すべき本税の額×延滞税の割合×期間(2月を経過する日の翌日から完納の日)}÷365(日)
なお、延滞税の割合は以下のとおりです。
- 年「7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」の いずれか低い割合
- 年「14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合
期限後申告書や修正申告書を提出した後や、更正や決定処分を受けた後に納める税金がある場合も同様の扱いとなります。
納税漏れは余計な支払いが発生することになるため、十分に注意してください。
詳しくは、国税庁の公式サイトの「延滞税の計算方法」を参考にするとよいでしょう。
源泉所得税の未納による問題
源泉徴収義務者が預かった源泉所得税を納めず、未納となった場合には次の2つの問題が発生してしまいます。
- 給与所得者等に迷惑をかける
- 資金繰りが厳しくなる
それぞれの問題について説明していきます。
給与所得者等に迷惑をかける
給与所得者が医療費などの控除を使って還付申告したい場合もあるでしょう。
しかし源泉所得税が未納付となっている状態で給与所得者が還付申告書を提出しても、未払の給与等に係る源泉所得税は未払分の給与が支払われて源泉徴収されるまで還付されません。
その後、未払の給与等が支払われたことで源泉徴収された場合は、給与所得者が「源泉徴収税額の納付届出書」を所轄税務署長に提出することで、還付を受けることはできます。
未払の給与などがあればその給与から所得税の源泉徴収が行われず、源泉所得税の未納付状態を作り、給与所得者の感奮申告に迷惑をかけることがあるため注意してください。
資金繰りが厳しくなる
源泉所得税は、支払いが一旦遅れてしまうと、資金繰りが厳しくなります。
給与や報酬などの支払いだけでなく、源泉徴収も同時に発生するため、毎月発生する支払いを滞納すれば翌月や翌々月の負担が重くなってしまいます。
翌月には倍、翌々月には3倍の支払いが必要になり、滞納すればするほど支払い額は膨らんでいきます。
そのため源泉所得税の支払いは、一旦遅れてしまうと現金売上が増えたり資金繰りが大幅改善したりといったことがない限り、立て直すことは難しくなるでしょう。
利益が出ていて黒字であるにも関わらず、税金を支払うことができずに廃業するしかないといった最悪の事態を引き起こす可能性もあると留意しておいてください。
源泉徴収漏れがあった場合の対処法
給与から差し引く源泉徴収税額は、月次の給与額から社会保険料を控除した金額で計算します。
そのため、昇給や社会保険料が変更されていた場合、変更前の税額で源泉徴収額を計算してしまったり納付を遅延したりという可能性も考えられるでしょう。
また、報酬から差し引く源泉徴収税についても、源泉徴収しなければならない取引と認識できておらず、納付が遅延してしまう可能性があります。
税務署には正しい税額を納めたつもりが、実際には源泉徴収額の不足や納付遅れがあった場合、給与を支払った従業員や報酬を支払った相手先とで不足額を調整しなければなりません。
この場合に考えられる調整方法は、次の2つです。
- 従業員や支払先から不足分を回収する
- 従業員や支払い先から不足分を回収せずに、徴収不足分を追加の給与または報酬とし、源泉徴収税額を算定して税務署に納める
1.の場合、不足分を回収する場合には、従業員や支払先に理解をしてもらえる説明が必要です。
2.の場合、給与や毎月の顧問料であれば次回支払い分で不足分を回収することはできるものの、スポット契約の報酬などであれば次回発生するかわからないため回収できないこともあります。
上記を踏まえた上で、源泉徴収漏れがあった場合の対処法としては、次の3つが必要です。
- 税務署に徴収不足額を速やかに納める
- 延滞税などペナルティ分も納める
- 不足額の取り扱いを従業員や支払い先と調整する
源泉徴収漏れは起こらないようにすることが大切であるものの、人員の入れ替わりや新規契約などが増える時期などでは、特に注意が必要といえます。
まとめ
源泉所得税は、給与や賞与、報酬や料金などを支払うときに差し引いて一旦預かる税金です。
従業員に支払う給与だけでなく、弁護士や税理士などの専門家に支払う報酬や、翻訳や通訳を雇用したときの料金などでも源泉徴収が必要となります。
そのためどのようなケースで源泉徴収が必要なのか理解しておかなければ、徴収漏れや滞納などが発生することになり、延滞税などペナルティを受けることになってしまいます。
源泉徴収漏れの延滞税などの罰則は、給与や報酬を支払う事業者側に課されることや、給与所得者の還付申請の際にも迷惑をかけてしまうことを十分認識しておく必要があります。
なお、ペナルティとして支払った延滞税は、経費として計上することはできないため、その点も注意しておいてください。