減価償却しない場合のデメリットとは?対象となる資産や取り決めを解説

減価償却をしないという選択は、法人であれば税務上の問題は特に発生しません。

会社経営においての減価償却は毎年しなくてもよいとされているのに対し、個人事業者は強制であるためしないという選択肢はないといえます。

減価償却費は、取得した資産を一括で費用計上するのではなく、数年に分けて計上する手続です。

法人が減価償却しない選択をすれば、税額が増えたり損益が不明瞭になったりといった影響もあります。

そこで正しく適切な会計処理を行うためにも、減価償却しない場合のデメリットや、対象となる資産や取り決めについて解説していきます。

減価償却とは

「減価償却」とは、資産の価値は年々下がるといった考えに基づき、購入価格による一括費用計上ではなく何年かに分けて費用計上する会計処理です。

毎年の減価償却により算出した減価償却費を費用として計上しますが、次の2種類の計算方法があり、どちらを選択するかによって処理方法や償却額が変わります。

  1. 定額法
  2. 定率法

それぞれの計算方法について説明していきます。

機械装置とは?減価償却の方法や仕訳処理についてわかりやすく解説

定額法

減価償却費の計算方法のうち、「定額法」は資産に一定割合を掛けて算出する方法です。

資産ごとに決められた耐用年数で割合が決まります。

たとえば耐用年数2年の場合の償却率は0.500となり、1年目と2年目に半額ずつ減価償却費を計上するイメージです。

耐用年数5年の場合の償却率は0.2であり、仮に150万円の資産の償却額を計算した場合には、以下となります。

30万円=150万円×0.2

150万円を一括で費用として計上せず、5年間に渡り30万円ずつ費用計上していきます。

定率法

減価償却費の計算方法のうち、「定率法」は資産残高に一定割合を掛けて算出する方法です。

減価償却を繰り返すことで、未償却残高は年々減少します。

そのため計上できる減価償却費も毎年少なくなることが特徴といえますが、一定額を下回った後は毎年同じ金額を計上していきます。

たとえば耐用年数5年(償却率0.4)の資産200万円の減価償却費を定率法で計算した事例は以下のとおりです。

1年目 80万円=200万円×0.4
2年目 48万円=(200万円-80万円)×0.4
3年目 28.8万円=(200万円-80万円-48万円)×0.4

なお、減価償却する最低金額が償却保証額として決められており、このケースにおける償却補償額は21.6万円であるため、4年綿と5年目は21.6万円ずつ計上します。

減価償却の方法

減価償却は、毎年の資産の損耗額を推定し、算出した額を帳簿価額から減少させる会計処理です。

ただし処理方法は一律ではなく、次の3つに分けることができます。

  1. 通常の減価償却
  2. 少額減価償却資産の特例
  3. 一括償却資産の特例

それぞれ説明していきます。

通常の減価償却

通常の減価償却は、次のいずれかの計算方法により、資産金額に一定割合を掛けて減価償却費を算出します。

  • 定額法(毎年同じ額を減価償却)
  • 定率法(毎年同じ率で減価償却)

どちらの方法で減価償却するのか決めて、所轄の税務署長に「減価償却資産の償却方法の届出」を提出することが必要です。

届出しない場合は、「法定償却方法」で計算を行いますが、資産の種類によって減価償却の方法は異なります。

少額減価償却資産の特例

「少額減価償却資産の特例」とは、中小企業者等が取得価額10万円以上30万円未満の固定資産を取得したとき、取得価額相当額を損金算入できる税制措置です。

一事業年度につき合計300万円までであれば、新品と中古のどちらでも適用させることができるものの、青色申告をする中小企業等に限られています。

一括償却資産の特例

「一括償却資産の特例」とは、20万円未満の資産を耐用年数よりも短い期間で費用計上できる特例です。

新品と中古のどちらでも適用可能で、事業用の一括償却資産を個別管理せずに一律3年で減価償却できることがメリットといえます。

少額な固定資産を個別管理し、減価償却費を月割り計算することは手間がかかる作業といえますが、一括償却資産の特例を適用させれば事務処理を簡略化できます。

減価償却の対象となる資産

減価償却は、使用可能期間1年以上で取得価額が10万円以上の資産のうち、年数の経過により価値が減少していく資産が対象です。

具体的に、次に挙げる資産が減価償却の対象になるといえます。

  • 建物(事務所・倉庫など)
  • 建物付属設備(電気設備・水道設備・音響機器など)
  • 機械・器具(工場設備・パソコン・プリンターなど)
  • 車両(営業車両・運搬車両・タンク車など)
  • 備品(事務デスク・椅子・キャビネットなど)
  • 無形固定資産(ソフトウェア・特許権・意匠権・商標権など)
  • その他(家畜・樹木など)

また、次に該当する資産は減価償却の対象にはなりません。

  • 時間経過で価値が減少しない資産(美術品・絵画・骨董品・土地・借用権など)
  • 遊休資産(現在業務で使用していない資産)
  • 棚卸資産(商品・原材料などの在庫)

減価償却に関する取り決め

減価償却は、毎期計上する会計上の処理といえますが、税務上は個人事業者と法人では扱いが異なります。

そこで、次の2つに分けてそれぞれの減価償却に関する取り決めを説明します。

  1. 個人事業者
  2. 法人

個人事業者

個人事業者は所得税を申告するため、減価償却の根拠となる法律は所得税法です。

そのため個人事業者は減価償却費を必ず計上しなければならないと定められています。

毎年必ず償却限度額を減価償却費として必要経費に算入しなければなりません。(強制償却)

法人

法人は法人税を申告するため、減価償却の根拠は法人税法です。

税務上の損金計上できる減価償却費の上限は定められているものの、法人税法による会計上は減価償却費として計上できる金額は任意とされています。

会計上の減価償却費が限度額を超えなければ、減価償却の判断は任意で決めることができ、仮にゼロ円でも問題ないと解釈されます。

そのため毎年ではなく、年度によって減価償却しないケースも認められるといえます。

なお、減価償却しないという選択をした場合でも、翌年度にまとめて2年分を計上できるわけではありません。

減価償却しないデメリット

法人の場合、減価償却を行うか、任意で決めることができます。

ただ、減価償却しないという選択をした場合、次の4つのデメリットがあると考えられるでしょう。

  1. 法人税が増える
  2. 損益が曖昧になる
  3. キャッシュフローが悪化する
  4. 銀行融資の審査で不利になる

それぞれどのようなデメリットがあるのか説明していきます。

法人税が増える

減価償却しないという選択によるデメリットとして、課税所得が減少しないことにより、法人税が増えることが挙げられます。

減価償却費を計上すれば、法人税の計算のもとである課税所得が減少します。

しかし計上しない選択をすることで、課税所得は本来であれば減少したはずの減価償却費分が残るため、法人税の負担がその分大きくなってしまいます。

損益が曖昧になる

減価償却しないという選択によるデメリットとして、収益と費用が対応しなくなることで、本来の損益が曖昧になることが挙げられます。

損益を明確にしたいのなら、収益と費用を対応させるための減価償却を行って、算出した減価償却費を考慮した状態で損益計算を行い、利益が発生しているか確認しましょう。

キャッシュフローが悪化する

減価償却しないという選択によるデメリットとして、現金の流出を伴わない費用計上の機会を失うことにより、キャッシュフローが悪化します。

減価償却費は現金を減少させずに費用計上できる勘定科目であるため、キャッシュフロー上ではプラスの項目として扱われます

そのため減価償却しない選択は、キャッシュフローの悪化につながるといえるでしょう。

また、先に説明したとおり法人税額が増えることによる支払いの増加も、キャッシュフローの悪化につながると考えられます。

キャッシュフロー計算書で減価償却費はなぜ加算されるの?

銀行融資の審査で不利になる

減価償却しないという選択によるデメリットとして、銀行融資を受ける際の審査で不利になることが挙げられます。

銀行融資の審査では、決算書や税務申告書などの提出を求められるため、減価償却しているか確認されるでしょう。

仮に利益を出したい、または増やしたいという理由で減価償却しない選択をしていた場合、決算書の信頼性を失うため審査では不利になります。

そもそも減価償却は現金の支出を伴わない費用計上であるため、減価償却費の金額が確認できなければ、銀行も正しいお金の流れを把握できません。

法人は減価償却しない選択も可能とされているものの、銀行融資の審査においては不利な扱いにならないように留意しておくべきです。

減価償却するメリット

法人が減価償却しないことにより、税負担が重くなるなど複数のデメリットがあるといえますが、反対に行うことで次の4つのメリットがあります。

  1. 節税につながる
  2. 損益が明確になる
  3. 利益より多く資産を残せる
  4. 金融機関からの評価を維持できる

それぞれどのようなメリットがあるのか説明していきます。

節税につながる

減価償却により減価償却費を計上するメリットとして、計上できる費用が増えるため、課税所得を減少させることによる節税効果が期待できます。

費用が増えれば利益は減少するため、法人税は利益に税率を掛けて算出する流れから、税負担は軽減されるでしょう。

また、翌年以降の費用を把握しやすくなるため、事業計画が立てやすくなり法人税を抑えることにつなげることもできます。

損益が明確になる

減価償却により減価償却費を計上するメリットとして、毎期の実質的な損益を明確に把握できることが挙げられます。

仮に減価償却せず、取得時に取得費用全額を費用として計上すれば、適正な期間損益計算ができません。

固定資産は減価償却により耐用年数に応じて毎年少しずつ費用として計上しますが、これは対象となる資産が取得年度以降も収益を生み出す効果があるため、取得年度以降も取得費用を負担させるべきという考えによるものです。

減価償却により収益と費用が対応するようになるため、期ごとの実質的な損益を正確に把握できます。

利益より多く資産を残せる

減価償却により減価償却費を計上するメリットとして、決算上の利益よりも多くの資産を残せることが挙げられます。

減価償却で計上するのは、固定資産の取得でかかった費用であるものの、取得年度以降には現金の流出のない状態で費用として計上できます。

そのため減価償却費で決算書上の利益が減った場合でも、手元に残る資産はそれ以上の価値があると考えられるため、減価償却費を計上していれば実質的には決算書上の利益より多くの資産を手元に残せていると判断できるでしょう。

また、減価償却によって固定資産の取得年度の費用負担を抑えることができるため、実際よりも利益は大きく見えることになります。

対外的には、財務状況が良好であると見せることにも役立てることができます。

金融機関からの評価を維持できる

減価償却により減価償却費を計上するメリットとして、金融機関からの評価を高いまま維持できることが挙げられます。

仮に減価償却しない選択をした場合、利益を大きく見せて融資審査で有利な扱いを受けたいのではないか、といった懸念を抱かれる可能性があります。

しかし毎年減価償却していれば、金融機関からの信頼を落とすことはありません。

減価償却を行わないことは法律上問題ないとされているものの、企業会計原則の観点からは行うべきといえます。

収益と費用が対応しない状況を作ってしまうことは、利益を操作していると受け取られても仕方がないからです。

年度によって減価償却しない選択をするよりは、毎年減価償却費を計上して金融機関に正しく会計処理を行っている姿勢を示したほうが、融資審査では有利になると考えられるでしょう。

まとめ

減価償却しない選択は、法人であれば可能です。

しかし資金の流出のない費用の計上をしないことにより、本来であれば企業内部に留保されたはずの資金が貯まらなくなることや、キャッシュフローや付加価値の増加などのメリットはなくなります。

利益を減少させて節税対策につなげるためにも、減価償却しないよりはしたほうがよいといえます。

ただし利益が低くなることで、銀行融資などの審査は厳しくなる可能性があることなど、踏まえた上で判断するとよいでしょう。