資金繰り償還とは、利益以外から捻出したお金で借金を返済することです。
事業用に借りたお金の返済は、本来であれば利益から捻出するべきといえます。
しかし業績が思うように伸びなかった場合や、売上代金を回収するまで数か月開く場合など、資金が不足する可能性があります。
このような場合に対応できるのが資金繰り償還です。
借金を返済する償還には資金繰り償還と利益償還の2種類があります。
そこで、資金繰り償還とはどのような返済方法なのか、利益償還との違いや資金繰り改善のポイントについて解説していきます。
目次
資金繰り償還とは
「資金繰り償還」とは、借金の返済を利益以外から行うことです。
毎月安定した利益が出ていれば返済原資も捻出しやすいでしょう。
しかし赤字経営のときでも、借入金は返済しなければならないため、利益以外から返すことになります。
ただ、資金繰り償還は一時しのぎの返済ともいえるため、自転車操業に陥りやすく、金融機関から追加融資を受けることも難しい状態です。
最終的に資金繰りが追い付かず、資金ショートすれば会社は倒産することになるでしょう。
借入金の返済原資は利益から捻出することが望ましいといえますが、資金繰り償還の状態に陥らないためにも、次の2つについて理解を深めておきましょう。
- 資金繰り償還の例
- 利益以外から返済する方法
それぞれ説明していきます。
資金繰り償還の例
資金繰り償還では、利益以外から返済資金を捻出します。
たとえば「銀行から100万円融資を受け、毎月20万円ずつ返済するケース」の事例は以下のとおりです。
借入れた100万円で商品を仕入れ120万円で売れたものの、経費等の支払いに20万円かかったため利益はゼロだった。 翌月には20万円を返済に充てなければならないため、仕入れや経費など含めた売上金120万円から20万円を返済する。 |
利益が出ていないまま資金繰り償還を続ければ、最終的に仕入れに使える金額も減少し、すべて使ってしまえば経営破綻に追い込まれるでしょう。
利益がなければ、日々の資金繰りで借金を返済するしかない状態に陥るとはいえ、利益償還できない場合の一時しのぎにすぎません。
いつまでも資金繰り償還を続けることはできず、資金繰りが行き詰った状態のため金融機関からの評価が下がり、追加融資を受けることも難しくなります。
利益以外から返済する方法
資金繰り償還は利益以外の資金を返済に充てることですが、次の3つの方法が例として挙げられます。
- 手元の余裕資金
- 金融機関から借入れた資金
- 売掛金を現金化した資金
手元に余裕資金があれば、資金調達せずに返済することができます。
しかし手元に返済に充てるお金がなければ資金調達が必要となりますが、方法として金融機関から融資を受けるか、保有する売掛金をファクタリングで現金化することです。
新たに融資を受けて返済する方法は、自転車操業になりかねないためおすすめできません。
ファクタリングによる売掛金の現金化は、保有する資産を現金に換金する方法のため、借金を今より増やすことなく資金調達できておすすめです。
ファクタリングの利用方法とは?仕組みと注意点について簡単に解説
利益償還とは
「利益償還」とは、利益から捻出した返済原資で借入金を返済することです。
事業の利益から、毎月支払う固定費や仕入れ代金などを差し引いた残りで借入金を返済します。
そのため資金繰りは安定した健全経営ができている状態といえるでしょう。
銀行など金融機関から追加融資を受けたい場合も、返済能力が十分と認めてもらうことができ、審査にも通りやすいと考えられます。
本来、事業資金の借入れの返済は利益償還が理想といえますが、具体的には次のようなケースを利益償還といいます。
利益償還の例
利益償還では、利益から返済資金を捻出します。
資金繰り償還の例と同じく、「銀行から100万円の融資を受けて毎月20万円ずつ返済するケース」の事例は以下のとおりです。
借りた100万円で商品を仕入れ、150万円で売れた。 次回も仕入れに100万円を使う場合、返済に充てることができるのは儲けた50万円から。 固定費や人件費などで20万円支払いが必要だった場合でも、30万円余るため、毎月の返済分20万円は利益から捻出可能。 |
このような状況が続けば、20万円の返済を5か月繰り返すことで、借りた100万円は完済できます。(※ここでは利息分は無視します)
利益から借入金返済ができるのは健全な状態であり、資金を貸し付ける金融機関の審査でも、利益償還の可能性は重視されます。
審査で融資を受けることができるか左右する、重要な指標になるといえるでしょう。
借入金の償還ルールの種類
銀行など金融機関から融資を受けるときには、借入金を何に使うのか資金使途を申告することが必要です。
事業資金の借入れについて、資金の使い道として次の2つに分けることができます。
- 設備資金
- 運転資金
どちらの資金使途で融資を受けた場合でも、利益償還による返済が理想です。
しかし実際には、業績の悪化や資金不足などで困難な状態になることも予想されます。
ただ、一般的には上記の資金使途ごとに償還ルールは異なるため、それぞれ説明していきます。
設備資金
「設備資金」とは、事業で必要となる設備など導入するための資金です。
生産能力や商品の品質向上、コスト削減などを目的として使う資金であり、機械や設備の導入、店舗の工事費用などが該当します。
固定資産を導入するための資金となるため、返済期間も10年以内など運転資金より長めに設定されることが特徴です。
設備資金の借入れ返済については、金融機関も利益償還を前提としているため、利益を生み出すことができると判断されることが必要です。
利益償還できるか、事業計画書や資金繰り表などの内容次第で、審査に落ちてしまうこともあるといえるでしょう。
運転資金
「運転資金」は、事業運営で必要な仕入代金・人件費・固定費支払いに充てる資金です。
売掛金が入金されるまでの資金不足や、仕入れを増やしたいものの資金が足らないという場合において、その資金を借入れで賄います。
事業を回すための資金であるため流動資産となることから、返済期間も7年以内で設備資金より短めの設定となるでしょう。
運転資金が特に必要となるのは、創業したばかりの時期などです。
売上が上がり、事業が軌道に乗るまでは収入より支出が多くなりがちであるため、それまでの資金不足を運転資金の融資で補います。
そのため運転資金の返済は資金繰り償還による返済となりやすく、売掛金の回収分から返していくこととなるでしょう。
資金繰り改善のポイント
資金繰り償還を続けていれば、自転車操業に陥り、資金ショートするリスクは高まります。
そのため悪化した資金繰りを改善させることが必要ですが、そのためには次の5つをポイントとして押さえた上で、借入金を返済していきましょう。
- 据置期間を設定する
- 本業と本業以外の収支を確認する
- 財務収支を確認する
- 資金繰り表を作成する
- 無理に繰上げ返済しない
それぞれのポイントについて説明していきます。
据置期間を設定する
資金繰り償還に陥らないためにも、借入金返済において「据置期間」を設定しましょう。
特に起業したばかりの時期は、売上が十分になく、赤字経営が続くことも少なくありません。
しかし据置期間は、元金返済が猶予されるため、返済資金を捻出しにくい時期でも対応できます。
たとえば日本政策金融公庫の融資制度では、次の据置期間を設定できます。
新規開業資金 | |
利用対象者 | 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
融資期間 | 設備資金20年以内(据置期間2年以内) 運転資金 7年以内(据置期間2年以内) |
マル経融資(小規模事業者経営改善資金) | |
利用対象者 | 商工会議所・商工会・都道府県商工会連合会の実施する経営指導を受けて、商工会議所等の長の推薦を受けた方 |
融資限度額 | 2,000万円 |
融資期間 | 設備資金10年以内(据置期間2年以内) 運転資金 7年以内(据置期間1年以内) |
本業と本業以外の収支を確認する
悪化した資金繰りを改善するためには、次の2つの収支を確認しましょう。
- 本業の収支
- 本業以外の収支
それぞれ説明していきます。
本業の収支
本業の収支は、決算書の「経常収支」で確認できます。
経常収支の「収入」は、商品やサービスを販売したときの売上・雑収入などで、「支出」は仕入代・原材料代・固定費・人件費・金利の支払いなどです。
ただ、売上代金が手元に入金されるまでは1~2か月など時間がかかり、先に仕入れなどの支払いが発生する場合もあります。
売上代金の入金が先である場合でも、入金予定日に入金がなく、先に支払いが必要になってしまうとお金が不足する事態に陥ることもあるでしょう。
利益を生み出すことができていたとしても、支払いができなければ黒字倒産してしまう可能性があります。
本業以外の収支
本業以外の収支は、決算書の「経常外収支」で確認できます。
経常外収支の「収入」は、補助金収入・保険の解約収入・不動産の売却益などで、本業と異なる収入のことです。
本業の資金繰りが悪化すると、加入していた生命保険を解約して返戻金を受け取ったり資産を売ってお金にしたりなど、増えやすい収入であるため注意が必要といえます。
経常外収支の「支出」は、設備投資の支出・貸付金・有価証券の購入費などが該当します。
本業が好調で設備へ積極的に投資しているときや、老朽化した機械など更新するときに増えます。
財務収支を確認する
財務活動の収支は、決算書の「財務収支」で確認できます。
財務収支とは、銀行からの借入金の収支のことです。
そのため「収入」に該当するのは金融機関からの借入金で、「支出」は借入金の返済額となります。
運転資金や赤字を補填するための資金に対する借入金の増加は、資金繰りを厳しくするため注意してください。
返済額が増えすぎれば本業を圧迫することになりかねないと留意しておくべきです。
資金繰り表を作成する
資金繰りを改善させるためには、「資金繰り表」の作成が欠かせません。
毎月の資金繰りを管理するための表であり、お金の流れを把握する上でも重要な書類です。
現在の資金状況や、将来の予測まで記載するため、数か月先の入金・出金を把握しやすくなります。
仮に数か月先に現金が不足する可能性がある場合は、できるだけ早めに金融機関から融資を受け、資金調達しておくことも必要です。
また、繰上げ返済できそうなタイミングなども事前に把握できるため、早く借金を返済したいときにも活用できます。
不測の事態に陥る前に、いつどのタイミングでお金が必要か把握することで、資金不足や資金ショートを未然に防ぐことができるでしょう。
無理に繰上げ返済しない
資金繰り改善に向けて早く借金を完済したいと考え、無理に繰上げ返済することは得策とはいえません。
経営や市場の環境は常に変化しています。
万一不測の事態に陥った場合でも対応できるように、ある程度は現金を保有しておくことも必要です。
確かに繰上げ返済により、借入金減少や支払利息削減は金融機関の評価を向上させることができれば、追加融資の可能性も広がります。
財務戦略の1つであり、借入金返済にかかる利子負担の軽減にも有効といえるでしょう。
しかし繰上げ返済にこだわりすぎて、手元の余裕資金をすべて使ってしまうと、想定していなかった事態が発生したときに対応できなくなります。
資金繰り表を確認したとき、繰上げ返済してしまうと不測の事態に対応ができなくなる可能性があるのなら無理に実行せず、経営状況を見た上で判断するようにしてください。
まとめ
資金繰り償還とは、借入金を利益以外で返済することです。
利益から借入金を返済する利益償還が理想といえるものの、創業は売上が十分でなく、収入よりも支出が上回るため資金繰り償還に陥ることが多いといえるでしょう。
業績の悪化などで、思うように手元の資金が増えず、利益償還が難しいという場合もあるかもしれません。
ただ、資金繰り償還を続けていると、いずれ資金ショートしてしまい、倒産リスクを高めます。
決算書で財務状況を把握しつつ、資金繰り表を作成してお金の流れを把握することが大切です。
会社の収入と支出を管理し、現金が足らなくなる前に過不足を調整していきましょう。
資金繰り表は、将来のリスクを未然に防ぎ予測してくれるため、財務管理に有効活用することが大切です。