商取引をしていれば、会計処理で「売掛金」がたびたび発生しますが、実際にはどのような性質の勘定科目か説明できない方も少なくないことでしょう。
しかし売掛金とは何か理解していなければ、資金繰りは悪化し手元の資金をショートさせるリスクを高めてしまいます。
そこで、売掛金とは何を意味する勘定科目なのか、発生する理由などにわかりやすく解説していきます。
目次
売掛金とは
売掛金とは、商取引において発生する未回収のお金のうち、1年以内に回収することが見込まれる勘定科目です。
以上のことを踏まえて、売掛金の意味を次の4つに分けて説明していきます。
- 売掛債権という資産
- 後払い代金を請求する権利
- 増加しすぎればリスクも拡大
- 未収金との違い
それぞれ説明していきます。
売掛債権という資産
商取引において、商品やサービスを販売・提供し、その代金はその場で受け取らず、1か月分まとめて請求という場合、回収できていない代金が発生します。
この代金を受け取るためには、取引先に支払いを求める請求書を渡すことになりますが、この請求できる権利こそが売掛金であり、売掛債権という資産の1つとなります。
後払い代金を請求する権利
売掛金は、商品やサービスを販売したものの、その代金は後日受け取るという場合に発生します。
まだ回収していない代金を受けとる権利が売掛金であり、お金を受け取る権利のため「資産」の1つとされています。
商取引では、取引も頻繁に行われ額も大きいことから、取引のたびに代金の支払いがあると手続や事務処理が煩雑になるため、「掛け」による信用取引で後日請求できる権利を発生させているといえるでしょう。
増加しすぎればリスクも拡大
売掛金は掛け取引という取引形態により発生するものなので、後日、決済が予定される日には支払われる予定のお金です。
ただし、商品やサービスを販売・提供したときにすぐその代金を受け取るわけではないため、後日、取引先の業績が悪化することによってその代金が回収できなくなるリスクも抱えます。
主に次の2つのリスクを抱えるといえるでしょう。
- 売掛先が倒産すれば代金を回収できないリスク
- 売掛金が現金化されるまで資金繰りが悪化するリスク
そのため売掛先に後日支払う能力があるのか「与信管理」を徹底して行い、「与信限度額」を設定した上で都度見直しながら取引を続けることが求められます。
特に回収までの期間が長いほど入金されるまで時間がかかるため、その間に売掛先が倒産したり経営難に陥ったりしないか、確認することが必要です。
未収金との違い
売掛金は本業により発生したまだ回収していない代金であるのに対し、「未収金」は本業以外の取引で発生した未回収分です。
どちらもまだ回収していないお金ですが、発生した理由が異なります。
たとえば本業とは別で不動産投資による家賃収入を得えている場合、まだ入金のない賃料は未収金として扱います。
買掛金とは
売掛金が代金を回収する権利であるのに対し、「買掛金」は代金を支払う義務を意味する勘定科目です。
買掛金は、取引先から商品を仕入れたものの、その支払いは後日であるときに発生します。
商品やサービスの購入代金を支払う義務であり、貸借対照表では「負債」の1つとして含まれます。
代金を支払う義務であれば、買掛金が多いことは資金繰りの上で悪いことと考えがちですが、実際に現金が流出するまで一定期間設けられていることから、悪いこととは言い切れません。
売掛金の入金よりも買掛金の支払いは先に発生するため、買掛金が増えすぎれば後払い代金の支払い負担が増えてしまいます。
そのため現金の入出金や売掛金とのバランスを考慮した上で仕入れることも大切です。
売掛金・買掛金の仕訳方法
現金で販売し売上を計上するときには、次のように一度で処理が完了します。
借方 現金 / 貸方 売上
しかし売掛金と買掛金を使った仕訳は、一度で処理が完了しないことに注意しましょう。
そこで、次の2つに分けてそれぞれの仕訳方法を説明していきます。
- 売掛金の仕訳方法
- 買掛金の仕訳方法
売掛金の仕訳方法
たとえば商品10万円を掛けによる取引で販売したときには、先に次の売上計上の仕訳で処理します。
借方 売掛金10万円 /貸方 売上10万円
売掛金は資産のため借方、売上は収益のため貸方に記載します。
この売掛金が売掛先から期日に普通預金へ入金されたときの仕訳は次のとおりです。
借方 普通預金10万円 /貸方 売掛金10万円
売掛金が入金されたため、貸方に売掛金を記載して消失させます。
なお、先の商品10万円入金の際に、振込手数料550円を含めた金額(振込手数料を自社が負担する場合)となっていたときの仕訳は次のとおりです。
借方 売掛金 9万9,450円 / 貸方 売上 10万円
支払手数料 550円
また、売掛先が倒産したことにより、売掛金を回収できなくなったときには次の仕訳処理となります。
借方 貸倒損失 10万円 / 貸方 売掛金 10万円
売掛金が回収不能となったときには、国税庁の定める条件で「貸倒損失」で処理します。
買掛金の仕訳方法
たとえば10万円の商品を掛け取引により仕入れ、その代金は後払いという場合は次の仕訳処理となります。
借方 仕入 10万円 / 貸方 買掛金 10万円
「仕入」は費用勘定のため借方、「買掛金」は負債のため借方に記載します。
上記の買掛金を支払期日に取引先に現金で支払った場合には、次の仕訳で処理します。
借方 買掛金 10万円 / 貸方 現金 10万円
また、取引先が仕入先で買掛金が発生しているものの、販売先でもあるため売掛金も発生していれば、承諾を得ることで買掛金と売掛金を相殺することができます。
その場合の仕訳は以下のとおりです。
借方 買掛金 10万円 / 貸方 売掛金 10万円
売掛金が増減する理由とは
売掛金は貸借対照表の「資産の部」、買掛金は「負債の部」に記載される勘定科目です。
資産には将来プラスとなる科目が該当するため売掛金も含まれますが、反対に買掛金は将来お金が流出するため負債として扱います。
そのため売掛金が回収できなくなれば、資産の部からマイナスし、「貸倒引当金」で売掛金を区別します。
売掛金が増える理由として次のことが挙げられます。
- 業績が上昇傾向にあるため売上に連動し売掛金も増えている
- 売掛金を回収していないため残ったままの状態
反対に売掛金が減少している原因としては次のことが関係しています。
- 売上が減少している
- 事業規模を縮小した
- 現金収入など売掛金を発生させない取引が増えた
業績が上がれば売上も増えるため、その取引が掛けによるものであれば売掛金も増えます。
ただ、売掛先から売掛金を回収できていないときにも売掛金は残ったままです。
この場合、回収できなくなる前に入金が滞っている売掛先に催促することが大切といえるでしょう。
代金が入金されれば売掛金は減少しますが、前年度よりも売掛金が減っているときには売上低迷などが考えられるため、戦略の見直しなども必要です。
売掛金管理で注意したいこと
商取引は一般的に掛けによる取引のため、売掛金を使う仕訳は一般的といえます。
しかし、売掛金は発生したまま放置し、適切に管理しなければ回収できなくなる可能性があります。
売掛金回収が滞ればキャッシュフローも悪化するため、適切に管理することが必要ですが、特に次の2つには注意しておいてください。
- 消滅時効を過ぎると回収できない
- 不良債権化させないための催促も必要
それぞれ説明していきます。
消滅時効を過ぎると回収できない
実は売掛金にも時効というものが存在していますが、以前まで、その期間は売掛金の種類によって異なっていました。
たとえば旅館や飲食店などで発生する宿泊料や飲食料は1年、卸売や小売による商品の代価などは2年、医療診療や調剤などの代金や工事の設計や施工などの代金は3年だったのです。
しかし、このような短期の消滅時効の規定は、職業によって時効期間を定める合理性が認められないことや、複雑でわかりにくいといった批判や問題が多かったため、2017年に民法が改正されたタイミングで廃止されています。
現在は、時効期間は統一され、債権者が権利を行使できると知ってから5年、行使をできるときから10年のいずれのうち、早い方を適用させることにかわりました。
売掛金の消滅時効期間は、業種に関わらず、原則5年であると理解しておくとよいでしょう。
不良債権化させないための催促も必要
売掛金は取引先の業績が悪化することなどで回収できなくなる可能性がありますし、長く入金されていないまま放置していると不良債権に変わる可能性があります。しっかりと毎月適切な管理を行い、未回収の売掛金がある場合には催促するといった手続きも必要です。
取引先ごとに売掛金管理台帳を作成した上で、回収に関しての取り決めが守られているか確認するようにしましょう。もし入金までに遅れが生じている場合には、与信枠などの見直しも必要と考えておくべきです。
取引先が破綻することで、連鎖的に自社にも影響が及ぶことが考えられます。連鎖倒産という最悪の事態に陥らないためにも、売掛金は適切に管理することを心掛けてください。
まとめ
売掛金を発生させる掛け取引はいろいろな業界で扱われていますが、日本の商取引では一般的です。
将来代金を受け取る権利である売掛金が増えても問題ないと考える方もいるでしょうが、増えすぎればキャッシュフローを悪化させ、未回収となるリスクを高めます。
回収不能や長期滞留のリスクを未然に防ぐためにも、徹底した売掛金管理と売掛先の与信管理を行いましょう。
また、買掛金の支払いは売掛金の入金よりも先に発生します。
この入出金のズレが資金繰りを悪化させる要因となるため、手元の資金が枯渇すれば会社は倒産してしまうことを念頭に入れ、資金ショートさせない資金調達も大切です。
長期化している売掛金は資金繰り悪化の大きな要因となるため、前倒しで回収できるファクタリングなどをうまく活用し、資金繰り改善を目指すことをおススメします。