2021年10月06日
令2年(ワ)第32419号 不当利得返還請求事件
事案の概要
本件は、PMG社と他のファクタリング会社(A社)に対し、原告(X社)が不当利得返還請求を行った裁判です。
X社はA社とPMG社の両社で複数回ファクタリングサービスを利用して資金調達しましたが、後に「ファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約」と主張して「利息制限法を超過した手数料」について不当利得返還請求をしました。
確かに契約の性質が「金銭消費貸借契約」であれば「利息制限法」が適用されます。ファクタリングの手数料は制限利率を大きく超過するので、制限利息を超過して過払いとなった分の返還を求める趣旨です。
当社とA社は請求を拒否しました。
なお原告であるX社は土木建築用資材や建設機械リース業などを営む企業です。
原告…X社(ファクタリングを利用した企業)
被告…PMG社と他のファクタリング会社(A社)の合計2社
原告の主張
原告となったX社は以下のような主張を行い、当社とA社へ不当利得返還を求めました。請求理由はA社に対するものも当社に対するものもほとんど同じだったので、以下ではまとめて表記します。
ファクタリング会社は「回収リスク」を負担していない
ファクタリング契約の法的性質が債権譲渡契約となるか実質的に金銭消費貸借契約となるかは、通常「当事者のどちらが回収リスクを負っているか」で判断されます。回収リスクを譲受人であるファクタリング会社が負っていれば通常の債権譲渡契約ですが、回収リスクを譲渡会社が負っていれば実質的には金銭消費貸借契約と同じと評価されます。
X社は「回収不能リスクは自社が負担しており、ファクタリング会社らは負担していないから、本件契約は金銭消費貸借契約となる」と主張しました。
X社は債権譲渡通知が第三債務者へ発送されるのを阻止するため譲渡債権を買い戻さざるを得ない立場であった
本件のファクタリング契約において「買戻特約」はついていませんでした。
また契約締結時、第三債務者への債権譲渡通知は送られませんでした。ただし不払いが起こったときに備えていつでも通知を送れるよう、X社はファクタリング会社らへ「債権譲渡通知書」を預けていました。つまり第三債務者が不払いを起こしたときにはファクタリング会社が自ら債権譲渡の通知をするための準備を整えていたのです。
ところが実際に債権譲渡通知が第三債務者へ送られるとX社の信用が毀損されるので、万一不払いが発生するとX社としては事実上通知を阻止するために買い戻すしかありません。X社としては「事実上は買戻特約がついていたのと同じ」といえるから、本件ファクタリング契約は金銭消費貸借契約であると主張しました。
ファクタリング会社との契約では「表明保証違反があれば契約を解除できる」と書かれており、回収不能リスクはX社が負っていた
当社やA社のファクタリング契約書では、X社における「表明保証条項」がもうけられていました。表明保証とは、契約時に第三債務者において不払いや倒産リスクがみあたらないことや、X社による告知内容に虚偽がないことなどについて保証するための条項です。そして保証内容に虚偽があった場合にはファクタリング会社から契約を解除できる内容となっていました。
X社は「第三債務者の状態について表明保証を行い、違反があれば解除されるのだから、回収できなかった場合にも解除される可能性がある。よって不払いリスクはX社が負っていた」と主張しました。
債権回収がX社に委託されていた
本件ファクタリング契約では、いずれも第三債務者からの債権回収はX社に委託されていました。債権譲渡契約と同時に「取立事務委任契約」が締結されていたのです。
ファクタリング会社が直接第三債務者へ取り立てを行うと、X社が「ファクタリングで資金調達をした」事実を知られてしまい、信用が毀損されるおそれがあります。そこでX社の要望により、取り立てはX社が行って後にA社や当社へ支払う2社間ファクタリングの形式をとりました。
X社は「取り立て事務が自社に委託されていたことも債権譲渡契約といえない一事情になる」と主張しました。
A社は債権の調査をしていない
A社はX社と6回取引をしていますが、その都度譲渡債権についての詳しい調査をしていなかったようです。債権譲渡契約であれば売買対象物である譲渡債権について調査されるはずなので、「調査されていないということは契約が金銭消費貸借契約であった根拠になる」と主張しました。
PMG社の反論
当社は上記X社の主張に対し、以下のように反論しました。
引当は回収した債権のみであった
まずは「当社債権の引当は第三債務者からの回収金のみであり、X社の財産全般には及ばない」点を強調しました。
もしも金銭消費貸借契約であれば、第三債務者から不払いがあったとき、当社はX社の財産全般から取り立てができるはずです。
しかし本件ファクタリング契約では、第三債務者が不払いを起こしたときに買い戻し請求などができないので、結局引当となるのは「回収できた債権」のみとなります。
このように「引当となる財産は回収に成功した債権のみでありX社の財産一般には及ばない」のであれば契約の法的性質は債権譲渡契約に他ならない、と主張しました。
買戻しを行わざるを得ない立場ではない
X社は「第三債務者が不払いを起こしたら事実上、買戻しをせざるを得ない立場であった」と主張しましたが、当社は否定しました。
本件ファクタリング契約において、X社は「回収できた限度で当社へ支払いをすれば義務を免れる立場」であり、X社の倒産や不払い、遅延などの事情についての責任は負いません。
リスクが生じたときに買戻しをすべき義務は存在しないのは明白と主張しました。
表明保証違反があれば解除されるのは当然
X社は「譲渡債権に抗弁事由等の具体的な危険が発生していないこと」などについて表明保証を行い、それに虚偽があった場合などには解除される可能性があることを「金銭消費貸借契約である」根拠にしていました。
しかし「譲渡時に譲渡債権に倒産や抗弁事由などの危険が発生していないこと」を表明保証させるのは取引において合理的な対応であり、不当な要求ではありません。
またあえて虚偽報告するなどの表明保証違反があれば、契約を解除されても当然です。
よって「表明保証違反で解除されるからといって金銭消費貸借契約とはいえない」と反論しました。
取立事務を委託する2社間ファクタリングも債権譲渡として有効である
X社は「第三債務者からの取立事務をX社に委託するのは債権譲渡として不自然であり、金銭消費貸借契約である」という趣旨の主張をしましたが、当社はこれも否定しました。
そもそも、債権譲渡通知を送らずに取立事務を譲渡会社に委託する形でも債権譲渡契約は有効です。
また当社が直接回収せずにX社に取り立てを委任したのは「第三債務者にファクタリング利用を知られたくない」というX社のニーズに応じたものでした。
こういった事情にかんがみても取立事務委任契約の存在によって本件ファクタリングが金銭消費貸借契約になることはありえないと反論しました。
A社の反論
A社もおおむね当社と同様の反論を行いました。
裁判所の判断
裁判所は以下のように判断し、X社による請求を棄却しました。
契約書は債権譲渡の形式をとっている
そもそも本件で用いられたファクタリングの契約書には「債権の売買」と明記されており、債権の額面額や取引価額なども明らかにされていました。またPMG社との契約書では「本件取引は譲渡担保つきの金銭消費貸借契約ではない」とはっきり書かれていたので、両者ともに「債権譲渡契約」と認識していたはずです。
ファクタリング会社が不払いリスクを負っている
本件ファクタリング契約において、X社はいずれのファクタリング会社の間でも「不払いリスク」は負っていませんでした。
X社としては第三債務者から回収した限度で当社やA社へ支払いをすれば責任を免れるのであり、X社の財産全体が引当になるわけではありません。
よって契約の性質は特段の事情のない限り「債権譲渡契約に該当する」と判断されました。
X社が買い戻さざるを得ない立場であったとはいえない
X社は「第三債務者が不払いを起こしたときには信用を守るために買戻しをせざるを得ない立場であった」と主張しましたが、裁判所はこれを否定しました。契約内容において「第三債務者が払わないときにX社が買い戻すべき義務」は一切規定されておらず、回収した限度で支払いをすれば責任を免れるのだから買戻義務は存在しないと認定しました。
表明保証違反で解除されるのは当然である
X社は「表明保証違反で解除される可能性があるので不払いリスクをX社が負っていた」と主張しましたが、裁判所はこれも否定しました。
表明保証の内容は「契約締結時において譲渡債権に抗弁事由などの具体的な危険が発生していないこと」などの合理的なものです。また虚偽を述べるなどして義務に違反したときに契約を解除されるのは当然といえます。表明保証違反による解除の可能性をもって「金銭消費貸借契約とはいえない」と判断されました。
取立事務が委託されていても債権譲渡契約と評価できる
X社は「X社に取立事務が委託されていたから債権譲渡契約ではない」と主張しましたが、裁判所は取立事務委任契約があっても債権譲渡の性質に反するものではないと判断しました。
X社のその他の主張について
X社は「譲渡された債権が一部であったこと」、「譲渡債権の弁済期が契約締結時と近かったこと」、「A社によって第三債務者の調査が詳細に行われなかったこと」などの諸事情により「金銭消費貸借契約であった」と主張しましたが、裁判所は認めませんでした。
そういった諸事情があっても債権譲渡契約の性質を覆す「特段の事情」にはならないとして、最終的に本件ファクタリング契約は債権譲渡契約であると認定しました。
利息制限法の適用はない
PMG社とA社とのファクタリング契約がいずれも債権譲渡契約である以上、利息制限法の適用はありません。設定された手数料も債権譲渡(ファクタリング)として高額にすぎる不当なものともいえないので有効と判断されました。
よって利息制限法違反の過払い金は発生せず、X社の当社及びA社への請求は全面的に棄却されて裁判は集結しました。
講評
本件の原告となったX社は「ファクタリング契約が実質的に金銭消費貸借契約」と主張して利息制限法を適用し、過払い金を請求しています。
一般的にこの種の請求が認められるためには「譲渡会社が不払いリスクを負担」していなければなりません。具体的には不払いが生じたときに買戻しを行うべき法的義務が設定されているなどの特殊事情が必要です。
単に「ファクタリング会社から第三債務者へ通知されると信用が毀損されるから買い戻さざるを得ない」といった事実上の事情だけでは「買戻義務」といえません。
またX社は「表明保証違反による解除」も問題にしました。表明保証の内容は「契約時に譲渡債権に倒産や抗弁事由など具体的な危険が生じていないこと」などであり、「100%譲渡債権が払われること」を保証するものではありません。表明保証条項自体が不当なものとはいえないのです。また虚偽報告を行ったら表明保証違反によって契約を解除されても当然といえるでしょう。表明保証の内容がよほど不当でない限り、表明保証義務違反による解除条項があっても契約は金銭消費貸借契約にならないと考えられます。
なお不当な表明保証とは、たとえば以下のようなものが考えられます。
「いかなる事情があっても譲渡債権が完全に払われることを保証し、払われないときは自社が負担する」
こういった内容の場合「買戻特約」と同じ結果になる可能性があり、契約の法的性質に影響が及ぶと考えられます。
弁護士の中には「事実上、買い戻さざるを得ない立場」「表明保証義務違反による解除」「取立事務委託契約」「債権譲渡通知を送らない(対抗要件を備えない)」などの事情を重視して「金銭消費貸借契約となり、過払い金請求できる」とアドバイスする方がおられるようですが、必ずしも正しくありません。
今後のファクタリング会社の運用方針を決定する際やファクタリング利用を検討している企業さまはぜひ、今回の裁判の内容を参考にしてください。