売掛金とは、商品やサービスを販売する都度代金を受け取らず、一定期間内の取引分をまとめて後日請求し、回収する掛け取引による債権です。
信用取引で発生する債権を会計処理するときの勘定科目ですが、正しい仕訳方法を理解しておく必要があります。
そこで、売掛金について、発生と回収の仕訳例や管理する上での指標や方法をわかりやすく解説していきます。
目次
売掛金とは
「売掛金」とは、掛けによる取引で発生する1年以内に回収が見込まれる債権であり、後払いで代金を受け取る権利です。
商品やサービスの販売代金を取引ごとに受け取るのではなく、1か月など一定期間分をまとめて請求するときの仕訳処理で使います。
貸借対照表の「資産の部」の流動資産に分類される勘定科目といえますが、売掛金について以下の5つを解説します。
- 計上するタイミング
- 買掛金との違い
- 未収金との違い
- 受取手形との違い
- 前受金との違い
売掛金とは?発生するタイミングや買掛金との関係をわかりやすく解説!
計上するタイミング
売掛金を計上する「タイミング」は、商品やサービスを販売し、引き渡したときです。
実現主義での仕訳処理となるため、以下のいずれかを計上のタイミングとします。
- 販売先に商品を発送した日
- 販売先に商品が届いた日
- 販売先が商品を検収した日
買掛金との違い
「買掛金」とは、材料や商品などを購入したときに購入代金を支払わず、後払いで支払う掛け取引の債務です。
支払いまでの期間は1~2か月後と短いため、貸借対照表の貸方の「負債の部」の「流動負債の部」に表示されます。
売掛金は販売先に代金を請求する権利であるのに対し、買掛金は購入先に代金を支払う債務であることが違いです。
未収金との違い
「未収金」とは、正式名称「未収入金」という勘定科目で、本業で販売する商品・サービス以外を売却した未回収の代金です。
営業取引で発生した売掛金以外の債権であり、たとえば以下の代金が該当します。
- 有価証券や固定資産を売却後の未回収金
- 不動産賃貸業者でない者の不動産賃貸収入の未回収金
- ファクタリング利用の未回収金
売掛金は事業活動で発生する債権であるのに対し、未収金は事業活動以外で発生する債権であることが違いです。
受取手形との違い
「受取手形」とは、商品やサービスなどを販売したときの代金を、販売先から手形で回収したときの仕訳処理で用いる勘定科目です。
手形には、約束手形と為替手形の2種類があります。
約束手形は2者間で交換され、手形に記された金額を期日に現金化できます。
為替手形は、振出人が行う支払いを支払人に依頼し、受取人へ支払ってもらう3者間取引での手形です。
たとえば、A社がB社に対する債権と相殺することを条件として、C社に代金を支払ってもらいます。
受取手形と売掛金はどちらも売掛債権ですが、受取手形は銀行など金融機関に手形換金を依頼して現金化します。
これに対し売掛金は、請求書を発行した後の未入金の債権であり、銀行などの第三者機関が介在するか否かの違いがあります。
前受金との違い
「前受金」とは、商品を受け渡す前に手付金として受け取ったお金です。
似た勘定科目として「預り金」が挙げられますが、一時的な金銭の預かりや社会保険料など第三者への支払い分の預かりであるため、前受金とは性質が異なります。
売掛金は商品やサービスを引き渡したものの、まだ代金を回収していないときの勘定科目です。
前受金は先に手付金として受け取り、商品やサービスの引き渡しが完了していないことが売掛金との違いといえます。
売掛金の会計処理の流れ
売掛金は、商品やサービスを販売相手に引き渡し、売上を計上すると同時に発生する勘定科目です。
代金を回収したときは、発生した売掛金を消込むことも必要ですが、以下の5つの流れで会計処理を行います。
- 売上の計上
- 請求書の発行
- 売掛金の回収
- 売掛金の消込
- 残高の確認
1.売上の計上
売掛金を計上するのは、商品やサービスを掛けによる取引で販売したときです。
商品を提供した時点をいつにするか、決め方や捉え方は事業者に委ねられています。
商品を発送した日なのか、それとも販売先へ商品が届いた日や検収された日にするのか、事業者の事情で決めることはできますが統一することが必要です。
収益が実現する日が売上計上の日であり、売上を計上すると同時に売掛金も計上されます。
2.請求書の発行
商品やサービスを販売したものの、代金を受け取っていないために売掛金が発生します。
そのため販売先には、一定期間における取引分の納品書と請求書を送付します。
3.売掛金の回収
販売先に請求書が届くと、受け取った販売先は請求額を支払います。
回収した売掛金について、請求額と入金額が合致しているか確認しましょう。
4.売掛金の消込
発生した売掛金と、販売先から回収した入金額が合致していることを確認した後は、売掛金の消込作業が必要です。
請求額よりも入金額が少なかった場合、販売先に不足分を催促するか、次回入金分と合わせて支払ってもらうか調整しましょう。
入金額のほうが多かった場合は、過剰分を仮受金として処理して取引先へ返金するか、次回入金分から差し引くか相談・調整してください。
5.残高の確認
売掛金の消込後も、売上が計上されるたびに売掛金は増えます。
そのため販売先ごとの売掛金の発生や回収を記録し、現在の売掛金残高を把握できるようにしておきましょう。
販売先にとって買掛金で処理されている金額と、認識している売掛金が一致しているか、残高確認書を作成・送付して確認を依頼することも必要です。
残高にズレがある場合は、金額と原因を洗い出し、確認後は必要に応じて修正してください。
売掛金の仕訳例
売掛金は、仕訳処理で貸借対照表の「流動資産」に分類される勘定科目です。
仕訳処理で用いるタイミングは、主に次の3つといえます。
- 商品・サービスの販売
- 売上代金の回収
- その他
それぞれの仕訳例を説明します。
商品・サービスの販売
商品100万円を掛け取引で販売したとき、以下の仕訳処理を行います。
借 方 | 貸 方 |
売掛金 1,000,000 | 売上 1000,000 |
消費税が税込・税抜のどちらかによって、以下のとおり仕訳処理が異なります。
消費税の課税事業者 | ①税込経理方式と②税抜経理方式の2種類から選択して処理 |
消費税の免税事業者 | ①税込経理方式で処理 |
①税込経理方式 | |
借 方 | 貸 方 |
売掛金 1,100,000 | 売上 1,100,000 |
②税抜経理方式 | |
借 方 | 貸 方 |
売掛金 1,100,000 |
売上 1,000,000 仮受消費税等 100,000 |
売上代金の回収
売上代金として、売掛金を回収したときも仕訳処理が必要ですが、回収方法は以下の4つに分けることができます。
- 現金
- 銀行振込
- 一部回収
- 買掛金との相殺
それぞれの仕訳処理を説明します。
現金
売掛金1,000,000円を現金で回収したときの仕訳は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
現金 1,000,000 | 売掛金 1,000,000 |
銀行振込
売掛金1,000,000円を銀行振込で回収したときの仕訳は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
普通預金 1,000,000 | 売掛金 1,000,000 |
一部回収
売掛金1,000,000円のうち、たとえば500,000円分など一部を現金で回収したときの仕訳は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
現金 500,000 | 売掛金 500,000 |
どの売掛金の一部を回収したのか確認できるように、摘要欄に取引先名称や何回目の入金か記載しておきましょう。
買掛金との相殺
販売先が購入先でもある場合で、売掛金だけでなく買掛金も発生していれば、双方合意のもとで相殺できます。
たとえば売掛金1,000,000円と買掛金1,000,000円を相殺したときの仕訳は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
買掛金 1,000,000 | 売掛金 1,000,000 |
その他
売掛金に関して、上記以外で仕訳処理が必要となる以下の3つについて説明します。
- 回収前の商品返品
- 振込手数料を引かれた
- 売掛金が回収できなかった
ファクタリングの会計処理方法とは?取引別の仕訳と勘定科目を解説
回収前の商品返品
売掛金を回収する前に、すでに販売した商品(1,000,000円分)が返品されたときの仕訳は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
売上 1,000,000 | 売掛金 1,000,000 |
振込手数料を引かれた
売掛金が販売先から入金されたとき、振込手数料が代金から差し引かれていたときには、以下のいずれかの仕訳で処理できます。
A:その場合、振込手数料を別にして仕訳を行うか、振込手数料を売上の値引として仕訳を行うか、どちらかの方法を選択して計上すればよいでしょう。
①振込手数料を支払手数料とする仕訳処理 | |
借 方 | 貸 方 |
普通預金999,300 支払手数料700 |
売掛金1,000,000
|
②振込手数料を売上の値引とする仕訳処理 | |
借 方 | 貸 方 |
普通預金999,300 売上700 |
売掛金1,000,000
|
売掛金が回収できなかった
売掛金1,000,000円を回収できなかったときの仕訳は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
貸倒損失 1,000,000 | 売掛金 1,000,000 |
法人税法上、貸倒損失の勘定科目で計上することが認められるのは次の3つのケースです。
- 法律的に金銭債権が消滅する
- 金銭債権全額が回収不能である
- 一定期間取引停止後弁済がない
売掛金を適切に管理するポイント
売掛金が回収できなければ、どれほど多く売上が計上されていても、手元の資金は増えません。
そのため未回収を発生させないことが重要といえますが、以下の5つのポイントを押さえた上で徹底した管理を行いましょう。
- 売掛金元帳を作成する
- 売上債権回転期間・回転率を確認する
- 会計年度をまたぐ処理に注意する
- 入金遅れには迅速に対応する
- 売掛金の時効に注意する
それぞれのポイントを説明します。
売掛金元帳を作成する
「売掛金元帳」とは、売掛金の発生や回収を取引先ごとに記録・管理するための帳簿です。
総勘定元帳の売掛金勘定の内訳明細の位置付けにある書類であり、補助簿の補助元帳の1つです。
主に以下の項目を記載します。
- 取引の日付
- 取引商品の名称
- 商品個数
- 商品単価
- 売上金額
- 回収した売掛金の受入金額
- 売掛金残高
売掛金を回収できなくなって貸倒れになる前に、売掛金元帳を活用することにより取引発生の日付や金額を見える化できます。
売掛金の回収状態を常に把握できるように、売掛金元帳を作成しておきましょう。
売上債権回転期間・回転率を確認する
売上債権回転期間とは、商品やサービスを販売した代金を回収するまでの期間であり、以下の計算式で算出できます
売上債権回転期間(日)=売上債権(売掛金+受取手形)÷(売上÷365日) 売上債権回転期間(月)=売上債権(売掛金+受取手形)÷(売上÷12か月) |
期間は短いほどスムーズに回収できており、健全な経営であると判断できます。
また、売上債権回転率とは、売掛金を効率的に回収できているかあらわす指標であり、以下の計算式で算出できます。
売上債権回転率=売上(年間)÷売上債権(年平均) |
回転率が低い場合は、回収まで時間がかかっている状態であるため、早期回収を目指すことが大切です。
会計年度をまたぐ処理に注意する
販売した商品を引き渡したりサービスを提供したりしたタイミングで、売掛金を計上することが原則です。
そのため請求書発行の時点に計上している場合は、会計年度の変わり目に注意してください。
たとえば12月の売上が翌年の1月以降に回収できるものの、普段は入金月に売上の仕訳をしている場合には、12月の処理に注意が必要となります。
12月の売上はその年に売上計上すべきであるものの、翌年1月で計上すれば当然、翌年分の売上として扱われます。
そのため12月売上で翌年1月に回収できる売上については、以下の仕訳処理を行いましょう。
仕訳例:12月分の売上1,000,000円が翌年1月に普通預金へ入金される場合(期中は入金のタイミングで売上計上済) | |||
日 付 | 借 方 | 貸 方 | 摘 要 |
12月〇日 | 売掛金 1,000,000 | 売上 1,000,000 | 12月分売上 |
翌1月〇日 | 普通預金 1,000,000 | 売掛金 1,000,000 | 12月分売上入金 |
入金遅れには迅速に対応する
売掛金が販売先から入金されないなど、回収が遅れているときには迅速に対応しましょう。
販売先の倒産などで回収不能に陥った場合は、未回収の売掛金が多額であると連鎖倒産してしまう恐れもあります。
早期に弁護士などに相談することも必要ですが、販売先との新規契約や取引継続における信用調査を実施することも必要です。
信用調査で懸念が生じたときは、あらかじめ販売代金の一部を支払ってもらうことや、現金決済に切り替えるなどの対応も必要となります。
売掛金の時効に注意する
売掛金の回収は、債権者が権利を行使できることを知ったときから5年経過すると消滅時効となります。
回収できていないものの、請求せずに放置したままの状態で5年間経過すると、消滅時効を援用されて請求権が消滅します。
裁判所を通じた支払督促や民事調停の申立て、債務の残高確認書による債務の承認などで時効期間をリセットさせるなど対策が必要です。
まとめ
売掛金は、未回収の商品やサービスの販売代金を回収できる権利であり、発生と回収のどちらにおいても正しい仕訳処理が必要です。
売掛金元帳を作成し、回転期間と回転率の定期的な確認、信用調査などで未回収を防ぎましょう。
未回収を防ぐためには、前倒しで回収できるファクタリングの利用もおすすめです。
ファクタリングの審査では、販売先の信用力を重視するため、信用調査にも活用できます。
初めての利用で不安があるときなど、お気軽にPMGにご相談ください。