中小企業には、現在DX戦略を進めることが求められています。
しかし中小機構が実施した調査によると、DXに取り組む予定のない中小企業は4割を超えているようです。
DX戦略に取り組んだ中小企業の8割程度は成果を感じているため、本来であれば積極的に進めることが必要といえます。
そこで、中小企業にDX戦略が求められる理由と、取り組むメリットや成功させるためのポイントについて解説していきます。
目次
中小企業に求められるDX戦略とは
中小企業に求められる「DX戦略」のうち、まず「DX」は「デジタルトランスフォーメーション」のことであり、デジタル技術による変革を意味します。
デジタル技術を活用することによって、業務を効率化させることや経営戦略を実行するまでの期間を短期化するなど、市場競争における優位性を確立することといえます。
DXに対する取り組みを戦略的に検討することが「DX戦略」といえますが、主に次の3つの段階を包括的に推進していくことが必要です。
デジタイゼーション | アナログ・物理データのデジタル・データ化 |
デジタライゼーション | 個別の業務・製造プロセスのデジタル化 |
デジタルトランスフォーメーション | 組織横断・全体業務・製造プロセスのデジタル化、顧客起点の価値創出に向けた事業やビジネスモデルの変革 |
「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」がなければ「デジタルトランスフォーメーション」は実現しません。
そのため紙媒体による情報管理などが混在している企業がデジタル化によるビジネスモデル変革や競争力強化を望むなら、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」を最優先に取り組むことが必要になるといえるでしょう。
中小企業にDX戦略が求められる理由
中小企業のDX戦略が求められるようになった理由は、次のことが背景にあると考えられます。
- 2025年までにIT人材の引退が予想されること
- サポート終了などによるリスクが高まると考えられること
- 上記による経済損失が2025年以降年間で最大12兆円のぼる可能性があること
上記の問題解決において、DXを推進することが必要とされているからです。
社会全体でデジタル化が当たり前の環境となった今、企業規模に関係なくDX戦略に取り組むことが求められていますが、次の事象が迫る目前であることも関係しています。
- デジタル社会への対応
- 人材不足への対策
それぞれ説明していきます。
デジタル社会への対応
政府はデジタル社会を実現するために、デジタル対応を前提とした法制度などが整備され、改正なども相次いでいます。
改正電帳法で電子取引データを保存することが義務化され、保存方法のみ変更すればよいわけではなく、ビジネスプロセスの見直しで業務の生産性を低下させない取り組みも求められているといえます。
2023年10月からインボイス制度もスタートし、手作業を介さず請求書発行・支払い・入金消込が可能になるデジタルインボイス導入も予定されています。
電子取引が主流となることも予想されるため、デジタル化に対応できるコンプライアンス面でのリスクを負わない環境整備が必要となるでしょう。
制度改正に対応しつつ遅れを取らない運用体制を整備のためにも、すでにビジネスプロセスのデジタル化を進めておくことが必要とされています。
人材不足への対策
日本は少子高齢化が進んでおり、人口自体も減少傾向にあります。
今後は生産年齢人口の減少スピードがさらに加速し、人材不足の問題を抱える企業が増えると考えられるでしょう。
新たな人材を確保することが厳しくなるため、限られた現場の人員で効率的に業務を進めるため、仕事のあり方そのものの見直しが必要な時期といえます。
人材雇用においても、仕事とプライベートを両立できる柔軟な働き方が可能かなど、重視する傾向が高まっています。
たとえばリモートワークやオフィス環境のデジタル化について、どの程度進んでいるかなど注目する求職者も少なくないため、選ばれる企業となるためにもDX推進は欠かせません。
中小企業のDX戦略に対する取り組みの現状
中小企業の中には、すでにDX戦略に取り組んでいるというケースはそれほど多くなく、中小機構が実施した2022年5月発表の「中小企業のDX推進に関する調査」の結果を見ても、DXに既に取り組んでいる企業は24.8%でした。
調査対象の1000社の4分の1程度にとどまっており、実際にはDX戦略への取り組みは進んでいないと考えられます。
さらにDXに取り組む予定はないと答えた企業は41.1%であり、必要と認識していても取り組むことができていない企業は34.1%でした。
DX戦略にはお金も必要となるため、デジタル技術を導入したくても投資する資金がなく、取り組みが進んでいないケースもあるようです。
中小企業のDX戦略に対する理解度
中小企業のDX戦略に対する理解度について、上記と同じく中小機構が実施した2022年5月発表の「中小企業のDX推進に関する調査」の結果から確認すると、「理解していない」と「あまり理解できていない」という回答が半数程度でした。
「理解している」または「ある程度理解している」と答えた企業は37.0%でしたが、この中でDX推進に向けた取り組みが必要と考える企業は25.1%、ある程度の必要性を感じている企業は51.1%となっています。
実際にDXを理解し、推進することが必要だと感じている中小企業は、一定数に限られることがわかります。
ほとんどの中小企業がDXに対する理解をしておらず、推進や取り組む意識も弱いと考えられるでしょう。
中小企業が実践しているDX戦略
中小企業にとって、DXを推進していくことは今後必要なことです。
しかし実際には、中小企業の間でDX戦略への取り組みが進んでいるとは言えない状況ですが、すでに取り組んでいる企業も一定数存在します。
上記と同様に、中小機構が実施した2022年5月発表の「中小企業のDX推進に関する調査」の結果を見ると、DXを進めている中小企業が推進・検討していることは以下の内容とされています。
- ホームページの作成(47.2%)
- 営業活動・会議のオンライン化(39.5%)
- 顧客データの一元管理(38.3%)
- 文章の電子化やペーパーレス化(37.5%)
- 電子決済の導入(35.9%)
上記5つはいずれも35%を超える割合で取り組みが進んでいるのに対し、以下に関してはすべて2割に満たない割合です。
- IoTの活用(19.4%)
- AIの活用(16.9%)
- デジタル人材の採用・育成(15.9%)
そのため既にDX推進に取り組む中小企業の場合、インターネットによる情報発信や業務の電子・オンライン化は対応できているものの、高度な技術の活用が求められるIoTやAIなどはまだ不十分な段階といえます。
中小企業がDX戦略を進める流れ
中小企業のDX戦略が進まない理由として、どのように取り組めばよいかわからないことが挙げられます。
経済産業省・中小企業庁の中小企業向けサイト「ミラサポplus」では、DX導入について、以下の順番で実施することを推奨しています。
- アナログからデジタル化
- デジタル・データの蓄積
- ビジネス・組織の変革
まず、アナログからデジタルへと変更することについては、たとえば紙媒体での作成・管理をしていた書類などを、専用ソフトを導入し電子化するといった方法などが挙げられます。
業務効率化や生産性向上につながり、データ蓄積や管理においても紛失や記載ミスなどを防ぐことができます。
複雑な自社システム開発や多額の資金投入などを検討しなくても、無料の管理ツールやオンラインストレージサービスを活用することから始めてみるとよいでしょう。
中小企業がDX戦略に取り組むメリット
中小企業がDX戦略に取り組むことにより、次の8つ効果が期待できるといったメリットがあります。
- 業務を効率できる
- 生産性を向上できる
- データ収集しやすくなる
- 法改正における課題を解決できる
- 人材を確保しやすくなる
- ビジネスモデルを創出できる
- BCP対策につながる
- 事業承継問題を解決できる
それぞれのメリットについて説明します。
業務を効率できる
中小企業がDX戦略に取り組むことにより、リモートワーク導入やペーパーレス化による業務効率化が可能です。
改正電帳法にインボイス制度など、対応しなければならない課題を抱えていたままでは問題は解決しません。
後回しにせず早期に取り組むことで、結果として現場の業務効率化につながり、生産性も向上させることができるでしょう。
生産性を向上できる
中小企業がDX戦略に取り組むことにより、ビジネスプロセスのデジタル化により定型業務などの業務が自動化・効率化され、生産性を向上させることができます。
これまで人の手を必要としていた業務が大幅に削減されることになり、仮に慢性的な人材不足でも高い品質を維持できるでしょう。
さらにバックオフィス部門とフロントオフィス部門をデジタル技術でつなげることで、異なる部門でも同時に業務が効率化され、生産性を高めることができます。
データ収集しやすくなる
中小企業がDX戦略に取り組むことにより、スムーズにデータを収集しやすくなります。
スピーディな現状把握と経営判断が、激化する競争の中で生き残る上、必要となります。
手作業によるデータ収集や分析では、時間や手間がかかり、業界における優位性も劣ることとなるでしょう。
DX化を進めることで、情報蓄積と一元管理が可能となり、迅速にデータを確認・分析することによるタイムリーで的確な経営判断も可能となります。
法改正における課題を解決できる
中小企業がDX戦略に取り組むことにより、法改正における課題を解決しやすくなります。
DX戦略では、法改正へ対応することだけでなく、それに伴うビジネスプロセスの見直しでペーパーレス化や働き方変革も実現させることができます。
将来に渡り、継続した法律改正へ対応が可能であることもメリットといえます。
人材を確保しやすくなる
中小企業がDX戦略に取り組むことにより、働き方自体が変わるため、人材を確保しやすくなります。
DX戦略に取り組むことで、ビジネスプロセスが変われば働き方自体が変化します。
従業員の事情に合わせた柔軟な働き方が可能となれば、優秀な人材も雇用しやすくなるでしょう。
特にミレニアム世代やZ世代は、業務デジタル化の状況が入職や定着を左右します。
今後は人口減少により若手人材が不足するため、定着率をアップさせるためにもDX戦略は必須と言えます。
ビジネスモデルを創出できる
中小企業がDX戦略に取り組むことにより、高い付加価値を付けた上での新たなビジネスモデルを創出できます。
DX戦略は、新たなビジネスモデルを創造し、市場競争において優位性を確保することが最終的な目的です。
中小企業もDX戦略に取り組み、経営に必要な情報をデジタル技術で活用すれば、新たな商品・サービスを開発することや新規顧客の創造などが可能となります。
事業拡大の可能性が広がることで、ビジネスモデルの創出にもつながるでしょう。
BCP対策につながる
中小企業がDX戦略に取り組むことにより、企業の必須課題といえるBCP対策につなげることができます。
日本は地震が多発する災害国といわれているため、企業でのBCP対策は必ず必要です。
DX推進でビジネスプロセスが変化すれば、情報はCloud上に蓄積されるため、インターネットがつながればどこでも業務遂行が可能となります。
災害発生時においても、コア業務を停止させることはなくなるでしょう。
事業承継問題を解決できる
中小企業がDX戦略に取り組むことにより、事業承継問題を解決できます。
中小企業庁が2022年4月に発表した「中小企業白書・小規模企業白書」によると、2021年に休廃業・解散件数は、2000年以降過去3番目の高水準でした。
後継者候補が存在しないままの状態や、候補者がいても次の経営者になれる教育をしなければ、事業承継は進みません。
しかしDX戦略に取り組むことで、業務効率化や経営判断スピードが高まり、後継者教育に時間や資金を掛けることが可能となります。
DX戦略を成功させるポイント
中小企業に求められているDX戦略を推進し、成功させるためには次の4つのポイントを押さえた上で取り組むことが必要です。
- 身近な部分から着手する
- 外部機関も活用する
- 組織全体で変化する
- 中長期的で取り組みを続ける
それぞれどのようなポイントを押さえておくべきか説明します。
身近な部分から着手する
中小企業がDX戦略を成功させるためには、いきなりゴールを目指すのではなく、身近な部分から着手していきましょう。
たとえば負荷のかかりにくいバックオフィス業務から取り組むことで、従業員の抵抗感を最小限に抑えつつ、DX化を進めていけます。
個別業務のデジタル化や既存・公表データの活用など、可能な領域から取り組むことで、DX戦略に関するノウハウを蓄積し少しずつ取組領域を拡大することができます。
外部機関も活用する
中小企業がDX戦略を成功させるためには、社内リソースで不足する部分を外部機関に頼りましょう。
デジタル技術に関する知識やノウハウを持った人材が社内に不在でも、IT人材を確保・育成することや、専門部署を立ち上げることはハードルが高めです。
この場合、ITベンダーやITコーディネーターなど、外部機関を頼ることで社内に知識やノウハウを蓄積させることができます。
組織全体で変化する
中小企業がDX戦略を成功させるためには、デジタル技術やデータ活用についても知識やノウハウを高め、組織全体で変化していきましょう。
新たな価値を顧客へ提供するためには、ニーズの変化に対応することが求められます。
そのためにも既存のビジネスモデルや組織をデジタル化に対応するための変革が必要となります。
中長期的で取り組みを続ける
中小企業がDX戦略を成功させるためには、中長期的に取り組みを続けていきましょう。
DX戦略はすぐに思い描く結果を得ることができるわけではないため、経営ビジョン策定から現状把握、問題抽出と解決実行など長い時間とコストが必要です。
5年または10年など、中長期的に計画を立てて取り組むべきととらえておくことが必要といえます。
まとめ
中小企業がDX戦略に取り組むことは今後必須といえますが、単に推進しても成果が出なければ意味がありません。
成果を出すためには、何のためのDX戦略へ取り組むのか、まず具体的な目的を明確にしましょう。
デジタル化が目的ではなく、その先にある目標に向けてDX戦略へ取り組むと考えることが必要です。
どのような情報技術やITツールが必要なのか、順序立てて検討することで少しずつDX化を進めることができ、成果を出すころができるでしょう。