期日現金とは、売掛金の決済方法のうち請求書を使った支払い方法の1つであり、通常よりも支払いを遅らせる取引です。
企業間取引では、商品やサービスの代金は掛けによる信用取引が一般的といえます。
請求書を渡して後日入金してもらう後払いの決済方法が期日現金であるため、その間に発生した売掛金を回収するまで手元の現金は増えません。
一般的な信用取引の支払いサイトは30日や60日などですが、このサイトより後回しにする場合には、通常であれば手形を使います。
しかし手形ではなく、期日指定のもとで入金することを口約束で後回しにする方法が期日現金です。
そこで、期日現金とはどのような決済方法なのか、メリット・デメリットやリスクの回避方法について解説していきます。
目次
期日現金とは
「期日現金」とは、本来売掛金が入金される30日や60日など、一般的な支払いサイトを後ろ倒しにする決済方法です。
手形を使わずに90日後や120日後など期日を指定し、支払の口約束をして後回しにします。
通常の請求書を使った掛け取引による支払いと同じではあるものの、支払い期日は後ろ倒しにさせる方法です。
そのため一般企業では、「延現金」と呼ばれることもあります。
期日現金についてさらに詳しく理解を深めるために、次の3つについて説明していきます。
- 振込との違い
- 手形決済との違い
- でんさいとの違い
振込との違い
「振込」とは、別銀行または同一銀行の別支店口座に資金を移動させることです。
取引先の銀行口座へ代金支払いのためのお金を送ることであり、依頼されたタイミングですぐに送金することもできます。
期日現金でも振込による支払いは行われるものの、送金するタイミングが期日の指定によって前もって決められています。
そのため通常の振込のようにすぐ送金されるわけではありません。
手形決済との違い
「手形決済」とは、特定の金額を将来の期日に支払うことを約束した有価証券です。
期日現金も期日まで支払いが行われないため、即日決済でないことは手形決済と共通しています。
ただ、手形は指定期日に支払いを約束した証書であり、万一期日に決済されなければ「不渡り」になります。
手形の振出人が不渡りを出すと銀行や取引先から信用を失うことはもちろんのこと、6か月以内に2度不渡りを起こせば銀行取引停止処分とされ、事実上の倒産として扱われます。
そのため口約束による期日の先延ばしである期日現金とは、支払側に与えるプレッシャーや支払いへの強制力に違いがあるといえるでしょう。
また、期日現金は請求書発行と発送程度の事務手続とコスト負担で済みます。
しかし手形決済では、支払側と受取側それぞれの次の事務手続とコストの負担が発生します。
【支払側の事務手続・コストの負担】
- 印紙代・発行手数料などの諸費用
- 約束手形への記名
- 印紙貼付の作業
- 手形の郵送作業
【受取側の事務手続・コストの負担】
- 銀行に対する取立て依頼
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でんさいとの違い
「でんさい」とは、インターネット上の「でんさいネット」で管理をする電子記録債権です。
振込や手形に代わる決済手段として、事業者の資金調達円滑化を図る目的で創設されています。
オンライン上でデジタル化された手形が管理されるため、紛失や盗難のリスクがないことがメリットです。
また、期日現金と同じく事務作業の負担も少ないため、人件費削減にもつながるでしょう。
ただし、でんさいは支払側と受取側のどちらも利用登録していなければ使えない仕組みとなっており、決済や譲渡などで使用するたびに各種手数料が発生することがデメリットです。
期日現金なら請求書発行で手軽に請求・入金が可能であるのに対し、利用のハードルが高めであることが違いと言えるでしょう。
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期日現金の特徴
期日現金は、通常よりも売掛金の入金が遅くなるため、次の2つの特徴があるといえます。
- 支払いサイトが長い
- 手形決済より優先順位が低い
それぞれどのような特徴があるか説明していきます。
支払いサイトが長い
期日現金は、掛取引で発生する売掛金の支払いサイトが長めです。
信用取引の支払いサイトは、たとえば月末締め・翌月未払いの30日サイトや、月末締め・翌々月末払いの60日サイトが一般的といえます。
しかし期日現金では、この支払いサイトをさらに後ろ倒しにして設定するため、90日などや120日サイトなど長期に渡ります。
売掛金が入金されるまでの期日が長くなれば、手元の現金が増えない期間も延びるため、資金ショートするリスクが高まると留意しておきましょう。
手形決済より優先順位が低い
期日現金は、同じく期日まで長めの手形決済よりも、支払いの優先順位が低めです。
手形の場合、期日に決済できなければ不渡りを出すことになるため、支払いに対する強制力が高めといえます。
しかし期日現金は、たとえ支払いが遅れても不渡りが出たり倒産したりといったリスクはないため、手形決済よりも支払いの優先順位が低くなってしまいます。
期日に確実に支払われるとも言い切れず、回収できない売掛債権が貸し倒れとなるリスクはぬぐい切れないといえるでしょう。
期日現金のメリット
期日現金は通常よりも支払期日を後ろ倒しにする取引であるため、支払いサイトが長く設定された信用取引と言い換えることもできます。
そのため期日現金で得をするのは支払側の企業で、売掛金を回収する受取側の企業にはほとんどメリットはありません。
ただ、受取側にもメリットがまったくないわけではないため、立場ごとに分けてそれぞれのメリットを説明していきます。
- 支払側のメリット
- 受取側のメリット
支払側のメリット
期日現金における支払側のメリットとして、一般的な信用取引よりも支払いサイトが長いことが挙げられます。
資金繰りに余裕を持たせるためには、入金は早めに、支払いは遅めにすることが必要です。
期日までを長く設定する期日現金によって、手元に長く現金を残すことができ、余裕をもって支払いに充てるお金の準備をしやすくなります。
また、手形決済のように手形振出しの作業がなく、口約束で支払期日を引き延ばす承諾を得るのみで成立することも支払側のメリットです。
手形決済のように、印紙代や発行手数料など発生させず、事務負担も軽減した上で支払い期日が延びることは大きなメリットといえます。
受取側のメリット
期日現金における受取側のメリットは、手形決済から期日現金に移行した場合にのみあります。
手形決済であれば銀行に対する取立て依頼が必要だったものの、その事務手続や管理などの手間が不要です。
また、支払いまでの期間が長くなることは問題ですが、下請け法が適用されれば一方的に不利な条件を押し付けられることはありません。
下請け法では次の条件に該当するとき、商品やサービスを販売してから60日以内に代金を支払わなくてはならないとされています。
- 資本金3億円を超える親事業者と、資本金3億円以下の下請け事業者との取引
- 資本金1千万円から3億円の親事業者と、資本金1千万円以下の下請け事業者との取引
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期日現金のデメリット
期日現金は、支払側にはメリットが大きい決済方法である反面、受取側には負担が大きい方法といえます。
ただ、支払側もメリットだけでなく、デメリットもないわけではありません。
そこで、次の2つの立場に分けてそれぞれのデメリットを説明していきます。
- 支払側のデメリット
- 受取側のデメリット
支払側のデメリット
期日現金の支払側のデメリットは、手形取引件数がそれほど多くない中で、期日現金に変更してもコスト削減効果がないことです。
ある程度の手形取引件数がある状態で、期日現金へと決済方法を変更したのなら、コスト削減の効果が期待できます。
しかし数件程度の手形取引を期日現金に換えても、それほど大きな効果は感じられないでしょう。
また、期日現金の事務手続に慣れるまで時間がかかる可能性があることもデメリットといえます。
受取側のデメリット
期日現金の受取側のデメリットは、売掛金が現金化されるまでの期日が長いことです。
期日が先延ばしになっている状態で、万一、売掛先が倒産すれば売掛債権は回収できない不良債権化します。
手形のように支払いに対する強制力もないため、期日に確実に入金されるとも言い切れません。
そのため期日現金は、取引相手との信頼関係が構築されていることや、与信管理などにより支払い能力が十分あることを確認した上で行うことが必要といえるでしょう。
受取側の期日現金によるリスク回避の方法
売掛金を受け取る側にとって、期日現金はデメリットの大きな取引といえます。
回収する期日が長ければ、その間に売掛先が倒産しないとも限らず、貸し倒れリスクを抱えた状態で入金を待たなければならないからです。
そのため、取引相手から期日現金による決済を提案された場合には、次の2つの方法でリスクを回避しましょう。
- 受注の可否を見極める
- ファクタリングを活用する
それぞれの方法について説明します。
受注の可否を見極める
取引相手から期日現金による決済を提案された場合には、受注の可否を見極めるようにしてください。
売掛先から期日現金で支払いたいと話を持ち掛けられたものの、交渉を断りたいと感じていても、言い出しにくいこともあるでしょう。
事情があって期日を先延ばしにしたいことは理解できても、提案にそのまま応じてしまうことで、手元の資金不足で様々な支払いできなくなるリスクを抱えます。
売掛先が元請けの場合など、立場的な問題で断りにくい場合もあるかもしれません。
また、期日現金の取引をすべて断ってしまうと、受注数や仕事量も減少してしまいます。
そこで、期日現金の取引を受けるべきか、次の3つの判断基準を参考に判断してください。
- 期日までに事業運営に支障のない資金を手元に残すことができるか
- 支払条件よりも受注することを優先するべきか
- 下請代金支払遅延等防止法に抵触しないか
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ファクタリングを活用する
取引相手から期日現金による決済を提案された場合には、ファクタリングを活用することで期日を前倒しできます。
期日現金による決済を提案してきた相手が元請けの場合や、立場的に断りにくい相手というケースもあるでしょう。
本来は受けたくない期日現金の取引を了承してしまった場合でも、ファクタリングを活用すれば期日を短期化できます。
ファクタリングとは、保有する売掛金をファクタリング会社に売却し、期日よりも先に現金化するサービスです。
長く待たなければ入金されない売掛金が、短い期間で回収できるようになることがメリットといえます。
ファクタリングの審査では売掛先の信用力を重視するため、借入れなどと異なる審査基準であり、ハードルは低めです。
最短即日で現金化できるなど、特に中小企業にとってはメリットが非常に大きい資金調達方法といえるでしょう。
ただしファクタリング会社によって手数料にも差があるため、信頼できる業者の見極めが重要です。
ファクタリングでおすすめの会社とは?手数料が安く優良な業者の選び方
まとめ
期日現金は、通常の信用取引の支払期日を、さらに後ろ倒しにして取引することです。
売掛金を支払う側にとっては、手元に現金が残る時間が長くなり、支払い資金を準備するまでの時間も長くなるためメリットがある取引といえます。
しかし受取側の企業にとっては売掛金が入金されるまでの時間が長くなり、その間に売掛先が倒産してしまえば、売掛金は回収不能の不良債権化します。
デメリットしかないともいえる方法であるため、売掛先から期日現金による取引を提案されたときには、了承するべきか見極めが重要です。
なお、断りにくい売掛先の期日現金取引の提案を承諾してしまった場合でも、ファクタリングを活用すれば期日を前倒しすることはできます。
期日現金は手形決済のように、支払側に支払いに対する強制力は低く、受取側でリスクヘッジしていくことが大切です。
期日現金の取引を受けてしまい、長期化した期日を短期化したいなら、ファクタリングをうまく活用することをおすすめします。