掛取引の適正割合とは?流れや管理方法・高い場合の解決策について解説

掛取引とは、商取引における支払い方法の1つであり、期間内の取引金額をまとめて後払い精算することです。

売上に対する掛取引では売掛金、仕入であれば買掛金が発生するため、適切な割合を守らなければ貸し倒れリスクも大きくなります。

そこで、掛取引の適正割合や、管理方法や割合が高い場合の解決策を解説していきます。

売掛金で取引する掛取引は社会的に信用を高める?

掛取引とは

「掛取引」とは、商取引における代金の決済方法であり、商品引き渡しやサービス提供のときではなく、決められた期日までに後払いすることです。

商品やサービスを売買する都度、その代金を現金で支払うのではなく、たとえば1か月分などの請求書を送った後で入金してもらいます。

取引先を信用した上で後払いによる決済を認めるため、「信用取引」とも呼ばれている方法です。

掛取引は売上と仕入で採用され、会計処理において次の2つの勘定科目が発生します。

  1. 売掛金
  2. 買掛金

それぞれの勘定科目について説明していきます。

売掛金

「売掛金」とは、販売した商品やサービスの代金を後払いで回収する権利であり、売掛債権の1つです。

掛取引において、受け取るべき代金の受領がまだであり、回収していない状態を示す勘定科目といえます。

買掛金

「買掛金」とは、材料など仕入れたときの代金を後払いで支払う義務であり、買掛債務の1つです。

掛取引において、代金をまだ支払っていない状態を示す勘定科目といえます。

掛取引の流れ

掛取引では、商品の代金は後払いとなるため、事前に売り手側と買い手側で契約を結んでおきます。

そのため取引する際には、以下の4つの流れで手続を進めます。

  1. 双方合意のもと契約を締結する
  2. 売り手側は買い手側に商品やサービスを販売する
  3. 売り手側から買い手側に一定期間の取引分をまとめて請求する
  4. 買い手側は事前に取り決めた期日までに代金を支払う

契約締結においては、後のトラブルを防ぐためにも、基本契約書を作成しておきましょう。

掛取引のメリット

掛取引は、現金決済と異なり、取引ごとに現金の支払い・受け取りや、領収書の発行・受領などが発生しない取引です。

書類発行の手間が少ないことで、主に次の2つのメリットがあると考えられます。

  1. 事務処理が軽減される
  2. 金銭管理におけるミスが減る

それぞれのメリットについて説明します。

事務処理が軽減される

掛取引は、書類の発行頻度が少なくなるため、事務処理が軽減されます。

現金決済の場合、商品など販売する取引が発生するたびに、請求書と領収書と発行しなければなりません。

しかし掛取引なら、1か月など一定期間の取引をまとめて請求して代金を受け取るため、領収書と請求書の発行を取引の都度行う必要はありません。

また、買い手側も手元に現金を持っていなくても取引ができることはメリットとなります。

金銭管理におけるミスが減る

掛取引は、代金を精算する回数が減るため、金銭管理におけるミスが減ります。

現金決済の場合、商品を販売するなど取引が発生するたび、金銭の受け渡しが発生します。

しかし掛取引では、一定期間をまとめて精算するため、お金の受け渡しも期間ごとに行うのみです。

掛取引のデメリット

掛取引は事務処理や金銭管理の手間が軽減されるメリットがある反面、後払いによる次の3つのデメリットに注意してください。

  1. 債権管理が必要になる
  2. 信用取引リスクを負う
  3. 与信管理の手間がかかる

それぞれのデメリットについて説明していきます。

債権管理が必要になる

掛取引では、発生した債権の管理が必要です。

現金決済であれば後日代金を受け取る債権は発生しませんが、掛取引では売掛金(売掛債権)が発生します。

取引先ごとにどのくらいの売掛金が発生しているのか、入金される日や金額、残高など常に把握しておくことが必要です。

また、請求書を発行することを忘れると、売掛金の入金が遅れてしまうため、発行や発送に関しての管理も適切に行うことが必要となります。

信用取引リスクを負う

掛取引では、売掛金が入金されないという信用取引リスクを負います。

仮に取引先が複数社あれば、その中の1つから入金が遅れていたとしても、大きなダメージにならない可能性もあるでしょう。

しかし1つの取引先に依存している場合、売掛金の入金が遅れることで、存続の危機に陥る可能性もあります。

信用取引リスクを負っている状態は、貸し倒れによる倒産リスクを抱えていること常に認識し、リスクヘッジについて検討していくことが必要です。

与信管理の手間がかかる

掛取引の信用取引リスクを軽減するためにも、新規取引や継続取引のための与信管理を徹底する必要があります。

ただし与信管理は継続して行うには大変手間のかかる作業です。

たとえば取引先と直接接触する営業担当者から、相手の様子に何か変わったことはないか確認しなければなりません。

信用情報機関などの情報を入手し、支払能力が十分か、見極めつつ判断していくことも必要です。

外部の機関から情報を入手するためには、別途費用も発生することも留意しておく必要があるでしょう。

掛取引の割合の考え方

掛取引では、商品やサービスを販売したときに代金の受け渡しはせず、取引による債権や債務の支払いを一定期間遅らせます。

代金のやり取りを商品やサービスの提供と引き換えと同時ではないため、掛取引の割合には注意が必要です。

掛取引の割合を検討する際、次の2つを踏まえた上で決めていきましょう。

  1. 倒産リスクにつながる
  2. 健全割合の目安はない

それぞれ説明していきます。

倒産リスクにつながる

掛取引の割合が大きくなりすぎれば、倒産リスクも高くなることを留意しておきましょう。

後払いで代金を受け取る取引である以上は、売上回収できなくなれば資金ショートし、会社継続できなくなるリスクを抱え続けます。

自治体や公的機関である健康保険組合、または国際ブランドのクレジット会社が売掛先であれば、発生した売掛金を回収できなくなるリスクはほぼないといえます。

しかし中小規模の企業などが売掛先の場合、何らかの事情で売掛金が入金されないという事態が発生する可能性は多少なりともあります。

売上回収が事業運営に大きな影響を与え、最悪の場合、存続の危機に陥る可能性があることを留意しておいてください。

健全割合の目安はない

掛取引において、健全割合の目安はないといえます。

商品などの販売と引き換えに代金の受け渡しをせず、後払いで取引する方法である以上は、発生した売掛金を回収できない可能性をゼロにすることはできません。

売上のどのくらいの割合なら、掛取引でも安心なのか決めることも難しく、買い手側の支払能力における安全性の分析により決めることが必要です。

仮に信用性に不安があるときには、取引量の制限や現金決済への切り替えなども検討していくことになります。

掛取引の適正な割合は業種や会社ごとの事業規模によって異なるため、すべての業種に対応する健全割合があるわけではないと理解しておきましょう。

掛取引の割合が重要になる場面

掛取引の割合は、どのくらいの取引を後払いによる決済で行っているかを示します。

そのため、掛取引の割合が重要になるのは、主に次の2つの場面です。

  1. 新規取引先との契約
  2. 銀行融資

それぞれどのような場面か説明していきます。

新規取引先との契約

掛取引の割合が需要になるのは、新規取引先と契約を結ぶときです。

割合が高ければ高いほど、売掛金を多く抱えていることになり、回収できなくなったときに倒産するリスクが上がります。

反対に掛取引の割合を低くすると、貸し倒れリスクも抑えることはできる反面、各取引先との信頼関係を構築しにくくなると予想されます。

また、取引量が制限されてしまうため、収益や事業拡大にはつながりにくくなります。

取引先の業種や事業規模などを踏まえた分析結果を頼りに、現在の掛取引の割合も踏まえて、今よりさらに売掛金を抱えてもよいか判断していくことが必要です。

銀行融資

掛取引の割合は、銀行から融資を受けるときにも重要になります。

たとえば政府系金融機関である日本政策金融公庫から事業資金を借入れる場合、利用する制度によって事業計画書の提出が必要です。

事業計画書には、取引先との取引関係や、販売先・仕入先・外注先などの掛取引の割合を記載します。

回収・支払それぞれの条件についても記載することが必要となり、事業計画書の内容を重視した審査が行われます。

そのため掛取引の割合によっては、高い信用取引リスクを抱えすぎていると判断され、銀行融資の審査に通らなくなる可能性もあるといえます。

掛取引の管理方法

掛取引の割合が増えすぎれば、信用取引リスクも大きくなってしまいます。

貸し倒れなど発生しないように、取引先ごとの売掛金の発生・入金の状況など、適切に管理していくことが必要です。

会計処理における帳簿上は、売掛金や買掛金の勘定科目で処理されているため、補助簿である売掛金台帳などを使うこともできます。

売掛金台帳は取引先ごとに作成し、次の項目を記載(入力)しておきましょう。

  • 取引先会社名
  • 売上金額
  • 当月発生売掛金額
  • 請求年月日
  • 入金予定日
  • 入金日
  • 当月入金額
  • 繰越残高

どの債権が未回収になっているか、入金が遅延している場合にはどのくらい遅れているのかなど、取引先と債権を特定することが大切です。

未回収債権を特定した後は、取引先の窓口となる営業担当者または経理担当者に、入金が遅延している理由を調査してもらいましょう。

督促状や内容証明郵便の発送が必要になることもあるため、早めに行動することで貸し倒れを防ぐことにつながりやすくなります。

掛取引の割合が高いときの解決策

掛取引の割合が高いと、売掛金であれば未回収、買掛金であれば未払いによる信用リスクを負います。

特に売上に対する売掛金は、決められた期日に回収できなければ、たとえ利益が出ていたとしても黒字倒産するリスクを高めます。

そこで、掛取引の割合が高いときには、取引先との契約を続ける上で次の2つの解決策を検討しましょう。

  1. 与信管理を徹底する
  2. 売上債権回転期間で調整する

それぞれの解決策について説明していきます。

与信管理を徹底する

掛取引の割合が高いときは、取引先の与信管理を徹底して行いましょう。

あくまでも掛取引の割合は事業効率化の指標として捉えておき、取引先ごとの資金力や支払能力を考慮した上での掛取引額の上限設定などが必要です。

取引先ごとに後払いでの取引可能額を設定しておくことで、万一、いずれかの取引先が倒産した場合でもその影響を最小限に抑えることができます。

売上債権回転期間で調整する

掛取引の割合が高いときは、売上回転期間で調整することも検討しましょう。

掛取引の割合が高ければ高くなるほど、まだ入金されていない売上代金である売掛金が増えます。

売掛金を抱えすぎたことによる貸し倒れリスクも、売上債権回転期間を短くすることにより軽減されます。

売上債権回転期間とは、売上に対する売掛債権の割合です。

売上債権回転期間=売掛債権(受取手形・売掛金)÷売上高×365日

所有する売掛債権が、どのくらいの期間で回収できるか示す尺度といえます。

売上債権回転期間が短かければ、売掛債権が現金化されるまでの期間が短く、資金繰りも健全かつ効率的といえます。

ただし売上債権回転期間を短くすることは取引先に納得してもらうことが必要となるため、相手との信頼な関係や今後の取引条件など踏まえた交渉が必要となるでしょう。

まとめ

掛取引は、後日後払いで代金を精算する方法であり、日本の商取引における基本的な契約形式といえます。

取引量が多くなれば、その都度、販売した商品やサービスと引き換えに代金の受け渡しをすることは手間となります。

領収書の発行など事務作業も煩雑化するため、まとめて請求・代金の受領が可能となる掛け取引は、便利な決済方法といえます。

また、買い手側にとっても、掛取引であれば手元にお金がない状態で商品やサービスを購入できるなど、取引を続けることができるのはメリットとなります。

しかし掛取引による売掛金が増えすぎれば、信用取引リスクを抱えすぎる状態となり、倒産リスクを常に背後に背負った状態となりかねません。

現在の掛取引の割合など注意しつつ、売掛金を抱えすぎているときには、前倒しで現金化できるファクタリングなど活用することをおすすめします。