新型コロナウイルス感染拡大の影響で、倒産してしまう中小企業などが増えつつある状況ですが、その会社で働く従業員などに対し行う手続をご存知でしょうか。
会社が倒産すると同時に、これまで会社で働いていた従業員も職場を失うこととなるため、適切な対応が必要となります。
そこで、もしも会社が倒産したときに必要な従業員への対応や、説明・案内しておくべきことについて説明します。
目次
会社が倒産すれば従業員は解雇される
会社が倒産してしまうと、それまで雇用されていた従業員は解雇という扱いになります。
そのため、なぜ破産に至ったのかその経緯など従業員に説明を行うことが必要ですし、会社の財産を持ち出さないように伝えておかなければなりません。
下記2点について把握しておきましょう。
- 従業員を解雇するときの注意点
- 従業員を解雇するときは解雇予告が必要
従業員を解雇するときの注意点
倒産したことで従業員を解雇するときには、
- 離職票や源泉徴収票を渡す
- 従業員から預かっている年金手帳などがあれば返却する
ことが必要です。
反対に従業員に貸していた物品があれば返却してもらいましょう。
従業員を解雇するときは解雇予告が必要
会社が従業員を解雇するときには、30日前には従業員に予告しておくことが必要です。
もし30日前までに予告しないまま解雇となった場合には、解雇の日までで30日に満たない部分の平均賃金を従業員に対し支払わなければなりません。
会社が倒産したことで従業員を解雇するときも例外ではないため、無条件ですぐに解雇できるわけではないと認識しておきましょう。
倒産を従業員に説明するタイミングとは
会社が倒産するときは、従業員に適切なタイミングで説明する必要があります。適切なタイミングは、会社の規模などに応じて異なる点に留意しましょう。
例えば、規模の小さな会社では、従業員に対しても早い段階から破産の方針をオープンに伝えておくのがよいでしょう。
一方で、規模の大きな会社では、事前に破産の方針が広まれば大きな混乱を招きます。そのため、事業停止直前のタイミングで従業員説明会を実施し、従業員に一斉に、破産を申請する旨を伝えるのが適切です。
倒産を従業員に説明するべき理由
会社を倒産させる経営者の一番の心配事である従業員の将来の負担を軽減するためにも、倒産について、従業員に説明することは大切です。また、従業員には倒産について知る権利があることからも、きちんとした説明をする必要があるといえます。
倒産を従業員に説明すべき主な理由は以下の3つです。
- 従業員の不利益を軽減するため
- 破産手続に協力してもらうため
- 破産の支障となる労働問題を避けるため
ここでは、倒産を従業員に説明すべき理由について、もう少しわかりやすく説明していきます。
従業員の不利益を軽減するため
従業員の不利益を軽減するため、倒産について従業員に説明することは欠かせません。従業員は、あらかじめ倒産について知らされていれば、事前に心構えができるためです。転職活動などの準備も可能になり、倒産に伴う解雇の負担を軽減できるでしょう。
破産手続に協力してもらうため
破産手続に協力してもらうためにも、従業員への倒産に関する説明は必要です。倒産の手続は煩雑なので、経営者だけで処理するのは難しく、幹部社員や経理担当者などの協力がかかせません。そのため、破産手続への協力を依頼したい従業員には、他の従業員よりも早めに説明するといった対応が必要となるでしょう。
破産の支障となる労働問題を避けるため
破産手続の妨げとなる労働問題の発生を防ぐうえでも、従業員への破産についての説明は必要です。破産に伴い解雇するときに、告知や説明が不十分だと、従業員から訴えを起こされ、労働問題に発展する場合があるからです。
倒産により解雇となった従業員の給料と退職金
会社が倒産に至ったことで従業員を解雇するしかなかった場合でも、それまで働いてもらった労働に対する賃金・退職金の支払い義務は継続します。
破産手続によって免責が許可された場合でも、従業員に支払う賃金や退職金は免除にはなりませんので注意してください。
ただ、そもそも会社の財務状況が悪く倒産してしまったのなら、従業員に対する賃金や退職金の支払いも厳しい状態にあると考えられます。
その場合、会社が倒産してしまったことを理由に十分な賃金を支払ってもらえなかった場合、未払いとなっている賃金の一部を労働者健康福祉機構が負担してくれる「未払賃金立替払制度」を案内することをおすすめします。
ここでは、倒産を理由に解雇になった従業員に関して、下記の手当や各種保険、税金の扱いについて解説します。
- 解雇予告手当
- 未払賃金・退職金
- 未払賃金立替払制度
- 失業保険
- 健康保険
- 年金
- 住民税
解雇予告手当
従業員を解雇するにあたっては、少なくとも30日前にその予告をしなければなりません。しかし、倒産による解雇の場合、30日も前から予告するのは難しく、即日解雇にせざるを得ないケースも多いでしょう。
このように解雇の30日前までに予告をしない場合、会社側は解雇日までの期間が30日に足りなかった分の平均賃金を支払わなければなりません。これを解雇予告手当といいます。
なお、解雇予告手当は、破産手続において優先的破産債権にあたりますが、未払賃金立替制度の対象にはならない点を覚えておきましょう。
未払賃金・退職金
会社が倒産する場合であっても、従業員への賃金や退職金の支払いを免れることはできません。解雇時までの賃金・退職金を計算し、倒産前に支払いを行いましょう。
支払う余力がない場合はそのまま破産手続を進め、破産管財人から、優先的破産債権または財団債権として支払われることとなります。
この場合、従業員に未払賃金立替払制度の利用を案内しておくと、従業員の負担を軽減できます。
未払賃金立替払制度
未払賃金立替払制度とは、賃金や退職金が未払いのまま破産した場合に、独立行政法人労働者健康安全機構が、未払いの賃金と退職金の一部を立て替え払いする制度です。
全額ではないにしても、破産管財人からの支払いを待たずして未払い賃金などを受け取ることができ、従業員の救済につながります。
なお、解雇から6ヶ月経過して破産の申立てがされた場合は、この制度を利用できません。速やかに破産手続を進めましょう。
失業保険
失業保険は、自己都合退職と会社都合退職の2種類に分けられますが、会社都合退職となるのは会社が倒産したことによる退職や雇止め、パワーハラスメントによる退職強要などです。
会社都合退職の場合には、失業手当を受給できるまでの待機期間は7日に短縮されるため、解雇された従業員も早く手当を受け取ることができます。
健康保険
会社が倒産したことで従業員が退職に至ると、その後、国民健康保険に加入するのか、社会保険を任意継続するのか選ぶことができます。
任意継続とは会社で加入していた健康保険に続けて加入できる制度ですが、これまで会社と折半していた保険料を全額自己負担することが必要です。
また、65歳以下の方の場合には、解雇による退職であれば国民健康保険の保険料を減免する制度も利用できます。
年金
解雇により退職した従業員は、厚生年金の対象ではなくなり、国民年金に加入することになります。
退職し、失業している期間中の国民年金の保険料は、本人が納付書を利用して納めることが必要です。
次の就職先が決まった後は、再就職先が厚生年金加入事業所であれば再び厚生年金に加入しなければなりません。
なお、会社が倒産したことで失業してしまったときには、国民年金保険料の減免申請もできます。
住民税
従業員の住民税の徴収方法を、特別徴収から普通徴収に切り替えましょう。給与所得者異動届を市区町村の役場に提出すれば手続できます。
あわせて、従業員に、今後は住民税をそれぞれが自分で納付する必要があることを説明しておきましょう。
倒産に至る前に資金調達を
会社が倒産してしまうといろいろな手続が必要になりますが、それまで会社にために貢献してくれた従業員に対しても適切に対応しなければならないことを忘れないようにしましょう。
また、会社は赤字続きだとしても手元の資金が枯渇しなければ倒産することはありません。コロナ禍で売上が激減し、収入が減少している企業も少なくありませんが、支払いに充てるお金が尽きてしまう前に資金を調達するようにしてください。
まとめ
会社が倒産すると、従業員は全員、解雇になります。離職票や源泉徴収票などを交付するとともに、倒産の説明や給与・退職金などの手続を忘れずに行いましょう。その他、失業保険・健康保険・年金・住民税など、さまざまな処理が必要になるので、従業員の協力を得ながら計画的に進めることが大切です。