ファクタリングと下請法は?親事業者と下請事業者の利用におけるポイントを解説

資金調達にファクタリングを利用するとき、気になることの1つとして下請法の影響が挙げられます。

たとえば建設業や製造業などは、下請事業者と親事業者(元請事業者)の間で契約を結び、仕事を受発注しています。

元請けである親事業者から下請事業者へ、さらに次の孫請事業者へと次々に仕事が発注・請負いとなるため、5次にも及ぶケースもあります。

そのためファクタリングを利用しても問題ないのか、下請法との関係が気なるのは無理ないことといえます。

そこで、下請法はファクタリングによる資金調達で何か影響があるのか、押さえておきたい重要ポイントを解説していきます。

下請法とは

「下請法」は「下請代金支払遅延等防止法」という正式名称の法律であり、1956年に下請取引の公正化し下請事業者の利益を保護することを目的に制定されました。

独占禁止法の特別法であり、所管する官庁は公正取引委員会です。

親事業者が下請事業者よりも優位な立場を利用して、業一方的な都合を押し付けたり下請代金を減額したり、支払いを遅延させるなどの不利な契約や取引を防ぐためといえます。

親事業者に公正な取引を守ってもらうことで、下請事業者の利益を保護するための法律が下請法です。

2003年には改正も行われ、規制対象拡大や違反行為への強化措置も図られています。

下請法による親事業者の義務と禁止事項

下請法は、親事業者が下請事業者に対し果たさなければならない4つの義務と11の禁止事項で構成されています。

どのような義務が課せられ、どのようなことが禁止されているのか、次の2つを説明していきます。

  1. 親事業者の下請事業者に対する義務
  2. 親事業者の下請事業者に対する禁止事項

親事業者の下請事業者に対する義務

親事業者が下請事業者に果たさなければならない義務は、以下のとおり4つあります。

  • 書面を交付する義務
  • 支払期日を定める義務
  • 書類作成・保存の義務
  • 遅延利息支払いの義務

この中でファクタリングと関係するのは「支払期日を定める義務」です。

親事業所が下請事業者に支払う下請代金の支払期日は、商品やサービスの納品・提供を受領してから60日以内と規定されています。

ファクタリングで資金調達するとき、ファクタリング会社に売却する売掛金の支払期日は1~2か月後であることがほとんどです。

下請法による支払期日が守られている売掛金なら、安心してファクタリング会社も買い取ることができます。

親事業者の下請事業者に対する禁止事項

親事業者が下請事業者に対し、行ってはいけないこととして定められている禁止事項は次の11の項目です

  1. 受領拒否の禁止
  2. 下請代金の支払遅延の禁止
  3. 下請代金の減額の禁止
  4. 返品の禁止
  5. 買いたたきの禁止
  6. 購入・利用強制の禁止
  7. 復措置の禁止
  8. 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
  9. 割引困難な手形の交付の禁止
  10. 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
  11. 不当な給付内容の変更及びやり直しの禁止

この中で、下請事業者がファクタリングで資金調達するときに、親事業者による阻害を受けないために知っておきたい項目は②③④⑦⑧⑨⑪の7つです。

親事業者が禁止されているファクタリング利用を邪魔する行為

先に述べたとおり、親事業者が守らなければならない下請法の禁止事項のうち、ファクタリングに関連するのは次の7つです。

  • 下請代金の支払遅延の禁止
  • 下請代金の減額の禁止
  • 返品の禁止
  • 報復措置の禁止
  • 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
  • 割引困難な手形の交付の禁止
  • 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止

それぞれの禁止事項について説明していきます。

下請代金の支払遅延の禁止

「下請代金の支払遅延」を禁止するため、下請代金は商品やサービスの受領後60日以内に、定められた支払期日までに支払わなければなりません。

親事業者の果たさなければならない4つの義務のうち、「支払期日を定める義務」とも大きな関係がある禁止事項です。

商品やサービスを受けた日から起算し、60日以内に双方で決定した支払期日までに下請代金全額の支払いがなければ下請法違反となります。

支払い方法はできるだけ現金が望ましく、手形で決済するときには親事業者が割引料を負担することとなり、一般的な金融機関で割り引くことのできない手形の発行はできません。

下請代金の減額の禁止

「下請代金の減額」を禁止するということは、あらかじめ定めていた下請代金を発注後に減額することはできないということです。

下請事業者が親事業者の売掛金をファクタリングで現金化した後で、勝手に親事業者が売掛金の金額を減額しては、下請事業者もどうしてよいかわからなくなってしまいます。

下請事業者に減額される理由や責任があるときを除いて、すでに決定していた代金を親事業者の都合で減額することはできません。

「返品」や「有償支給原材料等の対価の早期決算」も、支払金額に影響するため禁止されています。

下請法では下請代金を直接・間接的に減額することを禁止しているため、売掛金の金額は確定されることとなり、ファクタリングにも安心して活用することができます。

返品の禁止

「返品」を禁止するということは、納品された商品を親事業者の都合で勝手に返品することはできないということです。

親事業者は、下請事業者から受け取った商品などの品質や規格について、明らかに下請事業者に責任のある不良品だった場合を除いて返品することはできません。

先に述べた「下請代金の減額」を禁止することと同様に、確定している売掛金の金額に影響するからです。

仮に親事業者による勝手な事情による返品が認められてしまえば、下請事業者はファクタリングで資金を調達したくても、できなくなってしまいます。

報復措置の禁止

「報復措置」を禁止するということは、下請事業者が親事業者からの公正でない行為に関することです。

公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことを理由に、取引数量を削減したり取引停止したりなどの不利益な取り扱いはできません。

取引数量を削減されることや取引がストップしてしまうことは、売掛金額に影響するだけでなく売掛金そのものがなくなる恐れもあります。

資金調達の手段を失った下請事業者は、手元の資金ショートで倒産や廃業に追い込まれる可能性もあるといえるため、報復措置は禁止されています。

有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止

有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止により、有償で支給した原材料などの対価を、下請代金の支払期日よりも前に相殺したり支払わせたりすることは禁じれています。

商取引では、親事業者から発注された製品の製作のために必要な原材料等を、親事業者から有償で受ける場合もあります。

しかし親事業者によっては、下請事業者の都合は無視して、下請代金と原材料費を下請代金の支払期日より早め相殺してしまうケースも見られます。

本来、原材料費の支払い債務と下請代金の売掛債権はそれぞれで扱うことが必要です。

原材料費の支払期日を前倒しし、相殺することはできません。

割引困難な手形の交付の禁止

割引困難な手形の交付の禁止とは、一般の金融機関で割引されない手形交付は認められないということです。

親事業者から下請事業者に対する下請代金の支払いが手形で行われる場合、決済までの期間が長い支払手形を渡すことはできません。

手形を使った決済は、管理コストや発行する手続や保管などの煩わしさにより、だんだんと利用されるケースは減っています。

しかし業界の慣習で、根強く利用されているケースもあります。

一般的な手形の利用に代わる決済方法として、電子決済による一括決済サービス(でんさい)や、一括支払信託なども活用されるようになりました。

ただ、親事業者は下請事業所が一括決済サービス先に加入することを拒んだとしても、強制はできません。

不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止

不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止とは、費用は支払わずに注文内容を変更したり受領後にやり直しさせたりできないということです。

親事業者が自己の利益のために、下請事業者に不利益となる扱いをする行為は、下請事業者の利益を不当に害するだけでなく先に受け取る売掛金にも影響を及ぼします。

親事業者は下請事業者の資金繰りにも十分に配慮した上での取引が必要ということです。

親事業者の売掛債権もファクタリングできる

親事業者の売掛債権を使ってファクタリングで資金調達することはできます。

ファクタリングでは売掛先の経営や財務状態など信用力が審査で重視されるため、社会的な信用力の高い親事業者ならより活用しやすいでしょう。

下請事業者も、2社間ファクタリングを利用すればファクタリング会社のみとの契約となるため、親事業者に知られずに資金調達に活用できます。

売買手数料を安く抑えたいなら、親事業者も契約に関与する3社間ファクタリングをおすすめします。

ただしファクタリング利用を親事業者に伝えなければならず、承諾を得るための説得段階で経営状態悪化を懸念され、その後の取引に影響を及ぼすとも考えられます。

この点について、平成11年7月1日、公正取引委員会が「一括決済方式が下請代金の支払手段として用いる場合の下請代金支払遅延等防止法及び独占禁止法の運用について」の声明を出しています。

一括決済方式を下請代金の支払手段として用いる場合の下請法及び独占禁止法の運用の方針は下記のとおりです。

  1. 一括決済方式により下請代金を支払う場合の下請法第2条の2(下請代金の支払期日)等に規定する下請代金の「支払期日」は、下請事業者が金融機関から下請代金の額に相当する金銭の貸付け又は支払を受けることができることとする期間の始期とする。したがって、この期間の始期は、親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して、60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならないこととなる。
  2. 一括決済方式により下請代金を支払う場合に、下請事業者が金融機関から当該下請代金の額に相当する金銭の全額について貸付け又は支払を受けることができないときは、下請法第4条第1項第2号(下請代金の支払遅延の禁止)の規定に違反するものとして扱う。
  3. 一括決済方式により下請代金を支払うこととする場合に、不当に、下請事業者に対し、一括決済方式による下請代金の支払に応じることを強制し、又は一括決済方式による下請代金の支払に応じないことを理由として取引の条件又は実施について不利な取扱いをするときは、独占禁止法第19条(不公正な取引方法の禁止)の規定に違反するおそれがあるものとして扱う。

これをファクタリングに関連する内容と解釈すると、以下のとおりとなります。

  1. 下請法第2条の2などに規定されている下請代金の「支払日」は、下請事業者がファクタリングを使って金融機関から入金される期日をもって「支払日」とすること
  2. ファクタリングを使った支払いを拒むことは、下請法第4条第1項第2号の規定に違反することになる
  3. ファクタリングを使った支払い方法を強制的に下請事業者に強いることや、下請事業者がファクタリングを選択したときに、その契約や他の契約に不利な条件を付け加えることは独占禁止法第19条の規定に違反することになる

以上の内容から、以下の内容と読み取ることができます。

  • ファクタリングによる資金調達は問題のない資金調達の方法とされている
  • それにより親事業者と下請事業者の間に問題が発生する可能性に理解を示している

ファクタリングによる資金調達を理由に、後の契約に不利益が発生することや、制限を加えることはできないということです。

まずファクタリング契約の拒否は下請法に違反する行為であり、ファクタリングを利用したことで親事業者が下請事業者に不当な扱いをすることは独占禁止法に違反する行為という見解も示されています。

そのため安心してファクタリングを資金調達に活用できると考えられるでしょう。

下請事業者がファクタリングを利用するメリット

下請事業者という立場で仕事をしていると、手元の資金が乏しくなることもあります。

仮にファクタリングを利用した場合でも、下請事業者は下請法により守られている立場です。

親事業者は、売掛金に関係を及ぼす下請代金など条件を勝手に変更することはできません。

そのため安心して親事業者の売掛金をファクタリングに利用できるといえますが、次のメリットもあります。

  • 下請法により売掛金が確定されるため、ファクタリングを利用することで支払期日を前倒しして手元の資金を増やすことができる
  • ファクタリングを利用することにより下請事業者の資金調達方法を多様化することができる

下請事業者という立場で仕事を請け負う多くは中小の事業者です。

銀行から融資を受けて資金を調達したくても、赤字経営や資金繰りの厳しい状況から審査が通らず、調達手段を失っているケースも少なくありません。

しかしファクタリングなら、赤字決算・債務超過・税金滞納があったとしても、信用力の高い売掛金を保有していれば資金調達に活用できます。

資金繰りが厳しくなりやすい下請事業者こそ、ファクタリングによる資金調達の多様化を図り、すぐに資金調達できる体制を整備しておきましょう。

まとめ

下請業者は親事業者の売掛債権をファクタリングにより現金化することができるのは、下請法や独占禁止法で守られている立場だからです。

親事業者は下請事業者と取引する上で、下請代金の支払い遅延や減額、不利益な扱いはしてはいけないとされています。

下請事業者がファクタリングで資金調達したとしても、親事業者の経営に何か影響を及ぼすことはありません。

ファクタリング利用を阻害する行為や、それを理由にその後の取引に不利益を与えることはできないということです。

下請事業者として仕事を請け負っている企業も、安心してファクタリングで資金調達するとよいでしょう。