「ベンチャー企業」とは、大企業にはない革新的技術や創造的アイデアなどで、新たなサービスやビジネスに挑戦する新興企業です。
新しいサービスやビジネスを展開する成長過程の企業ともいえますが、新たな道を切り拓くからこそ、資金調達に関する悩みを抱えがちといえます。
ベンチャー企業が会社経営や事業運営を拡大するためにも資金調達は欠かせないことといえますが、事業が軌道に乗るまでの調達方法は限定されてしまいます。
ただ、ベンチャー企業でも多額の資金を調達することは可能であり、成長ステージによってどの種類を選択するべきか変わってきます。
そこで、ベンチャーの資金調達について、必要性や方法、成長ステージごとで選ぶべき方法など解説していきます。
目次
ベンチャー企業と資金調達の必要性
ベンチャー企業の場合、会社の存続に関わる中核事業を成長させることに対し、保有する資源や資産を注いでいることがほとんどです。
創業間もない時期は会社の規模も小さく、経営基盤もまだ十分に確立されていない中で、自己資本による事業運営を行うケースが多いといえます。
しかし自己資金が底をつけば、たちまち経営は行き詰まることになるため、手元の資金を枯渇させないための資金調達が重要です。
さらに事業拡大に向けて設備を導入することや、専門部門を設けて優秀な人材を獲得することなどに取り組みたくても、財務的に厳しく資金面でビジネス拡大が進まないことも少なくありません。
将来的に事業を拡大させていくことを目指すのなら、外部からの資金調達に頼ることも必要です。
ベンチャー企業の資金調達方法
ベンチャー企業が資金を調達する方法として、主に次の3つが挙げられます。
- 出資
- 融資
- 公的援助
それぞれの資金調達の方法について説明していきます。
出資
「出資」とは、事業の成功や企業の成長を期待した投資に資金を投じてもらう方法です。
事業運営に使用する返済義務のないお金を「自己資本」として増やすことができるため、安定した経営を目指すなら最も有用な手段といえるでしょう。
投資家は、会社が今後成長することを期待して資金を投じますが、これは株価が上昇したときに上場や売却などで得る「株式の値上がり益」が目的です。
企業成長が株価上昇に直結すること踏まえ、投資家からは業務提携支援や人材紹介、経営アドバイスなど様々なサポートが行われることになるでしょう。
しかし自社株式を投資家に譲渡することは、一定の議決権を与えることであるため、経営に関与されたり経営権を揺るがされたりすることを留意しておく必要があります。
融資
「融資」は、銀行などの金融機関から資金を借入れることによる資金調達の方法です。
借りた「元本」だけでなく、設定された金利に応じた「利子」も返済する義務を負います。
ベンチャー企業の場合、事業実績がないことや大手企業のような知名度もないため、金融機関独自の責任で資金を貸し付けてもらうことは難しいといえます。
ただ、民間銀行からの直接融資は厳しくても、政府系金融機関である日本政策金融公庫などであれば、創業時や十分な実績のないベンチャー企業でも借入れできる可能性はあります。
公的援助
「公的援助」は、国や地方自治体または商工会議所などによる「補助金」や「助成金」の制度です。
返済義務を負わない資金調達の方法であり、ベンチャー企業の抱える資金繰りに対する不安も解消できる金額を調達できます。
ただし、補助金と助成金はどちらも申請要件を満たすことが必要であり、どちらも実際にかかった経費などが「後払い」で入金されます。
申請においても必要書類の準備に手間や時間がかかることは留意しておくことが必要です。
また、補助金は申請要件を満たす以外に、審査で「採択」されなければ支給されません。
申請できる期間も限られているため、要件を満たす制度を前もって確認するなど、事前に準備することが必要です。
出資による資金調達の種類
ベンチャー企業が「出資」により資金調達する方法として、次の2つが挙げられます。
- ベンチャーキャピタル
- エンジェル投資家
それぞれの方法について説明します。
ベンチャーキャピタル
「ベンチャーキャピタル」とは、未上場であるものの将来的に上場できることが期待できる新興企業に対して資金を投じる投資会社です。
新興企業の発行した株式を購入し、上場した後に売却して利益を得ることを目的としています。
ベンチャーキャピタルに認められれば多額の資金を調達できるものの、将来的に有望で成長率が高いと判断されなければ資金を投じてもらえません。
エンジェル投資家
「エンジェル投資家」とは、起業間もないスタートアップ企業などに対し、資金面で支援する元実業者や元経営者などの個人投資家です。
若い起業家や将来有望な会社を純粋に応援して、社会貢献したいと考えるエンジェル投資家もいれば、上場後の売却益を目的としている投資家もいるため、相性や見極めが重要といえます。
エンジェル投資家とは?出資を受けるメリット・デメリットや探し方を解説
融資による資金調達の種類
ベンチャー企業が「融資」により資金調達する方法として、次の4つが挙げられます。
- 民間銀行の融資
- 日本政策金融公庫の融資
- 地方自治体の制度融資
- ビジネスローン
それぞれの方法について説明します。
民間銀行の融資
民間銀行の融資には、以下の種類があります。
- プロパー融資
- 保証付き融資
- 不動産担保融資
など
「プロパー融資」は銀行独自の責任で事業資金を貸し付けることになるため、ベンチャー企業では審査に通りにくいといえます。
信用保証協会に保証してもらう保証付き融資や、不動産を担保とした不動産担保融資であれば、借入れできる可能性はあります。
ただし中小企業が民間銀行からお金を借りる場合、経営者の人的保証もあわせて求められることがほとんどであるため、会社が倒産すれば経営者も自己破産するリスクがあると留意しておきましょう。
日本政策金融公庫の融資
国が100%出資・運営する政府系金融機関の1つである日本政策金融公庫の融資であれば、ベンチャー企業でも借りやすいといえます。
その理由は、日本政策金融公庫の運営目的が民間の金融機関の融資補完であり、設立段階を含む中小規模の事業者にも積極的に資金の貸し付けなど行っているからです。
無担保・無保証人の上、低金利で借入れが可能であるものの、準備書類が多岐に渡ることや資金調達までは1か月程度かかると見込んでおきましょう。
地方自治体の制度融資
「制度融資」とは、地方自治体・金融機関・信用保証組合の3機関が連携して資金を貸し付ける制度です。
創業前やベンチャー企業も無担保・無保証で事業資金を借りることができ、自治体によっては保証料や利子の一部を負担してもらえます。
ただし提出し書類が多く、審査は信用保証協会と銀行の両方で行われるため、資金調達まで一定の時間がかかります。
ビジネスローン
「ビジネスローン」とは、一般的な銀行融資の審査に通りにくい事業者向けの金融商品です。
最短で即日融資可能とすることなど、スピーディな資金調達が魅力といえますが、金利が高いため長期利用で資金繰りが悪化します。
一時的なつなぎ資金に利用する程度にとどめておいたほうがよいでしょう。
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その他の資金調達の種類
ベンチャー企業の「その他」の資金調達方法として、次の3つが挙げられます。
- 補助金・助成金
- ファクタリング
- クラウドファンディング
それぞれの方法について説明します。
補助金・助成金
国や自治体の「補助金」や「助成金」は、どちらも返済義務のない資金を調達できる方法であるため、ベンチャー企業では活用したい制度といえます。
「助成金」は、審査で形式的な要件を満たすか確認され、受給条件に合致していればほぼ資金を調達できます。
それに対し「補助金」は、形式的な要件を満たすだけでなく、提案内容が政策において最適であると採択されなければ資金調達につながりません。
募集時期や条件なども変わることがあるため、最新情報を収集することも必要です。
【2023】中小企業におすすめの補助金・助成金一覧|各支援内容を解説
ファクタリング
「ファクタリング」とは、商取引で発生した売掛金をファクタリング会社に売り、現金化することで資金を調達できるサービスです。
申し込みから売掛金の現金化までのスピードは、最短即日であるなどスムーズに資金を調達できます。
審査でも売掛先の信用力が重視されるため、実績の浅いことや赤字経営で悩むベンチャー企業でも利用しやすい方法といえるでしょう。
ただし手数料が発生するため、いつまで売掛金を期日前倒しで現金化するのか計画を立てた上での利用が必要です。
ファクタリングとは?仕組みやメリット・デメリットをわかりやすく解説
クラウドファンディング
「クラウドファンディング」とは、インターネット上にビジネスアイデアや計画などを公開し、その内容に共感・賛同してくれた不特定多数の個人から少額資金を集める仕組みです。
大きなリスクを負うことなくチャレンジできることや、ファン獲得やテストマーケティング活用といった使い方もできます。
ただしインターネット上にビジネスやアイデアを公開するため、盗用されるリスクがあることは留意しておきましょう。
クラウドファンディングとは?やり方やメリット・デメリットを簡単に解説
成長ステージごとに適した資金調達方法
ベンチャー企業の成長ステージは、主に次の4つに分けられ、それぞれ適した資金調達方法は異なります。
- シード期
- アーリー期
- ミドル期
- レイター期
成長ステージごとの資金調達方法について説明していきます。
シード期
「シード期」とは、販売する商品やサービスなどがなく、これから事業を立ち上げる段階です。
ベンチャー企業でのシード期においては多額の資金は必要とせず、調達できる相場も事業規模や業種によって異なり、数百万円から数億円など幅があります。
会社設立の資金や、アイデアやコンセプトの構想から仮説検証し、実際にリリースすることに向けて市場調査や開発などのコストに充てるお金が必要となるでしょう。
シード期の資金調達に適しているのは以下の方法です。
- ベンチャーキャピタル
- エンジェル投資家
- 日本政策金融公庫
- 制度融資
- クラウドファンディング
アーリー期
「アーリー期」とは、創業から発展までの成長段階です。
販売する商品やサービスを市場に投入し事業化・改善を繰り返す段階であるため、必要となる資金は事業規模や業種によって数億円から数十億円となるでしょう。
主な資金ニーズは、人件費などの運転資金、設備や知的財産権を取得するための資金などです。
赤字計上することが多いベンチャー企業では、もっとも資金繰りに悩みやすい段階ともいえます。
アーリー期の資金調達に適しているのは以下の方法です。
- ベンチャーキャピタル
- エンジェル投資家
- 日本政策金融公庫
- 制度融資
- 補助金
- ファクタリング
ミドル期
「ミドル期」とは、販売する商品やサービスが市場で一定の認知や評価を受け、さらに成長することを目指す段階です。
事業が軌道に乗り始めた段階といえるため、さらなる売上拡大や生産性効率アップに向けた数十億円の資金調達が必要となるでしょう。
追加する設備や人員などによって、必要とする金額も大きくなります。
ミドル期の資金調達に適しているのは以下の方法です。
- ベンチャーキャピタル
- エンジェル投資家
- 民間銀行の融資
- 制度融資
- 補助金
- ファクタリング
レイター期
「レイター期」とは、経営基盤が安定し、落ち着いている段階といえます。
株式上場やM&Aなども戦略として視野に入る段階であるため、ベンチャー企業でも上場などの先を見据えた成長戦略が求められます。
レイター期では、戦略実現に向けた数十億円の資金調達が必要になるといえます。
レイター期の資金調達に適しているのは以下の方法です。
- ベンチャーキャピタル
- 民間銀行の融資
まとめ
ベンチャー企業の資金調達は、創業間もない時期はもちろんのこと、会社の規模や知名度の低さなどで方法が限定されがちです。
ただ、選択の種類は限りなく少ないわけではなく、将来性など認められればベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などからの資金調達も期待できます。
民間銀行の融資は厳しくても、日本政策金融公庫の融資や制度融資であれば借入れしやすく、補助金の活用も可能です。
ただ、いずれの資金調達方法も、申し込みから入金まで一定の時間がかかります。
入金までの間、手元の資金を枯渇させないためにも、ファクタリングなどを併用した上での資金調達をおすすめします。