ファクタリングの債権譲渡登記とは?登記の必要性と理由について解説

ファクタリングを資金調達に活用するとき、ファクタリング会社で債権譲渡登記が必要だといわれることがあります。

しかし、 しかし、債権譲渡について、なぜ登記が必要なのかを理解していなければ安易に制度を利用することはリスクになりかねません。

そこで、ファクタリングで資金調達するときに求められることがある債権譲渡登記とは何なのか、何のために必要なのか解説していきます。

債権譲渡登記とは

「債権譲渡」とは債務の弁済が難しい時に、債権者が保有している売掛債権(売掛金)を譲渡することです。

「債権譲渡登記」とは、債権を譲渡したことを登記により記す手続です。

主に法人が金銭債権を譲渡したり、金銭債権を目的とする質権を設定する場合に、債務者以外の第三者への対抗要件に備えるために用いられます。

債権譲渡とは取引の相手が保有する第三者からお金など受け取る権利を渡してもらうことです。

お金を受け取る「債権」を譲渡してもらうことで、代わりに現金を受け取ることができます。

債権にもいろいろありますが、債権が譲渡される場面として次のようなケースが挙げられます。

  • ファクタリング 売掛債権のうち売掛金をファクタリング会社に譲渡し現金化するサービス
  • 手形割引 売掛債権のうち手形を手形割引業者に譲渡し現金化するサービス
  • 債権回収 債権回収のためサービサー(債権回収会社)に譲渡する手続
  • 代物弁済 現金の支払いの代わりに権利を第三者へ譲り渡す
  • 債権譲渡担保 債権を担保にして融資を受ける

民法では、譲渡された債権は自分のものであり、債務者に対する債権者が自分であることを主張する場合や、債務者以外の第三者に主張するためには、もともと債権を保有していた譲渡人から債務者に、確定日付ある証書で債権譲渡の通知を行うか、または債務者から譲渡することの承諾を得ることが必要です。

しかし、債権譲渡登記所に登記をすれば、通知したり承諾を得たりせず、第三者への対抗要件に具備すること(すでに効力の生じている債権を第三者へ主張するために必要な要件のこと)が可能となります。

債権譲渡登記によって、債権が誰から誰に対し、いつ譲渡されたものかを公的に証明することができます。

ファクタリングで必要な債権譲渡登記とは

もし銀行から借入を行った場合、銀行では貸したお金を返してもらえなくなったときのための担保に、所有している不動産に抵当権(債務者が債務不履行になった際に、土地や建物で弁済を受ける権利)を設定するといったことでリスクを回避します。

融資を行った相手が返済できなくなったとしても、抵当権を設定した不動産を差し押さえ、競売に掛けて資金化し、返済資金に充てることができるからです。

しかし、売却して資金化できるほどの担保価値が見込める不動産などを所有していなければ、銀行から融資を受けることができず資金調達が難しくなってしまうでしょう。

このような場合、保有している売掛債権(売掛金)を売却し、現金化させるファクタリングが新たな資金調達方法として注目されるようになりました。

しかし、売掛債権は不動産のように現物で存在するものではなく、目に見えない資産です。誰が権利を保有しているのか明確化させるため、債権譲渡登記が用いられることとなります。

債権譲渡登記は、ファクタリング会社が債権の権利者であることを主張するために行われるものであり、ファクタリング会社のリスク回避に繋げるためのものです。

ファクタリング会社にとっての具体的なメリットは主に次の2つです。

  1. 二重譲渡を防ぐことができる
  2. 法的証拠として使える

それぞれ説明していきます。

二重譲渡を防ぐことができる

債権譲渡登記を使って公的に譲渡が行われた事実を証明すれば、「二重譲渡」を防ぐことができます。

「二重譲渡」とは、複数の相手へ債権を譲渡する行為です。

すでに別のファクタリング会社が買い取った債権をまた別のファクタリング会社が買い取ると、売掛先は期日に誰に債権を支払えばよいかわからなくなってしまいます。

すでに債権を現金化しているファクタリング会社のうち、売掛金を受け取ることができなかった業者は損失を被ることになるでしょう。

しかし、債権譲渡登記をしていれば、債権譲渡前に登記情報を確認し、誰が債権の権利者か知ることができるため二重譲渡を防ぐことができます。

債権を買い取ったファクタリング会社も、自社が権利者であることを主張することが可能です。

そのため債権譲渡登記は、ファクタリング会社にとって様々なリスク対策になるといえます。

法的証拠として使える

もしもファクタリング後に何らかのトラブルが発生し、ファクタリング会社と利用者の間で訴訟問題が起きたら、債権譲渡登記をしていることでファクタリング会社は自社が債権を買い取った法的根拠として明示しやすくなります。

また、売掛先が売掛金の支払いができなくなったとき、裁判所へ損害賠償請求の訴えることになると、法的資料の提出が必要となり、債権譲渡登記がなされていると活用ができます。

契約後の債権回収リスクはファクタリング会社が全面的に負うため、債権が未回収で終わらないためのリスク低減の方法として用いられます。

ファクタリング利用者の債権譲渡登記を設定するメリット

債権譲渡登記制度は、ファクタリングを利用する側にとってもメリットのある制度といえます。

まず、債権譲渡登記は平成10年10月1日から新しく利用が可能となり、従来までであれば、対抗要件の具備には次の行為が必要でした。

  • 債務者である売掛先に確定日付のある証書を内容証明郵便で通知する
  • 公証役場にて公証人に確定日付印を付してもらった書面で通知する
  • 債務者である売掛先に承諾を得る

ただ、債権を譲渡することを債務者に通知したり承諾を得たりということは、売掛先に債権譲渡により資金調達することを知られてしまうことになります。

売掛先に知られることに抵抗を感じれば、売掛債権を使って資金調達はできなくなるのが実情でした。

そこで、新しく設けられたのが「債権譲渡登記」です。

債権譲渡登記ができたことによって、ファクタリングを資金調達に利用する売掛債権の譲渡人と、債権を譲り受ける譲受人であるファクタリング会社が共同で申請することにより、第三者への対抗要件に具備することが可能となりました。

売掛先にもファクタリングで資金調達することを知られることはありませんし、売掛債権を買い取るファクタリング会社も安心して取引を進めることができます。

債権譲渡登記は、ファクタリングの利用者とファクタリング会社、どちらにもメリットがある制度であるといえるでしょう。

ファクタリング利用者の債権譲渡登記を設定するデメリット

ファクタリング会社にとって、債権譲渡登記を行うデメリットはほとんどないといえます。

しかし利用者にとって債権譲渡登記を行う上でのデメリットとして考えられることはいくつかあります。

主なデメリットとして挙げられるのは次の3つです。

  1. 登記費用を負担する必要がある
  2. 売掛先に知られるリスクを高める
  3. 個人は債権譲渡登記を利用できない

それぞれ説明していきます。

登記費用を負担する必要がある

ファクタリングで債権譲渡登記が必要な場合、ファクタリング会社に支払う売買手数料とは別に、登記にかかる費用を負担しなければなりません。

債権譲渡登記を行うためには登録免許税が必要となり、さらに申請手続きを依頼する司法書士に対する報酬が発生します。

債権譲渡登記はファクタリング会社ではなく、ファクタリング利用者が、実費でこれらの費用を負担しなければなりません。

債権譲渡登記にかかる費用の相場は、登録免許税が1件につき7千500円または1万5千円、司法書士に対する報酬が差はあるものの数万円から10万円程度かかります。

売掛先に知られるリスクを高める

不動産登記や商業登記の情報などは、法務局で手数料を払い申請すれば誰でも閲覧することができます。

同様に債権譲渡登記の情報も誰でも閲覧できるため、もし売掛先が自社の売掛債権の情報を確認しようとした場合、譲渡された事実を知られる可能性があるということです。

ただ、実際には自社の売掛債権が譲渡されているか確認することはほとんどないと考えられますので、このリスクは比較的低いといえますが、ゼロではないと理解しておくべきでしょう。

個人は債権譲渡登記を利用できない

債権譲渡登記を行うには法人の登記事項証明書が必要となるため、法人格であることが条件です。

個人事業主が2社間ファクタリングを利用したいと考えても、債権譲渡登記を行うことができません。

そのため、債権譲渡登記を行わなくてもよいとするファクタリング会社でしかファクタリングによる資金調達はできないということになります。

ファクタリング会社には法人のみ取引可能としているところもあるので、個人事業主でもOKという優良なファクタリング会社を探すことが必要となってくるでしょう。

債権譲渡登記の申請方法

債権譲渡登記は東京法務局の債権登録課でのみ申請が可能となっており、出頭や郵送による申請方法、またはインターネットでのオンライン申請などが利用できるようになっています。

債権譲渡登記完了後にファクタリング会社との契約が締結され、売却した売掛債権の代金が入金されるという流れが一般的です。

債権譲渡登記で記録される内容

債権譲渡登記が行われると、東京法務局でのみ交付される登記事項概要証明書に最新の情報が記載されることとなります。

また、債権を譲渡した譲渡人の本店所在地のある法務局が交付する概要記録事項証明書でも内容を確認できますが、登記事項概要証明書のように登記原因や存続期間などまでは記載されません。

登記事項概要証明書では譲渡人の商号や本店所在地の変更までは対応していません。

ただ、概要記録事項証明書であれば譲渡人の商号や本店所在地に変更があった場合でも、それまでに譲渡人が行った債権譲渡登記の概要すべてが記載された証明書の交付を受けることができます。

それぞれメリットとデメリットがあるわけですが、詳細な内容を知りたい場合には次の内容が記された登記事項証明書を取得することとなります。

  • 譲渡人の商号または名称、および本店または主たる事務所
  • 譲受人の氏名、および住所(法人は商号または名称、および本店または主たる事務所)
  • 譲渡人または譲受人の本店または主たる事務所が外国にある場合、日本にある営業所または事務所
  • 登記原因、およびその日付
  • 譲渡にかかる債産を特定する上で必要な事項のうち、法務省令で定めるもの
  • 登記の存続期間
  • 登記番号
  • 登記の年月日

なお、登記事項証明書は登記事項概要証明書や概要記録事項証明書とは異なり、詳細な内容を開示となるため、次の項目に該当する方のみしか交付請求できなくなっています。

  • 譲渡にかかる債権の譲渡人、または譲受人
  • 譲渡にかかる債権を取得した方
  • 譲渡にかかる債権を差し押さえ、または仮に差し押さえた債権者、もしくはこれらの債権を目的とした質権(担保物権の一つ)や担保権などの権利を取得した方
  • これらに掲げる方の財産管理および処分をする権利を有する方
  • 譲渡にかかる債権の譲渡人の使用者

まとめ

ファクタリングで行われる債権譲渡登記とは、誰が誰に対しいつ債権を譲渡したのかを公的に証明することができる制度です。

ファクタリングは売掛債権という目に見えない資産を売買することで資金調達が可能となる取引です。そのため、すでに売却された売掛債権がまた別のファクタリング会社に譲渡されるという二重譲渡が起きないとも限りません。

そのようなトラブルを回避するために用いられるのが債権譲渡登記であり、ファクタリングを利用する側も売掛先にファクタリングを利用することを知られることなく資金調達が可能となります。

ファクタリング会社の多くが、2社間ファクタリングでは債権譲渡登記を行うことを利用の条件としていますが、ファクタリング会社によっては債権譲渡登記なしで対応してくれる場合もあります。

ただ、債権譲渡登記なしで対応する場合でも、いつでもできる状態で一旦は保留という形とすることがほとんどです。

もし本来、売掛先から回収した売掛金を使い込んでしまった場合などは、すぐに登記が行われることとなるでしょうし、そのような行為は横領罪となるため絶対に行ってはいけません。

ファクタリングは中小企業などが利用しやすい資金調達の方法として注目されていますが、しっかりと守らなければならないルールが存在します。

その内容を理解した上で、売掛債権を譲渡する側と買い取る側、それぞれが信頼関係を構築できる取引を行うようにしましょう。