売掛金とは、商取引で発生する未回収の債権です。
事業者間では信用取引が一般的であるため、売上を計上すると同時に売掛金も発生します。
将来的に受取可能となる債権ではあるものの、増えすぎれば資金繰りが悪化し、最終的に回収できなくなる恐れもあるため注意が必要です。
そこで、売掛金について、どのような勘定科目なのか、仕訳例と未回収を防ぐ対策をわかりやすく解説していきます。
目次
売掛金とは
「売掛金」とは、商取引で発生する未回収の売上代金のうち、1年以内に取引先から入金することが見込まれる債権を会計処理するときの勘定科目です。
事業者間の取引では、商品やサービスを販売したときにその場で代金のやり取りはしません。
多くは、1か月分など一定期間の取引をまとめて請求し、後日指定口座へ入金する掛け取引です。
商品やサービスの購入側へ、販売側から請求書を渡しますが、それにより代金を請求できる権利こそが売掛金といえます。
購入側にとっては、手元にお金がなくても商品やサービスの売買ができることはメリットであるものの、販売側にとっては購入側の業績悪化などで代金の未払いが発生する恐れがあることはデメリットです。
また、売掛金が現金化できるまでに仕入れ代金や固定費の支払いなどが発生し、資金繰りが悪化するリスクを高めます。
そのため売掛金を発生させる信用取引を行うときは、購入側に十分な支払い能力があるのか与信を徹底して行い、掛け取引の限度額・取引量・決済方法の見直しなどを行うことも必要です。
売掛金と他の勘定科目との違いとは
売掛金は掛け取引によって発生する債権ですが、買掛金という勘定科目もあります。
また、将来受け取りが可能となる勘定科目には未収入金もあるため混同しがちです。
そこで、売掛金と他の勘定科目との違いを以下の3つに分けて説明します。
- 買掛金との違い
- 未収入金との違い
- 未収入金と未収収益との違い
買掛金との違い
「買掛金」とは、材料や製品などを購入したとき、後払いで支払う債務です。
購入したときの代金を支払う義務であり、貸借対照表の負債として計上されます。
売掛金は売上代金を回収する権利であるのに対し、買掛金はその反対に仕入れ代金を支払う義務であることが違いです。
未収入金との違い
「未収入金」とは、本業以外の取引で発生した未回収の代金を会計処理するときの勘定科目です。
営業取引以外の債権であるため、以下の代金の未回収金を処理する勘定科目といえます。
- 有価証券や固定資産を売却したときの未回収金
- 不動産賃貸業者でない者の不動産賃貸収入の未回収金
- ファクタリングを利用したときの未回収金
売掛金は事業活動で発生した未回収の代金であるのに対し、未収入金は事業以外の活動で発生した未回収金であることが違いです。
未収入金と未収収益との違い
「未収収益」とは、一定の契約に基づいた継続取引において、すでに提供されたサービスの対価で未回収の代金を計上するときの勘定科目です。
たとえば賃貸物件の貸し出しなどで、年間契約で取引するケースなどが継続取引の例として挙げられます。
その貸し出しはすでに始まっているのに、回収できていない代金が未収収益です。
未収入金は単発的な取引で発生する未回収金ですが、未収収益は継続取引の未回収分であるため、取引が継続しているかに違いがあります。
売掛金の会計における流れ
売掛金とは、商品やサービスを購入側に引き渡して、売上計上したときに発生する勘定科目です。
商品やサービスの販売側の会計処理で発生する勘定科目であり、購入側から代金を回収したときには、売掛金の消込作業も必要となります。
売掛金の会計における流れは、主に以下の5つです。
- 売掛金の計上
- 請求書の発行
- 代金の回収
- 売掛金の消込
- 残高の確認
それぞれ説明します。
Step①売掛金の計上
売掛金の計上は、商品やサービスを販売し、引き渡したときに行います。
この商品の引き渡しとするタイミングは自由に決めることができますが、実現主義で仕訳処理するため次のいずれかとなります。
- 販売先へ商品を発送した日
- 販売先の手元に商品が届いた日
- 販売先が商品を検収した日
収益が実現する日が売上計上の日であり、売上を計上すると同時に売掛金も計上されます。
Step②請求書の発行
請求書は、販売した商品やサービスの代金を受け取っていないときに発行し、指定した期日に支払ってもらうために発送します。
商品やサービスを販売した都度その代金を受け取らないため、1か月など一定期間の取引分をまとめて請求書へ記載しましょう。
Step③代金の回収
請求書を受け取った購入側は、記載された金額を期日までに指定口座へ支払います。
販売側は回収した売掛金が、請求額と合っているか確認し、入金額が少なかった場合には購入側へ催促するか次回入金分と合わせて支払ってもらうか調整が必要です。
入金額が多かった場合は、過剰分を仮受金で処理して返金するか、次回入金分から差し引く調整が必要となります。
Step④売掛金の消込
請求額と回収した売掛金とが合っていた場合、計上した売掛金の消込作業が必要です。
入金情報と請求情報を突き合わせ、問題がなければ帳簿上の売掛金を消していきます。
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Step⑤残高の確認
売掛金を消込みした後も、商品やサービスを販売すれば売掛金は増えます。
そのため、売掛金の発生や回収を記録し、今どのくらいの売掛金があるのか確認しておきましょう。
残高にズレが生じている場合は、その原因を洗い出し、必要に応じて修正が必要です。
売掛金の仕訳処理の例
売掛金とは、貸借対照表の流動資産に分類される勘定科目であり、仕訳処理で用いるのは以下の5つのタイミングです。
- 売掛金の発生
- 売掛金の回収
- 商品の返品
- 代金の値引き
- 入金の不足
それぞれの仕訳処理について、例を挙げて紹介します。
売掛金の発生
50万円の商品を信用取引で販売したときの仕訳処理は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
売掛金 500,000 | 売上 500,000 |
ただし消費税の課税事業者か、それとも免税事業者かによって、仕訳処理は以下のとおり異なります。
消費税の課税事業者(納税義務がある事業者)の場合 | ①税込経理方式と②税抜経理方式の2種類から選択して処理 |
消費税の免税事業者(納税義務のない事業者)の場合 | ①税込経理方式で処理 |
50万円の商品(消費税10%)を信用取引で販売したときの仕訳処理は以下のとおりです。
①税込経理方式 | |
借 方 | 貸 方 |
売掛金 550,000 | 売上 550,000 |
②税抜経理方式 | |
借 方 | 貸 方 |
売掛金 550,000
|
売上 500,000 仮受消費税等 50,000 |
売掛金の回収
売掛金が購入側から支払われたときも会計処理が必要ですが、以下の回収方法によって以下のとおり仕訳は異なります。
- 回収
- 一部回収
- 買掛金との相殺
- 未回収
回収
50万円の商品を販売したことで発生した売掛金が、購入側から普通預金へ入金された時の仕訳処理は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
普通預金 500,000 | 売掛金 500,000 |
一部回収
50万円の商品を販売したことで発生した売掛金のうち、半分の25万円分が現金で支払われたときの仕訳処理は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
現金 250,000 | 売掛金 250,000 |
買掛金との相殺
購入側に、売掛金だけでなく買掛金も発生している場合、双方合意のもと相殺することもできます。
50万円の商品を販売したことで発生した売掛金と、50万円の材料を仕入れたことで支払う予定の買掛金50万円を相殺したときの仕訳処理は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
買掛金 500,000 | 売掛金 500,000 |
未回収
50万円の商品を販売したことで発生した売掛金を、回収できなかったときの仕訳処理は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
貸倒損失 500,000 | 売掛金 500,000 |
売掛金が回収不能となった場合の仕訳処理において、法人税法で貸倒損失の勘定科目を使用できるのは、以下の3つのケースとされています。
- 法律的に金銭債権が消滅する
- 金銭債権全額が回収不能である
- 一定期間取引停止後弁済がない
この3つに該当するか確認の上、仕訳処理を行うようにしてください。
商品の返品
売掛金回収前に、販売した50万円分の商品が返品されたときの仕訳処理は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
売上 500,000 | 売掛金 500,000 |
別勘定を使う場合には、以下の仕訳処理となります。
借 方 | 貸 方 |
売上戻り(売上返品・売上戻り高) 500,000 | 売掛金 500,000 |
なお、返品で使用する「売上戻り」は財務諸表に表示されないため、決算整理で売上高から差し引きます。
代金の値引き
販売した商品50万円の売掛金について、値引き5千円があり、差額の45万5千円が普通預金口座へ入金されたときの仕訳処理は以下のとおりです。
借 方 | 貸 方 |
普通預金 455,000 売上値引き 5,000 |
売掛金 500,000
|
入金の不足
購入側から支払われた売掛金に不足が生じているときは、たとえば口座への振込手数料が差し引かれていることや、値引きや返品で減額されているケースなどが想定されます。
また、誤った金額で支払っている可能性もあるため、購入側に確認することが必要です。
売掛金の未回収を防ぐ対策
売掛金は、発生しただけでは現金化できません。
期日までに購入側に入金してもらうことが必要ですが、仮に回収できなければ資金繰りは悪化し、最悪の場合は倒産してしまいます。
そのため売掛金の未回収を発生させないことが大切といえますが、防ぐ対策として以下の4つが挙げられます。
- 売掛金元帳を作成する
- 回転率等の指標を確認す
- 時効期間を経過させない
- ファクタリングを利用する
それぞれの対策を説明します。
売掛金元帳を作成する
売掛金の未回収を防ぐために、売掛金元帳を作成しましょう。
「売掛金元帳」とは、取引先や取引ごとの売掛金の発生や回収を記録し、管理するための帳簿です。
補助簿の補助元帳の1つで、総勘定元帳の売掛金勘定の内訳明細の位置付けにあります。
売掛金元帳に記載する項目は以下のとおりです。
- 取引日付
- 商品名
- 商品個数
- 商品単価
- 売上金額
- 回収金額
- 売掛金残高
売掛金元帳を活用すれば、売掛金がいつどの取引のものか、金額や期日に遅れず回収できているか把握できます。
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回転率等の指標を確認する
売掛金の未回収を防ぐために、売上債権回転期間と売上債権回転率などの指標を確認しましょう。
「売上債権回転期間」とは、商品やサービスを販売した代金を回収するまでの期間です。
売上債権回転期間(日)=売上債権(売掛金+受取手形)÷(売上÷365日) 売上債権回転期間(月)=売上債権(売掛金+受取手形)÷(売上÷12か月) |
期間が短ければ回収まで時間がかかっていないことを意味するため、健全経営と判断できます。
また、売上債権回転率とは、売掛金を効率的に回収できているか示す指標です。
売上債権回転率=売上(年間)÷売上債権(年平均) |
回転率が高ければ効率的な回収ができていることを意味します。
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時効期間を経過させない
売掛金の未回収を防ぐために、時効期間を経過させないことが必要です。
時効期間を過ぎれば、消滅時効により請求権を失うリスクが高まります。
売掛金の時効は、以下のいずれか早いタイミングです。
- 債権者が権利を行使できると知ってから5年
- 債権者が権利を行使できるときから10年
そのため売掛金の時効期間は原則5年と理解しておき、消滅時効を援用されないための対策が必要となります。
相手に請求を続けることはもちろんのこと、裁判所を通じて支払督促や民事調停を申立てることや、残高確認書による債務の承認を図るなど検討しましょう。
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ファクタリングを利用する
売掛金の未回収を防ぐために、ファクタリングを利用することも検討しましょう。
「ファクタリング」とは、売掛金をファクタリング会社へ売却し、現金化するサービスです。
回収予定の期日よりも前に売掛金を現金化できる方法ですが、現金化した後で取引先が倒産し、回収不能となっても利用者が責任を負うことはありません。
そのため早期に売掛金を現金化することは、未回収を防ぐ対策につながると考えられます。
ファクタリングとは?売掛金買取サービスのメリット・デメリットをわかりやすく解説
まとめ
売掛金とは、商取引で発生する未回収の売上代金のうち、1年以内に取引先から入金することが見込まれる債権を会計処理するときの勘定科目です。
将来回収予定の債権とはいえ、先行する仕入れ代金や固定費の支払いに充てるお金が不足しやすいため、売掛金が増えすぎることは問題といえます。
また、回収前に取引先が支払い能力を失えば、回収できなくなる恐れがあることは理解しておきましょう。
未回収を防ぐためには、売掛金元帳を作成することや回転率等の指標を確認するなどで売掛金管理を徹底することが必要です。
また、ファクタリングを利用すれば与信管理にも活用でき、売掛金を前倒しで回収できます。
PMGでもファクタリングなどに関する相談を受け付けているため、お気軽にご相談ください。