製造業を営む上で、資金調達に活用したいのが助成金・補助金です。
助成金と補助金は、どちらも返還不要の資金を調達することができる制度ですが、種類が多いためどれが製造業向けかわからないことも少なくありません。
そこで、製造業向けの助成金と補助金について、その種類や支援内容を解説していきます。
助成金とは
「助成金」は、主に国の政策目標に沿って労働環境改善などに取り組む事業者に対し、支給されるお金です。
雇用保険適用事業者を対象とした厚生労働省管轄の助成金は、職場の労働環境改善に向けての取り組みを支援を行う制度が多いといえます。
雇用や人材育成の支援により、離職率低下や雇用継続につながると考えられています。
要件を満たせばほとんど支給されることや、返還不要の資金を調達できるといったメリットがあるものの、助成されるのは事業運営の経費ではなく人材雇用や能力開発で必要になった費用であることは理解しておきましょう。
また、厚生労働省管轄の助成金は年間通して受け付けているものの、支給される金額は数十万円から100万円程度となっています。
補助金とは
「補助金」とは、国や自治体の政策目標に合わせて事業運営する事業者に対し、支給されるお金です。
助成金と同じく返還不要の資金を調達できますが、新規事業や起業促進、研究開発など事業を運営する上で必要となる経費を支援する制度であるため、主に経済産業省などが管轄となっています。
支給される金額も数億円規模単位など多額のものもありますが、要件を満たして申請したとしても、審査に通り採択されなければ支給されません。
また、助成金と異なり通年募集はしておらず、ほとんどが1週間から1か月など特定期間のみの公募となっています。
申請期限内でも予算を満たせば途中で終了することもあるため、補助金申請においては事前の準備が重要といえます。
製造業向けの補助金
製造業が補助金を活用する際、資金調達の目的によっては、業界独自の活用しやすい制度を選ぶこともできます。
一般的な企業向けの補助金と製造業向けの制度を合わせると、次の9つが候補として挙げられるでしょう。
- 事業再構築補助金
- IT導入補助金
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
- 製造現場における原油価格高騰等緊急対策事業(東京都)
- スマート保安導入支援事業費補助金(技術実証支援)
- ゼロエミッション東京の実現に向けた技術開発支援事業(東京都)
- ディープテック・スタートアップ支援事業
- TOKYO戦略的イノベーション促進事業(東京都)
それぞれの制度について解説していきます。
事業再構築補助金
「事業再構築補助金」は、次のような思い切った事業の再構築を行う事業者を対象として支援します。
- 新分野展開
- 業態転換
- 事業・業種転換
- 事業再編など
次の複数の枠があるため、それぞれ補助金額や補助率などが異なる点には注意しましょう。
成長枠(対象:成長分野に向けた大胆な事業再構築に取り組む事業者) | ・中小企業 補助率2分の1 補助上限額2千万円~7千万円(従業員規模により上限額は異なる) ・中堅企業 補助率3分の1 補助上限額2千万円~7千万円(従業員規模により上限額は異なる) |
グリーン成長枠(対象:グリーン分野での事業再構築を通じて高い成長を目指す事業者) | ・中小企業(エントリー) 補助率2分の1 補助上限額4千万円~8千万円(従業員規模により上限額は異なる) ・中小企業(スタンダート) 補助率2分の1 補助上限額1億円 ・中堅企業(エントリー) 補助率3分の1 補助上限額1億円 ・中堅企業(スタンダート) 補助率3分の1 補助上限額1.5億円 |
卒業促進枠(対象:成長枠・グリーン成長枠の補助事業を通して中小企業等から中堅企業等に成長する事業者) | ・中小企業 補助率2分の1 補助上限額は成長枠・グリーン成長枠の補助金額上限に準じる ・中堅企業 補助率3分の1 補助上限額は成長枠・グリーン成長枠の補助金額上限に準じる |
大規模賃金引上促進枠(対象:成長枠・グリーン成長枠の補助事業を通して大規模な賃上げに取り組む事業者) | ・中小企業 補助率2分の1 補助上限額3千万円 ・中堅企業 補助率3分の1 補助上限額3千万円 |
産業構造転換枠(対象:国内市場の縮小等の産業構造の変化等により事業再構築が強く求められる業種・業態の事業者) | ・中小企業 補助率3分の2 補助上限額2千万円~7千万円(従業員規模により上限額は異なる) ・中堅企業 補助率2分の1 補助上限額2千万円~7千万円(従業員規模により上限額は異なる) |
物価高騰対策・回復再生応援枠(対象:コロナや物価高等により依然として業況が厳しい事業者) | ・中小企業 補助率3分の2 補助上限額1千万円~3千万円(従業員規模により上限額は異なる) ・中堅企業 補助率2分の1 補助上限額1千万円~3千万円(従業員規模により上限額は異なる) |
最低賃金枠(対象:最低賃金の引上げの影響を受けその原資の確保が困難な特に業況の厳しい中小企業等) |
・中小企業 補助率4分の3 補助上限額500万円~1.5千万円(従業員規模により上限額は異なる) |
サプライチェーン強靭化枠(対象:海外で製造する部品等の国内回帰を進め、国内サプライチェーンの強靱化および地域産業活性化に取り組む事業者) |
・中小企業 補助率2分の1 補助上限額5億円 |
IT導入補助金
「IT導入補助金2023」は、ITツール導入の際に活用できる制度で、生産性向上に向けたIT機器導入などでかかった経費の一部が補助されます。
2023年8月1日以降の内容は以下のとおりです。
通常枠(A・B類型)(対象:業務のデジタル化を目的としたソフトウェアやシステムの導入) | ・A類型 補助率2分の1以内 補助額5万円~150万円未満 ・B類型 補助率2分の1以内 補助額150万円~450万円以内 |
デジタル化基盤導入枠・複数社連携IT導入類型(対象:会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフトに補助対象を特化し、複数の中小企業・小規模事業者が連携しITツールを導入し生産性向上を図る取り組みへ対応) | ・ソフトウェア等 補助率4分の3以内 補助額下限なし~50万円以内 補助率3分の2以内 補助額50万円~350万円以内 ・ハードウェア 補助率2分の1以内 補助額30万円以内 ※ 複数社連携IT導入類型の場合には、補助対象が「基盤導入経費」に加えて「消費動向等分析経費」と「参画事業者の取りまとめに係る事務費・専門家費」までに拡大 |
セキュリティ対策推進枠(対象:サイバーインシデントを防止するセキュリティ対策強化支援) | ・補助率 サービス利用料の2分の1以内 補助額5万円~100万円以内 |
商流一括インボイス対応類型(対象:インボイス制度に対応し受発注機能を有するITツール導入、取引関係における受注者である中小企業・小規模事業者等に対して当該ITツールを無償で利用させる場合) | ・中小企業・小規模事業者等 補助率3分の2以内 補助額下限なし~350万円以内 ・その他の事業者等 補助率2分の1以内 補助額下限なし~350万円以内 |
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」とは、様々な制度変更に対応するための革新的なサービス開発・試作品開発・生産プロセス改善・生産性向上に向けた設備投資などを支援する制度です。
次の5つの枠に分かれており、対象者・補助金額・補助率はそれぞれ以下のとおり異なります。
①通常枠 | ・対象者 「革新的な製品・サービス開発」または「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資等を行う中小企業者等 ・補助金額 従業員数5人以下:100万円から750万円 従業員数6人から20人:100万円から1,000万円 従業員数21人以上:100万円から1,250万円 ・補助率 中小企業者:2分の1 小規模企業者・小規模事業者:3分の2 再生事業者:3分の2 |
②回復型賃上げ・雇用拡大枠 | ・対象者 業績が厳しい中(※)、賃上げ・雇用拡大に取り組み、「革新的な製品・サービス開発」または「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資等を行う中小企業者等※応募締切時点の前年度の事業年度の課税所得がゼロであり、常時使用する従業員がいる事業者に限ります。 ・補助金額 従業員数5人以下:100万円から750万円 従業員数6人から20人:100万円から1,000万円 従業員数21人以上:100万円から1,250万円 ・補助率3分の2 |
③デジタル枠 | ・対象者 「DX(デジタルトランスフォーメーション)に資する革新的な製品・サービス開発」または「デジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上」に必要な設備・システム投資等を行う中小企業者等 ・補助金額 従業員数5人以下:100万円から750万円 従業員数6人から20人:100万円から1,000万円 従業員数21人以上:100万円から1,250万円 ・補助率3分の2 |
④グリーン枠 | ・対象者 「温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービス開発」または「炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上」に必要な設備・システム投資等を行う中小企業者等 ・補助金額 [エントリー類型] 従業員数5人以下:100万円から750万円 従業員数6人から20人:100万円から1,000万円 従業員数21人以上:100万円から1,250万円 [スタンダード類型] 従業員数5人以下:750万円から1,000万円 従業員数6人から20人:1,000万円から1,500万円 従業員数21人以上:1,250万円から2,000万円 [アドバンス類型] 従業員数5人以下:1,000万円から2,000万円 従業員数6人から20人:1,500万円から3,000万円 従業員数21人以上:2,000万円から4,000万円 ・補助率3分の2 |
⑤グローバル市場開拓枠 | ・対象者 海外事業の拡大・強化等を目的とした「製品・サービス開発」または「生産プロセス・サービス提供方法の改善」に必要な設備・システム投資等を行う中小企業者等※「海外直接投資類型」「海外市場開拓(JAPANブランド)類型」「インバウンド市場開拓類型」「海外事業者との共同事業類型」のいずれかに合致する場合に限ります。 ・補助金額 100万円から3,000万円 ・補助率 中小企業者:2分の1 小規模企業者・小規模事業者:3分の2 |
製造現場における原油価格高騰等緊急対策事業(東京都)
「製造現場における原油価格高騰等緊急対策事業(東京都)」は、原油や原材料価格が高騰している状況などを踏まえて、固定費上昇に伴う業績悪化の影響が大きい製造業に専門家派遣と固定費削減に向けた設備導入の経費を助成する事業を行っています。
対象 | 次の要件をすべて満たすことが必要です。 ・東京都内で製造業を主たる業種としている個人事業者・中小企業者 ・直近決算期の売上高が前期または前々期の決算期と比べて減少または直近決算期で損失計上している個人事業者・中小企業者 |
支援内容 | ・専門家派遣 原油価格の高騰などで経営に影響を受けている事業者に対し、製造現場を専門家が訪問し調査・助言など実施(専門家派遣費用は1社あたり最大2回まで無料) ・助成金支援 専門家派遣を受けた事業者を対象として固定費削減に向けた設備導入にかかる経費の助成(助成限度額300万円・対象経費の5分の4以内の助成率) |
なお、令和5年度第1回(延長募集分)の受付期間は、令和5年7月3日から令和5年8月31日16時30分までとなっています。
スマート保安導入支援事業費補助金(技術実証支援)
「スマート保安導入支援事業費補助金(技術実証支援)」は、IoT・ビッグデータ・人工知能(AI)・ドローンなどのテクノロジーを活用した保安業務の実証を行う費用の一部を助成する制度です。
第三次公募の受付期間は、令和5年7月19日までとなっていますが、四次、五次など引き続き募集の可能性もあるため、最新情報を確認するようにしてください。
ゼロエミッション東京の実現に向けた技術開発支援事業(東京都)
「ゼロエミッション東京の実現に向けた技術開発支援事業(東京都)」とは、東京都内のベンチャー企業や中小企業などが、事業会社とのオープンイノベーションで事業化するための製品開発・改良・実証実験・販路開拓にかかった経費の一部を補助する制度で次の2つの枠が設けられています。
①ゼロエミッション枠 | ・支援期間:令和6年4月1日から最長3年 ・補助金額:最大10億円 ・補助率:3分の2以内 |
②大学発ベンチャー・一般枠 | ・支援期間:令和6年4月1日から最長2年 ・補助金額:最大3億円 ・補助率:2分の1以内 |
ディープテック・スタートアップ支援事業
「ディープテック・スタートアップ支援事業」とは、「スタートアップ育成5か年計画」の目標に向けて、ディープテック・スタートアップの事業成長や革新的な技術確立・事業化・社会実装・新たな付加価値創出を加速させることを目的とした事業であり、対象となる技術は以下のとおりです。
- 原子力以外の経済産業省所管の鉱工業技術
- 具体的技術シーズがあり研究開発要素のあるもの
- 競争力強化のためのイノベーションを創出しうるもの
なお、創薬は対象に含まれませんが支援するための技術開発や医療機器の経済産業省所管の鉱工業技術の範囲での開発は対象でとなります。
TOKYO戦略的イノベーション促進事業(東京都)
「TOKYO戦略的イノベーション促進事業(東京都)」とは、東京都内の中小企業が成長産業分野へ参入することを促進することで、東京の産業が活性化することを目的とした制度です。
技術・製品開発にかかった経費の一部や、連携コーディネータによるハンズオン支援を行っています。
製造業向けの助成金
製造業向けの助成金として、主に次の4つの制度が挙げられます。
- 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
- 新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業
- 脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム
- 新技術開発助成(公益財団法人市村清新技術財団)
それぞれの助成金について説明します。
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」は、生産性向上により時間外労働削減や年次有給休暇・特別休暇促進に向けた労働環境整備に取り組む中小企業を支援する制度です。
取り組みを実施する上でかかった経費の一部が、成果目標の達成状況に応じて支給されます。
2023年度の交付申請受付を開始しており、交付申請期限は令和5年11月30日までとなっています。
新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業
「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業」とは、スタートアップを含む中小企業などの保有している技術シーズを基にした研究開発を公募で実施する制度です。
対象分野は、太陽光発電・風力発電・水力発電・地熱発電・バイオマス利用・再生可能エネルギー熱・その他の未利用エネルギー利用促進分野・再生可能エネルギー普及・エネルギー源の多様化に向けた燃料電池・蓄電池・エネルギーマネジメントシステムなどの新規技術となっています。
なお、予定されている公募期間は令和5年9月上旬から11月上旬までです。
脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム
「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」とは、「省エネルギー技術戦略」で重点的に取り組むべき分野として特定した「重要技術」をメインとし、2040年に高い省エネルギー効果の見込まれる技術開発を支援する制度です。
脱炭素社会を実現しつつ、産業競争力を強化することを目指しています。
なお、推進するスキームと開発のフェーズによって、以下のとおり助成額や助成率、事業期間が異なります。
公募期間は、令和5年7月10日から8月24日正午までとなっています。
新技術開発助成(公益財団法人市村清新技術財団)
「新技術開発助成(公益財団法人市村清新技術財団)」とは、広く科学技術に関する独創的な研究や新技術を開発・実用化することで、産業・科学技術の新分野などの醸成開拓や国民生活向上に寄与することを目的とした制度です。
基本的技術の確認が終了・実用化を目的とした開発試作が対象であり、助成金額は1件最高2,400万円(試作費の5分の4以下)までとなっています。
まとめ
製造業にとって、助成金と補助金はどちらも活用したい資金調達の方法です。
いずれも国や自治体の目指す姿に合わせてさまざまな分野で募集されており、事業者の取り組みでかかった資金の一部を給付する制度となっています。
それぞれの目的や趣旨を確認した上で、事業とマッチする制度を見つけましょう。
また、助成金と補助金はどちらも実際にかかった経費を後払いで受け取ることができる制度であるため、先の立て替えの資金の準備に関しても検討が必要です。
決算書に悪影響を及ぼすことのないファクタリングなどうまく活用し、助成金や補助金の申請を検討してみることをおすすめします。