新型コロナウイルス感染症が流行したことで、事業活動を進めることができない中、社会保険料を納めることが厳しい状況に置かれている事業者も少なくありません。
従来までであれば、新型コロナウイルス感染拡大の影響による税金や社会保険料の支払いに対し、特例措置などが設けられていました。
しかし現在では新型コロナ用の特例措置は終了しており、現在のままで社会保険料をどのように支払えばよいか悩んでいるケースもめずらしくないといえるでしょう。
そこで、コロナ禍で売上激減や事業停滞などにより手元の資金が乏しく、社会保険料を納めることも厳しいという場合、従来の特例措置に代わって利用できる猶予制度について解説していきます。
新型コロナ感染症の影響による特例措置
新型コロナウイルス感染拡大の影響は、日本だけでなく世界的に猛威を振るい、様々な業種や業界に及ぶことになったといえます。
そのため税金や社会保険料の負担が厳しい事業者に対して、以下の緩和制度ともいえる特例措置が2つ用意されていました。
- 標準報酬月額の特例改定
- 納税の猶予の特例
いずれも現在は終了している特例措置ですが、それぞれどのような制度だったのか紹介していきます。
標準報酬月額の特例改定
「標準報酬月額の特例改定」とは、令和2年4月から令和4年12月の間に届出することにより受けることができた特例措置です。
本来であれば健康保険・厚生年金保険料の標準報酬月額は、4か月目に随時改定することが必要になります。
しかしこの特例措置では、新型コロナウイルス感染症の影響に伴って休業したことなどを理由に、報酬が著しく下がっている場合にはその月の翌月から改定できるという内容でした。
ただしこの特例措置は、令和5年2月末に受付を終了しています。
納税の猶予の特例
「納税の猶予の特例」とは、令和2年4月30日に「新型コロナ税特法」が成立・施行されたことにより創設された特例措置です。
「納税」とあるため、対象となるのは令和3年2月1日までに納期限が到来する国税でしたが、社会保険料もその対象に含まれていました。
納期限までにやむを得ない事情で申請書を提出できなかった場合には、納期限後でも申請可能とされている制度であったものの、現在は受付が終了しています。
社会保険料が支払い困難な場合の対処法
コロナ禍の際には、税金や社会保険料の負担が厳しい事業者に向けた特例措置があったものの、現在はどちらも終了しています。
確かに現在は新型コロナウイルス感染症も5類に分類され、感染状況も落ち着いているといえるものの、コロナ前のように売上や業績が回復した事業ばかりではありません。
コロナ禍のときに利用できた特例措置で、社会保険料の支払いを軽減させたいと考える事業者も少なくないといえますが、現在は「新型コロナ用」の特例措置ではなく従来までの猶予制度であれば利用可能です。
納税に関する猶予制度は税務署に相談することが必要ですが、社会保険料に関しては年金事務所に決算書(直近2期分)など持参の上で相談することが必要になります。
社会保険料の猶予制度として現在利用できるのは、以下の2つです。
- 換価の猶予
- 納税の猶予
社会保険料の支払いが困難な場合、それぞれの猶予制度を理解した上で申請するか検討するようにしましょう。
なお、詳しくは厚生労働省のホームぺージにある「厚生年金保険料等の猶予制度について」を参考にしてください。
換価の猶予
「換価の猶予」とは、納期限から6か月以内に申請することにより、財産が差し押さえられ換価されることが猶予されるで、以下に該当する場合に申請することができます。
一度に納税することで事業継続または生活維持を困難にするおそれがあると認められる場合
納税する誠実な意思があると認められる場合
猶予を受けようとする国税以外の国税滞納がない場合
既に社会保険料を滞納中の場合や、滞納6か月を超える場合でも、状況に応じて相談に応じてもらえます。
この換価の猶予が認められた場合、以下のようなメリットがあります。
- 原則1年間は社会保険料の支払いが猶予される(状況に応じて更に1年間延長可能)
- 猶予期間中の延滞金が軽減される(令和5年中の場合は通常年8.7%から年0.9%へ)
- 財産の差し押さえや売却を待ってもらえる
換価の猶予が認められた場合には、分割による支払いの不可なども踏まえて、年金事務所と相談しながら決めていくことになります。
納税の猶予
「納税の猶予」とは、社会保険料を一度に支払うことができない金額に限って、個別の事情に応じて待ってもらえる制度であり、次のような事情があるときに認められます。
- 新型コロナウイルス感染症の罹患者が発生した施設で行った消毒作業により、廃棄した・備品・棚卸資産(食材など)の再調達価額等相当額
- 納税者本人または生計が同じ家族が病気にかかった場合の医療費・治療などに付随する費用の相当額
- やむを得ず休廃業した場合に発生した損失・費用の相当額
- 利益減少により受けた著しい損失の相当額(イベントの中止・延期・観光客減少など)
納税の猶予が認められた場合、以下のようなメリットがあります。
- 原則1年間は社会保険料の支払いが猶予される(状況に応じて更に1年間延長可能)
- 猶予期間中の延滞金が軽減される(令和5年中の場合は通常年8.7%から年0.9%へ)
- 財産の差し押さえや売却を待ってもらえる
まとめ
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、社会的には落ち着きを取り戻したように見えても、十分に売上が回復していない事業者も少なくありません。
また、コロナ前から赤字続きだった事業者や、給付金やコロナ融資などで延命された事業などは、新型コロナ用の特例措置や救済措置を受けることができなくなったことで厳しい状況に立たされているといえます。
社会保険料の支払いが大きな負担になっている状況で、事業回復に挑んでも本業に集中することもできず、資金繰りに追われる日々から抜け出すこともできないでしょう。
この場合、新型コロナ用ではない従来の猶予制度などを使って、社会保険料の負担を軽減させることは可能です。
まずは年金事務所に相談してみることと、手元の資金不足で社会保険料を支払えないのなら、未回収の売掛金を現金化できるファクタリングの利用を検討することをおすすめします。