日銀は「マイナス金利政策」を解除し、金利の引き上げを決定しました。
政策金利を引き上げる利上げは17年ぶりであり、世界的に異例といえる対応を続けていた日本の金融政策も、ようやく正常化に向けて転換する予定です。
しかし企業の資金調達においては、マイナス金利政策解除により、大きな打撃を受けることも予想されます。
そこで、マイナス金利政策について解除の意味と利上げによる資金調達への影響を解説していきます。
目次
マイナス金利政策とは
「マイナス金利政策」とは、中央銀行に預けられている民間の金融機関の当座預金の金利を、マイナスにすることです。
金融機関は他行との取引における決済を円滑にするために、準備預金制度に基づいて中央銀行の当座預金口座へ準備預金を預け入れなければなりません。
中央銀行へ預けている預金のうち、準備預金の最低金額を超えた超過準備に対する金利をマイナスにすることがマイナス金利政策です。
民間銀行が日本銀行へ預金しているお金の一部に対する金利をマイナスにすることであり、一般の預金者に対して適用されるわけではありません。
マイナス金利政策について、以下の3つを説明します。
- 目的
- 開始時期
- 問題点
目的
マイナス金利であれば、通常、支払われる利息は手数料として徴収されます。
そのため中央銀行口座にお金を預けていても損をすると考える金融機関は、貸付や投資へ回す動きを活発化させ、実体経済にはプラスに作用します。
また、外国為替市場でも金利収益における運用の魅力が薄れるため、通貨安効果が期待できます。
開始時期
マイナス金利政策は、お金を預ける民間銀行がペナルティーを払う異例の政策といえますが、政府・日銀の掲げる2%物価安定目標を早期実現するために2016年2月にスタートしました。
問題点
マイナス金利政策により、銀行が企業や家計へお金を貸し出すようになれば、物価上昇や経済活性化が期待できます。
世界では、2012年7月にデンマーク中銀が、2014年には欧州中央銀行(ECB)、スイス国立銀行(SNB)が導入しました。
しかしインフレが進んだため、2022年に解除されています。
日本でマイナス金利政策が導入されたことにより、住宅ローン金利が引き下がったため、マイホームを購入する方がローンを組みやすくなったといえます。
しかしその一方で、金融機関の収益が圧迫され、金利全体に低下圧力がかかり運用に逆風が吹いてしまいました。
マイナス金利政策の解除
2024年3月19日、日本銀行は金融政策決定会合で、金融緩和の修正を決めました。
2%の物価安定目標が持続・安定することが見通せる状況に至ったとの判断によるものとしており、その修正の1つがマイナス金利政策の解除です。
階層型の日銀当座預金制度が廃止されることで、金融機関が日本銀行の当座預金から得ることのできる利子所得は年間約2500億円増えると試算されています。
銀行に対する事実上の補助金ともいえますが、マイナス金利政策の導入によって銀行の収益環境が長期間損なわれてきたと損ねてきたと考えれば大きな問題ではないのかもしれません。
しかし中小企業の資金調達の多くは、銀行融資に頼りがちです。
融資を受ける際に金利が上がれば、従来どおりに借入れに頼ることは難しくなり、他の資金調達方法を検討しなければならなくなると考えられます。
なお、現時点の経済・物価見通しを前提に、緩和的な金融環境が継続すると考えられているようです。
金融市場の安定確保を狙時、追加の政策金利の引き上げや急速な政策金利の引き上げは行わない考えとしているものの、最新の動きには注視しておく必要があるでしょう。
マイナス金利政策解除による金利への影響
マイナス金利政策が解除され、17年ぶりに利上げされることにより、次の預金や借入れの金利にも影響が及びます。
- 普通預金の金利
- 個人の利子所得
- 定期預金の金利
- 個人の住宅ローン金利
- 短期プライムレート連動の企業向け融資
それぞれ説明します。
普通預金の金利
日本銀行のマイナス金利政策解除により、2024年3月19日、三菱UFJ銀行と三井住友銀行は普通預金の金利を現在の0.001%の20倍相当である0.02%に引き上げることを決めました。
今後は、みずほ銀行・りそな銀行・三井住友信託銀行も引き上げる可能性が高いと考えられます。
メガバンクが普通預金金利を引き上げることは17年ぶりです。
短期金利(無担保コールレート翌日物)をマイナス金利政策導入前の水準に戻すことに合わせ、普通預金金利をマイナス金利政策導入前の水準に戻すとしています。
個人の利子所得
普通預金金利引き上げで、個人の利子所得は841億円増得ると見込まれます。
個人の普通預金(民間銀行・信用金庫)の総額は2023年3月末時点で442.5兆円でした。
預金金利が一律0.001%から0.02%へ引き上げられると、個人の普通預金の金利収入は年間841億円増えます。
2023年の雇用者報酬は300.5兆円であり、その0.03%に過ぎないため、マイナス金利政策解除が個人の利子所得に与える影響は大きくないとも考えられます。
定期預金の金利
マイナス金利政策の解除で、三菱UFJ銀行は定期預金金利を10年で現行の0.2%から0.3%へ引き上げるとしています。
他行も三菱UFJ銀行と同じく定期預金金利を0.1%ポイント引き上げると、個人の利子所得は2,163億円増えるでしょう。
個人の住宅ローン金利
マイナス金利政策の解除は、個人の住宅ローン金利にも影響を与えます。
住宅ローン利用者の7割は、変動型金利を選択しています。
この変動型金利は、短期プライムレートと連動して動きます。
短期プライムレートとは、金融機関が企業に資金を貸し付けるときの最優遇貸出金利のうち、1年以内の短期貸出金利の基準です。
三菱UFJ銀行と三井住友銀行は短期プライムレート(1.475%)を据え置くとしており、変動型住宅ローンの金利は大きく変化しないとみられています。
短期プライムレート連動の企業向け融資
同時に、短期プライムレートに連動する企業向け融資の金利も、大きく変動しないでしょう。
短期プライムレートの決定要因は明確にされていないものの、無担保コールレート翌日物を中心とした銀行の短期での資金調達コストで決まる側面が強いと考えられます。
2016年に日本銀行がマイナス金利政策を導入したときには短期プライムレートは据え置かれました。
企業向け融資や住宅ローン金利がさらに下がり、銀行収益に悪影響が及ぶことへ配慮したと考えられますが、短期金利が引き下げられても短期プライムレートの引き下げは見送られています。
そのため今回、短期金利が以前の水準まで引き上げられたとしても、短期プライムレートの引き上げは見送られたと考えられます。
ただ、政策金利が追加で引き上げられれば、短期プライムレートの引き上げに影響する住宅ローン変動型金利や企業向け融資の金利も上昇し、経済活動に一定程度影響が出るでしょう。
金利上昇が経済に与える影響は、今後の日本銀行の利上げ幅に左右されると考えられます。
マイナス金利政策解除による資金調達への影響
マイナス金利が導入されたことで、民間銀行は積極的に中小企業へ資金を貸し付けるようになり、融資に対する需要が拡大したといえます。
その一方で、マイナス金利の発表後は銀行の収支が悪化することを懸念した投資家が銀行株を売却し、収益源である利ざやが減少傾向となりました。
マイナス金利の導入で銀行が融資先を探すことになり、企業の資金調達額も増えるなど好機が到来したといえます。
設備投資や事業拡大に資金が活用できたといえる中、日本銀行のマイナス金利政策の解除は、今後の資金調達環境を大きく変化させるでしょう。
特にコロナ禍で実質無利子・無担保で事業資金を借入れできたゼロゼロ融資を受けた中小企業には、重荷となることを避けられません。
金利が本格的に復活してしまうよりも前に、自力で稼ぐビジネスモデルへと転換させることが必要です。
東京商工リサーチが4月8日に発表した調査結果によると、ゼロゼロ融資を利用した企業の倒産は、令和5年度で622件でした。
年度で見た場合の件数は過去最多であり、中でも飲食や建設関連の倒産が目立ちます。
2020年3月にスタートしたゼロゼロ融資の利子は、国が都道府県を通じて3年間負担し、返済できない場合には信用保証協会が肩代わりする仕組みです。
約245万件・約43兆円の融資が実行されましたが、返済は最後のピークを迎え、返済負担軽減の支援策も終了しています。
コロナ禍を耐えることができた一方で、元本と利払いの負担が重くのしかかっている状況の中、追い打ちをかけるのが日本銀行の政策転換です。
先行きの政策金利が急激に上昇することはないと考えられるものの、金利上昇が不安要因となり、先々の投資意欲は低下すると予想されます。
今後、中小企業の資金繰りが悪化すれば、景気を下押ししてしまうことも懸念されるでしょう。
ゼロゼロ融資の踏み倒しは危険!返済できない場合の対処法を簡単に解説
マイナス金利政策解除に影響しない資金調達方法
マイナス金利政策が解除され、資金調達を借入れに頼る中小企業は、金利動向に敏感にならざるを得ません。
金融機関も、長きに渡り続いた金融政策で失われたノウハウを獲得していくこととなるでしょう。
金利が上がっても生き残るため、企業と銀行のどちらも日本銀行の動向に注視することが必要です。
仮に借入金利が1%上がった場合、大きな経営リスクとなる恐れがあります。
借入金利はベースになる市場金利に、返済能力や倒産リスクなどの状況に応じて上乗せされます。
マイナス金利政策が解除されて金融政策が正常化されれば、市場金利は上昇し企業の借入金利に波及します。
長く続いた超低金利政策は、借り手である企業に利子負担が軽減される状況を作り出し、事業の継続や雇用創出を支えました。
しかし金利上昇に耐えることができる高い利益率の確保や、実現するための事業革新を遅らせてきた側面もあるため、金融政策の正常化に耐えられる経営環境を構築することが必要です。
銀行から融資を受けたくても、金利の上昇で十分な資金調達につながらない可能性も出てくるでしょう。
しかし次の4つの資金調達方法であれば、マイナス金利政策の解除に関係なく資金を調達できます。
- ファクタリング
- 助成金・補助金
- クラウドファンディング
それぞれ説明します。
ファクタリング
マイナス金利政策が解除されても、その影響を受けない資金調達方法として、「ファクタリング」があります。
「ファクタリング」は、掛取引により発生した売掛債権を、ファクタリング会社に売って現金化する金融サービスです。
売掛債権額の範囲で手元のお金を増やすことができ、借入れではないため審査でも売掛先の信用力が重視されるなど、スムーズであることが特徴といえます。
売掛金があれば、現金化してお金に換えることができるため、マイナス金利政策解除で銀行融資を頼りにくいときでもおすすめです。
ファクタリング利用は取引先にバレる?仕組みや知られない方法を解説
助成金・補助金
マイナス金利政策が解除されても、その影響を受けない資金調達方法として、「助成金」や「補助金」があります。
要件を満たす上で申請すれば、返済義務のない資金を調達できる方法です。
助成金は要件を満たせば給付されることが多いものの、補助金は採択されなければ資金調達できません。
件数や予算が決まっているため、先着順の場合もあれば抽選のこともあり、さらに一定の公募期間に申請しなければならないなど狭き門といえます。
また、助成金と補助金はどちらも実際に支払った経費などが後払いで入金されるため、一時的に立て替える資金が必要であることは留意しておきましょう。
クラウドファンディング
マイナス金利政策が解除されても、その影響を受けない資金調達方法として、「クラウドファンディング」があります。
「クラウドファンディング」とは、ビジネスプランやアイデアなどインターネット上に公開し、賛同した方から資金を投じてもらう仕組みです。
個人から資金を募るため、一人ひとりの投じる金額は多くないと考えられます。
しかし独自の魅力や斬新的なアイデアなどを提示し、賛同者を多く集めることで、多額の資金調達につながります。
クラウドファンディングとは?やり方やメリット・デメリットを簡単に解説
まとめ
マイナス金利政策が解除され、金利が引き上げられれば、企業の資金調達にも影響が及びます。
17年ぶりといえる利上げで、日本の金融政策も正常化に向けて転換すると考えられるものの、コロナ禍に利用したゼロゼロ融資の返済で厳しい状況の中、さらに追い打ちのかかる状態へ追い込まれてしまう恐れもあります。
ただ、マイナス金利政策解除による影響を受けない資金調達の方法もあり、売掛金を現金化するファクタリングなら、銀行融資の審査に通らなかった場合でも利用できます。
今後、資金調達の多様化においても活用できるため、借入れに頼らない方法を検討してみてはいかがでしょう。