人手不足の状態では業務遂行に支障をきたすため、その原因を追及し改善することが必要です。
十分な人材が集まっていない状態が人手不足といえますが、特に中小企業が抱える悩みとして挙げられることが多く、少子高齢化が進み人口も減少していることが原因と考えられます。
そこで、人手不足の原因について、業界ごとの現状と要因・解決策をわかりやすく解説していきます。
目次
人手不足の原因
人手不足に悩む企業は少なくありませんが、仕事量に見合う人材を確保できていなければ、提供する商品やサービスの質を低下させることになりかねません。
そのため人手不足を解消することが必要ですが、まずは原因として考えられる次の3つを確認しておきましょう。
- 少子高齢化が進んでいる
- 需要と供給のバランスが取れていない
- DX推進が遅れている
それぞれ説明します。
人手不足の業界・職種とは?現状と原因・解消方法をわかりやすく紹介
少子高齢化が進んでいる
人手不足の原因として、まず日本は少子高齢化が進んでいることが挙げられます。
15歳から64歳までの生産年齢人口が減少傾向にあることで、慢性的な人手不足に陥っている企業は少なくありません。
厚生労働省のデータでは、2055年には人口が1億人を切り、約9700万人にまで落ち込むことが予測されています。
人口は少なくなっていく中で、75歳以上の後期高齢者は2065年になっても横ばい状態となることも予想されている状況です。
高齢者が増えれば介護や医療を必要とする人も増加します。
しかし現場を担う人材が足らない状況では、十分な商品やサービス提供につながらず、業界によっては崩壊するリスクも高くなるといえるでしょう。
需要と供給のバランスが取れていない
人手不足の原因として、需要と供給のバランスが取れていないことが挙げられます。
事務職などは人手が余っているのに対し、建設や保安関係などの職業は慢性的な人手不足です。
求職者と採用側のニーズが合致しておらず、以下の特徴がある業界や仕事内容で、人手不足になりがちといえるでしょう。
- 身体的な負担が大きい仕事
- 夜勤や休日出勤など不規則な就労時間の仕事
- 景気悪化で将来性が期待できない仕事
- 資格が必要でありながら給与水準が低い仕事
そのため給与や待遇を見直すことや、柔軟な働き方を導入するなどの対策が必要です。
DX推進が遅れている
人手不足の原因として、DX推進が遅れていることが挙げられます。
たとえば情報サービス業などは、正社員の人手が足りていません。
その背景にはフリーランスのエンジニアが増えていることや、古く複雑なシステムを使い続けていることが関係します。
古いシステムを見直して業務効率化を図ろうと考えても、IT技術の導入や対応できる人材が必要となり、存在していなければ外注またはIT人材を探して採用するしかありません。
実際、システム開発は専門性の高い仕事となるため、高い知識や技術を持った人材を確保することは簡単なことではないといえます。
人手不足が著しい業界
人手不足の問題は、すべての業界共通の悩みではありません。
悩んでいる企業が多く見られる業界は、次の5つです。
- 建設業
- 運送業
- 介護・福祉業
- 医療業
- サービス・飲食業
それぞれ説明します。
建設業
人手不足が著しく、大きな問題を抱えている業界として「建設業」が挙げられます。
昭和時代からの「3K」きつい・危険・汚いのマイナスイメージが抜けないまま、若い世代から敬遠されがちな業界です。
これまで現場を支えてきた職人も高齢となり、引退してしまえば人手不足はさらに進むことになるでしょう。
技術やノウハウなどを次世代に引き継ぐことができておらず、スムーズに世代交代が進んでいないため、若い働き手を確保することが急務となっています。
運送業
人手不足が著しく、大きな問題を抱えている業界として「運送業」が挙げられます。
運送業も建設業同様に、就業環境が厳しく人材を確保しにくい環境です。
ECサイト需要が拡大したことで、運送現場の仕事は増加しているものの、人手が足らずに十分な対応ができていない状態といえます。
オンライン上での購買需要は日増しに高まっているため、現状のままでは市場は拡大しているのに人材総数が追いつかない状況を作ってしまうでしょう。
介護・福祉業
人手不足が著しく、大きな問題を抱えている業界として「介護・福祉業」が挙げられます。
介護を必要とする高齢者は増え、利用者数は増加しているのに対し、専門知識やスキルを持った人材が不足しているためサービスの質低下等が起きています。
さらに身体的・精神的な面でも負担が大きな仕事となるため、給与水準が上がらないことで不満を感じ、辞めてしまうケースがめずらしくないようです。
医療業
人手不足が著しく、大きな問題を抱えている業界として「医療業」が挙げられます。
医療逼迫・医療崩壊などの事態が懸念される業界といえますが、サービス需要が急拡大したのに対し、医師や看護師などの医療従事者の供給が追いついていない状態となっています。
サービス・飲食業
人手不足が著しく、大きな問題を抱えている業界として「サービス・飲食業」が挙げられます。
観光業などのサービス業や飲食業は、もともと慢性的に人手が足りていなかったことに加え、新型コロナウイルス感染症が流行したことで業界全体が打撃を受けました。
外出自粛や時短営業などの影響を受け、宅配サービスなどにシフトした店舗などはむしろ成功しているケースもあります。
人手不足の影響
人手不足で現場の人員が不足した状態が続くと、主に次の3つの影響が及んでしまいます。
- 商品・サービスの質低下
- 事業拡大の断念
- 倒産リスクの増大
それぞれ説明します。
商品・サービスの質低下
人手不足が続くことによって、提供する商品やサービスの質が低下してしまいます。
仮に誰でもよいと考え無理に人を雇用すれば、欲しい人材と就業者とのニーズがマッチせず、現場は混乱するでしょう。
雇用してみたものの、求めるスキルの持つ人材を採用できなければ、提供する商品やサービスの質を低下させます。
さらに働く側の従業員も、仕事に対するモチベーションが上がりません。
事業拡大の断念
人手不足が続くことによって、事業拡大を断念し、むしろ縮小せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります。
たとえば営業担当者が足らない場合、顧客対応を可能とする人数は減少するため、クレームなどにつながりやすくなります。
営業担当者を補充しようと、社内教育を強化したくても、そもそもの人数が足りていない状況のため教育担当に人員を割くことが難しいといえます。
他社との競争力を失い、事業拡大を検討したくてもできず、むしろ縮小を余儀なくされる可能性があると理解しておくべきです。
倒産リスクの増大
人手不足が続くことによって、会社経営を続けることができず、倒産するリスクが大きくなります。
現場の人員が足りていないため、一人ひとりの負担が増し、残業時間も増える可能性があります。
さらに人員を補うための外注委託が増えれば、結果として利益を圧迫することになるでしょう。
納期遅れなどのトラブルが発生すれば、売上機会を逸失することにもなりかねません。
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人手不足の解決策
人手不足の問題を解決させるためには、次の6つの策を検討しましょう。
- 職場環境の改善
- 人事制度の見直し
- 人材育成の制度導入
- DXの推進
- アウトソーシングの活用
- 応募層の再検討
それぞれどのような解決策か説明します。
職場環境の改善
人手不足の問題を解決させるためには、人手が足らない状態を抑止する目的で、職場環境を改善しましょう。
新たに人材を獲得しても、すぐに退職してしまっては意味がありません。
長く働いてもらうためには、従業員側の視点に立ち、どのような職場が働きやすいのか考えるべきです。
福利厚生が充実しており、働き方の選択肢が多く、従業員のスキルアップも支援してくれる職場なら人は定着しやすくなります。
さらに従業員同士がコミュニケーションを取りやすい職場環境が保たれる、風通しのよい組織を作っていくとよいでしょう。
人事制度の見直し
人手不足の問題を解決させるためには、現在の人事制度を一旦見直しましょう。
健全な組織を作るために必要不可欠な制度であり、採用から退職までの諸制度全般が人事制度となります。
公平性の保たれた人事制度が導入されれば、適切に評価してもらえる職場として業員のモチベーションや生産性向上につながり、定着率もアップするでしょう。
人材育成の制度導入
人手不足の問題を解決させるためには、人材の採用や育成などに関する既存の体制を見直し、新たな制度を導入しましょう。
新入社員だけでなく、中途採用者への研修・教育も充実させることが必要です。
教育体制を整備することはお金がかかることといえますが、現場において戦力となる人材に育てることは重要なことといえます。
一昔前までの「目で見て覚える」ではなく、適切な教育を行うことが働きやすさを感じてもらえる一歩にもなるでしょう。
業務のマルチタスク化などを導入し、組織全体をレベルアップさせることも必要です。
人材育成を強化すれば人手不足にも対応できる能力が身につくため、人材難への対応力向上を高めるためにも教育制度を充実させましょう。
DXの推進
人手不足の問題を解決させるためには、デジタル技術で業務効率化やビジネスモデル変革を狙えるように、DXを推進していきましょう。
DXを推進することにより、企業価値を高め、生産性を向上させることができます。
従来までは人の手を介していた作業をデジタル化することにより、自動処理などが可能となって手間や時間を削減できます。
付加価値の高い業務へ人員を集中させることができれば、業務の迅速性や精度が上がり、品質向上につなげることができるでしょう。
その他、クラウドシステムやITツールなどを導入することで、リモートワークなど多様で柔軟な働き方も可能となります。
ワークライフバランス向上が期待できれば、仕事とプライベートを両立させたい求職者からの応募も増えると考えられます。
以上のことから、DXを推進することで離職率を低下させることとなり、人手不足解消や業績アップにつなげることが期待できるようになります。
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アウトソーシングの活用
人手不足の問題を解決させるためには、社内業務の一部を外部に委託するアウトソーシングを活用しましょう。
現在不足している人材やサービスなどを外部から調達し、生産性向上や競争力強化につなげる方法です。
委託先企業の専門知識やノウハウを活用できる方法であるため、品質向上にもつなげることができます。
応募層の再検討
人手不足の問題を解決させるためには、性別や労働時間などによる採用要件を設けずに、応募してもらう層を再検討しましょう。
たとえば力仕事で活用できる機械や設備を導入することにより、従来までは応募層として対象としていなかった女性や高齢者なども応募してもらいやすくなります。
そのためには業務を細分化し、時短勤務で業務ができる状況を作るなど、工夫が必要となるでしょう。
また、自社での業務経験のある人材を再雇用すると、即戦力として活躍してもらいやすくなります。
社内の体制や風土、制度や雰囲気なども把握できていれば、採用後にミスマッチが起こることもないでしょう。
一度退職した従業員を再雇用するシステムは外資系企業などではめずらしいことではないため、退職した理由によるものの、日本でも積極的に取り入れることが必要です。
まとめ
日本は少子高齢化が進んでおり、生産年齢が減少していることを原因として、人手不足で悩む業界は今後も増えると考えられます。
企業間の競争が激化すれば、生き残りをかけて様々な対応に追われることが予想されます。
近年で進むITツールの導入やアウトソーシングの活用なども積極的に行い、現場が人手不足でも業務効率化・省力化を進めることができるような対策を検討することが必要です。
魅力的な職場づくりや業務フロー改善など、できる部分から積極的に取り組んでいきましょう。