役員貸付金のデメリットとは?発生する要因や消す方法をわかりやすく解説

役員貸付金は、会社から役員に貸し付けているお金のことで、会計上は資産計上されます。

資産として計上されるとはいえ、役員貸付金が多いことは会社にとってデメリットでしかありません。

役員貸付金を回収しない状態が続けば社会的な信用を落とす可能性もあるため、できるだけ増やさないこと、早期回収することが必要です。

そこで、役員貸付金のデメリットや、発生する要因、消す方法についてわかりやすく解説していきます。

役員貸付金とは

「役員貸付金」とは、冒頭で説明したとおり、法人から役員に対して貸し付けているお金のことです。

会社が、社長など役員にお金を貸すことで発生する勘定科目といえますが、たとえば経営者が私的な目的で法人名義のクレジットカードを使って支払いをした際の会計処理でも使います。

役員が個人のお金を会社に貸し付けることを「役員借入金」といいますが、この場合、経営者や他の役員の同意があれば無利子でも問題ありません。

しかし役員貸付金は、定められた金利で利息を徴収し、「受取利息」で計上することが必要です。

受け取った利息は会社の利益として扱われることになるため、未計上の場合には税務調査で指摘されるリスクがあると留意しておきましょう。

役員貸付金が発生する要因

役員貸付金は、主に社長などの役員が会社からお金を借りた際の処理で用いる勘定科目です。

そのため役員貸付金が発生する要因として、次の5つが挙げられます。

  1. 役員個人による借入れ依頼
  2. 経営者によるプライベートでの使用
  3. 役員報酬から役員貸付金への振り替え
  4. 領収書紛失による使途不明金の発生
  5. 決算調整による操作

それぞれどのような要因で発生するのか説明します。

役員個人による借入れ依頼

役員貸付金が発生する要因として、役員個人がプライベートで使用するお金が必要になったなどを理由に、借入れの依頼があったことが挙げられます。

突発的な理由などでまとまったお金が必要になったことなど、役員の個人事情でやむを得ず一時的に会社から金銭を借りることにより、役員貸付金が発生します。

経営者によるプライベートでの使用

役員貸付金が発生する要因として、たとえば経営者の手元にお金がないために、会社のお金を引き出しプライベートで使用したことが挙げられます。

経営者の手持ち資金が不足していたため、会社のクレジットカードを使ったりお金を引き出したりなどで、事業と関係ない買い物をすることにより役員貸付金が発生します。

法人が経営者など役員の支払いを立て替えていることになるため、精算しないままの状態では役員貸付金として判断されます。

役員報酬から役員貸付金への振り替え

役員貸付金が発生する要因として、役員報酬の一部を費用として計上せずに、役員貸付金へ振り替える処理が挙げられます。

税法では役員貸付金を否認する特別な規定はないため、会社の利益を生み出す方法として用いられます。

領収書紛失による使途不明金の発生

役員貸付金が発生する要因として、領収書を紛失したために経費として計上できない使途不明金が発生していることが挙げられます。

中小企業で役員貸付金の発生が多く見られるのは、会社と個人のお金の区別が曖昧であることです。

規模の小さな会社で家族経営している場合などにおいて、経営者が会社のお金を個人用に使ってしまい、領収書を保管しておらず使途不明金を発生させるケースなどが該当します。

決算調整による操作

役員貸付金が発生する要因として、決算書を良好な数値に見せるための決算調整による操作が挙げられます。

本来は経費として計上する必要のある支出を、費用から役員貸付金へ振り替えたことで発生するケースです。

しかしこの処理は過去の決算が粉飾決算になっている可能性があり、会社法違反に該当する行為であるため、行うべきことではありません。

個別のやむを得ない理由などで粉飾決算になっているケースもあるため、注意してください。

役員貸付金のメリット

役員貸付金の勘定科目による会計処理が発生している場合、会社から役員に金銭の貸し付けがあったことを意味します。

しかし役員貸付金が発生することに大きなメリットはなく、むしろ会社の資金が減ってしまうため、資金不足に陥ることや資金繰りが悪化するリスクを抱えます。

唯一メリットとして考えられるのは、一時的な役員報酬の代わりに活用できることといえますが、資金は減少しても費用にできないためメリットはほぼありません。

特に役員貸付金が長期に渡り計上される場合、多くのデメリットが発生するため注意が必要です。

役員貸付金のデメリット

 

役員貸付金として計上されている額が、たとえば少額であるのならそれほど大きな悪影響はないといえます。

しかし役員が清算せずに放置し、膨れ上がることのデメリットは、主に次の5つです。

  1. 手元の資金が減少する
  2. 利息発生により税負担が増える
  3. 役員報酬とみなされる
  4. 融資審査で不利になる
  5. 相続人の債務となる

それぞれどのようなデメリットがあるのか説明します。

手元の資金が減少する

役員貸付金が計上されることのデメリットとして、会社の手元のお金が減ってしまうことが挙げられます。

役員個人が会社のお金を借りても、法人のお金を私用に流用しても、会社の手元の資金は減少してしまいます。

手元の資金不足で事業運営に充てるお金が足らなくなるなど、資金繰りに困窮する可能性があります。

利息発生により税負担が増える

役員貸付金が計上されることのデメリットとして、法律で定められた利率に基づいた利息が発生することで、法人税等の税負担が増えることが挙げられます。

役員が会社からお金を借りる場合、法律で定められた利率に基づいた利子が発生します。

受け取った利息の分だけ利益が膨らみ、法人税の負担が増えます。

役員借入金は利息発生が任意であるのに対し、役員貸付金は法律に準拠した利息計上が必要であるため注意してください。

役員報酬とみなされる

役員貸付金が計上されることのデメリットとして、長期間返済されず放置されたことを理由に、役員報酬とみなされることが挙げられます。

役員報酬とみなされた場合、源泉税を徴収していないことで、役員個人が追加で源泉所得税と住民税を納めることが必要となります。

また、社会保険料や不納付加算税や、重加算税が課される可能性もあるため注意しましょう。

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融資審査で不利になる

役員貸付金が計上されることのデメリットとして、銀行からお金を借入れる際の融資審査で不利になることが挙げられます。

決算書に役員貸付金が計上されている場合、事業資金を役員個人が使い込んでいると判断されます。

金融機関から融資を受けて調達した資金を、別の会社に迂回融資されるのではないかといった疑念を抱かることになりかねないため、審査に通りにくくなると留意しておきましょう。

相続人の債務となる

役員貸付金が計上されることのデメリットとして、お金を借りた役員が亡くなったときに相続人が借金を引き継ぐことが挙げられます。

会社はお金を借りた役員本人ではなく、その相続人から返済を受けることになるため、回収困難になる可能性があります。

役員貸付金が返済されなかった場合のリスク

役員貸付金が発生されたまま、役員からいつまでたっても返済されないといったケースには注意が必要です。

会社からお金を借りていると認識しているのにもかかわらず返済に応じないケースもあれば、お金を借入れている認識がないケースもあり、いずれの状態も返済を滞らせることになります。

役員貸付金が長期間に渡り返済されなかった場合、次の2つのリスクを抱えることになるため注意してください。

  1. 債権放棄で役員賞与とみなされる
  2. 資金調達しにくくなる

それぞれどのようなリスクか説明します。

債権放棄で役員賞与とみなされる

役員貸付金が返済されなかったことを理由に会社が債権を放棄すれば、役員賞与とみなされます。

そのため役員賞与とみなされても、法人税の計算において費用として認められられないことは留意しておく必要があります。

資金調達しにくくなる

役員貸付金が返済されなかった場合、先にも説明したとおり、銀行融資などの審査で不利になるなど資金調達しにくくなります。

金融機関の融資審査では決算書を確認されるため、役員貸付金が計上されているままでは、会社のお金の使い方の印象を悪くします。

会社のお金を役員個人が流用していると疑念を持たれてしまい、融資を受けにくくなったり融資額が減額されたりするリスクを高めます。

役員貸付金を消す方法

役員貸付金は必要以上に増や差ないことが必要であり、できるだけ早期回収することが求められますが、消す方法としては以下の7つが挙げられます。

  1. 役員借入金と相殺する
  2. 役員退職金と相殺する
  3. 役員報酬を減額する
  4. 役員から回収する
  5. 役員個人の資産を法人に売る
  6. 会社が債権を放棄する
  7. 相続で精算する

それぞれどのような方法か説明します。

役員借入金と相殺する

役員貸付金を消す方法として、会社が役員から借りた役員借入金と相殺することが挙げられます。

役員個人が会社に貸した役員借入金がある場合は、相殺することで役員貸付金を消失させることができます。

役員退職金と相殺する

役員貸付金を消す方法として、役員が将来受け取る役員退職金と相殺することが挙げられます。

会社が支払う退職金の額を減らすこともできるため、双方の手間がかからない方法ともいえるでしょう。

ただし、役員に退職金が支給されるまで役員貸付金が計上され続けてしまうことについて、留意しておく必要はあります。

役員報酬を減額する

役員貸付金を消す方法として、毎月役員が受け取っている役員報酬を減額することが挙げられます。

役員個人が受け取る役員報酬は減ってしまうため、実際に受け取る金額は据え置いて会計上の役員報酬を増額すれば、役員報酬の一部を返済に充てることもできます。

ただし法人税の負担を増やさないために、事業年度開始から3か月以内に役員報酬の変更を決定することが必要です。

役員から回収する

役員貸付金を消す方法として、役員が個人で銀行融資を受けるなどの方法でお金を作り、返済資金に充ててもらって回収することが挙げられます。

役員個人が加入している生命保険の契約者貸付や、銀行からの借入れなどで返済資金を捻出してもらい、回収する方法です。

ただし役員個人に返済能力がなければ回収できないため、別の方法を検討する必要があります。

役員個人の資産を法人に売る

役員貸付金を消す方法として、役員個人がプライベートで所有している土地・建物・自動車などを法人に売却し、その代金を返済に充てることが挙げられます。

ただし土地や建物など不動産を売る場合は、個人から会社の名義へと変更が必要となり、登記申請などの費用もかかります。

また、売却対象の資産について、適正な価額または価値を判断しなければなりません。

さらに売却益が発生すれば、役員は譲渡所得に関する確定申告が必要です。

会社が債権を放棄する

役員貸付金を消す方法として、会社が回収をあきらめて、債権を放棄することが挙げられます。

ただし放棄したことによる損失は、役員の資産や支払い能力で全額回収不能であることが明確な場合を除いて、費用として認められません。

その結果、役員賞与として扱われることになり、損金処理はできずに法人税の負担を増やすことは留意しておきましょう。

相続で精算する

役員貸付金を消す方法として、相続が必要になったタイミングに精算することが挙げられます。

お金を借りた役員が亡くなって相続が発生したときに、死亡退職金から精算する方法などが挙げられます。

相続人と交渉し、精算することもできますが、いずれの場合でも精算時期を任意で決めることはできないため、そのタイミングまで役員貸付金は消えないと理解しておく必要があります。

まとめ

役員貸付金は、役員全員が親族であるなど、家族経営の会社で発生しがちな勘定科目です。

個人と法人のお金が混同されることにより発生することが多く、長期間計上し続ければ税務調査で問題視されてしまいます。

役員個人と会社のお金は明確に区別し、経営者などが簡単に法人のクレジットカードを使ったりお金を引き出したりできないように、管理を徹底することが必要です。

もしも役員貸付金が多く発生していることで事業資金に不足が生じているときには、売掛金を現金化することで資金調達できるファクタリングなども活用できるため、検討するとよいでしょう。