分社化とは、複数の事業を運営している企業が、一部の事業を切り離して独立した会社をつくることです。
大企業だけでなく、中小企業でも分社化が活用されているのは、節税やリスク回避など多くのメリットがあるからといえます。
分社化をする目的は、業務効率化や経営・財務の改善などが主であるものの、メリットだけでなくデメリットにも注意が必要です。
そこで、企業が分社化するメリットや、子会社化との違いやデメリットについて徹底解説していきます。
目次
分社化とは
「分社化」とは、複数の事業を運営している企業が、一部の事業を切り離して独立した会社をつくることです。
切り離された一部の事業は、子会社や関連会社として運営します。
方法は会社分割(新設分割・吸収分割)や事業譲渡など複数ありますが、いずれにしても事業内容やエリアなどの単位で切り分けた会社を設立することです。
分社化について、さらに詳しく次の2つを説明していきます。
- 目的
- 子会社化との違い
目的
分社化の「目的」は、大きく分けると次の4つです。
- 業務の効率化
- 経営・財務の改善
- 新規事業参入の準備
- 事業承継の準備
それぞれどのような目的か説明していきます。
業務の効率化
分社化の目的は、事業ごとの業務を効率化することです。
事業ごとで経営判断や意思決定を迅速に行うことができれば、業務もスムーズに進めることが可能となります。
別法人となることにより、事業単位での収益も把握できるなど、経営合理性を改善させることも分社化の目的です。
経営・財務の改善
分社化の目的は、経営や財務を改善することです。
業績が好調な事業を本体から切り離してさらに向上を目指すケースもあれば、不採算事業を切り離してリスクを最小限に抑えることを目的とする場合もあります。
特に経営難で債務超過に陥る可能性があるときなど、事業再生の手法として収益性が見込める事業のみを分社化して、新会社を設立することはめずらしいことではありません。
新規事業参入の準備
分社化の目的は、新規事業への参入準備をすることです。
新規事業に参入する際には、新たな事業部を設けるよりは、新会社を設立した方がスムーズに手続できるケースもあります。
また、分社化することで経営や意思決定のスピードが上がるため、新規事業へのリソースも集中させることができるでしょう。
事業承継の準備
分社化の目的は、事業承継の準備をすることです。
対象となる事業の資産や権利は、移転した会社へすべて引き継がれます。
たとえば新設した承継会社を後継者候補に任せることで、経験を積みながら親会社を引き継ぐ人材の育成が可能です。
子会社化との違い
分社化と「子会社化」は意味が異なります。
会社法による子会社は、以下のとおり定義されています。
会社法第2条第3号(子会社の定義) 会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。 |
「分社化」は会社存在する複数の事業のうち、一部の事業部門などを切り出して独立した会社をつくることです。
それに対し「子会社化」は、他社の株式を取得し、経営権を掌握することで自社グループの傘下に迎えることといえます。
どちらも本社の傘下に会社をつくることは共通しているものの、もともと社内に存在した事業を分離して会社化することと、外部の会社を新たに加えることは異なります。
また、分社化では親会社が子会社に100%出資することが多いといえますが、子会社化は目的により出資比率が異なるため、完全な親子関係にならない点も違いといえます。
分社化のメリット
分社化を行う目的は企業によって異なるものの、いずれにしても受けることのできる恩恵が大きいからといえます。
主に分社化のメリットとしては、次の7つが挙げられます。
- 節税できる
- 交際費の限度額を増額できる
- 退職金支給で損金算入できる
- 倒産リスクを回避できる
- 経営状況を明確化できる
- 融資を受けやすくなる
- 事業承継の準備ができる
それぞれどのようなメリットがあるのか説明していきます。
節税できる
分社化のメリットとして、法人税や消費税を節税できることが挙げられます。
法人税は、税率、原則23.2%です。
中小法人の場合、2段階の税率で計算され、軽減税率が適用されます。
大企業の場合、分社化により中小法人とすることで、軽減税率の恩恵を受けることができます。
また、分社化により新会社を設立すると、設立後最大2年間は消費税の納税義務が免除されます。
交際費の限度額を増額できる
分社化のメリットとして、取引先など事業に関係する方に対する接待・贈答などにおける交際費の限度額を増額できることが挙げられます。
交際費は損金不算入であるものの、中小法人であれば年800万円まで損金算入できます。
多額に交際費を支出する業種の場合には、分社化して中小法人となることで、交際費の限度額を増やすことができます。
退職金支給で損金算入できる
分社化のメリットとして、退職金を支給し、損金算入できることが挙げられます。
新会社に従業員を転籍させて退職金を支払うことにより節税対策も可能ですが、支給する場合には事前に退職金規定を作成しておくことが必要です。
倒産リスクを回避できる
分社化のメリットとして、倒産リスクを回避できることが挙げられます。
1社のみで事業を運営していれば、いずれかの事業部門で失敗したときやトラブルが発生したとき、会社全体がダメージを受けることになりかねません。
しかし分社化により、別会社で損失やトラブルが発生しても親会社への影響は軽減できるため、倒産リスクを回避することにつながります。
経営状況を明確化できる
分社化のメリットとして、経営状況を明確化でき、業務効率化を目指しやすいことが挙げられます。
事業の経営状況を常に把握できる状態をつくれば、業務効率化も目指しやすくなり、効率的な経営を実現しやすくなります。
会社全体の収益がアップすることで従業員の給与や賞与に還元できれば、現場の士気やモチベーションも上がり、さらに収益向上につなげることもできます。
融資を受けやすくなる
分社化のメリットとして、銀行から融資を受けやすくなることが挙げられます。
複数会社を設立し、法人ごとに代表者を分け、互いに連帯保証人になれば融資を受けやすくなります。
経営者1人が複数の企業で連帯保証人になってしまうと、万一の際に返済できなくなるリスクが高いと判断されやすいため、分社化した会社ごとに代表者がいることで融資を受けやすくなるでしょう。
事業承継の準備ができる
分社化のメリットとして、事業承継に関する準備ができることが挙げられます。
優良な中小企業では株価が何十倍になり、事業承継の際に後継者へ株式を引き継げないという問題が発生します。
先代の経営者に退職金を支給して利益を圧縮し、それに伴って株価を下げる手法や、含み損を抱えた資産を処分し株価を引き下げる方法なども活用できます。
ただ、含み損を抱えた資産が工場用地など、処分できない資産であれば上記の方法は使えません。
この場合、分社化による税制非適格によって、含み損を顕在化させることができ、株価を引き下げることが可能です。
なお、国税庁に否認される可能性もあるため、税理士に相談した上で決定したほうがよいでしょう。
分社化のデメリット
分社化にはいろいろなメリットがあるといえますが、次の3つのデメリットには留意した上で決断することが必要です。
- 手続が面倒
- コストが増える
- 株主の同意が必要
どのようなデメリットがあるのか説明します。
手続が面倒
分社化のデメリットとして、財務や税務などの手続が面倒であることが挙げられます。
さらに会計や税務などの処理に詳しい人材を確保することや、分社化に対応できる体制を整備するなど、事前準備におけるコストが発生します。
コストが増える
分社化のデメリットとして、固定費などコストが増えることが挙げられます。
新設する会社の事務所費や人件費、税理士に対する報酬などが主に増える費用です。
仮に節税に成功しても固定費が大幅に増えれば、デメリットの方が大きくなると留意しておいてください。
株主の同意が必要
分社化のデメリットとして、株式総会の特別決議において、株主の3分の2以上の同意が必要であることが挙げられます。
分社化はしたいときにいつでもできるわけではありません。
株主の同意を得るためにも、分社化によるメリットなど十分な情報の開示と説明を行うことが必要です。
分社化したほうがよい会社
分社化することで、注意したいデメリットよりも、得ることのできるメリットが大きいときに選ぶべき方法です。
そのため、分社化したほうがよいのは、次の問題を解決させたい会社といえます。
- 経営不振の事業がある
- 新規事業を始めたい
- 後継者を育てたい
- 専門性を高めたい
それぞれ説明していきます。
経営不振の事業がある
分社化したほうがよいのは、経営不振の事業がある会社です。
複数の事業を営んでいるものの、その一部で業績悪化が見られるときには、切り離しができます。
また、好調な事業のみ独立させて親会社を事業再生することにより、業績良好な事業をさらに成長させることもできるでしょう。
業績不振な事業が他事業の足を引っ張り、会社全体の業績を悪化させることのないように、一部を切り離すという意味でも分社化は有効です。
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新規事業を始めたい
分社化したほうがよいのは、新規事業を始めたい会社です。
本来の事業目的にはない新たな分野や産業で新規参入する場合、株主総会の特別決議で定款変更における承認と、目的変更の登記が必要になります。
手続を経て新規事業をスタートさせることも可能ではあるものの、一定の時間がかかるため、分社化で別会社を立ち上げたほうがスムーズです。
さらに分社化によって企業のスリム化も可能となるため、経営スピードを向上させる効果も期待できます。
別法人となれば、それぞれの事業の経営判断や意思決定がスムーズにできるようになることや、事業単位での収益を把握しやすくなるなど経営合理性や業務効率が改善されることもメリットといえます。
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後継者を育てたい
分社化したほうがよいのは、後継者を育てたい会社です。
別事業と合わせて新設会社を立ち上げ、後継者候補に任せることもできます。
さらに複数の後継者候補がいる場合なども、兄弟会社をつくり、元々の事業と新事業をそれぞれの後継者に継承させるといった方法が検討できます。
事業承継では、後継者候補に経営者になるための教育を前もって実施しておくことが必要となります。
後継者教育にかかる期間は10年程度といわれていますが、実際に会社経営における経験を積むことで、実践を踏まえた後継者教育が可能となるでしょう。
企業経営は実際に経験してみなければわからないことも多々あるため、規模の小さい会社を立ち上げ、経験値を高めてもらうとよいでしょう。
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専門性を高めたい
分社化したほうがよいのは、専門性を高めたい会社です。
企業規模が大きくなれば、人員や部署が増えるため、管理が行き届きにくくなります。
そこで、既存事業の専門性を今より高めることや、競合他社との差別化を図るために、分社化して専門分野を独立させることが検討できます。
分社化前に注力していた事業が好調であれば、専門分野に特化した会社を立ち上げることで、より対象の分野に注力して人材育成や採用も集中して実施できるようになります。
専門性の高い人材が集まりやすくなれば、さらに技術やノウハウなどを向上させることにもつながるでしょう。
まとめ
会社の分社化には節税やリスク回避など様々なメリットがあるため、大手企業だけでなく中小企業でも検討する傾向が高まっています。
ただしどの企業でも分社化したほうがよいわけではないため、分社化のメリットなど恩恵を受けやすい会社に該当するか確認してみましょう。
なぜ分社化するのか、達成したい目的などに向けて行うことで、複合的なメリットを得ることにもつながります。
なお、分社化は株主の承認が必要になるなど、経営者独自の判断で自由にできません。
そのため分社化を検討している経営者などは、本当に必要なことか適切な判断が求められます。