設備投資の投資回収期間とは、設備導入にかかったお金を回収し、黒字化するまでにかかった期間です。
投資判断の指標として、また、設備投資の意思決定の基準として使われていますが、大企業と中小企業では目安は異なります。
投資回収を完了すれば回収以降の収益はプラスとなるため、事業を継続するほど利益を積み重ねることにつながります。
そのため投資回収期間の目安はできるだけ短いほうが望ましいといえるでしょう。
そこで、設備投資の投資回収期間について、目安や計算式、採算性の評価方法について解説していきます。
目次
投資回収期間とは
「投資回収期間」とは、設定した期間で、たとえば設備投資などに投入した資金を回収できるか検討する指標です。
投資判断の1つとして使われており、資金を投じることが将来的に事業運営や会社経営に役立つか判断する経営指標とされています。
投資した金額を回収できるまでの期間を前もって確認することで、どのタイミングから利益を生み出すことができるか把握できます。
さらに会社全体の利益を棄損する危険な投資を避けることができ、投資の失敗を防ぐことも可能です。
そのため設備投資においても、事前に投資回収期間を意識した上で投資計画を策定することが必要といえます。
設備投資を行うか判断に迷った場合には、検討している設備に対する投資額が、運用による利益金や減価償却費引当金で回収まで何年かかるか見定めていきましょう。
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投資回収期間の目安
投資回収期間の目安は、会社の規模や資本力によって異なります。
従来までの投資回収期間は、3~5年が目安とされていました。
しかし経済環境が変わり、先行きが不透明ともいえる現在では、長期的に投資の妥当性を判断することは危険です。
そのため中小企業の投資回収期間の目安は2年以内とされているものの、資本力に不安がある場合などは予定よりも長引く可能性があり、経営状況が悪化するリスクも高いといえます。
そのため投資回収期間の目安は1年以内などできるだけ短期で検討したほうが、万一の長期化で体力が消耗したことによる失敗を防ぎやすくなるといえるでしょう。
なお、数十億単位の大型事業における投資であれば、投資回収期間を2年以内で設定しても回収は難しいといえます。
そのため投資関連の返済も含めた事業活動のフリーキャッシュフローを、1~2年以内にプラスにすることを目安にするとよいでしょう。
投資回収期間の計算方法
投資回収期間の計算方法は以下のとおりです。
投資回収期間=投資総額÷年間利益額 |
たとえば設備に1千万円投資する場合において、年間利益額を500万円とするのなら、投資回収期間は2年となります。
なお、年間利益額は投資の種類によって変わります。
設備投資の場合には、資金を投じることで削減される経費や増加する収益を年間利益額として計算します。
新規事業や商品開発などに対する投資の場合、商品販売によって得ることのできる貢献利益を年間利益額として計算しましょう。
貢献利益は会社に貢献する利益といえますが、予測においては投資回収期間を計算するうえで最も重要な作業といえます。
たとえば新規事業の貢献利益は、以下の方法で算出できます。
- 予測売上を計算する
- 予測売上原価を計算する
- 売上総利益を計算する
- 予測直接経費を集計する
- 予測貢献利益を計算する
商品開発の貢献利益については、以下の方法で計算しましょう。
- 予測売上を計算する
- 売上原価を計算する
- 売上総利益を計算する
- 予測直接経費を集計する
- 予測貢献利益を計算する
投資回収期間の採算性の評価方法
設備投資は生産能力を向上させることを目的に行います。
そのため資金を投じるかについての判断は、投資で見込まれる売上増加分からかかった費用を差し引いたとき、得ることのできる利益やキャッシュと投資額と比べて判断します。
設備投資の採算性を評価するときには、以下の計算式で算出した売上増加分を目安にするとよいでしょう。
売上高増加=想定販売価格×(投資後販売数量(計画)−投資前販売数量(現状)) |
その上で、設備投資の採算性を評価する方法は次の4つです。
- 正味現在価値法
- 内部利益率法
- 回収期間法
- 投資利益率法
それぞれの評価方法の内容を説明していきます。
正味現在価値法
「正味現在価値法(NPV)」とは、投資することでどのくらいの価値を得ることができるか示す指標です。
投資によって得ることのできる価値を現在価値とし、投資額との差額を数値化して投資判断に使います。
プラスの場合は投資価値があると判断され、ゼロまたはマイナスのときは投資価値がないと判断ができます。
正味現在価値法(NPV)の計算は、以下の計算式で行います。
フリーキャッシュフロー=営業利益×(1-法人税率)+減価償却費-設備投資額-正味運転資本増加額 正味現在価値法(NPV)=t年後に見込めるキャッシュフロー÷(1+割引率)−初期投資額 |
その上で、求めたい年数分である「t年後に見込まれるキャッシュフロー÷(1+割引率)t乗」をプラスしていきます。
最終的に初期投資額を差し引くことで、
- プラスの場合は投資
- ゼロまたはマイナスの場合は投資しない
と判断できます。
内部利益率法
「内部利益率法(IRR)」とは、投資によって将来得ることのできるキャッシュフローと、投資額のそれぞれの現在価値が等しくなる割引率です。
内部利益率とは正味現在価値がゼロになる割引率で、投資の予想利益率といえます。
算出した率が目標とする利益率を上回っていることが、投資してよいと判断する条件になります。
内部利益率法(IRR)は以下の計算方法で算出します。
現在価値 ✕(1 + r)^n = 将来価値 現在価値=将来価値/(1 + r)^n |
なお、「^」は累乗のことであり、「年利」は複利計算となります。
回収期間法
「回収期間法」は、投資金額が何年で回収されるのか確認するための評価方法です。
投資金額が回収される期間が、ガイドラインとなっている期間よりも短いときには投資してもよいと判断されます。
回収期間は以下の計算式で算出します。
回収期間=設備投資額÷各期のキャッシュフロー |
中小企業の投資回収期間の目安は2年以内で、可能であれば1年以内が適切とされています。
簡易的に回収期間を知りたい場合によく使われる指標といえますが、他の採算性の検証よりも計算が簡単で理解しやすいことが特徴です。
ただし金銭の時間的価値を勘案できないことや、判断基準となるガイドライン期間を何で決めるべきかが曖昧といったデメリットもあります。
投資利益率法
「投資利益率法(ROI)」とは、プロジェクトの経済命数に渡り得ることのできる平均利益と、投資額との比率を求める評価方法です。
会計的利益法と呼ばれることもあり、投資によって得ることのできる増加利益を投資額で割り、利益率を算出します。
投資による年々の平均純現金流入額と投資額の関係比率を求め、投資案を評価していく方法です。
投資利益率=(売上ー売上原価ー投資額)÷ 投資額×100(%) 総投資利益率={(増分現金流入額合計-投資額)÷耐用年数}÷投資額×100(%) |
設備投資のために投下された資本は、減価償却で毎年回収されていきます。
そのため残存価額ゼロの定額法で減価償却を行う場合、投資の全期間を通じれば投下資本の2分の1を平均投資額とみなすことができるでしょう。
そこで、投資額を2で割った平均投資額により計算した平均投資利益率で評価したほうが、総投資利益率よりも理想的と考えられます。
平均投資利益率={(増分現金流入額合計-投資額)÷耐用年数}÷(投資額÷2)×100(%) |
大型設備投資の回収推移の判定方法
新規事業などにおける大型設備投資では、設備投資前後の売上総利益高営業利益率を比べて投資回収の推移を判定できます。
売上総利益高営業利益率=(営業利益÷売上総利益)×100(%) |
仮に売上総利益高営業利益率が設備投資前と同じ水準またはそれ以上の場合、投じた資金の回収は計画通りに進んでいると判断できるでしょう。
しかし設備投資前より悪化している場合は、回収が計画通りに進んでいないと判断できます。
設備投資後に売上総利益高営業利益率がマイナスの場合、設備投資分の減価償却費が十分に賄えていないと判断できるため、投資に失敗したことを意味します。
回収が不十分なときや失敗に陥っていることが判明した場合、早急に事業撤退するなどの経営判断が求められます。
計画通りに投資回収が推移すること自体稀といえるものの、緻密な投資計画を立てることや投資回収期間のモニタリングを行い、成功へ導いていきましょう。
投資回収期間を長引かせないポイント
投資回収期間は、当初の予定よりも長引かせないことが大切です。
回収までの期間が長期化すれば、資金力の弱い中小企業の場合など、資金繰りが悪化だけでなく倒産リスクも高めます。
投資回収の達成状況が経営に影響することを理解しておき、中長期的に安定させる計画的な投資回収が重要です。
投資回収できなくなるリスクを高めないためにも、投資回収期間を長引かせない次の3つのポイントを押さえておきましょう。
- 繰り返しシミュレーションする
- 実現できる経営計画書を作成する
- 返済計画を綿密に立てる
それぞれのポイントについて説明していきます。
繰り返しシミュレーションする
投資回収期間を長引かせないために、投資が本当に収益につながるのか、繰り返しシミュレーションを行いましょう。
予想と大きくかけ離れた結果となり、失敗に終われば収益を得ることはできず、財政状況も悪化します。
また、設備投資の前に採算性を徹底して評価しておかなければ、収益性が見込めないと銀行などに判断されてしまい、融資を受けることができなくなる可能性もあります。
実現できる経営計画書を作成する
投資回収期間を長引かせないために、実現できる長期的な会社の経営方針やビジョンなどを計画した経営計画書を作成しましょう。
経営計画書は、社内で目標を周知する以外にも、銀行や出資者などのステークホルダーに対するアピール材料として使うこともできます。
会社設立時はもちろんのこと、会社の節目での振り返りや見直しにおいて作成することが必要といえます。
設備投資では多大な予算が必要となるため、適切な計画を立てて確実に回収できる設備を厳選することが求められます。
返済計画を綿密に立てる
投資回収期間を長引かせないために、銀行から融資を受けた際の返済計画も綿密に立てておきましょう。
設備投資の資金を銀行融資に頼る場合、投資額を回収し、利益を捻出した上で返済に充てることが必要です。
そのため投資回収期間は短期で考え、返済は長期で毎月遅れず返していける無理のない計画を立てることが求められます。
まとめ
設備投資の投資回収期間とは、設備導入にかかったお金を回収し、黒字化するまでにかかった期間です。
中小企業の投資回収期間の目安は2年以内とされているものの、資本力に不安がある場合などは予定よりも長引く可能性があり、経営状況が悪化するリスクも高くなります。
そのため投資回収期間の目安は1年以内などできるだけ短期で検討したほうが、万一の長期化で体力が消耗したことによる失敗を防ぎやすくなるといえるでしょう。