運送業の労働基準法の改正点とは?労働時間の上限や規制内容について解説

運送業の労働基準法の改正点を把握しておかなければ、2024年4月1日から対象となる時間外労働の上限規制などに対応できなくなります。

労働者の事情に合わせて、多様な働き方を実現するための働き方改革について、運送業など一部業界では時間外労働の制限などに猶予期間が設けられていました。

しかし2024年4月1日からは、運送業も規制対象となるため、法改正による対応が求められます。

そこで、運送業の労働基準法の改正点について、労働時間の上限や規制内容について解説していきます。

運送業の労働基準法の改正点

運送業の労働基準法の改正とは、働き方改革関連法により2019年4月1日から順次対応が求められている改革のことです。

その中で運送業に関係する改正として、次の5つが挙げられます。

  1. 拘束時間
  2. 休息時間
  3. 時間外労働
  4. 連続運転時間
  5. 割増賃金

それぞれの改正点について、2023年3月31日までの比較とともに説明していきます。

運送業の2024年問題とは?働き方改革の影響と労働時間上限の課題を解説

拘束時間

運送業に関係する労働基準法の改正として、トラックドライバーの拘束時間が以下のとおり変わることが挙げられます。

  • 2024年3月31日までのドライバーの拘束時間は、1日13時間以内(最大16時間・15時間超は週2回まで)・1か月293時間以内・1年3,516時間以内(ただし労使協定を締結すれば1年の間で6か月まで1か月310時間まで延長可能)
  • 2024年4月1日からのドライバーの拘束時間は、1日13時間以内(最大15時間・14時間超は週2回まで)・1か月284時間以内・1年原則3,300時間以内(ただし労使協定を締結すれば1年の間で3,400時間まで延長可能)

拘束時間とは、始業時刻から終業時刻まで、労働時間と仮眠を含めた休憩時間の合計です。

なお、長距離輸送により宿泊を伴う場合には、週2回を限度として16時間まで延長できます。

また、1か月で284時間を超えてよい月は連続して3か月までとされており、1か月あたりの時間外労働時間数も100時間未満に留めなければなりません。

さらにトラックドライバーは業務内容が特殊であることから、拘束時間について次の特例措置が適用されます。

隔日勤務の特例

  • 21時間を超えない2暦日の拘束時間は、事業場内の仮眠施設または同種施設で4時間以上の仮眠時間を与えることで24時間まで延長可能
  • 上記延長は2週に3回を限度とし、2週の総拘束時間は126時間を超えないことが必要(勤務終了後は継続20時間以上の休息期間を与えることが必要)

休息時間

運送業に関係する労働基準法の改正として、トラックドライバーの休息時間が以下のとおり変わることが挙げられます。

  • 2024年3月31日までのドライバーの休憩時間は、8時間以上必要
  • 2024年4月1日からのドライバーの休憩時間は、11時間(9時間を下回らない時間)必要

休息時間が9時間を下回ってしまう場合は、運行終了後に継続12時間以上与えることが必要です。

また、トラックドライバーについては、休息時間について次の特例措置が適用されます。

2人乗務の特例

  • 車両1台に2人以上乗務する場合、身体を伸ばして休息できる設備があれば最大拘束時間を20時間まで延長可
  • 1運行終了後に継続11時間以上の休息期間を与える場合、24時間まで拘束時間を延長可能
  • 車両のベッドなどで8時間以上の仮眠時間を与える場合、28時間まで拘束時間を延長可能
分割休息の特例

  • 勤務終了後に継続9時間以上の休息期間を与えることができない場合、分割による休息時間の付与が必要
  • 一定期間の勤務回数の2分の1を限度として、拘束時間の途中や経過直後に休息時間の分割が可能
  • 分割による休息は、1日1回あたり継続3時間以上、2分割であれば合計10時間以上、3分割であれば合計12時間以上必要

時間外労働

運送業に関係する労働基準法の改正点として、トラックドライバーの時間外労働の上限が以下のとおり変わることが挙げられます。

  • 2024年3月31日までのドライバーの時間外労働の上限は、労使間で特別条項付き36協定を結んでいれば時間外労働に上限なし
  • 2024年4月1日からのドライバーの時間外労働の上限は、労使間で特別条項付き36協定を結んでいる場合でも、年960時間が限度

労働基準法による法定労働時間は1日8時間・週40時間までであり、この時間を超えた労働については使用者と労働者との間で36協定を締結しておくことが必要です。

さらに繁忙期など、時間外労働が多くなる時期に対応したい場合には、労使間で特別条項付36協定を結んでおけば上限なく時間外労働が可能でした。

しかし2024年4月1日からは、特別条項付36協定を締結していても時間外労働は年960時間までとなります。

連続運転時間

運送業に関係する労働基準法の改正として、ドライバーの連続運転時間の扱いが挙げられます。

そもそもドライバーの連続運転時間は4時間以内とされており、その間に運転の中断が合計30分を経過した時点で時間がリセットされます。

そこから新しく連続運転時間が開始することになりますが、運転の中断中の作業について、2024年4月1日からは以下の扱いとなります。

  • 2024年3月までは運転中断中に荷積みや荷卸し作業はできる
  • 2024年4月からは運転中断中に荷積みや荷卸しなどの作業はできない

2024年4月1日からは、運転中断の際には原則、休憩のみの時間にすることが必要です。

ただし、サービスエリアやパーキングエリアにトラックを駐停車できない場合は、最長4時間30分まで連続運転時間を延長できます。

割増賃金

運送業に関係する労働基準法の改正として、時間外労働に対する割増賃金の引き上げが挙げられます。

すでに一般の中小企業では労働者が時間外労働した場合に支払う賃金について、従来よりも高い割合での割増賃金を支払っていますが、次のように変更されています。

  • 2023年3月31日までの月60時間を超える部分の時間外労働に対する割増賃金率は25%
  • 2023年4月1日からの月60時間を超える部分の時間外労働に対する割増賃金率は50%

さらに22時から翌日5時まで(※条例により23時から翌日6時までの場合あり)の深夜時間で時間外労働をした場合には、深夜割増賃金25%が加算されます。

たとえば月60時間を超える部分の時間外労働を行い、その労働が深夜だった場合は、割増賃金率を75%まで引き上げなければなりません。

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運送業の就業規則の内容

「就業規則」とは、労働者の賃金や労働時間など、労働条件に関することや職場の規律などについて定めた規則集です。

運送業でも職場の「ルール」を定め、使用者と労働者の双方が守ることで、安心して働くことのできる職場づくりにつながります。

労使間のトラブルを防ぐこともできるため、就業規則の役割は重要といえます。

就業規則は「常時10人以上」の労働者を使用する場合、作成して労働基準監督署長への届出が義務付けられます。

届出義務のない10人未満の労働者を使用する使用者による就業規則も、制裁規定の制限などの規定については、労働基準法が適用されるため作成しておいたほうが安心です。

なお、就業規則には、必ず記載が必要である「絶対的記載事項」と、制度を設ける場合に記載が必要となる「相対的記載事項」がありますので注意してください。

絶対的必要記載事項

  1. 始業及び就業時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  2. 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払い時期並びに昇給に関する事項
  3. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
相対的必要記載事項

  1. 退職手当に関する事項
  2. 臨時の賃金(賞与)・最低賃金額に関する事項
  3. 食費、作業用品などの負担に関する事項
  4. 安全衛生に関する事項
  5. 職業訓練に関する事項
  6. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  7. 表彰、制裁に関する事項
  8. その他全労働者に適用される事項

運送業で必要な管理者

運送業は、「常時50人以上」使用する営業所では、次の2種類の「管理者」の選任が必要です。

  1. 衛生管理者
  2. 安全管理者

なお、正社員だけでなく、パートタイム労働者や派遣労働者など、非正規雇用の労働者も、常時使用する労働者に含みます。

上記2種類の管理者について、それぞれ説明していきます。

衛生管理者

「衛生管理者」とは、職場において労働者の健康を守るための専門知識など、労働安全衛生法による国家資格を有する専門職です。

事業場で衛星管理業務従事者として働くには、衛生管理者の資格が必要とされています。

就労中の労働災害や、労働者の健康障害を防ぐことを主な仕事とするため、衛生教育や衛生委員会の運営なども担当します。

衛生管理者は、第一種衛生管理者と第二種衛生管理者に区分されていますが、運送業では上位資格である「第一種衛生管理者」が必要です。

安全管理者

運送業では、「常時50 人以上」の労働者を使用する事業場ごとに「安全管理者」を選任しなければならないとされています。

「安全管理者」は、職場の安全全般に関する管理者です。

事業場に専属する者から選任が必要とされており、2人以上の安全管理者の選任が必要な場合には、1人が「労働安全コンサルタント」の資格所有者なら専属でなくてもよいとされています。

労働安全コンサルタントは、安全・衛生分野に関連する国家資格です。

また、業種の区分に応じた事業場規模においては、安全管理者のうち少なくとも1人は専任の安全管理者でなければなりません。

運送業の労働基準法遵守に向けた取り組み

 

運送業が労働基準法の改正内容を理解し、遵守するためには次の3つで勤怠管理に取り組むことが必要です。

  1. 労働時間の見える化
  2. 勤怠締め作業の自動化
  3. 収入減少に対応する処遇の見直し

労働災害を発生させず、時間外労働を適正化するためにも、どのような取り組みが必要なのか説明していきます。

労働時間の見える化

運送業が労働基準法を遵守するために、ドライバーなどの労働時間を見える化したほうがよいといえます。

ドライバーは常に事業場で働いているのではなく、トラックで外出していることがほとんどです。

実際、長距離輸送が多い運送業のドライバーについて、労働時間や休憩時間など正確に把握することは容易ではありません。

特にタイムレコーダーや出勤簿等の紙媒体で勤怠管理している場合、ドライバーの自己申告に頼ることになり、正確さが疑われます。

そこで、勤怠状況を把握できるクラウドサービスなどを活用しましょう。

スマートフォンやタブレットなどでGPS打刻できる仕組みを活用することにより、リアルタイムで勤務実態を正確に把握しやすくなります。

勤怠締め作業の自動化

運送業が労働基準法を遵守するために、勤怠の締め作業を自動化しましょう。

正確に勤怠管理ができない理由として、締め作業があいまいであることが挙げられます。

運送業では、ドライバー以外に配車担当者や倉庫作業員、事務作業員など様々な労働者が働いています。

そのため締め作業に時間がかかりやすいといえますが、その遅れで時間外労働の超過を見落とすことになりかねません。

知らない間に労働基準法違反に該当していたことにならないために、勤怠管理システムなど導入することで効率的な締め作業を実現し、長時間労働解消につなげることができるでしょう。

勤怠管理システムは、労働者が打刻したデータをもとにして労働時間や休憩時間を自動集計する仕組みのため、勤務実態をリアルタイムで把握できます。

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収入減少に対応する処遇の見直し

運送業が労働基準法を遵守するために、ドライバーの収入減少に対応するための処遇の見直しを検討しましょう。

トラックドライバーの労働時間は、2024年4月1日から上限規制が厳しくなります。

時間外労働が制限されることで、労働負担が軽くなると安心しているドライバーもいる一方で、残業代が少なくなると収入が減ってしまうと不安を抱えるドライバーもいます。

残業代が削られてしまう分、他の手当などで還元する方法など検討が必要となります。

たとえば、会社独自の諸手当の金額を増額することや、新しく手当や制度を設けるなど、給与への還元や福利厚生を手厚くする方法でドライバーの離職を防いでいきましょう。

運送業はドライバー不足が深刻化しており、既存の労働者の高齢化が進む中、新たな入職者が増えずに困っています。

今後、以前のように稼げる仕事でなくなったことを理由に、さらにドライバー不足が加速すれば、物流を維持することは難しくなるでしょう。

2024年4月1日からは、運送業の収益の中心的な要素といえるドライバーの労働時間が短縮され、1日で運ぶことのできる荷物量も減少します。

運送業の売上そのものが減少する可能性があり、その中でドライバーの処遇改善や見直しは簡単なこととはいえません。

しかし売上減少を理由にドライバーの賃金がいつまでも現状維持、または少なくなることがあれば、他社や他業種へのドライバー流出が加速するリスクが高まると留意しておいてください。

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まとめ

運送業の労働基準法の改正とは、順次施行されている働き方改革関連法による見直しともいえます。

2024年4月1日からは、ドライバーの時間外労働の規制が強化されます。

これまで通りの労働が難しくなることや、クリアしないといけない問題もいろいろあるといえるでしょう。

しかし2024年4月1日の法施行まで、猶予期間はあとわずかです。

時間外労働以外にも、連続運転時間や休息時間など、これまで以上に厳しい勤怠管理が求められるため、今から少しずつ対応しておきましょう。