財務分析とは、決算書などで経営状況を客観的に確認し、問題点や改善部分を分析することです。
主に5つの目的にそれぞれ複数の指標があり、経営危機の回避や将来的な利益の予測などニーズに応じて使い分けます。
経営戦略を立てるときにも役立つ手法が財務分析といえますが、具体的にどのような指標を使うのか理解しておくと安心です。
そこで、財務分析について、指標の種類や計算方法、目安となる数値をわかりやすく解説します。
目次
財務分析とは
「財務分析」とは、会社経営の安定性などを、財務諸表から分析する手法です。
経営者だけでなく、投資家や取引先などの利害関係者が、会社の現状と問題点を把握した上で意思決定するために行う分析ともいえます。
財務分析で会社経営において抱えている問題や、改善部分を確認することで、経営危機を回避したり将来的な利益を予測したりできます。
財務諸表分析と呼ばれる手法ですが、主に以下の5つの目的に分け、それぞれの指標を使って分析します。
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次の章から、上記の目的ごとの指標や数値の目安をそれぞれ詳しく説明します。
財務分析とは?その目的や分析のやり方・重要な指標をわかりやすく解説
収益性分析の指標
「収益性分析」とは、企業がどのくらい利益を上げて、儲けることができているか知るための分析です。
資本を効率よく使って利益を稼ぐことができているか分析するため、以下の7つの指標を使います。
- 売上高総利益率
- 売上高営業利益率
- 総資産利益率(ROA)
- 株主資本利益率(ROE)
- 売上債権回転率
- 売上債権回転期間
- 損益分岐点比率
それぞれの指標の計算方法や目安を説明します。
売上高総利益率
「売上高総利益率」は粗利率と呼ぶこともある指標で、売上高に対する売上総利益の割合を示し、大まかな利益率を知ることができます。
粗利率(%)= 売上高総利益 ÷ 売上高 × 100 |
目安は一般的に20%以上が望ましいといわれているものの、業種によっては平均50%を超える場合もあります。
売上高利益率とは?会社の財務分析で必要な指標とその意味を解説
売上高営業利益率
「売上高営業利益率」とは、売上高に対する営業利益の割合で、販売や管理の効率性をあらわす指標です。
売上高営業利益率(%) = 営業利益 ÷ 売上高 × 100 |
主要産業全体の平均的な値は5%程度で、10%を超えると優れた経営状態と判断されます。
総資産利益率(ROA)
「総資産利益率(ROA)」とは、資産に対する利益の割合であり、投下された資本をどのくらい効率的に使っているかあらわす指標です。
総資産利益率(ROA)(%) = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100 |
業種や総資本の規模によって目安は異なるものの、一般的に5%前後とされています。
数値が高いほど、経営効率が良好であることを示します。
株主資本利益率(ROE)
「株主資本利益率(ROE)」は自己資本利益率とも呼ばれる指標であり、株主が拠出した資本をどのくらい効率よく使っているかあらわします。
株主資本利益率(ROE)(%) = 当期純利益 ÷ 株主資本 × 100 |
一般的な目安は8~10%であり、15%以上ならかなり優良な企業と判断されます。
売上債権回転率
「売上債権回転率」とは、商品やサービスの売上代金を効率的に回収できているかあらわす指標です。
売上債権回転率(%) = 年間売上高 ÷ 年間平均売上債権 |
一般的な目安は6回転以上であることが望ましく、3回転以下では資本を有効活用できていないと判断されます。
売掛金回収まで時間がかかっている状態であるため、早期回収を目指すことが必要です。
売上債権回転期間
「売上債権回転期間」とは、商品やサービスの売上代金を回収するまでの期間をあらわす指標です。
売上債権回転期間(日) = 売上債権(売掛金+受取手形) ÷ (売上÷365日) 売上債権回転期間(月) = 売上債権(売掛金+受取手形) ÷ (売上÷12か月) |
期間は短いほど売掛金をスムーズに回収できていると判断できますが、目安はおおよそ1か月から2か月までといえるものの、業種や会社規模によって異なります。
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損益分岐点比率
「損益分岐点比率」とは、売上高に対する損益分岐点売上高の割合を示す指標です。
「損益分岐点」とは、限界利益と固定費が同じ状態の、損益がプラスマイナスゼロの売上高といえます。
売上高と費用が同じになる売上高と、販売数量のことで、費用を収益でカバーできる損益はゼロの状態といえます。
変動費率(%) = 変動費 ÷ 売上高 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1-変動費率) 損益分岐点比率(%) = 損益分岐点売上高 ÷ 売上高 × 100 |
目安は業種や会社規模などで異なるものの、80%未満なら優良企業、70%以下は経営状況が健全と判断されます。
90〜100%の場合は損益分岐点に位置し、100%を超えれば赤字経営となります。
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安全性分析の指標
「安全性分析」では、支払い能力を確認し、倒産リスクを評価します。
経営状態の安全性を分析する指標は、主に以下の5つです。
- 流動比率
- 当座比率
- 固定比率
- 負債比率
- 自己資本比率
それぞれの指標の計算方法や目安を説明します。
流動比率
「流動比率」とは、1年以内に得られる流動資産と1年以内に支払う流動負債の割合であり、財務的な安全性をあらわす指標です。
流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 |
割合が小さいほど短期的な支払いが多いと判断され、一般的に120~150%以上で安全、200%以上は優良とされます。
当座比率
「当座比率」は、企業の短期的な支払い能力をあらわす指標です。
「当座資産」とは換金性の高い資産であり、現金・売掛金・受取手形などが該当し、すぐに負債を支払う財源に使えない資産は除きます。
当座比率(%)= 当座資産 ÷ 流動負債 × 100 |
当座資産が流動負債をカバーできており、短期的な支払い能力が認められる目安は100%以上です。
固定比率
「固定比率」は、どのくらいの自己資本で固定資産が運用されているかあらわす指標です。
固定比率(%) = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100 |
100%を下回ると固定資産がすべて自己資本で運用されているため、長期的に安全性が高い会社と判断できます。
100%を超えると自己資本以上の固定資産を購入していると判断できるため、安全性は低いと懸念されます。
負債比率
「負債比率」は、資本と負債の比率であり、自己資本でどのくらいの負債を支払うことができるかあらわす指標です。
負債比率(%) = 他人資本(負債) ÷ 自己資本 × 100 |
低いほど安全性が高いと判断できるため、50%以下は財務健全性が高いといえます。
100%を超えるとリスクの高い財務状態といえるため、注意してください。
自己資本比率
「自己資本比率」とは、総資本に対する自己資本の割合であり、経営の安定性を図る指標です。
自己資本比率(%)= 自己資本 ÷ (自己資本+他人資本) × 100 |
自己資本比率が低ければ借入金などの影響が大きいといえます。
目安は業種によって異なるものの、30%以上と理解しておきましょう。
生産性分析の指標
「生産性分析」では、売上や付加価値の創出において、どのくらい経営資源を効率的に活かすことができたか分析します。
事業における生産活動の効率性を高める上で必要な分析といえますが、主に以下の4つの指標を使います。
- 付加価値額
- 付加価値率
- 労働分配率
- 労働生産性
それぞれの指標の計算方法や目安を説明します。
付加価値額
「付加価値額」とは、投入した経営資源に対し、労働や設備などの手段で新たに付加した価値を数値化した額です。
付加価値額 = 経常利益 + 人件費 + 金融費用 + 賃借料 + 租税公課 |
付加価値率
「付加価値率」は、売上高に対する付加価値額の割合で、売上高の中でどのくらい付加価値を向上させることができたかあらわします。
付加価値率(%)= 付加価値額 ÷ 売上高 × 100 |
労働分配率
「労働分配率」とは、付加価値に対する人件費の割合であり、率が高ければ少ない人件費で多くの付加価値を上げていると判断できます。
労働分配率(%) = 売上総利益 ÷ 人件費 × 100 |
業種や会社規模などで異なるものの、一般的な目安は50%程度です。
労働生産性
「労働生産性」とは、従業員1人あたりが生み出す付加価値をあらわす指標です。
企業が生み出す付加価値の総和を平均従業員数で割った数値が労働生産性であり、限られた人員でどのくらいの付加価値を創出できたのかあらわします。
労働生産性 = 付加価値額(経常利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課) ÷ 平均従業員数 |
目安として、中小企業では1,000万円を超えていれば生産性が高く、人的資源を有効活用できていると判断されます。
効率性分析の指標
「効率性分析」では、投下した資本をどのくらい効率的に活用し、売上や利益を生み出すことができている分析します。
希少な資源で得ることのできる成果を最大限に獲得できているか確認する上で、使用する指標は以下の2つです。
- 売上債権回転率
- 総資本回転率
それぞれの指標の計算方法や目安を説明します。
売上債権回転率
「売上債権回転率」とは、売掛金や受取手形など、現金化されていない売上債権を現金化するまでの期間をあらわす指標です。
売上債権回転率(%) = 売上高 ÷ 平均売上債権 |
割合が高いほど回収期間が短いことを示すため、目安は6回転以上で正常、3回転以下で資本の有効活用度が低いと判断されます。
総資本回転率
「総資本回転率」とは、売上を得るため資本を何回転したかをあらわす指標です。
事業運営のために資金を調達して、商品を仕入れたり設備を購入したりします。
その後、商品などを販売して資金を獲得し、さらに仕入れや製造、販売を繰り返します。
この資本の回転数を数値化した指標が総資本回転率であり、割合が大きいほど少ない資本で売上を得ていると判断できます。
総資本回転率(%) = 売上高 ÷ 総資本 |
目安は一般的に1.0回転を上回っていることが望ましく、総資産を有効活用できている状態を示します。
成長性分析の指標
「成長性分析」は、会社の一定期間における成長度合いを分析します。
将来的にどのくらい成長できるのか、増収や増益の程度を確認しますが、使用する指標は次の3つです。
- 売上高成長率(増収率)
- 経常利益成長率
- 総資本成長率
それぞれの指標の計算方法や目安を説明します。
売上高成長率(増収率)
「売上高成長率(増収率)」とは、前期と比べた売上高の伸びをあらわす指標です。
増収率(%) = (当期売上高-前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100 |
一般的な目安は、安全水準が0~5%です。
6%〜20%で超優良水準、-1%〜-10%は準危険水準と判断できます。
経常利益成長率
「経常利益成長率」とは、1年間で増えた経常利益をあらわす指標です。
プラスなら1年間で経常利益が増加したことになります。
経常利益成長率(%)= (当期経常利益-前期経常利益) ÷ 前期経常利益 × 100 |
目安はプラスで「成長」、マイナスは「衰退」、ゼロは「横ばい状態」と判断されます。
総資本成長率
「総資本成長率」とは、前期と比べた1年間の増加総資本をあらわす指標です。
プラスであれば1年間で総資本が増えたことになります。
総資本成長率(%) = (当期の総資本の金額-前期の総資本の金額) ÷ 前期の総資本の金額 × 100 |
目安は、前期と比べたとき、値が大きいほど伸び率が高いと判断されます。
企業経営において、総資本は増え続ける状態が望ましいといえます。
まとめ
財務分析を行うとき、使用する指標は種類が多いため、どれを使えばよいか迷ってしまいがちです。
しかし分析の目的によって、どの指標を使えばよいか変わるため、解決しなければならない問題や改善点にあった種類を選ぶとよいでしょう。
自社の前年との比較だけでなく、同業他社と比べることで、自社の弱みや強みの確認ができ、今後の戦略にも役立てることができます。
様々な指標で財務分析を行い、総合的な会社の将来予測に役立てることをおすすめします。