社会保険料を滞納すると差し押さえられる?時効や払えない場合の対処方法

会社経営において、社会保険料を滞納することなく納めることは義務といえますが、もしも支払いが遅れると財産を差し押さえられるのではないかと不安を感じることもあるでしょう。

確かに社会保険料を滞納し、督促状が届いてしまったのに放置してしまうと、所有する財産を差し押さえられ事業継続が厳しくなると考えられます。

決められた期日に納めることが必要なだけでなく、たとえば社会保険に未加入で本来支払う必要のある保険料を納めていない場合でも、滞納として扱われるためその後の経営に影響を及ぼすことになるでしょう。

そこで、社会保険料を滞納すると差し押さえられるのか、時効の扱いや支払うことができない場合の対処方法について解説していきます。

社会保険とは

社会保険とは、会社に勤務する方などが加入することを義務付けられている公的な保険制度です。

日本に住む20歳以上の方は、国民年金や厚生年金保険などの公的年金制度や、健康保険など医療保険制度に加入することが義務付けられています。

このうち社会保険で加入対象となるのは、正社員として雇用されている方だけでなく、たとえばパートタイムやアルバイトで働いている一定条件を満たす方です。

原則、フルタイムまたはそれに準じた勤務形態であり、週30時間以上勤務する従業員は、社会保険に加入しなければなりません。

法人または5人以上従業員を雇用している個人事業主であれば社会保険に加入することが義務付けられます。

雇用保険は雇用保険被保険者の条件を満たす従業員を雇用している場合、労災保険は従業員を1人でも雇用していれば加入が必要です。

さらに令和4年(2022年)10月1日からは、従業員数101人以上の企業で働く以下の方についても社会保険の加入対象とされています。

  • 週の所定労働時間が20時間以上の方
  • 月額賃金が8.8万円以上の方
  • 2か月を超える雇用の見込みがありフルタイムで働く方と同様の方
  • 学生でない方

さらに詳しく社会保険について、次の2つについて理解を深めておきましょう。

  1. 社会保険の種類
  2. 社会保険料の負担割合

それぞれ説明していきます。

社会保険の種類

事業者が加入する社会保険は、次の種類に分けられます。

社会保険の種類 保険の内容
健康保険 被保険者とその家族がケガを負ったときや病気になった場合に医療費を補助する
介護保険 要介護認定を受けた場合に介護保険サービス利用の費用を補助する
厚生年金保険 年金受給資格の条件を満たす場合に年金が支給される
雇用保険 失業した場合の生活維持や再就職支援の給付金を支給する
労災保険 従業員が業務に関連するケガを負ったときや病気になった場合に医療費や休業手当などを支給する

 社会保険料の負担割合

厚生年金保険や健康保険、介護保険の保険料は事業者と従業員がそれぞれ負担します。

労災保険は事業者が全額負担し、雇用保険は業種により負担割合が異なるものの、事業者が従業員よりも多く負担する仕組みになっています。

よくある社会保険料の滞納ケース

本来支払う必要のある社会保険料を、納めず滞納してしまう社保滞納のケースとして次の2つが考えられます。

  1. 未加入期間の未払い
  2. 資金繰り悪化による未払い

それぞれどのようなケースか説明していきます。

未加入期間の未払い

社保滞納のケースとして挙げられるのが、未加入期間の未払いによる滞納です。

本来であれば社会保険に加入しなければならないのに、未加入であることが発覚すると、加入を催促されるだけでなく最大過去2年の未加入期間分の社会保険料も請求されます。

過去にさかのぼり請求されることを遡及徴収といいますが、以下のケースで未加入であることが発覚することが多いようです。

  • 会計調査院による調査で健康保険・健康年金保険未加入が発覚
  • 従業員が雇用保険の失業保険申請を行ったときに雇用保険未加入が発覚
  • 従業員が業務中のケガで保証を求めたときに労災保険未加入が発覚

社会保険未加入が発覚した場合、未加入期間の社会保険料は事業者負担分だけではなく、本来であれば従業員が負担するはずだった分も支払うことが必要です。

さらに未加入状態が極めて悪質と判断されると、保険の種類によって以下の罰則が科される可能性もあるため注意してください。

社会保険の種類 罰則の内容
健康保険・厚生年金保険 6か月以下の懲役または50万円以下の罰金
雇用保険 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

もしも未加入であることを指摘されたときには、悪質と判断されないためにも、すみやかに加入手続を行うようにしてください。

資金繰り悪化による未払い

社保滞納のケースとして挙げられるのが、資金繰り悪化による未払いです。

本来、従業員に渡す給与は、労働者負担分の社会保険料を差し引いているため、会社は従業員から保険料を預かっている形になります。

会社は従業員から預かっている保険料と、自社が負担する保険料を合わせて公的機関に納めることになりますが、資金繰りが悪化していると手元の資金を別の支払いに充ててしまい社会保険料を納める資金が不足してしまいがちです。

社会保険料を滞納せず、健全経営を続けるためにも、資金繰りを改善し保険料未払いを発生させない財務状況を保つことが必要といえるでしょう。

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社保滞納の時効の扱い

社会保険料にも2年という時効期間があります。

そのため未加入の場合においては、遡及徴収されるのも最大2年分です。

社会保険加入義務のある従業員を加入させていなかった場合には、加入義務発生時点から社会保険料を納めていないことになるため、加入手続後に過去分の社会保険料を納めることが必要ですが、この場合も最大2年分です。

会社が社会保険料を納めず滞納している場合は、納付期限後すぐに督促状が届き、支払いがなければ差し押さえなどが実行されるため時効が成立することはありません。

社会保険料の滞納から回収までの流れ

社保滞納の消滅時効期間の2年が過ぎるのを待ったとしても、本来であれば国民が納めなければならない義務化されている費用であるため、時効が成立することはありません。

滞納状態が続き、放置していても次の4つの流れで滞納した保険料を回収されることになります。

  1. 延滞金の発生
  2. 督促状・催告書の送達
  3. 財産調査の開始
  4. 財産の差し押さえ

それぞれの流れについて説明します。

延滞金の発生

まず社保滞納により、最大年14.6%の延滞金が発生します。

督促状が届いた場合でも、記載された期限までに社会保険料を支払えば延滞金は発生しません。

指定期限を過ぎた場合には、以下の計算式による延滞金が発生します。

延滞金=滞納社会保険料額×年利率÷365日×納付期限の翌日からの経過日

労災保険と雇用保険については、以下の追徴金もが発生します。

追徴金=未払期間の社会保険料合計額(最大2年)×10%

督促状・催告書の送達

社保滞納により本来の社会保険料納付期限を過ぎれば、郵便・電話・訪問などで督促されることになります。

納付期限から約1週間後には、健康保険や厚生年金は年金事務所、雇用保険や労災保険は労働局から納付を催促する督促状が届きます。

督促状には納付書が添付されているため、督促状発行日から10日経過後の指定期日までに支払いましょう。

督促状の納付期限を過ぎても納付がなければ、今度は電話で催促されます。

督促状や電話で催促されてもさらに支払いがなければ、年金事務所または労働局の担当職員が会社を訪問し、保険料納付に関する指導を行います。

財産調査の開始

社保滞納による督促状送付や電話・訪問による催促をしても放置していたり支払いがなかったりすると、企業の財産を調査されます。

調査対象の財産は、現金・預貯金・不動産・売掛債権などです。

代表者への聞き取り調査が行われ、成果が出なければ本格的な強制捜査に切り替わり、代表者自宅への立ち入り調査や取引金融機関の口座残高確認、取引企業に対する売掛債権の有無の確認などが行われます。

財産の差し押さえ

社保滞納による財産調査が完了後は、滞納した保険料を回収するための財産の差し押さえが行われます。

期間内に保険料を納めなければ財産を差し押さえる旨が記載された「差押予告通知書」など書類が届き、すみやかに実行されます。

社会保険料は国民が支払う義務のある費用であるため、裁判所で手続を経ることなく差し押さえが可能とされており、たとえば借金滞納で行う差し押さえ手続よりもすぐに実行されてしまいます。

銀行口座や売掛債権が差し押さえられれば、取引銀行や取引先に社会保険料滞納の事実を知られることになり、その後の取引に影響が及ぶことになるでしょう。

社保滞納による差し押さえで起きる会社経営への影響

社会保険料を滞納してしまったことにより、会社の財産を差し押さえられてしまうと、次の3つの影響を受けることになります。

  1. 銀行から融資を受けられなくなる
  2. 取引先との関係が悪化する
  3. 事業継続が難しくなる

それぞれの影響について説明します。

銀行から融資を受けられなくなる

社会保険料を滞納してしまったことにより、会社の財産を差し押さえられてしまうと、銀行から融資を受けることができなくなります。

支払い義務のある社会保険料を支払うことができないほど資金繰りが悪化している会社に対し、新規融資はもちろんのこと追加融資も行おうとは考えません。

そのため資金調達手段を失うことになり、別の方法を検討することが必要になるでしょう。

取引先との関係が悪化する

社会保険料を滞納してしまったことにより、会社の財産を差し押さえられてしまうと、取引先との関係が悪化します。

売掛債権の差し押さえで、社会保険料を滞納している事実を知られてしまい、経営悪化を懸念され取引を打ち切られる可能性があります。

事業継続が難しくなる

社会保険料を滞納してしまったことにより、会社の財産を差し押さえられてしまうと、事業継続が厳しくなります。

預貯金が無ければ仕入れでもできず、事務所や工場などの不動産が差し押さえられれば事業運営が停止します。

設備や機械などの動産についても、生産手段を失うことになるでしょう。

正常な企業活動を行うことができなくなり、結果として事業継続が難しくなります。

滞納した社会保険料を払えない場合の対処方法

滞納することなく社会保険料を納めたくても、手元に資金がなければ支払いはできません。

そのため社保滞納による財産の差し押さえを防ぐためにも、次の4つの対処法を検討することが必要です。

  1. 行政に相談する
  2. 納付猶予・分納を申請する
  3. 専門家に相談する
  4. ファクタリングを活用する

それぞれどのような対処法か説明していきます。

行政に相談する

滞納した社会保険料を払えない場合の対処方法として、まずは行政に相談しましょう。

社会保険のうち、健康保険と介護保険、厚生年金保険は年金事務所、労災保険、雇用保険は労働局に相談するようにしてください。

その際に相談することは、次の納付猶予や分納も視野に入れたい内容です。

納付猶予・分納を申請する

滞納した社会保険料を払えない場合に行政に相談するときには、納付猶予や分納による支払いを申請しましょう。

災害や損失が大きかったなどの理由で、社会保険料支払いが一時的に困難な場合は、納付猶予を申請できます。

猶予期間中に延滞金を分納する相談もできますが、財産状況や収支状況などに応じて判断されます。

収支や財産情報など記載した財産収支状況書など提出することは必要となるものの、支払いが厳しいのであれば相談することをおすすめします。

詳しくは、日本年金機構の「厚生年金保険料等の納付の猶予」または「厚生年金保険料等の換価の猶予」を参考にしてください。

専門家に相談する

滞納した社会保険料を払えない場合で、事業継続が厳しい状況にまで追い込まれているのなら、債務整理なども視野に入れて弁護士など専門家に相談することも必要です。

財産を差し押さえられる可能性があり、事業運営にも影響が及び会社経営を続けられないのなら、法人破産に詳しい弁護士に相談することも必要となるでしょう。

法人破産すれば、滞納した社会保険料の支払いは免除されます。

ファクタリングを活用する

滞納した社会保険料を払えない場合、支払いに充てるための資金調達のためにファクタリングを活用しましょう。

納期限を過ぎれば延滞金も加算されるため、早期に滞納状態を解消するためにも資金調達が必要です。

ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社に売って、現金化する資金調達のサービスですが、税金など滞納していても資金調達に活用できます。

現金化した売掛債権を社会保険料の支払いに充てることで、滞納問題を解決することができます。

社会保険料を滞納し続ければ、社会的な信用を落とすことにもつながるため、早期に解決するためにもうまくファクタリングを活用することをおすすめします。

ファクタリングの利用方法とは?仕組みと注意点について簡単に解説

まとめ

社会保険料を滞納し、督促状が届いてしまったのに放置してしまうと、いずれは会社所有の財産を差し押さえられてしまいます。

事業継続が厳しくなるため、早期の解消が求められますが、まずは所定の行政機関に相談しましょう。

その上で解決が難しい場合には、法人破産も含めた弁護士への相談も必要です。

ただ、社会保険料を支払うだけの資金が手元にないことに悩んでいるのなら、売掛債権を現金化する資金調達方法のファクタリングを活用できます。

ファクタリングでは、お金を借りて資金を調達するときの審査と異なり、売掛先の信用力を重視した審査を行います。

そのため税金滞納や債務超過でも利用できる方法であるため、うまく活用することをおすすめします。