圧縮記帳で補助金収益に対する課税の調整が可能とされていますが、IT導入や事業再構築などを目的として交付された補助金のメリットを損なわないための制度といえます。
法人が固定資産を取得するなどを目的に補助金の交付を受けた際、目的に合った資産を取得した場合は、取得に充てた補助金の範囲で圧縮記帳が可能です。
そこで、補助金と圧縮記帳の実務について、適用要件や仕訳方法、メリットとデメリットを解説します。
目次
圧縮記帳とは
「圧縮記帳」とは、本来であれば課税所得になる利益を繰り延べる制度です。
たとえば機械装置を購入するときに国から補助金を受け取り、機械装置購入の資金に充てたとします。
機械装置は耐用年数で減価償却しますが、取得初年度の課税所得は法人税上益金となる補助金収入で一気に増えてしまいます。
購入初年度の課税所得が高くなってしまうと、補助金を受け取っても税負担が重くなり、補助金効果が薄くなります。
このような場合、圧縮記帳を使うことで、トータルで支払う税金は変わらないものの、補助金の効果を得ることができます。
圧縮記帳は補助金を受け取った事業年度の課税を避ける方法であり、初年度は圧縮損を計上するため補助金への課税が相殺されます。
ただし2年目以降は減価償却費が減るため、課税所得は大きくなるものの、一時的な節税効果があるといえます。
なお、中小企業向けの補助金に関しては、以下の記事を参考にしてください。
【2024年最新版】中小企業向け補助金一覧|各支援内容を解説
圧縮記帳の適用要件
圧縮記帳は、どのようなケースでも適用できるわけではなく、限られた要件でのみ適用されます。
概ねの適用要件は以下のとおりです。
- 圧縮限度額(圧縮記帳の種類により設定される固定資産の減額の上限値)の範囲で以下のいずれかの経理を行う
- 帳簿価額を損金経理で減額する
- 確定した決算で積立金として積み立てる
- 決算確定日までに剰余金処分により積立金として積み立てる
- 確定申告書に圧縮記帳経理額の損金算入の明細を添付する
- 清算中法人ではない
たとえば国庫補助金の圧縮記帳は、以下の適用要件を満たすことが必要です。
- 国庫補助金の交付を受けて交付事業年度末までに返還不要が確定している
- 交付事業年度に交付目的に適合した固定資産取得をしている
- 以下のいずれかの経理方法で処理を行う
- 取得資産の帳簿価額を圧縮限度額の範囲内で損金経理により減額する
- 圧縮限度額以下の金額を積立金で積み立てる
- 確定申告書に圧縮額の損金算入に関する明細書を添付している
圧縮記帳の方式と仕訳方法
圧縮記帳は、補助金などを受け取ったことで臨時的に発生する税金を、一度に課税するのではなく次年度以降に遅らせる制度といえます。
方法には、以下の2種類があります。
- 直接減額方式
- 積立金方式
それぞれの方式の内容と、仕訳の方法を説明します。
直接減額方式
「直接減額方式」とは、受け取った補助金を会計上費用に計上することにより、補助金対象の固定資産の取得価額を減額する方法です。
補助金額は「固定資産圧縮損」の勘定科目で費用計上し、以後の事業年度は減額した取得価額をもとに減価償却します。
次に説明する積立金方式よりも簡便な方法といえますが、以下の取引における直接減額方式の圧縮記帳適用の仕訳は以下のとおりです。
国庫補助金の対象である固定資産取得のために、補助金600万円の交付を受け、交付目的に合った機械装置1,600万円(耐用年数は定額法5年で償却)を購入した。 |
①国庫補助金が交付されたときの仕訳 | ||
借 方 | 貸 方 | 摘 要 |
預金 6,000,000円 | 国庫補助金収入 6,000,000円 | 補助金交付 |
②機械装置を取得したときの仕訳 | ||
借 方 | 貸 方 | 摘 要 |
機械装置 16,000,000円 | 預金 16,000,000円 | 機械装置購入 |
③圧縮損を計上する仕訳(圧縮限度額まで損金経理したものとする) | ||
借 方 | 貸 方 | 摘 要 |
機械圧縮損 6,000,000円 | 機械装置 6,000,000円 | 圧縮損計上 |
④減価償却費を計上する仕訳(減価償却費=(1,600万円-600万円)÷5年=200万円 翌期以降も同様の減価償却を継続) | ||
借 方 | 貸 方 | 摘 要 |
減価償却費 2,000,000円 | 機械装置 2,000,000円 | 償却費計上 |
積立金方式
「積立金方式」では、受け取った補助金を剰余金処分に代え、圧縮積立金として計上後に、減価償却期間で圧縮積立金を取り崩し計上します。
直接減額方式との違いは、固定資産を本来の取得価額で減価償却することです。
益金と減価償却の損金額を相殺するため、直接減額方式と同じ額の損金を毎期計上できます。
直接減額方式挙げた国庫補助金と機械装置取得の事例をもとに、仕訳処理を紹介します。
なお、国庫補助金の交付や機械設備購入の仕訳は、先に説明した直接減額方式と同じ処理を行います。
①国庫補助金が交付されたときの仕訳 | ||
借方 | 貸方 | 摘要 |
預金600万円 | 国庫補助金収入600万円 | 補助金交付 |
②機械装置を取得したときの仕訳 | ||
借方 | 貸方 | 摘要 |
機械装置1,600万円 | 預金1,600万円 | 機械装置購入 |
③圧縮積立金を計上する仕訳(補助金収入の相殺のため利益減額と積立金の積み立て) | ||
借方 | 貸方 | 摘要 |
繰越利益剰余金600万円 | 圧縮積立金600万円 | 圧縮積立金の計上 |
④減価償却費を計上する仕訳(減価償却費=1,600万円÷5年=320万円) | ||
借方 | 貸方 | 摘要 |
減価償却費320万円 | 機械装置320万円 | 償却費の計上 |
⑤積立金を取り崩す仕訳(圧縮限度額は200万円であり、減価償却費(120万円=320万円-200万円)は損金にならないため、圧縮積立金から差額分120万円を取り崩す) | ||
借方 | 貸方 | 摘要 |
圧縮積立金120万円 | 圧縮記帳積立金取崩益120万円 | 圧縮積立金の取り崩し |
減価償却費320万円に対して、圧縮記帳積立金取崩益120万円を計上するため、直接減額方式での減価償却費200万円を計上した場合と同じ効果を得ることができます。
圧縮記帳のメリット
圧縮記帳のメリットは、補助金などが交付された年度の課税所得が減額されることです。
単年度に多額の税金発生を抑えることができるため、固定資産を取得した年の税負担が軽減されることになり、一時的な節税効果が見込めます。
資産取得後にまとまった費用や支払いがある場合も、資金確保につながりやすくなります。
負担を分散させることにより、補助金などの効果が高まり有効活用しやすくなるといえます。
圧縮記帳のデメリット
圧縮記帳のデメリットは、圧縮記帳資産が増えることで資産管理における他と分けて行う作業が増えることです。
固定資産の取得年度以外にも、翌年度以降の会計処理にも注意が必要となります。
圧縮記帳は課税が免除されるわけではなく、繰り延べる仕組みです。
適用年度の税負担は軽減されるものの、翌年度以降の納税額は通常よりも増えることがあると留意してください。
また、圧縮記帳で計上している資産を途中で売却すると、課税所得が多くなる恐れもあるため注意が必要です。
圧縮記帳の対象と限度額
圧縮記帳を適用できるのは、国庫補助金など以下の種類があります。
- 国庫補助金
- 工事負担金
- 保険差益
- 交換差益
- 特定資産の買換特例
- 非出資組合の賦課金
それぞれの内容と限度額を説明します。
国庫補助金
圧縮記帳の対象で代表的といえるのが「国庫補助金」です。
国庫補助金とは、国や地方自治体の財政援助や施策の奨励として給付する制度です。
圧縮記帳の適用対象となる国庫補助金は、固定資産の取得・改良に充てるための国または地方公共団体の補助金や給付金であり、対象となる法人に直接交付されるものとなります。
国庫補助金の圧縮限度額は、固定資産の取得に充てた補助金額までです。
補助金の一部のみを圧縮記帳の対象とすることや、適用しないことを選ぶこともできます。
工事負担金
「工事負担金」とは、電力会社やガス会社などの公益事業のサービス提供会社が、必要な設備に対して受け取ったお金です。
圧縮限度額は、固定資産を取得した価額から受け取った資金額を差し引いた額となります。
保険差益
「保険差益」とは、保険の損害や補償額が確定し、支払われた保険金が固定資産帳簿価額よりも多いときに発生します。
保険金収入は金額が大きいこともめずらしくないため、保険差益に対してまとめて課税されれば税負担が重くなり、災害や事故などの被害回復の弊害となります。
そこで、滅失・損壊した固定資産の代わりである同一種類の代替資産の取得においては、圧縮記帳を適用することができます。
保険差益の圧縮限度額は以下の計算式で算出します。
保険差益金額 =(保険金-滅失経費) - 被害部分の固定資産帳簿価額 圧縮限度額 = 保険差益金額 × (代替資産取得に充てた保険金額÷(保険金額−減失経費の額)) |
固定資産の滅失・損壊に伴う収益減少・費用補てん・棚卸資産滅失などの支払いを受ける保険金などは圧縮記帳の対象ではないため注意してください。
交換差益
「交換差益」とは、固定資産の交換によって取得する資産価額と、交換で譲渡する資産価額の差額が発生したとき、差額補填のために授受される金銭です。
たとえば土地や建物などの固定資産を、他者所有の固定資産と交換した場合、時価での取得と譲渡として所得を計算します。
譲渡する資産の帳簿価額より時価が高ければ、金銭の授受がなくても譲渡益が発生するため、課税対象になってしまいます。
このときの交換差益には圧縮記帳を適用できます。
交換差益の圧縮限度額は、以下の計算式で算出します。
圧縮限度額 = 取得資産の価額 -(譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額+譲渡経費の額) |
特定資産の買換特例
「特定資産の買換特例」では、特定の資産を譲渡して、一定要件に該当する資産を取得したとき、譲渡益の一定割合を圧縮記帳して課税を繰り延べできます。
棚卸資産以外の譲渡資産を譲渡し、その年度中に資産を買い換え、取得から1年以内に事業に用いれば圧縮記帳の適用が可能となります。
特定資産の買換特例における圧縮限度額は、以下の計算式で算出した金額です。
差益割合 = (譲渡対価額−(譲渡資産の帳簿価額+譲渡経費の額)) ÷ 譲渡対価額 圧縮限度額 = 圧縮基礎取得価額 × 差益割合 × 80% |
圧縮基礎取得価額は、買換資産の取得価額と譲渡資産の譲渡対価の額のいずれか少ない金額です。
非出資組合の賦課金
「非出資組合の賦課金」とは、出資のない協同組合などの事業活動に必要な支出に充当するため、組合員から集めるお金です。
賦課金を固定資産取得や改良に充てた場合に圧縮記帳を適用できます。
圧縮限度額は工事負担金の圧縮限度額に準じるため、上記の工事負担金の項目を参考にしてください。
まとめ
圧縮記帳は、法人が補助金などを受け取り、購入目的だった固定資産を取得したときなどに適用される制度です。
補助金を受け取った年度の税負担を翌年度以降に繰り延べることができるため、一時的な節税対策につながります。
ただし圧縮記帳の適用で課税が免除されるのではなく、トータルでの収益認識額は変わりません。
そのためあくまでも課税の先送りであることと、圧縮記帳の適用で通常とは異なる会計処理が必要になるなど、事務処理が煩雑化することは留意してください。
仕訳方法も複雑化するため、圧縮記帳の適用対象の補助金か確認し、制度利用でデメリットがあるのか、判断がつかないときは専門家などに相談して決めるようにしましょう。