「引当金」とは、未払金などが確定した債務ではないものの、今後取り立てても回収できなくなる費用や損失を前もって準備するために計上するお金です。
その種類はいろいろあり、引当金のカテゴリで計上するには複数の条件をクリアしなければなりません。
そこで、引当金とは何のために計上するのか、満たす必要のある要件や仕訳方法についてわかりやすく解説していきます。
目次
引当金とは
「引当金」とは、将来発生するかもしれない未回収などで被る損失に対し、費用として事前に計上しておくための勘定科目です。
会社経営していればいろいろなリスクに直面しますが、そのリスクを補填するために前もって準備しておくお金ともいえます。
引当金にもいろいろな種類がありますが、実際にはまだ債務やキャッシュアウトが確定していない状態のため、将来発生する損失を見積もった上で計上することになります。
これは費用計上において「発生主義」が基本であるためですが、引当金についてさらに理解を深めるため、次の2つについて説明していきます。
- 引当金計上の要件
- 引当金の考え方
引当金計上の要件
企業会計原則で、引当金は次の一定要件を満たす次期以降の費用・損失のうち、当期負担する金額を当期の費用や損失として損益計算書に計上することになります。
- 将来の特定の費用または損失
- 発生したのは当期以前の事象に起因している
- 発生の可能性が高い
- 合理的に見積もることのできる金額
以上すべての要件を満たすときには、その金額を当期の費用や損失として損益計算書に計上します。
引当金の考え方
本来、すでに発生している費用は当期に計上することが必要ですが、たとえば賞与など発生することはわかっていても、支払う原因は前期以前に発生していることもあります。
このような費用の負担を、それぞれの期に配分することが引当金の考え方です。
現金主義会計を前提とした場合には引当金は必要ないといえますが、企業会計原則では発生主義による会計処理となるため、引当金で費用を平準化することが求められます。
それにより、月次・年間の適正な損益を把握することが可能となり、経営の意思決定にも寄与するといえるでしょう。
発生主義と現金主義の違い
引当金は、まだ発生していない損失を事前に見積もって先に計上しますが、これは先にも述べたとおり企業会計では「発生主義」が原則となるからです。
企業会計には発生主義以外にも「現金主義」という考え方もあるため、2つの違いを理解しておくことも必要といえます。
そこで、この2つの違いと合わせ、「実現主義」という考え方も踏まえて次の3つをそれぞれ説明していきます。
- 発生主義とは
- 現金主義とは
- 実現主義とは
発生主義とは
「発生主義」とは、すべての費用について発生した期間に正しく割りあてれるための処理であり、たとえば現金の支払いの有無に関わらず商品やサービスの提供を受ければ「発生」したことになります。
金銭のやり取りの有無に関わらず、取引が発生したときに費用と収益を計上する考え方が「発生主義」ですが、正しい業績を把握するために必要です。
現金主義とは
「現金主義」とは、現金の受け取りや支払いがあった時点で計上することであり、現金の授受をベースとした会計処理の考え方です。
客観的な視点での期間の損益計算ができることはメリットである反面、掛けによる売上・仕入など信用取引がない場合を除いては正確に期間損益決算できなくなることがデメリットといえます。
期末在庫や設備など資産や負債をほとんど抱えていない場合、または現金取引のみという場合でなければ採用は認められないため、小規模事業者や一部のごく少ない企業でのみでしか採用されず、一般的な企業会計では採用されていません。
実現主義とは
収益確定時点で、実際に代金や等価物により収益を得て実現した時点にすることが「実現主義」です。
企業会計の原則でも、収益計上は実現主義で行うとされています。
実現主義を例として挙げるなら、たとえば販売業では商品をトラックにのせた時点や発送した時点を基準とする「出荷基準」が用いられます。
他にも販売先に納品された時点を基準とした「納品基準」や、販売先により商品が検収され問題がないことを確認された時点を基準とした「検収基準」など様々な実現時点が基準とされます。
引当金の種類
引当金には、たとえば貸倒引当金や修繕引当金、賞与引当金に退職給付引当金などさまざまな種類がありますが、引当金残高は貸借対照表の「負債の部」または「資産の部」に記されます。
そのため種類として、大きく次の2つにわかれます。
評価性引当金 | 将来の損失に備えて資産から控除する引当金(貸倒引当金・投資損失引当金) |
負債性引当金 | 将来の支出に備える引当金(賞与引当金・退職給付引当金、修繕引当金) |
それぞれの引当金について説明します。
評価性引当金
「評価性引当金」とは資産価値の減少に伴う損失に対する引当金であり、「貸倒引当金」や「投資損失引当金」が評価性引当金の代表ともいえるでしょう。
将来発生する可能性の高い損失に備えるための引当金で、貸借対照表の「資産の部」にマイナスで記載されます。
貸倒引当金 |
債権の貸倒れに備えて設定する勘定科目です。 貸倒れとは、たとえば貸したお金が返ってこないことや、販売した商品やサービスの代金が支払われないことを指します。 貸倒引当金として計上する債権は、売掛金・受取手形・貸付金・未収金などです。 |
投資損失引当金 |
子会社などに投資する上での損失に備えて計上する勘定科目です。 会計基準で非上場の子会社株式などに減損処理できるのは、実質価額が著しく低下したときに限定されています。 しかし、以下のケースにおいては、低下相当額を投資損失引当金で計上できます。 ・減損処理の対象ではないものの既に子会社の株式の実質価値が低下している場合 投資損失引当金を計上した場合、計上基準を会計方針に記載することが必要です。 |
負債性引当金
「負債性引当金」とは、将来発生する可能性の高い費用に対する引当金であり、貸借対照表の「負債の部」に記載されます。
たとえば「修繕引当金」や「賞与引当金」「退職給付引当金」が該当します。
また、負債性引当金は債務性の有無によって次の2つにわかれ、それぞれ次のような引当金が対象となります。
債務性のある負債性引当金 | 賞与引当金・退職給付引当金・製品保証引当金(製品保証等引当金)・売上割戻引当金・返品調整引当金・工事補償引当金・特別修繕引当金・役員賞与引当金・工事損失引当金 |
債務性のない負債性引当金 | 修繕引当金・債務保証損失引当金・損害補償損失引当金 |
なお、債務性の有無には関係なく、引当金の要件を満たす場合には計上が必要です。
上記のうち、修繕引当金・賞与引当金・退職給付引当金の3つは以下のとおりです。
修繕引当金 |
建物や機械などの固定資産の機能維持のために準備する修繕費用です。 修理を行うのは翌期以降の場合でも、当期に修繕が必要と判断された場合は修繕引当金を計上します。 定期的にメンテナンスを行っている設備などで、修繕を行うことや支払いは翌期になったときにも修繕引当金で処理します。 |
賞与引当金 |
翌期に支払う従業員に対する賞与の中で、当期に属することが合理的と見なされる金額は賞与引当金で計上します。 たとえば3月決算の会社の賞与支給が6月と12月の年2回の場合において、6月の賞与の査定対象期間が1~6月、12月の賞与は7~12月が査定期間とします。 この場合は、3月末の決算のときに来期6月に支給される賞与の中で、当期に含まれる12月分~3月分を賞与引当金で計上することになります。 |
退職給付引当金 |
従業員に将来的に支払う退職金のうち、当期までの見積もり額です。 従業員が就業していた全体の期間の費用として、当期に負担する金額を見積もり、退職給付引当金で計上します。 |
引当金の仕訳例
引当金を計上するとき、実際に取り崩すときの仕訳について説明します。
特に企業会計では、次の3つの引当金を計上することが多いといえるでしょう。
- 貸倒引当金の仕訳例
- 賞与引当金の仕訳
- 退職給与引当金の仕訳
それぞれの仕訳について説明していきます。
貸倒引当金の仕訳例
「貸倒引当金」とは、たとえば取引先が倒産してしまったことにより、保有する売掛金や貸付金などの債権が回収できないリスクに備えて計上する引当金です。
売掛金・受取手形・貸付金・未収金などは対象となりますが、前払金・仮払金は対象ではありません。
貸倒引当金の仕訳は期末に行いますが、洗替法と差額補充法の方法があり、それぞれの仕訳は以下のとおりです。
【洗替法による仕訳】
「洗替法」では、貸倒引当金の期末残高を戻し入れ(取り崩し)、当期の貸倒引当金を繰り入れ(計上)します。
借 方 | 貸 方 |
貸倒引当金 40,000 | 貸倒引当金戻入 40,000 |
貸倒引当金繰入 80,000 | 貸倒引当金 80,000 |
【差額補充法による仕訳】
「差額補充法」では、貸倒引当金の期末残高と当期繰入額の差額を計上します。
借 方 | 貸 方 |
貸倒引当金繰入 40,000 | 貸倒引当金 40,000 |
そしてどちらの仕訳をした場合でも、貸倒損失が翌期発生したときには次の仕訳で貸倒引当金を取り崩すことになります。
借 方 | 貸 方 |
貸倒引当金 20,000 | 売掛金 20,000 |
なお、貸倒引当金を計上していなかったときや、引当金よりも損失が多く発生したときには、費用勘定の「貸倒損失」で計上します。
賞与引当金の仕訳
「賞与引当金」は、従業員などに支払う賞与を前期に準備しておくための引当金です。
賞与は夏と冬の2回支給となることが多いため、直近6か月が支払対象期間となり、決算日に対象となる期間の賞与がまだ支給されていなければ賞与に関する負債があると考えられます。
仮に6月末に支給する賞与の対象期間を12月から翌年5月とする場合において、決算が3月末であれば未払いとなる12月から3月分が賞与引当金として計上する金額です。
たとえば6月末日に支払う賞与が54万円であれば、12月から3月分の4か月分36万円を引当金とします。
借 方 | 貸 方 |
賞与引当金繰入 360,000 | 賞与引当金 360,000 |
退職給与引当金の仕訳
「退職給与引当金」とは、将来支払うことになる退職金のうち、現在までに発生している退職金を見積もって計上するため引当金です。
従業員が退職するときに支払われる退職金は、勤務日数などに伴って増えていくことになりますが、当期に発生した分を退職給付引当金として計上することになります。
借 方 | 貸 方 |
退職給付費用 200,000 | 退職給付引当金 200,000 |
実際に従業員が退職したときには、引当金を取り崩して処理します。
借 方 | 貸 方 |
退職給付引当金 200,000 | 普通預金 200,000 |
引当金の税務上の取り扱い
企業会計では、利害関係者が間違った判断をしないように、適正や期間損益を出す考え方に基づいて、引当金の要件を満たす場合には見積もった金額をそれぞれの事業年度に割りあて計上します。
それに対し税法では、債務確定の段階で費用として算入する債務確定主義が原則となるため、引当金の費用計上は認めていません。
引当金の計上では合理的な金額を計算・見積もりしますが、確定した債務ではなく必然性な要素も含まれると考えられるため、課税の公平性から見れば問題があるからといえます。
しかし、企業会計では認められ、税法では認められないと、会計処理においてどう扱うべきか迷いが出てしまうでしょう。
そこで、企業会計と税法のギャップを埋めるために、法人税法で規定された繰入限度額までであれば貸倒引当金の損金算入が可能とされています。
ただし、認められるのは中小法人、銀行などの金融機関、リース会社など一部法人に限定され、損金経理を行い確定申告書に引当金(貸倒引当金)に関する明細書を添付することも必要です。
まとめ
「引当金」とは、企業会計の原則ともいえる発生主義に基づいて、将来に発生する費用・損失を当期に見積もり計上しておくための勘定科目です。
事前に見積もった引当金を計上しておくことによって、適正な期間損益を算出することができ、利害関係者に有用な情報提供が可能になると考えられています。
税法では原則、引当金の計上は認められていないものの、企業会計では計上することを要請しているため、2つのギャップを埋めるために貸倒引当金は一定要件のもとで損金算入できます。
他にも引当金には種類があり、先々支払う予定の賞与や退職金なども計上できるため、法人税法上の損金として扱われないものの、賞与引当金や役員退職引当金の計上なども検討しておくとよいでしょう。