営業キャッシュフローとは?直接法と間接法の計算方法をわかりやすく解説

営業キャッシュフローとは、企業が事業活動で1年間に得たキャッシュの量を示しており、プラスであることがよいとされています。

資金繰りを安定させる上でも注視しておきたい部分である営業キャッシュフローを計算するには、直接法と間接法という違いがあるのでそれぞれ理解しておくことが大切です。

利益が出ているのに倒産してしまう黒字倒産を防ぐためにも、営業キャッシュフローでわかることは何か、直接法と間接法の違いを理解しておくようにしてください。

営業キャッシュフローと営業利益の関係

本業で稼いだキャッシュの量を示す営業キャッシュフローに対し、損益計算書で確認できる項目に本業で稼いだ利益を示す営業利益もあります。

営業利益はあくまでも会計上の利益であるのに対し、営業キャッシュフローは現金の量を示しますが、この2つはイコールでは結びつきません。

その理由として挙げられるのは、日本の商取引で慣習化されている掛け取引です。

商取引においては、注文を受けて商品を納品したときにその代金を受け取らず、後日請求書を発行して期日までに支払ってもらうことが一般的です。

会計は発生主義というルールが採用されているので、商品の発注を受けて納品した時点で売上高や営業利益は計上されます。

ただ実際にその売上代金が回収できるのは、請求書を発送し期日を迎えて支払ってもらう段階です。

そのため、会計上の売上高とその支払い分を受け取るタイミングには、タイムラグが発生することになります。

発注を受けて納品した時点で会計上は利益が計上されているのに現金は回収できていないズレこそが、会計上の利益である営業利益と現金の量を示す営業キャッシュフローがイコールではない理由です。

商品の購入側の同様

商品を販売するのではなく、反対に商品を仕入れる立場でも同じことが起こります。

商品を発注し、納品段階では代金は支払わず、後日発行された請求書を受け取って期日までに支払います。

会計処理上の発生主義により、商品を納品してもらった段階で費用は発生していると考え、損益計算書では費用が計上されます。

しかし実際に支払いを行うのは請求書が発行された後であり、取り決めによる支払期日に従うことになるのでそれまでは現金は流出しません。

このような背景から、営業キャッシュフローは企業の真の利益をあらわすと指標ともいえるでしょう。

営業キャッシュフローがマイナスの場合

営業利益はプラスで黒字なのに、営業キャッシュフローはマイナスというケースもあります。

売上高と営業利益に計上されているため、現金を回収できていないことから現金収支が赤字になっている状態です。

ただ、営業キャッシュフローが一時的なものであったり、単年度のマイナスであれば特に問題はありません。

しかし、数期連続でマイナス状態が続いてしまうと、手元の資金が不足した状態が続いていることになるので問題です。

たとえば固定資産の売却や、銀行融資などの借入れ、新株発行など外部から資金を調達して現金を確保している状態を示します。

本来、税引前当期純利益から、利益に対する税金を差し引いた当期純利益と営業キャッシュフローは、多少ズレは発生してもおおむね同額になるはずです。

しかし当期純利益と営業キャッシュフローに大きな差が生じている場合には、会計操作により営業利益を大きく見せていることも考えられます。

会計発生高は、以下の計算式で算出できます。

会計発生高 = (当期純利益+特別損失+特別利益) - 営業キャッシュフロー

特別損失と特別利益の有無を考えた場合、会計発生高とは当期純利益と営業キャッシュフローの差額と考えられることが理解できるはずです。

営業キャッシュフローの計算方法

商品販売や仕入れ、経費や人件費の支払いなど、企業が営業活動を行う上で発生するキャッシュの変動をあらわすのが営業キャッシュフローです。

この営業キャッシュフローを計算する方法には、直接法と間接法があります。

直接法

商品販売や仕入れ、経費や人件費支払いなど、取引ごとの総額によりキャッシュフローをあらわす方法です。

そのため、売上や原価、経費など費用項目をそれぞれ現金収支により計算することが必要になります。

帳簿上のお金の流れをしっかり追うことになるので、たとえば売掛債権回収による収入、仕入債務を支払ったことによる支出など、営業キャッシュフローに関係する資金の流出入を直接加減算し表示します。

取引ごとに現金の流出入を加減算し、営業キャッシュフローを計算する方法なので、現金の流れを詳細に把握できることがメリットです。

しかし、項目ごとの現金収支により作成していくことになるので手間がかかる点はデメリットといえます。

間接法

損益計算書上の税金などで調整されていない当期純利益に対し、非資金損益項目など調整してキャッシュフローをあらわすのが間接法です。

そのため間接法では税引前当期純利益を軸にし、実際に流出していない費用、そして実際に流入していない収入を加減することになります。

キャッシュに関連する項目を加減算し、誘導的に営業キャッシュフローを導き出す方法です。

税引前当期純利益のキャッシュに関係する項目を加減算して営業キャッシュフローを計算する方法のため、当期純利益と営業キャッシュフローの差を確認しやすいことがメリットです。

実際、上場企業のキャッシュフロー計算書はほとんど間接法で作成されています。

ただし直接法とは異なり、営業キャッシュフローを構成する項目全体を把握しにくいことはデメリットといえます。

税引前当期純利益に関連するキャッシュ流出入の要因

間接法での営業キャッシュフローは税引前当期純利益からスタートします。

税引き前当期純利益に関連するキャッシュがプラスされる要因、そしてマイナスされる要因について把握しておきましょう。

減価償却費

建物や設備、機械などは、時間が経過すれば、価値は低下していきます。

そこで、購入時に一度に経費として計上するのではなく、時間が経過するごとに低下する価値分を毎年少しずつ経費として計上するため減価償却を行います。

この減価償却により算出されるのが減価償却費であり、それぞれの固定資産によって決められた耐用年数に応じて経費計上します。

減価償却費は、営業キャッシュフローの計算では損益計算書で費用として計上されているため、税引前当期純利益は減価償却費を費用に含めた利益であるといえます。

ただ、減価償却費は現金の流出が発生しない経費のため、営業キャッシュフローを計算するときには足し戻すこととなります。

棚卸資産

棚卸資産とは、販売目的で一時的に保有する商品や製品、材料などの在庫のことです。

貸借対象行では資産の部の流動資産に含まれるものの、前期よりも増えた場合には仕入れで現金を流出させているため、営業キャッシュフローを計算するときには増加分をマイナスします。

反対に棚卸資産が前期より減少している場合は、その分、在庫が現金化されたことになるため、営業キャッシュフローの計算ではプラスすることが必要です。

売掛債権

売掛債権とは売掛金や受取手形のことで、商品は販売しており損益計算書上の売上として計上されているけれど、まだその代金を回収できていないものです。

営業キャッシュフローを計算する上で軸となる税引前当期純利益は、回収できていない売上代金も計上されます。

ただし現金の収支をあらわす営業キャッシュフローでは、未回収の現金は含まれていません。

そのため、売掛債権の増加は営業キャッシュフローを計算する上ではマイナスし、反対に売上代金を回収したことなどで売掛債権が減少すれば、営業キャッシュフローを計算するときにはプラスします。

仕入債務

仕入債務とは、売掛債権とは反対に商品・製品・材料などの納品を受けて、損益計算書上で費用計上しているものの、代金を支払っていない買掛金などです。

近い将来、支払いでキャッシュを流出する要因といえますが、損益計算書ではまだ支払いが終わっていない状態で費用計上されているため、営業キャッシュフローの計算ではプラスします。

反対に、支払い予定の費用を現金で支払ったため仕入債務が減少すれば、営業キャッシュフローの計算でマイナスすることになります。

貸倒引当金

将来発生する恐れのある損失に備え、事前に計上しておくのが貸倒引当金です。

取引先の倒産で回収できたはずの売掛債権が未回収となるリスクに備えるため、貸倒引当金を充当しておきます。

この場合、現金自体は移動していないため、損益計算書で差し引いたものを足し戻します。

貸倒引当金が減少すれば貸倒引当金戻入として収益に計上されるものの、現金は移動していないため、収益として足したものは営業キャッシュフローの計算で差し引くことが必要です。

利息

損益計算書上、費用として計上される支払利息は、営業キャッシュフローを計算する際にはプラスします。

させますが、収益となる受取利息は、反対にマイナスすることになります。

配当金も同様です。

なお、キャッシュフロー計算書における利息と配当金は、以下の方法で取り扱うことが認められています。

①受取利息・支払利息・受取配当金は営業活動によるキャッシュフローに計上し、支払配当金は財務活動によるキャッシュフローに計上する

②受取利息・受取配当金は投資活動によるキャッシュフローに計上し、支払利息・支払配当金は財務活動によるキャッシュフローに計上する

一般的には①で計算します。

ただし税引前当期純利益から受取利息・支払利息・受取配当金は一旦戻し、小計を出してから現金収支として再度計上し直すことが必要です。

法人税等

営業キャッシュフローを計算する際、税引前当期純利益が軸になるため、税金はまだ差し引いていない状態です。

そのため、計算後に法人税等の実際に支払った額を差し引くことが必要になります。

まとめ

営業キャッシュフローとは、企業が事業活動で1年間に得たキャッシュの量を示します。

業種や業態、企業の規模や成長段階など、企業によって営業キャッシュフローは異なりますが、プラスで安定していることが望ましいといえます。

多くの企業では、営業キャッシュフローの計算において、間接法を使っています。

ただし間接法では売上代金が入ってきた金額や、主要取引ごとのキャッシュフローまでは把握できないため、その点を理解の上計算しましょう。