経済産業省は中小企業の資金調達において、債権を保有したままではなく流動化させて調達する方法を推奨しています。
中小企業は資金調達の方法として、銀行融資に依存する傾向が高いからです。
売掛債権を流動化する方法はいろいろありますが、ファクタリングもその1つといえます。
そこで、経済産業省が推奨する債権流動化について解説します。
経済産業省が債権流動化を推奨する背景
日本の中小企業の数は企業全体の99.7%を占めるほど多く、日本経済を支えているのは中小企業といっても過言ではない状況です。
ただ、新産業の創出や市場競争の活発化、さらに就業機会の提供など中小企業は地域経済の活性化に大きな役割を果たしています。
そのため中小企業を倒産させない取り組みが求められるものの、資金調達がスムーズではないため、事業継続が危ぶまれる会社も少なくありません。
資金調達においては、以下の背景が障壁になることが多く、経済産業省が債権流動化を推奨する要因になっていると考えられます。
- 銀行融資に対する依存度の高さ
- 銀行から融資を受けにくい
- 返済負担の重さで黒字倒産も増加
それぞれ説明します。
銀行融資に対する依存度の高さ
中小企業の資金調達方法として、まずは銀行からの借入れを検討することがほとんどです。
しかし円滑に融資を受けることができない企業は少なくありません。
実際、中小企業の借入れによる資金調達の依存度は、大企業の倍以上ともいわれています。
背景に、売上に対する信用取引の占める割合が増加傾向であることが関係しているようです。
銀行から融資を受けにくい
中小企業が銀行から融資を受けるとき、不動産などの資産を担保として差し入れることや、代表者が連帯保証人になることを求められます。
不動産を所有していない中小企業は担保に差し入れる資産を用意できないため、融資を受けたくても利用できません。
また、中小企業の7割は赤字経営といわれているため、審査に通らず諦める会社も多くいます。
返済負担の重さで黒字倒産も増加
銀行から融資を受けることができたとしても、返済負担により資金需要が増し、仕入れや外注費などに充てる資金を準備できずにビジネスチャンスを失う会社もあります。
さらに深刻なのは、増やした仕入代金や固定費の支払いが売掛金入金前に発生し、払えずに倒産してしまうケースなどです。
売上や業績が順調に伸びても、手元の資金が枯渇すれば事業継続は不可能となります。
中小企業の資金繰り問題解決に向けた法改正
日本の企業のほとんどが中小企業であるのにもかかわらず、資金が十分に調達できないことを理由に倒産することは、日本経済を衰退させる要因となります。
そこで、中小企業が円滑に資金を調達できるようにと考えられたのが売掛債権を活用する方法です。
経済産業省は、中小企業の保有する資産や企業規模に依存することなく資金を調達できるように、売掛債権を活用した方法を推奨し始めました。
そのための準備として、債権法も改正されています。
債権流動化推奨に向けた法改正
国は中小企業の資金調達に売掛債権を活用することを推奨するため、債権法などの法律を改正しましたが、具体的な内容として次の3つが挙げられます。
- 売掛債権担保融資保証制度の創設
- 譲渡制限特約付き債権の譲渡を認める
- 振興基準による努力義務設定
それぞれ説明します。
売掛債権担保融資保証制度の創設
経済産業省中小企業庁でも、中小企業が不動産を担保にした融資に依存し過ぎないように、売掛債権を担保にする売掛債権担保融資保証制度を創設しました。
これにより、売掛債権を担保とした中小企業の借入れに対し、信用保証協会に保証してもらうことができます。
譲渡制限特約付き債権の譲渡を認める
従来までの債権法では「譲渡制限特約」の付いた債権を譲渡することはできませんでした。
しかし法改正により、債権譲渡が禁止されている契約でも譲渡できます。
債権譲渡の効力を妨げない法改正により、売掛債権を資金調達に活用しやすくなったといえます。
振興基準による努力義務設定
振興基準とは、下請中小企業振興法に基づいて親事業者(元請)と下請事業者が互いに遵守しなければならないとする一般的な基準です。
親事業者と下請事業者が基本契約を結ぶときには、次の事項を盛り込むことが努力義務とされました。
- 売掛債権の譲渡が円滑に進むようにすること(邪魔をしないこと)
- 債権譲渡禁止特約を解除するように申し出があったときには尊重すること
- 下請事業者から要請があったときは債権譲渡を適切に承諾するように努めること
下請事業者は親事業者よりも立場が弱く、売掛債権を譲渡して資金を調達したくても、風評被害など気にしてできない場合も少なくありません。
しかし上記の項目が親事業者に努力義務とされたことで、売掛債権を使った資金調達も利用しやすくなったといえます。
売掛債権を流動化する資金調達の方法
経済産業省が推奨しているのは、中小企業が保有する売掛債権を流動化させる資金調達の方法です。
考えられる種類としては、次の3つが挙げられます。
- 売掛債権証券化
- 売掛債権担保融資
- ファクタリング
それぞれ説明していきます。
売掛債権証券化
企業の保有する売掛債権を特定目的法人(SPV)に譲渡し、その対価を受け取るという方法が「売掛債権証券化」です。
「特定目的法人(SPV)」は、売掛債権など資産を買い取り、決済期日には回収予定の代金を裏付けとして証券を発行します。
売掛債権を証券化するにあたり企業と投資家を媒介しますが、仕組みや手続が複雑であるなどがデメリットといえます。
ただ、資金調達方法を多様化させオフバランス化も図ることができ、売掛債権未回収リスクを移転できることはメリットです。
売掛債権担保融資
売掛債権の信用力を担保として融資を受ける方法であり、売掛債権を売却せず担保として資金を借入れるのが「売掛債権担保融資」です。
融資を受けるということは返済義務を負うこととなり、返済されなかったときには売掛債権の所有権は債権者に移ります。
一般的に融資の担保として用いられる資産は不動産などが多いですが、資産価値のある物件を所有していなくても資金調達できることがメリットです。
また、資金を調達した後の借入金は、売掛金が入金されることにより決済されるため、返済日に資金を工面しなくてもよいこともメリットといえます。
ファクタリング
企業などが保有する売掛債権をファクターと呼ばれる専門業者に譲渡し、その対価として買取代金を受け取る方法が「ファクタリング」です。
売掛債権の証券化と異なるのは、相対取引が基本であることといえます。
売掛債権担保融資とは共通する部分も多いものの、売掛先が倒産したときの弁済義務が利用者にないことがファクタリングのメリットです。
また、弁済義務を負わないだけでなく、オフバランス化やリスクを切り離すことができます。
売掛債権証券化のように、リスクの移転性が限定されるといったことがありません。
また、売掛債権の管理や回収業務にかかる手間を省くことができるため、業務の効率化が可能である点もメリットです。
ファクタリングはヤミ金融業者に注意が必要
金融庁は、ファクタリングの仕組みを悪用する「給与ファクタリング」や、売掛債権の買い取りと偽り資金を貸し付けようとするヤミ金融業者による被害に関して注意喚起しています。
ファクタリング契約を結んだのにもかかわらず、契約書の内容が以下の場合は注意が必要です。
- 「債権譲渡契約」など「売買」を意味する記載がなく「金銭消費貸借」などの表題になっている
- 売掛金を回収できなかったときに債権を買戻さなければならなない内容である
上記の場合、貸金業に該当する契約であるため、業者は財務局長または都道府県知事の貸金業登録をしていることが必要です。
無登録の業者が扱っている場合、相手はヤミ金融業者であるため契約を中止してください。
また、追加で「手付金」や「保証金」など、本来のファクタリング契約には存在しない費用を請求される場合も契約を取りやめましょう。
売掛債権を資金調達に活用するときは、信頼できる優良業者を選ぶようにしてください。
まとめ
経済産業省の推奨する債権流動化と呼ばれる方法は、たとえば売掛債権を担保とした融資を受けることや、売却して現金化するファクタリングなどが挙げられます。
売掛債権を資金調達に使ったことを売掛先に知られるてしまい、資金繰りが厳しい状態と懸念され、その後の取引等に影響が及ぶことは好ましくありません。
そこで国も、風評被害が利用促進の妨げになることを懸念し、売掛債権の利用促進は国の施策として制度普及に協力を呼び掛けています。
今後はより、売掛債権の利活用が活性化されることが期待されます。