約束手形とは?小切手との違いや仕訳・勘定科目をわかりやすく解説

約束手形とは、特定期日に決められた金額を支払うことを約束する有価証券です。

支払いに手形を利用する慣習が残る業界では、代金や報酬の支払いに約束手形を受け取ります。

約束手形なら、手元にお金がなくても支払いに使えるため、便利な決済方法である反面、不渡りなどで倒産危機に追い込まれる恐れもあるため注意が必要です。

そこで、約束手形とは何なのか、小切手との違いや仕訳、使用する勘定科目を解説します。

約束手形とは

「約束手形」とは、商取引における決済方法の1つであり、一定期日に代金を支払うことを約束するために振り出す手形です。

代金を支払う側である「振出人」が、代金を受け取る「受取人」に対して発行することで、決済完了となります。

手形を受け取った受取人は、手形に記載された指定期日に金融機関で現金に換金することができます。

大変便利な決済方法といえるものの、誰でも発行できるわけではなく、取引金融機関で当座預金の開設が必要です。

「当座預金」は事業用の決済口座で、利息のつかない決済用預金であり、仮に金融機関が破たんしても全額保護の対象となります。

当座預金の開設には、金融機関と当座勘定契約を結ぶことが必要ですが、信用力が高くなければ契約できません。

そのため約束手形を発行できることは、金融機関から信頼されている証ともいえます。

なお、約束手形は振出人と受取人で取引が完結するのに対し、「為替手形」では振出人・名宛人・指図人の3者が存在する違いがあります。

約束手形の仕組み

約束手形は振出人が受取人に対し、将来の一定期日に決められた金額を支払うことを約束するための証書です。

次の4つから、約束手形の仕組みを理解しましょう。

  1. 振り出す目的
  2. 手形サイトのルール
  3. 手形の裏書譲渡
  4. 手形の割引

それぞれ説明します。

振り出す目的

約束手形を振り出す目的は、掛けによる売掛金の支払いよりも支払期日を先延ばしできることです。

たとえばキャッシュフローの状況が思わしくない場合、仕入れ代金の支払いを数か月先まで、延ばし猶予を持たせることが可能となります。

ただし、決められた決済期日までに支払いに充てるお金が準備できず、「不渡り」を出すことで銀行取引が停止され、事実上の倒産とみなされます。

資金調達手段を失うだけでなく、社会的信用を失うことにもなりかねないため、便利さゆえに使いすぎないことが重要です。

手形サイトのルール

「手形サイト」とは、振出日から支払期日までの期間のことです。

通常は2か月(60日)から120日以内(4か月以内)が多く、30日・60日・90日・120日と1か月単位で決められます。

手形サイトに制限はないため、双方が納得すれば長期の手形を振り出すこともできます。

ただし下請取引では「下請法(下請代金支払遅延防止法)」により、可能な限り手形サイトは短期にすることとされています。

また、、下請事業者に対し、割引困難な手形を振り出すことも禁止です。

そのため手形サイトは120日以内とされており、将来的には60日以内まで短縮する努力規定も示されています。

下請法に触れる、長すぎる手形の振り出しはしないでください。

手形の裏書譲渡

「裏書譲渡」とは、手形を受け取った受取人が、手形の裏面に自身の名前と押印をし、さらに次の第三者へ譲渡して代金を決済することです。

約束手形は、決済日まで様々な企業を転々とすることもあります。

ただし裏書譲渡した手形が不渡りになったときは、手形を買い戻さなければなりません。

最後に裏書した方から順に買い戻すこととなり、最終的には振出人が買い戻すことになります。

手形の割引

手形の割引とは、受け取った約束手形を支払期日よりも前に現金化することです。

受取人や指図人が、資金繰りなどの都合で決済期日よりも前にお金が欲しいとき、金融機関に売却することで現金化できます。

金融機関では、手形の買い取りに関する審査を行います。

審査で重視されるのは、振出人の信用力や売却日から決済日までの期間です。

なお、現金として受け取りができるのは、額面金額から割引料を差し引いた額となります。

約束手形と小切手の違い

「小切手」とは、一定金額の支払いを約束する有価証券です。

小切手を受け取った受取人は、銀行に小切手を提示することで現金を受け取ることができます。

約束手形と小切手のどちらも、専用用紙に氏名や支払金額を記載することや、現金の代わりに代金の決済で使えることは共通しています。

ただし発行する理由や、受取人が現金化できるタイミングは異なります。

小切手は、その場に現金がないものの口座から引き出せばあるときなど、決済の事務的負担を省くことを目的に発行されます。

しかし約束手形は、決済期日を先延しを目的として発行されることがほとんどです。

小切手を受け取った後は、どのタイミングでも金融機関ですぐ現金化できます。

一方の約束手形は、指定された将来の決済期日にならなければ現金化できません。

なお、小切手も約束手形同様に、当座預金残高が不足していて引き落とし不能となった場合には不渡りとなります。

2回の不渡り発生で金融機関との取引が停止される仕組みとなっています。

約束手形を振り出すメリット

振出人からみた約束手形のメリットは、資金調達にかける期間を延ばしにできることです。

たとえば建設業などは、工事が完成し引き渡した後で報酬が支払われます。

しかし着工から入金まで6か月や1年など、長期に渡るときにはその間の資金繰りが悪化しがちです。

先行する外注費や材料代などの支払いに充てるお金がなければ、銀行から融資を受けるなど何らかの資金調達が必要となるでしょう。

このとき、代金の支払いを約束手形の振り出しで行い、引き落としされるまでの期日を先延ばしすれば、手形サイトの期間で資金の持ち出しを軽減できます。

約束手形を振り出すデメリット

支払期日を先延ばしにできる約束手形はとても便利ですが、デメリットとして不渡りによる倒産リスクを抱えることです。

手形決済日に、当座預金口座に手形額面以上の残高がなければ決済されず、不渡りになってしまいます。

1度の不渡りで倒産することはありませんが、半年以内に2度目の不渡りを出すと銀行取引は停止されます。

2度目の不渡りで銀行取引停止されれば、事実上の倒産です。

銀行口座を使った取引ができなくなるため、その後の決済はすべて現金で行わなければなりません。

不渡りを出した情報が取引先などに知れ渡れば、資金難に陥っていることを懸念し、取引停止や取引量の見直しをする恐れもあるといえます。

また、受取人も手形現金化のタイミングには注意が必要です。

約束手形には決済日が記載されるものの、決済日を含めた3営業日以内に換金しなければ効力を失います。

うっかり約束手形を銀行に取り立てることを忘れれば、現金化できないまま資金ショートに陥る恐れもあるため注意してください。

約束手形の仕訳・勘定科目

約束手形を代金の決済に利用したときや、反対に手形を決済代金として受け取ったときの会計処理も理解しておくことが必要です。

そこで、次の3つのケースの仕訳と勘定科目について、約束手形の振出人と受取人それぞれの立場における会計処理を説明します。

  1. 振り出したときの仕訳・勘定科目
  2. 不渡りになったときの仕訳・勘定科目
  3. 裏書譲渡するときの仕訳・勘定科目

振り出したときの仕訳・勘定科目

掛け取引で仕入れたときの代金500,000円を、取引先に対し約束手形を振り出し決済した場合の仕訳です。

振出人から見た手形は支払う約束をした証書である「支払手形」の勘定科目を使います。

借方 貸方
買掛金 500,000円 支払手形 500,000円

反対に取引先は、保有する仕入れ代金の売掛金を手形で受け取ります。

そのため、「受取手形」の勘定科目を使って仕訳処理します。

借方 貸方
受取手形 500,000円 売掛金 500,000円

不渡りになったときの仕訳・勘定科目

仕入れ代金の支払いとして振り出した手形が、期日を迎えて銀行に取り立て依頼を出したものの、決済されず不渡りになったときの仕訳処理は以下のとおりです。

【受取人側の不渡手形の仕訳処理】

借方 貸方

不渡手形 501,000円

 

普通預金 501,000円

受取手形 500,000円

現金 1,000円

不渡手形 501,000円

【振出人側の不渡手形の仕訳処理】

借方 貸方

支払手形 500,000円

雑費 1,000円

現金 501,000円

「不渡手形」には、延長分の利息や償還にかかった費用など、償還請求費用を含めなければなりません。

そのため不渡手形の金額は、以下の計算式で算出します。

 

不渡手形の金額 = 手形代金 + 償還請求費用

 

裏書譲渡するときの仕訳・勘定科目

手形の「裏書譲渡」とは、受取手形を満期日よりも前に他社に渡すことで、たとえば買掛金の支払いのため受取手形を他社に譲渡します。

裏書譲渡した場合の仕訳処理方法としては、次の2つのいずれかです。

【直接法による仕訳処理】

借方 貸方
現金 500,000円 受取手形 500,000円

【間接法による仕訳処理】

借方 貸方
現金 500,000円 裏書手形 500,000円

まとめ

経済産業省の方針で、約束手形は2026年を目処に廃止されることが予定されています。

ただ、商慣習で約束手形を代金決済手段として今でも使っている業界はあります。

決済代金として受け取った約束手形は、裏書譲渡すれば別の代金の支払いに利用することもでき、手形割引を利用すれば現金化して手元のお金を増やすこともできます。

ただし期日に手形が口座から引き落としされず不渡りとなった場合、振出人と受取人どちらも大きなリスクを抱えます。

そのため約束手形を決済で利用するときには、仕組みをしっかりと理解しておくことが大切です。