商品を販売した売掛先から代金を支払ってもらう状態にあるとき、自社と売掛先は債権者なのか債務者なのか混乱することもあるでしょう。
「債権」とは特定の人に対し、特定の行為や給付を請求できる権利であり、金銭の支払いを求めることもその1つです。
反対に「債務」とは、債権者が請求する一定の行為や給付を提供する義務といえます。
そこで、債権と債務の関係とはどのような状態にあるのか、売掛金が未回収にならないために押さえておきたいポイントを徹底解説していきます。
目次
債権・債務とは
「債権」とは、特定人に対し一定の行為・給付を提供することを請求する法定権利であり、債権を有するのが「債権者」です。
もう一方の「債務」とは、債権を請求される側であり、特定人に対し一定行為や給付を提供しなければならない法的義務のことで、債務を負う義務者が「債務者」となります。
要求する権利があるのが債権者、要求され実行しなければならないのが債務者といえるでしょう。
たとえば典型的な民事訴訟などの場合、債権者が債務者に対し債務を履行するように求めることや、履行されなかったときの責任を問うことなどで争います。
契約の種類ごとの債権・債務の関係
債権と債務は契約により発生しますが、不当利得や不法行為などでも発生することがあります。
そこで、債権と債務の関係を次の4つの契約ごとに説明していきます。
双務契約による債権・債務
契約を結んだ当事者がどちらも債権者でもあり債務者でもある契約が「双務契約」です。
双務契約の代表例として次の2つが挙げられます。
- 売買契約
- 労働契約
それぞれの契約における債権・債務について説明していきます。
売買契約
商品を売る側と買う側で結ぶ「売買契約」では、購入者は販売者に対し商品引き渡しを請求する債権があると同時に、代金を支払わなければならない債務が発生します。
反対に販売者は購入者に商品を引き渡す債務があると同時に、商品代金を請求する債権を保有します。
労働契約
人を雇用する事業主と雇われる労働者が結ぶ「労働契約」では、事業主は労働者に対し働くことを求める債権があると同時に、労働対価に見合う賃金を支払う債務を負います。
反対に労働者は、事業主に労働を提供する債務を負うのと同時に、給与を請求する債権も保有します。
片務契約による債権・債務
一方のみが債権者で、もう一方は債務者である契約が「片務契約」です。
片務契約の代表的な例として次の2つが挙げられます。
- 贈与契約
- 消費貸借契約
それぞれの契約における債権・債務の関係について説明していきます。
贈与契約
商品を無料で譲り渡す「贈与契約」を結んだ場合、贈与者は受贈者に商品を引き渡す債務を負いますが、受贈者は贈与者に商品を引き渡すように請求する債権を保有します。
贈与者は受贈者に対する債権は何もなく、受贈者も贈与者に対する債務を負いません。
消費貸借契約
借主が貸主から消費する目的でモノを借り、借りた物をそのままの状態で貸主に返す契約が「消費貸借契約」です。
お金が足らず金融会社から借入れしたとき、お金を借りた債務者は金融会社に対し返済する債務を負うのに対し、金融会社は債務者に返済を求める債権を保有します。
反対に債務者は金融会社に対する債権はなく、金融会社も債務者に対する債務を保有しまません。
相殺による債権・債務
互いに対し発生している債権と債務を差し引きして帳消しにすることが「相殺」です。
相殺の例として挙げられるのは次の2つといえるでしょう。
- 破産手続による相殺
- 合併による相殺
それぞれ説明していきます。
破産手続による相殺
売掛先が売掛金を支払わないまま倒産し、破産手続を行ったとします。
しかし売掛先は買掛先でもあったとしても、売掛債権はなくなるものの、買掛債務はなくなりません。
この場合、売掛債権と買掛債務を相殺することにより、債務弁済する義務はなくなります。
合併による相殺
売掛金が発生している売掛先を吸収合併することになった場合、自社と債務者である売掛先は一つの会社となるため、互いに抱えている債権・債務は相殺されることになります。
相続による債権・債務
亡くなった方の権利や義務など財産を特定の人が引き継ぐことを「相続」といいます。
相続人は亡くなった被相続人の財産のうち、債権だけを引き継ぐことはできません。
債権を相続する場合には債務も引き継ぐことが必要となるため、相続できる債権と債務それぞれの額を確認し、相続するか放棄するか判断するべきといえるでしょう。
債権者が債務者に対し行えること
債権の効力について、債権者が債務者に対し行うことができることは次の6つです。
- 損害賠償請求権
- 給付保持力
- 貫徹力
- 掴取力
- 訴求力
- 契約解除
それぞれ説明していきます。
①損害賠償請求権
約束どおりに債務が履行されなかったため、債権者に損害が発生したときに債務者に対しその賠償金を請求できるのが「損害賠償請求権」です。
②給付保持力
債務者から受けた給付が不当利益でない場合には、債権者がそのまま保持することを可能とするのが「給付保持力」です。
給付に返還義務はなく、法的手続を介することで債務者の財産所有権を債権者に移すこともできます。
③貫徹力
執行力の1つで債権の給付内容を強制請求できる効力が「貫徹力」です。
たとえば代金を支払ったのにも関わらず商品の引き渡しがなかったとき、強制力を持ち注文品の引き渡しを請求できます。
④掴取力
債権の給付内容を強制請求できることに加え、債務者の財産を差し押さえることができる効力を「掴取力」といいます。
貫徹力に加え債務者の財産を没収できる効力であり、財産の差し押さえにより強制的に支払いや返済させることができます。
⑤訴求力
約束どおりに債務が履行されないとき、訴訟により裁判所で債権の権利を認めてもらうことを「訴求力」といいます。
判決により、貫徹力や掴取力など強制執行が可能です。
⑥契約解除
決められた約束どおりに債務が履行されなかったときには、債権者はその契約を最初から存在しなかったことと同じ状態にする「契約解除」が可能です。
債務不履行とは
「債務不履行」とは、債務を負っているのにもかかわらず、故意や過失により履行しないことを意味します。
購入した商品が届かないことや、商品が届いているのに支払いしないことなども債務不履行に該当するといえるでしょう。
債務不履行には次の3つの類型があります。
- 履行不能
- 履行遅滞
- 不完全履行
それぞれ説明していきます。
履行不能
債務を履行することができないことを「履行不能」といいますが、例を挙げると売主の過失で商品を焼失させ引き渡しができなくなったケースなどです。
どのような手段でも債務が履行できない場合を履行不能というため、金銭債務の履行不能は認められていません。
履行遅滞
期日を過ぎたことで履行が間に合わなかった場合が「履行遅滞」で、たとえば借金を期日までに返済できなかったケースが該当します。
不完全履行
履行そのものはされたものの、完全ではなかった場合が「不完全履行」です。
商品を購入したものの納品数が不足していた場合や、支払いはあったものの不足が発生していたときなどが該当します。
債権未回収を防ぐポイント
売掛金が発生していれば、売掛先は期日に代金を支払うという義務を負います。
期日になっても入金がないという状況を作らないためにも、債権未回収を防ぐ次の つのポイントを押さえておきましょう。
- 早めの回収を徹底する
- 契約内容を確認しておく
それぞれのポイントについて解説していきます。
早めの回収を徹底する
売掛債権が未回収にならないために、早めの回収を徹底しましょう。
もしも売掛先から期日に入金がない場合や、支払日を伸ばしてほしいと相談があったときには、すでに資金繰りが厳しい状況にある可能性が高いといえます。
安易に期日を引き延ばしてしまうと、先に別の支払いを優先されてしまい、なかなか入金してもらえなくなってしまいます。
経営難に陥っていれば、今後、財務状況がさらに悪化するリスクが高く、倒産してしまえば売掛金は貸し倒れとなり回収できません。
売掛先の資金繰りが悪化している不安を感じたときには迷わず債権回収に動くようにし、取引量の制限や掛けではなく現金決済に変更するなど見直しも検討したほうがよいでしょう。
契約内容を確認しておく
売掛先との契約内容について、次の内容を確認しておきましょう。
- 当事者名と請求先が一致しているか確認する
- 期限前に内容証明は送付できないため支払期限はいつか確認する
- 支払いが遅れたときは債権を一括で支払う保証をした利益喪失条項が付されているか確認する
- 支払いが遅れたときに債務者と同等責任を負う連帯保証人がついているか確認する
- 債務不履行など発生したときどこの裁判所で争う契約になっているか合意管轄の条項を確認する
売掛先と債務不履行を巡るトラブルが起きてしまったときには、上記の内容によりその後の対応が変わってくるため、必ず事前に確認しておくようにしてください。
まとめ
債務とは特定の人に特定行為や給付を提供する義務のことであり、債権とは特定の人に特定行為や給付を請求できる権利を意味しています。
そして契約により約束した義務を果たさないことを債務不履行といい、お金を支払う約束をしていたのに約束通りの期日に支払いがなければ債務不履行となります。
売掛先から期日に入金がない場合も債務不履行となりますが、事前に察知することは簡単なことではありません。
仮に債務不履行が生じた場合には、完全な履行をするよう請求できるものの、売掛先が倒産すれば売掛金は回収できなくなります。
売掛金未回収は貸し倒れリスクを高めることであり、最悪の場合には売掛先と共倒れとなり連鎖倒産するリスクも高くなることを留意しておくべきでしょう。
そのためにも債権と債務の関係を十分に理解しておき、売掛先の与信管理と売掛金回収を徹底して行うようにすることが大切です。