個人事業主または法人のどちらの場合でも、毎年度の収支を計算し税金を納める申告手続は必須ですが、ファクタリングを利用したときは何を経費にすればよいか処理に悩む経営者や経理担当者は少なくないようです。
正確に何を経費として計上できるか把握できていなければ、せっかくファクタリングで資金を調達しても無駄な税金を納めることとなり、手元の資金を減少させることとなるでしょう。
ただ、ファクタリングで資金調達した場合は、複雑な会計処理はないため何を経費にするべきか難しく考える必要はありません。
そこで、ファクタリングを利用したときの経費処理の方法や、どの勘定科目を使用するかについて解説していきます。
目次
ファクタリングの経費処理
ファクタリングは資金を調達するときに利用される方法ですが、売掛金を売却して資金化する方法のため、事業用資金を借り入れたときと同じ経費処理にはなりません。
融資を受けて資金を調達したときには、その借入金を1年以内で返済するなら「短期借入金」、1年を超えて返済するなら「長期借入金」の勘定科目を使って仕訳します。
また、契約の際の振込手数料や収入印紙はそれぞれ「租税公課」と「支払手数料」で経費として計上し、毎月の返済で支払った利息は「支払利息」として計上することになります。
ファクタリングの場合も同様に仕訳を立てていくことが必要ですが、普段からなじみのある勘定科目で処理をしないため、困惑する場合もあることを留意しておきましょう。
ファクタリングの種類による経費処理の違い
ファクタリングの経費処理は、どのファクタリングを契約するかによって異なります。
売掛金を売却するファクタリングの契約方式は次の2つです。
- 2社間ファクタリング 利用者とファクタリング会社の2社による契約方式
- 3社間ファクタリング 利用者・ファクタリング会社・売掛先の3社による契約方式
どちらの契約方式かによって経費処理が異なるのは、現金化された売掛金がどのように回収されるかなどお金の流れに違いがあるからといえます。
2つの契約方式による違いを理解するために、売掛金の現金化される契約方式や、その後入金されるときのタイミングなど意識して経費処理を理解するようにしましょう。
2社間ファクタリングの経費処理方法
2社間ファクタリングで契約に関係するのは、利用者とファクタリング会社のみであるため、次のような流れで手続が進みます。
- ファクタリング会社に申し込み
- ファクタリング会社による審査
- 利用者とファクタリング会社による契約締結
- 現金化された買取代金が利用者へ入金
- 売掛先から利用者に対し売掛金の支払い
- 利用者からファクタリング会社に対し回収した売掛金の支払い
この流れにおける経費処理のポイントとなるのは、買取代金が入金されるタイミングです。
売掛先が契約に関与しない手続となるため、ファクタリング会社によっては即日対応が可能な場合もあります。
そのため現金化された買取代金が、次の2つのどちらに該当するかによって経費の扱いや経理処理が異なります。
- 翌日以降に入金される場合の経理処理
- 即日入金される場合の経理処理
それぞれのどのような処理方法か説明していきます。
翌日以降に入金される場合の経理処理
ファクタリングにより現金化された買取代金が、契約当日ではなく翌日以降に入金される場合には次のような経理処理となります。
- 信用取引による売掛金発生時
- ファクタリング契約時
- 買取代金が入金されたとき
- 売掛先から売掛金を回収したとき
- ファクタリング会社に売掛金を支払ったとき
それぞれの経理処理や仕訳の立て方について説明していきます。
①信用取引による売掛金発生時
ファクタリングを利用するかは関係なく、商品やサービスの売買などで信用取引を行ったとき、通常の会計処理と同じように請求書を発行したとき次の仕訳を立てます。
借 方 | 貸 方 |
売掛金 100万円 | 売上 100万円 |
なお、ファクタリング会社にファクタリングを申し込んだときと審査が行われたときには、資産に何の動もないため経理処理は特にありません。
②ファクタリング契約時
ファクタリング会社に売掛債権を譲渡する契約締結の際には、保有する「売掛金」がファクタリング会社に移ります。
売掛金をファクタリング会社に譲渡しても、その買取代金を受け取っていないときには、入金があるまで「未収入金」で処理をします。
借 方 | 貸 方 |
未収入金 100万円 | 売掛金 100万円 |
③買取代金が入金されたとき
ファクタリング契約締結後は、ファクタリング会社から利用者に対し買取代金が支払われます。
このとき、ファクタリング会社に対し「手数料」を支払いますが、その際に用いる勘定科目は「売掛債権売却損」です。
たとえば売掛金100万円をファクタリング会社に譲渡し、一旦「未収入金」で計上した後買取代金が支払われたとき、手数料5万円を差し引かれたケースでは次のような仕訳を立てます。
借 方 | 貸 方 |
現金・預金 95万円 | 未収入金 100万円 |
売掛債権売却損 5万円 |
④売掛先から売掛金を回収したとき
2社間ファクタリングでは、売掛先から売掛金を回収するのは利用者です。
しかし回収した売掛金はすでにファクタリング会社に譲渡されたもののため、売掛先から入金があったときの勘定科目はは「預り金」を使います。
借 方 | 貸 方 |
現金・預金 100万円 | 預り金 100万円 |
⑤ファクタリング会社に売掛金を支払ったとき
売掛先から売掛金を回収した後は、すみやかにファクタリング会社に支払うことが必要ですが、その際には次のような仕訳を立てます。
借 方 | 貸 方 |
預り金 100万円 | 現金・預金 100万円 |
即日で入金される場合の経理処理
ファクタリングによる資金調達で、契約締結と入金が同じ日に行われるときには、次の2つの経費処理をまとめて行います。
- ファクタリング契約締結時
- 買取代金が入金されたとき
そのため次のような経理処理の流れとなります。
- 信用取引による売掛金発生時
- ファクタリング契約時
- 売掛先から売掛金を回収したとき
- ファクタリング会社に売掛金を支払ったとき
それぞれの経理処理方法や仕訳の立て方について説明していきます。
①信用取引による売掛金発生時
先に述べた通り、ファクタリング利用に関係なく信用取引では次の仕訳を立てます。
借 方 | 貸 方 |
売掛金 100万円 | 売上 100万円 |
②ファクタリング契約時
ファクタリング会社とファクタリング契約を結んだ日に買取代金が支払われた場合、一旦「未収入金」で処理することは不要となるため、次のような仕訳を立てることになります。
借 方 | 貸 方 |
普通預金 95万円 | 売掛金 100万円 |
売掛債権売却損 5万円 |
③売掛先から売掛金を回収したとき
2社間ファクタリングでは、利用者が売掛先から売掛金を回収しますが、あくまでも利用者はファクタリング会社に回収業務を代行するのみです。
そのため売掛先から売掛金の入金があった場合、「預り金」の勘定科目を使って次の仕訳を立てます。
借 方 | 貸 方 |
現金・預金 100万円 | 預り金 100万円 |
④ファクタリング会社に売掛金を支払ったとき
売掛先から回収した売掛金はファクタリング会社に譲渡されている預り金のため、回収後はすみやかにファクタリング会社に支払います。
借 方 | 貸 方 |
預り金 100万円 | 現金・預金 100万円 |
3社間ファクタリングの経費処理
3社間ファクタリングでは、利用者とファクタリング会社だけでなく、売掛先も契約に関与することになります。
そのため売掛先に対するファクタリング利用の通知や、売掛債権をファクタリング会社に譲渡することについて承諾を得る手続が必要です。
2社間ファクタリングよりも手続が増える分、手間や時間がかかってしまいますが、手数料は大きく引き下がることがメリットといえるでしょう。
3社間ファクタリングでは、主に次のような流れで手続が進んでいきます。
- ファクタリング会社へ申し込み
- ファクタリング会社による審査
- 売掛先に対する通知と承諾を得る手続
- ファクタリング契約締結
- 現金化された買取代金が利用者へ入金
- 売掛先からファクタリング会社に対し売掛金の支払い
3社間ファクタリングでは、売掛金の支払いは売掛先からファクタリング会社に直接行われます。
そのため次の2つの仕訳は必要ありません。
- 売掛先から売掛金を回収したとき
- ファクタリング会社に売掛金を支払ったとき
なお、3社間ファクタリングの場合も、契約と同日に買取代金が入金されるときと、後日入金される場合では経理処理が異なります。
そこで、次の2つについてそれぞれ説明していきます。
- 翌日以降に入金される場合の経理処理
- 即日入金される場合の経理処理
翌日以降に入金される場合の経理処理
ファクタリングによる売掛金の買取代金が翌日以降に入金される場合には、次のような経理処理の流れとなります。
- 信用取引による売掛金発生時
- ファクタリング契約時
- 買取代金が入金されたとき
それぞれの処理方法や仕訳の立て方について説明していきます。
①信用取引による売掛金発生時
ファクタリング利用に関係なく、信用取引を行ったときには次の仕訳を立てます。
借 方 | 貸 方 |
売掛金 100万円 | 売上 100万円 |
なお、2社間ファクタリングのときと同じように、ファクタリング会社に対する申し込みや審査のときには資産に動きがないため、会計処理は特にありません。
②ファクタリング契約時
ファクタリング会社と契約を結んだものの、買取代金は後日支払われるという場合には、入金されるまでの間は「未収入金」で処理します。
借 方 | 貸 方 |
未収入金 100万円 | 売掛金 100万円 |
③買取代金が入金されたとき
ファクタリング契約締結後、ファクタリング会社から買取代金を受け取るときには「手数料」が差し引かれます。
その際、手数料は「売掛債権売却損」の勘定科目で処理してください。
たとえば売掛金100万円をファクタリング会社に譲渡したとき、5万円の手数料が差し引かれるときには次の仕訳を立てます。
借 方 | 貸 方 |
現金・預金 95万円 | 未収入金 100万円 |
売掛債権売却損 5万円 |
即日入金される場合の経理処理
ファクタリングの契約を締結した日に買取代金が入金された場合には、次の2つをまとめて経理処理できます。
- ファクタリング契約時
- 買取代金が入金されたとき
そのため経理処理は次の2つの流れとなります。
信用取引による売掛金発生時
ファクタリング契約時
それぞれの経理処理と仕訳の立て方について説明していきます。
①信用取引による売掛金発生時
ファクタリング利用に関係なく、信用取引では次の仕訳を立てます。
借 方 | 貸 方 |
売掛金 100万円 | 売上 100万円 |
②ファクタリング契約時
ファクタリング契約と同日に買取代金が入金となる場合、入金まで「未収入金」で処理する必要はありませんので、次の仕訳を立てることになります。
借 方 | 貸 方 |
普通預金 95万円 | 売掛金100万円 |
売掛債権売却損 5万円 |
ファクタリングにおける経費処理のポイント
以上のことから、ファクタリングで資金を調達したときの経費処理は、主に次の2つをポイントとして押さえておくことが必要です。
- 手数料は「売掛債権売却損」で処理
- 会計期間をまたぐときの「期ズレ」に注意
それぞれのポイントについて説明していきます。
手数料は「売掛債権売却損」で処理
ファクタリングで資金調達するとき、ファクタリング会社に支払う「手数料」は経費として「売掛債権売却損」で計上できます。
手数料はファクタリング会社ごとに設定が異なるものの、次の2つのケースに分けることができると考えられます。
- 諸経費をすべてまとめて「手数料」として請求するケース
- 基本手数料・事務手続費用・審査費用・登記費用などそれぞれ請求するケース
ただ、すべての費用を手数料として一括で請求するケースと個別に請求するケース、どちらの場合も「売掛債権売却損」として処理しましょう。
売掛債権売却損とは、売掛債権を売却したことにより発生した損失のことのため、たとえば手形割引で使用する「割引料」で経費処理することや「雑損失」で処理しても問題ありません。
会計期間をまたぐときの「期ズレ」に注意
ファクタリングで資金調達したとき、もっとも注意したいのは買取代金が後日支払われるときに、会計期間をまたいでしまうケースです。
経費の処理は会計期間に基づいて行うことが必要となるため、翌期に計上しなければならない経費を当期に計上することは認められません。
そのため後日買取代金が入金されるケースで会計期間をまたいでしまうときには、ファクタリング会社に「手数料」を支払うのも「売掛債権売却損」を計上するのも翌期となります。
入金前に「売掛債権売却損」で経費処理しておけば、法人税の節税につながるといえますが、意図的な「期ズレ」は粉飾の一種とされ厳しく確認されます。
この「期ズレ」による粉飾リスクを避けるためには、次の3つに注意してファクタリングを利用することを意識すると安心です。
- 期ズレが発生しそうなタイミングでファクタリングを利用しない
- 期ズレが発生しそうなタイミングでのファクタリング利用は2社間ファクタリングを利用する
- 会計期間をまたぐときには会計ルールに基づいた経費処理で期ズレを防ぐ
「期ズレ」は粉飾扱いとなり認められませんので、後々のトラブルを防ぐためにも正しい経理処理を心掛けるようにしましょう。
まとめ
ファクタリングで資金を調達したものの、何を経費として扱えばよいのか、どのような仕訳の立て方になるのかわからず戸惑うことはあるでしょう。
2社間ファクタリングと3社間ファクタリングのどちらで契約するのか、いつ買取代金が入金されたかによって経理処理は異なります。
もし経費の扱いや会計処理方法で不安があるときには、資金を調達するときにファクタリング会社に相談してみるとよいでしょう。