売掛金は請求書を発送することで発生しますが、消滅時効に注意が必要です。
請求したものの回収できていない売掛金がある場合、いつ発生した債権なのかによって、2年または5年で消滅時効を迎えます。
そのため消滅時効が成立する前に売掛金を回収することが必要ですが、請求漏れなどあった場合にも適切な対処が必要です。
そこで、請求書の消滅時効について、売掛金の請求期限や債権消滅までの年数を解説していきます。
目次
請求書の消滅時効とは
請求書の消滅時効とは、売掛金の請求権を失うことです。
消滅時効とは、特定の出来事から一定期間が経過したことを尊重して、状態に即した権利関係を確定させることです。
売掛金にも消滅時効はあり、請求書を発送したまま回収できない状態が続いたり請求漏れがあったりした場合、消滅時効が成立することで請求権を失います。
そのため未回収の売掛金を請求する権利がある場合でも、何のアクションも起こさず一定年数が経過すれば、請求できなくなると留意しておいてください。
売掛金の消滅時効は?期間や更新する方法や未払い発生への対応方法
売掛金が消滅するまでの年数
売掛金の消滅時効の年数は、2020年(令和2年)に民法が改正されたため、改正前と改正後で異なります。
旧民法による消滅時効は、職業ごとに短期時効が設定されていました。
しかし2020年(令和2年)からの新民法では、旧民法により細かく分類された年数は廃止されています。
まず「旧民法」とは2020年(令和2年)3月31日以前までの民法です。
旧民法による債権の消滅時効は原則10年でしたが、以下のとおり職業ごとに短期消滅時効が定められていました。
消滅時効期間 | 債権の種類 |
1年 | ・タクシー運賃などの債権 ・飲食店でのツケ払いなどの債権 ・貸衣装や貸本などの短期による動産の賃貸借における賃料 |
2年 | ・理美容・クリーニング・洋裁・和裁などの業種による債権 ・学校・塾・家庭教師の授業料や教材費などの債権 |
3年 | ・工事の請負代金債権などの債権 ・交通事故などの損害賠償請求権 |
5年 | ・詐欺・脅迫などを受けた意思表示した場合に認められる取消権 ・地代・家賃などの債権 |
民法以外でも、商法・手形法・労働基準法などで以下のとおり短期消滅時効は異なっていました。
消滅時効期間 | 債権の種類 |
1年 | ・運送取扱人などの責任(商法) ・為替手形を所持する人の振出人・裏書人に対する請求権(手形法) ・約束手形を所持する人の裏書人に対する請求権(手形法) |
2年 | ・使用者に対する労働者の賃金請求権(労働基準法) |
3年 | ・為替手形を所持する人の引受人に対する請求権(手形法) ・約束手形を所持する人の振出人に対する請求権(手形法) |
5年 | ・商事債権(商法) ・使用者に対する労働者の退職金請求権(労働基準法) |
次に「新民法」は2020年(令和2年)4月に改正された民法です。
同時に債権法が改正されたことで、旧民法の短期消滅時効は廃止となり、債権の消滅時効は次のどちらか早いタイミングとされています。
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上記の「債権者が権利を行使できるとき」とは、客観的起算点と呼ばれており、権利を行使する上での障害が法律上なくなったときです。
支払期限のある債権で、まだ期限到来前の状態などが該当します。
「債権者が権利を行使できることを知ったとき」とは、主観的起算点と呼ばれており、上記の状態を知ったときです。
多くの場合、売掛金を請求できる債権者は、客観的に権利行使できるタイミングを認識していると考えられるため、5年の消滅時効が適用されると認識してよいでしょう。
請求書を出し忘れていた場合の対処法
取引先宛に発送しなければならない請求書を出し忘れていたとき、相手は請求されていない状態です。
キャッシュフローにも影響を及ぼすため、早急に以下の3つで対処しましょう。
- 発送ミスを上司と先方へ伝える
- 再発行した請求書を送付する
- 原因究明と改善策を検討する
それぞれ説明します。
発送ミスを上司と先方へ伝える
請求書を出し忘れたことに気がついたときは、まずは取引先へ送付できていなかったことを上司に報告し、すぐに先方へも伝えましょう。
売掛金が入金されないことは当然問題といえますが、同時に取引先にも迷惑をかけている状態です。
請求書が送付されていないことで、急な請求が発生してしまったことを取引先にまずは謝罪することが大切といえます。
再発行した請求書を送付する
取引先に請求書の出し忘れを伝えた後は、再度発行した請求書を送付するなど届けることが必要です。
再発行の際には新たな入金期限を記載することが必要となるため、いつまでに入金してもらうか取引先と調整することも必要となります。
原因究明と改善策を検討する
なぜ請求書が未送付だったのか、原因を究明し再発を防ぐための改善策を検討しましょう。
ヒューマンエラーの場合、同じミスを繰り返す恐れもあるため、取引先に同じ迷惑をかけないためにも事務作業の流れを見直すことが必要です。
時効の完成猶予とは
「時効の完成猶予」とは、消滅時効の完成が一定期間は先延ばしされることです。
消滅時効期間が過ぎるまでに「時効の完成猶予」事由が発生すれば、請求する権利は消滅しません。
ただし「時効の完成猶予」は、一定事由の終了まで一時的に時効完成を引き延ばせるだけであり、消滅時効期間がリセットされるわけではないと認識しておきましょう。
以上を踏まえた上で、民法による「時効の完成猶予」となるケースは以下のとおりです。
- 裁判上の請求等
- 強制執行等
- 仮差押え等
- 裁判外の催告
- 協議を行う旨の書面による合意
- 未成年者または成年被後見人
- 夫婦間の権利
- 相続財産
- 天災
それぞれ説明します。
裁判上の請求
売掛金の「時効の完成猶予」事由として、「裁判上の請求」が挙げられます。
「裁判上の請求」とは、裁判所に訴訟を提起することです。
消滅時効は、以下の事由が終了するまで完成しません。
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取り下げや却下などがあっても、6か月経過するまでは「時効の完成猶予」の対象です。
また、勝訴確定による確定判決では、確定した日に消滅時効は更新されます。
そのため裁判上の請求等は、「時効の完成猶予」事由であり、時効の更新事由でもあるといえます。
強制執行
売掛金の「時効の完成猶予」事由として、「強制執行」が挙げられます。
「強制執行」とは、債務者の財産を差し押さえることで強制的に債権を回収するための手続です。
以下の手続があったとき、「時効の更新」で消滅時効期間は一旦リセットされます。
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ただし取り下げや取り消しにより、上記が終了したときには、6か月の「時効の完成猶予」の対象となるものの、時効の更新はされません。
そのため強制執行等も、「時効の完成猶予」事由であり、時効の更新事由でもあるといえます。
仮差押え等
売掛金の「時効の完成猶予」の事由として、「仮差押え等」が挙げられます。
「仮差押え等」とは、銀行口座や不動産などの財産を仮で差し押さえることで、強制的に債権を回収するための手続です。
事由が終了して6か月経過するまでは、消滅時効は完成しないとされています。
裁判外の催告
売掛金の「時効の完成猶予」の事由として、「裁判外の催告」が挙げられます。
「裁判外の催告」とは、債権者から債務者へ容証明郵便を使って請求することです。
この催告から6か月経過するまでは、「時効の完成猶予」の対象となります。
ただし催告による「時効の完成猶予」中、再度、催告をすればさらに6か月延長できるわけではなく、一度のみ使える方法です。
協議を行う旨の書面による合意
売掛金の「時効の完成猶予」の事由として、「協議を行う旨の書面による合意」が挙げられます。
債権者と債務者で協議をすることを書面で合意したときには、次のいずれかはやいタイミングまで「時効の完成猶予」の対象となります。
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この「協議を行う旨の書面による合意」で「時効の完成猶予」中、再度合意をすれば猶予期間は延長されます。
ただし延長は当初時効完成するはずだったときから起算して最長5年までです。
催告で「時効の完成猶予」中、「協議を行う旨の書面による合意」を行ったときには、猶予期間は延長されないので注意しましょう。
未成年者または成年被後見人
売掛金の「時効の完成猶予」の事由として、「未成年者または成年被後見人」であることが挙げられます。
時効期間満了前6か月以内に、未成年者または成年被後見人に法定代理人がいなければ、消滅時効期間中の請求権行使による時効の更新は難しいといえます。
そこで、以下のどちらかのタイミングから6か月経過までは、未成年者または成年被後見人に消滅時効の完成はしないとされています。
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夫婦間の権利
売掛金の「時効の完成猶予」の事由として、「夫婦間」であることが挙げられます。
夫婦間での「時効の更新」は事実上困難と考えられるためであり、民法第159条で夫婦の一方が他の一方に有する権利は、婚姻解消から6か月経過するまで消滅時効は完成しないと規定しています。
相続財産
売掛金の「時効の完成猶予」の事由として、「相続財産」であることが挙げられます。
相続財産の管理権者が不存在のときに「時効の更新」はできないため、以下の3つから6か月経過までは時効は完成しません。
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天災
売掛金の「時効の完成猶予」の事由として、「天災」があったときが挙げられます。
天災や震災などで、「裁判上の請求等」や「強制執行」などによる「時効の更新」が難しいとき、障害が消滅した日から3か月経過まで時効は完成しません。
時効の更新とは
「時効の更新」とは、以下の事由により消滅時効期間がリセットされ、新たにゼロからスタートすることです。
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これまで経過した消滅時効期間はリセットされ、更新から新たに時効期間が開始します。
そのため「時効の更新」を繰り返せば消滅時効の成立を阻止し続けることも可能です。
「時効の完成猶予」は一定の事由が終了するまで消滅時効の完成を引き延ばすことであるのに対し、「時効の更新」では消滅時効期間がリセットされる強力な時効回避対策といえます。
未入金の売掛金が発覚したときの対処法
売掛金の消滅時効は、「時効の完成猶予」や時効の更新により、成立までの期間を引き延ばしたり阻止したりすることができます。
そのため未入金の売掛金がある場合、入金されていない状態が続くときには、回収するための対処法が必要です。
そこで、消滅時効が成立する前に、請求内容を確認した上で以下の7つを実行しましょう。
- 担当者に確認する
- 内容証明郵便を送る
- 債務の存在を認めさせる
- 協議継続を合意させる
- 民事調停を申立てる
- 支払督促を申立てる
- 訴訟を提起する
それぞれの対処法について説明します。
売掛債権の時効とは?期間や成立を阻止する方法をわかりやすく解説
担当者に確認する
未入金の売掛金の消滅時効が成立してしまう前に、まずは担当者に請求書が届いているのか、なぜ支払いがされていないか確認しましょう。
送ったはずの請求書が何らかの理由で届いていない場合、入金予定日などを担当者に確認の上、再発行して発送します。
手元に届いているのに未払いの場合は、いつまでに支払ってもらえるのか確認するなど、期限を設定して約束を取り付けましょう。
内容証明郵便を送る
未入金の売掛金の消滅時効が成立してしまう前に、内容証明郵便で催促しましょう。
担当者に期限を設定した上で支払いの約束を取り付けたはずが、未払いの状態が続いている場合、内容証明郵便による「催告」で消滅時効までの期間を6か月延長できます。
ただし延長は1度しか認められないため、消滅時効が迫っている場合は提訴や督促の申立てによる法的手段が必要です。
債務の存在を認めさせる
未入金の売掛金の消滅時効が成立してしまう前に、取引先に債務の存在を認めさせましょう。
取引先が売掛金の未払いを消滅時効前に認める以下の「債務の承認」があれば、消滅時効期間はリセットします。
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協議継続を合意させる
未入金の売掛金の消滅時効が成立してしまう前に、協議を継続して行うことを書面で合意してもらいましょう。
催告で取引先との合意ができなかった場合でも、未払いの売掛金の支払いに関する協議を書面で合意できれば、消滅時効を延長できます。
消滅時効を延長できる期間は以下のとおりです。
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なお、書面の合意による延長は改正された民法で新たに設けられているため、2020年4月1日以降の商取引にのみ適用されます。
民事調停を申立てる
未入金の売掛金の消滅時効が成立してしまう前に、民事調停を申立てましょう。
「民事調停」とは、裁判官と調停委員会が当事者双方の言い分を聞いて、話し合いで解決を図る裁判外の手続です。
申立てに特別な法律知識は必要なく、誰でも手続できます。
当事者同士の話し合いが基本となるため、裁判でもめるのではなくできる限り円満に解決したいときの手続として利用するとよいでしょう。
支払督促を申立てる
未入金の売掛金の消滅時効が成立してしまう前に、簡易裁判所へ「支払督促」を申し立てましょう。
「支払督促」とは、簡易裁判所を介して債務者へ金銭の支払いを命じる手続きです。
取引先に支払督促が発付され、受け取りから2週間以内に異議申立てがなかったときには、強制執行で財産を差し押さえできます。
異議申立てがあれば民事訴訟へ移行します。
訴訟を提起する
未入金の売掛金の消滅時効が成立してしまう前に、「訴訟」を提起しましょう。
請求額が60万円以下の場合、すべての審理が1日で終わる少額訴訟で回収を図ることができます。
早期解決が可能であり、和解調書に強制執行力があるため、入金されないときには財産を差し押さえることも可能です。
額が大きいときは通常訴訟となるため、専門的な法的知識やノウハウなどが必要となり、弁護士などに相談することが必要となるでしょう。
まとめ
売掛金の消滅時効は、2020年4月1日以降に発生した債権については5年で、2020年3月31日までの債権は2年です。
そのためまだ支払われていない売掛金がある場合は、取引先に発行した請求書の日付に注意しましょう。
早期回収が必要といえますが、長年に渡り付き合いのある取引先などには相手の状況も見極めた上での慎重な対応が求められます。
売掛金の消滅時効が気になる場合、たとえばファクタリングを使えば貸し倒れリスクもファクタリング会社へ移転されるため、未回収の債権に関する消滅時効で悩むことはありません。
手元の資金調達にも対応できる金融サービスであるため、ファクタリングに関することはPMGへお気軽にご相談ください。