役員報酬とは、取締役など役員に支払う報酬です。
従業員に支払う給与は全額損金算入できるのに対し、役員報酬は不正を防ぐために一定のルールのもと、支給・計上することが必要とされています。
そこで、役員報酬について、給与との違いや決め方、注意点などわかりやすく解説していきます。
目次
役員報酬とは
「役員報酬」とは、会社の取締役など、役員に支払う報酬です。
従業員に支払う給与のように、役員報酬は役員に対して一定額を支給しますが、その額は株主総会で決定されます。
「役員」とは、現場で業務に従事する従業員とは異なり、経営陣として役目を果たす立場の人たちです。
支給頻度が少ない場合や、社内役員に対する支払いではなくても、役員報酬として扱われます。
役員報酬について、以下の2つを説明していきます。
- 役員の種類
- 役員報酬の種類
役員の種類
会社法第423条による「役員」は、取締役・会計参与・監査役・執行役または会計監査人とされています。
また、会社法第329条では「株式会社」の役員について、取締役・会計参与・監査役と定義しています。
そのため一般的に役員とされるのは、以下4つの役職といえます。
- 取締役
- 執行役
- 監査役
- 会計参与
それぞれの役割について説明します。
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取締役
「取締役」とは、会社の業務執行の意思決定を行う立場の役員であり、方針決定・戦略策定・業務監督が主な役割です。
株主総会の決議で選任され、取締役会の中から会社法上で定められた会社の最高責任者である代表取締役が選ばれます。
執行役
「執行役」は、会社法で指名委員会等設置会社のみ、取締役会で選任することとされている役員です。
混同されがちな執行役員は、会社が任意で定めている役職名であり、会社法上の役員には含まれません。
監査役
「監査役」は、取締役や会計参与が健全に職務を執行しているか監査する立場の役員です。
株主総会で選任され、原則、会社規模にかかわらず取締役の職務執行を監査する業務監査と、計算書類などの監査を行う会計監査のどちらの権限も有します。
会計参与
「会計参与」は、会社法による役員であり、企業の財務諸表などを作成する業務を担います。
株主総会での報告や、取締役の違法行為の是正などの権限を持ち、税理士・税理士法人・公認会計士・監査法人のいずれかのみが会計参与として活動できます。
役員報酬の種類
役員報酬は、主に次の2つに分けることができます。
- 役員給与
- 役員賞与
「役員給与」は、通常、株主総会で決まりますが、会社法上の要件を満たしていれば税務上の経費として扱うことができます。
「役員賞与」は、臨時総会により決議しますが、法人税法で税務上の経費として認められないとされています。
役員賞与と給与との違い
役員報酬は、定款または株主総会で決定されるため、報酬額が決まる時期が一定です。
給与は雇用関係にある従業員に、労働の対価として支払います。
「役員報酬」は支払条件など自由に決めることができるため、節税における不正を防ぐため、会社法や法人税法で厳しいルールのもと支給することが必要です。
それに対し「給与」は、全額損金として算入できるといった違いもあります。
また、役員報酬と従業員の給与には下記の違いがあります。
役員報酬 | 給与 | |
支払いに必要な条件 | 特になし | 勤務実績による |
割増賃金(残業代) | 適用なし | 適用あり |
健康保険・厚生年金保険 | 適用あり(非常勤役員は加入義務なし) | 適用あり(パートタイマー・アルバイトの場合、1日または1週間の労働時間が通常労働者の4分の3以上なら加入義務あり) |
雇用保険・労災保険 | 適用なし | 適用あり |
最低賃金 | 適用なし | 適用あり |
日割り計算 | できない | できる |
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役員報酬の会計処理上の扱い
税法上、損金として扱うことのできる役員報酬は以下の3つです。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
それぞれ説明します。
定期同額給与
「定期同額給与」は、役員に1か月以下の頻度で支払う報酬です。
年度中は、毎月同額が支払われます。
税務署に届出などは必要なく、毎月一定金額を支払うことを条件に損金に算入できます。
ただし会社設立の際には、役員報酬を設立後3か月以内に決定しておかなければ損金算入できない点には注意しておきましょう。
事前確定届出給与
「事前確定届出給与」とは、所定の時期に確定した額を支給することを定め、税務署に届出ておいた給与です。
前もって税務署に届出したとおりの対象者・支給額・支給日どおりに支払いができていなければ、全額、損金不算入となります。
税務署への届出は、株主総会など決議日から1か月以内または会計期間開始日(事業年度開始日)から4か月以内のどちらか早い日とされているため、忘れないように注意しましょう。
業績連動給与
「業績連動給与」は、役員報酬を企業の業績と連動させて支払う給与です。
非同族会社または非同族会社の完全子会社の同族会社に認められており、有価証券報告書に記載されている指標をもとに決まります。
日本の中小企業は9割が同族会社とされているため、業績連動給与の適用は一部の中小企業のみに限定されるといえます。
役員報酬の決め方のルール
役員報酬は、一定の手順やルールのもと決めることが必要です。
そこで、役員報酬を決めるときのルールなどについて、以下の3つを説明します。
- 総額・内訳を決める方法
- 報酬額決定における管理方法
- 額を決定するべき時期
総額・内訳を決める方法
会社法における役員報酬は、定款または株主総会の決議で決定するとされています。
中小企業や小規模法人の場合、定款で役員報酬に関する定めがないことも多く、定款に株主総会の決議で決めることを記載しているケースも少なくありません。
そのため定款ではなく、株主総会で決定することが一般的といえるでしょう。
株主総会で役員報酬の総額を決め、取締役会でそれぞれ役員の内訳を決めます。
役員報酬を損金計上する根拠として、議事録を作成して残しておきましょう。
報酬額決定における管理方法
役員報酬は、使用兼務役員の役員と使用人の給与を明確に分けることが必要です。
そのためにも、賃金台帳に役員と使用人、それぞれの給与を分けて記載するなどの方法で管理しましょう。
額を決定するべき時期
役員報酬は、会社設立年度においては設立3か月以内、2期目以降は事業年度開始から3か月以内に決定することが必要です。
3か月以内に決定しなければ役員報酬を損金として計上できなくなるため注意しましょう。
また、役員報酬額の変更は事業年度開始(期首)から3か月以内の時期だけであり、一度決めた額は1年間固定されると認識しておいてください。
役員報酬の変更可能な事例
役員報酬は、先にも述べた通り定款または株主総会で決定されます。
いつでも自由に変更できる状態では、役員報酬額により納税額が調整されてしまうからです。
そのため役員報酬を変更できるのは、事業年度開始(期首)から3か月以内の期間とされています。
ただし例外として、以下のケースにおいては事業年度の途中でも役員報酬を変更できます。
- 役員の地位や職務が変わったとき
- 経営が悪化したとき
増額・減額のどちらの場合も、株主総会または取締役会で議事録を作成することが必要です。
それぞれのケースについて簡単に説明します。
役員の地位や職務が変わったとき
役員報酬は、例外として役員の地位や職務の内容が変わったときは、変更できます。
たとえば責任が重くなったときや仕事量が増えたときが対象であり、一般の役員から社長に昇格したときや、退任した役員の職務を兼任したなどの例が該当します。
経営が悪化したとき
役員報酬は、例外として経営が悪化したときに変更できます。
たとえば会社の経営状態が著しく悪化したときには減額することが可能とされており、どの程度業績が悪化すれば減額できるのかなど決まりもありません。
ただし業績悪化に伴う取引先・従業員・株主などへの影響を考慮し、減額の必要性を客観的に認められることが必要です。
具体的には以下に該当する場合は、減額できると考えられます。
- 株主との関係上、業績や財務状況の悪化の経営上の責任から、役員給与を減額せざるをえない
- 取引銀行とのリスケジュールの協議で、役員給与を減額せざるをえない
- 経営状況の改善を図る計画策定に役員給与の減額が盛り込まれた
役員報酬の決定における注意
役員報酬は毎月固定の支払いとなるため、無理な設定では資金繰りを悪化させる要因になりかねません。
そのため役員報酬を決めるときには、以下に注意することが必要です。
- 収支を予測した上で決める
- 会社と個人の税金等を考慮する
- 同業他社の相場に合わせる
- 届出等怠らない
- 賞与支給は届出をする
それぞれ説明します。
収支を予測した上で決める
役員報酬は、事業年度開始から3か月以内でなければ変更できず、一度決めれば1年間は固定され変更できません。
そのため役員報酬の決定においては、以下などを予測・考慮しましょう。
- 1年間の売上金額
- 売上から仕入額を差し引いた粗利
- 家賃や従業員給与などの固定費
期首にどの程度利益が残るのか、経営計画を立てることが必要です。
安定的なビジネスモデルなら、売上や経費が大きく変動することはないでしょう。
納税額も平年通りとなることが少なくありません。
しかし突発的な要因で急激に売上が伸びるビジネスなどでは、急激に売上が増えるなどで、予想外の納税に悩まされることも少なくないでしょう。
税負担が大きくならないように、できるだけ正確に早い段階での資金計画を立てておくことが必要です。
会社と個人の税金等を考慮する
役員報酬は、会社と個人の税金や社会保険料を考慮した上で決めることが必要です。
会社が納める税金は、法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税など種類が多く、利益に応じて納税額が決まります。
そのため損金算入できる役員報酬が多いほど、納める税額を抑えることができます。
役員報酬が多ければ役員の所得が増え、個人が支払う所得税・住民税・社会保険料も増えるため、納税額のバランスを考慮することがポイントといえるでしょう。
同業他社の相場に合わせる
役員報酬は、同業他社の相場に合わせるなど、業界内で比較し検討することも必要です。
たとえば人事院が発表している「民間企業における役員報酬(給与)調査」や、国税庁「標本調査結果」を参考にするとよいでしょう。
設定した役員報酬の額が同業・同規模他社と比較したとき、極端に多いときには不相当と判断され、損金算入が認められない恐れもあります。
業務をほとんど行っていない役員についても、相場より高額と判断されるケースが少なくないため注意してください。
ただし役員報酬を低く設定し過ぎてしまうと、働く意欲やモチベーションを下げる可能性があるため、同業他社などとのバランスを考慮して決めるようにしましょう。
届出等怠らない
役員報酬は、損金に計上する上で守るべきルールがあります。
事前確定届出給与は、あらかじめ決められた期限内に税務署に届出することが必要であるため、忘れないように手続してください。
賞与支給は届出をする
役員に対する賞与支給も認められてはいるものの、以下の期間において、税務署で事前確定届出給与に関する届出が必要です。
- 会社設立後2か月以内
- 事業年度開始または株主総会・取締役会決議から4か月以内
- 役員賞与の決議をした株主総会から1か月以内
役員賞与も役員報酬であり、届出後の金額を増減させても、差額分は損益不算入となります。
賞与を支払わなかった場合でも、源泉徴収税が課せられることがあるため、確実に届出した金額を支払う準備も必要です。
まとめ
役員報酬は、定款または株主総会の決議で決定されます。
従業員の給与と異なり、役員報酬を経費として計上するためには、様々なルールを守ることが必要です。
金額に関しても、年間の事業計画や会社と個人の納税額のバランスなどを考慮する必要があり、従業員数や売上など金額設定に与える要因は様々といえます。
役員報酬の妥当な額は業種や資本金額によって異なり、年間で数百万円の場合もあれば数千万円のケースもあります。
判断が難しい場合は専門家への相談が望ましいといえるでしょう。