人件費率の理想は何パーセント?適正値の目安と計算・改善方法を解説

売上に対する人件費の割合を「人件費率」といいますが、安定した経営のためにも理想とされる割合を保つことが求められます。

人件費は事業を運営する上で従業員を雇用した際、労働に対して支払われる給与や手当などです。

経費の多くを占める部分でもあるため、売上に対する人件費が見合っていなければ、資金繰りや経営が悪化してしまうリスクが高くなります。

そのため売上に対する人件費割合を示す人件費率について、理想といえる割合を理解し、その数値をできる限りキープすることが必要といえるでしょう。

そこで、人件費率の理想は何パーセントなのか、適正値の目安と計算・改善方法について解説していきます。

人件費の種類

「人件費」とは、事業を営む上で支払う経費のうち、従業員が働いたことに対する費用全般を指します。

次の2つを含むため、製品やサービスの原価の一部として、原価計算において同時に計上されます。

  • 直接費(製品やサービスを作ることに直接関係する費用)
  • 間接費(製品やサービスを作る上で間接的に発生した費用)

なお、人件費と労務費が混同されるケースも少なくありませんが、労務費は製造に関わる人に対する費用です。

人件費は労働力を提供した人へ支払われるすべての費用を包括するため、人件費の一部として扱われるという違いがあります。

たとえば人件費に該当するのは以下の費用です。

  1. 給与・各種手当
  2. 賞与
  3. 役員報酬
  4. 退職金
  5. 法定福利費
  6. 福利厚生費

それぞれどのような費用か説明します。

給与・各種手当

人件費のうち、「給与」や「各種手当」とは、雇用契約に基づいて従業員に対して支払う役務や労働の対価です。

基本給以外に、役職手当・住宅手当・時間外手当・通勤手当などの手当てや、現物支給されたものや永年勤続表彰の金銭などのみなし給与を含みます。

賞与

「賞与」とは、給与とは別で従業員に支払う臨時の賃金です。

「ボーナス」や「特別手当」と呼ばれることもあり、夏季・冬季・年度末(決算)手当など支給時期や回収に基準や決まりはないため、企業や組織によって様々といえます。

役員報酬

「役員報酬」とは、定款による規定または株主総会での承認で決定した役員に対して支払う報酬です。

役員は、一般の従業員のように実際の業務に従事せず、経営陣として役目を果たします。

そのため社内外と問わず、たとえ支給頻度が少ない場合でも、役員に対する報酬は役員報酬として扱われます。

なお、定期同額給与・事前確定届出給与・利益連動給与のいずれかに該当する支払いが役員報酬であり、その他は「役員賞与等」として扱います。

退職金

「退職金」とは、一定年数に渡り企業や組織に勤続した役員または従業員が退職するとき、勤務年数や業績などに応じて支給されるお金です。

退職手当や退職慰労金と呼ばれることもあり、定年を迎えたことによる退職だけでなく、中途退職でも支払われることがあります。

退職金は、次の2つの制度があり、それぞれの意味合いや受け取り方が異なります。

制度の種類 受取方法 意味合い
退職一時金 退職金を一度にまとめて受け取る 退職までの労働に対する対価や功労金
企業年金 一定額を長期的に分割して受け取る 退職後の生活を安定させる

法定福利費

「法定福利費」とは、従業員を雇用する事業者に負担が義務付けられている福利厚生用の費用です。

「社会保険料」や「労働保険料」など、法律で会社負担が義務付けられている以下の事業者負担分が法定福利費となります。

  • 社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・子ども子育て拠出金)
  • 労働保険料(雇用保険料・労災保険料)

保険の種類や業種による負担利率とその算出方法が明確に決められているため、企業努力で削減しにくい費用といえるでしょう。

福利厚生費

「福利厚生費」とは、従業員に対する福利厚生の費用のうち、経費として計上できる支払いです。

たとえば次のような費用は、福利厚生費として計上できます。

  • 慶弔見舞
  • 健康診断
  • 社員旅行
  • 忘年会

従業員の満足度や士気を上げるための費用が福利厚生費であり、すべての従業員に平等に支出することが必要とされています。

【無料ダウンロード】
9つの資金調達方法を紹介

9つの資金調達方法のメリットデメリットから申請方法、さらに審査落ちした時の対処法までをまとめた経営者必見のガイドブックです。

いますぐダウンロード

人件費率とは

「人件費率」とは、売上に対する人件費の割合です。

「売上原価」および「販売費及び一般管理費」に人件費が含まれます。

この2つは売上高から営業利益を算出するときに控除するため、人件費比率は売上高営業利益率と表裏の関係にあるといえるでしょう。

人件費率は売上における人件費のバランスを占めるため、経営戦略の分析に使用できます。

なお、人件費率が高ければ悪いと判断するのではなく、業種や企業規模に応じて適切な指標を持つことが大事です。

人件費率について、次の3つを詳しく説明していきます。

  1. 計算方法
  2. 適正値
  3. 業種別の目安

計算方法

人件費率には次の2つの種類があります。

  • 売上高人件費率(売上高に対する人件費の割合)
  • 売上総利益人件費率(売上総利益(粗利)に対する人件費の割合)

この2つの計算式は以下のとおりです。

売上高人件費率(%)=人件費÷売上高×100
売上総利益人件費率(%)=人件費÷売上総利益×100

売上高人件費率は、簡易的に人件費率を知りたいときに活用するとよいでしょう。

売上総利益人件費率は、変動費である売上原価を含まないため、より適正や人件費率を知りたいときに活用できます。

適正値

一般的な人件費の適正値または平均値は13%前後ですが、おおよそ給与の1.5~2倍程度が目安とされています。

ただし業種や事業規模などによって異なり、たとえば飲食店の人件費率であれば売上高の30〜40%が目安であるのに対し、サービス業は50%を超える場合もあります。

業種別の目安

中小企業庁による令和3年中小企業実態基本調査の結果から、業種ごとの法人の数字をもとに労務費・販売費及び一般管理費を合わせた人件費により、人件費率を表示すると以下の通りです。

飲食サービス業(宿泊業含む) 37.0%
情報通信業 30.7%
製造業 20.7%
小売業 13.3%
卸売業 7.0%

人件費率は業種によって違いがあり、たとえば同じ飲食サービス業であったとしても、自動化されている回転寿司店と夜間のバー経営では比率が異なるなど業態により差が発生します。

また、人件費率は低ければ低いほどよいわけではなく、業界平均値を目安にしつつ、適正や割合を算出することが必要です。

仮に人件費を抑えすぎれば従業員に対する還元不足で、現場の士気が低下したり定着率が下がったりという問題も発生します。

毎月の人件費率をモニタリングしつつ、現在は増加と減少のどちらの傾向にあるのか確認し、その要因の分析と問題部分の打開策を検討することが大切です。

人件費率の判断方法

 

経営指標に人件費率を活用すると、人件費の割合が適正なのか、従業員に対する還元度の適正さを確認できます。

そこで、次の2つのケースの人件費率の場合、どのように判断するべきなのかそれぞれ説明していきます。

  1. 高い場合
  2. 低い場合

高い場合

人件費率が高い場合、経費における人件費の負担割合が大きい状態です。

売上が上がっていない場合や、従業員へ還元し過ぎている可能性があるため、売上向上に向けた戦略を練ることや、人的コストの見直しが必要といえます。

低い場合

人件費率が低い場合、経費における人件費の負担割合が少ない状態です。

生産性の高い状態であると捉えることができる反面、従業員に対する還元率が低いと考えられます。

労働への働く意欲を低下させることや、離職を増やす可能性があるため、見直しが必要といえるでしょう。

人件費率を抑える方法

人件費率が高いため、割合を抑える方法を検討しているのなら、次の4つの対策を実行してみるとよいでしょう。

  1. 売上を伸ばす
  2. 人員削減をする
  3. 業務効率化を図る
  4. 人事評価制度を見直す

それぞれどのような削減方法か説明していきます。

売上を伸ばす

人件費率を抑えるのなら、売上を伸ばす企業努力が必要です。

売上高が上がれば労働分配率と売上高人件費率が下がるため、連動して人件費率も抑えることができます。

生産性の向上に向けた業務体制の改善や、人事評価制度や人材配置の見直しなどで、人的リソースを無駄なく最大限に活用することが大切です。

人員削減をする

人件費率を抑えるのなら、人件費をかける人数を少なくすることが必要といえるため、人員削減も検討しましょう。

従業員1人に対して支払う給与の1.5〜2倍程度の人件費をすぐに削減できる方法といえるものの、安易なリストラはおすすめできません。

会社の評判やイメージを下げる行為につながる可能性もあることは留意しておきましょう。

業務効率化を図る

人件費率を抑えるのなら、少ない人数で生産性を向上させることができるように、業務効率化を図りましょう。

業務を効率化できれば、無駄な残業代も少なくなります。

社内業務の一部を社外へ委託することで、根幹となる業務に集中しやすい環境が整うでしょう。

従業員の満足度やモチベーションも上がれば、離職率低下につなげることもできます。

人事評価制度を見直す

人件費率を抑えるのなら、従業員に対する適正や評価と賃金の支給が可能となるように、人事評価制度を見直しましょう。

成果に見合った正当な評価を受けることができれば、職場環境や労働条件に満足してもらうことができ、仕事に対する意欲や情熱を持ってもらえることも期待できます。

離職率低下や生産性向上につながることも期待でき、その結果、売上高を引き上げ人件費率の引き下げにつながると考えられます。

人件費率以外の指標

人件費率以外で、人件費の適正割合を知りたいときや分析するときに活用できる指標として、以下の6つが挙げられます。

  1. 労働分配率
  2. 人時生産性
  3. 一人当たりの人件費
  4. 一人当たりの売上高
  5. 一人当たりの経常利益
  6. 一人当たりの付加価値

それぞれの指標について説明します。

労働分配率

「労働分配率」とは、会社の生み出す付加価値(労働から発生した価値を数値化した値)に対し、どのくらいの割合で人件費が占めているか確認できる指標です。

労働分配率 = 人件費÷付加価値×100(%)

なお、付加価値は以下の2つの計算式のうち、いずれかで算出するとよいでしょう。

控除法による付加価値=売上高−外部購入価値(材料費・購入部品費・運送費など)

加算法による付加価値=経常利益+人件費+賃借料+減価償却費+金融費用+租税公課

人時生産性

1人が1時間で生み出す粗利を「人時生産性」といいます。

付加価値生産性ともいい、実用的な生産性指標の1つです。

人時生産性=売上総利益(粗利)÷総労働時間(従業員数×労働時間)

一人当たりの人件費

「一人当たり人件費」とは、従業員1人の人件費であり、後で説明する「一人当たり付加価値」と比べたときのバランスを図るときに使う指標です。

一人当たり人件費=人件費÷従業員数

上記の計算式の「従業員数」は、特定の時点での数値といえます。

しかし「人件費」は一定期間の費用であるため、2つの誤差をできるだけなくすために、2期平均従業員数を計算に用いる場合もあります。

一人当たりの売上高

「一人当たり売上高」とは、従業員1人の生み出す売上高であり、売上に対して従業員1人がどのくらい貢献しているか確認できる指標です。

一人当たり売上高=売上高÷従業員数

一人当たりの経常利益

「一人当たり経常利益」は、従業員1人の生み出す経常利益を把握できる指標であり、従業員1人がどのくらい効率的に利益を生み出しているか判断する際に使います。

一人当たり経常利益=経常利益÷従業員数

一人当たりの付加価値

「一人当たり付加価値」とは、従業員1人の生み出す新たな価値を知りたいときの指標です。

一人当たり付加価値=付加価値÷従業員数

まとめ

人件費率は、企業活動において人を雇用したとき、負担しなければならない人件費が適正な割合か知ることができる指標です。

仮に人件費率が高い場合、経費における人件費の負担割合が大きいことを示すため、売上を伸ばすか人的コストを抑えるなどの対策が必要といえます。

反対に人件費率が低すぎる場合は、従業員に十分還元できていない状態ともいえるため、現場の士気や定着率が低下することのないように、適正割合を再度確認しましょう。

人件費は経営コストのうち重要度の高い費用といえるため、長期に渡る安定経営のためにも、適正な人件費率を維持することが重要です。

人件費率の改善に向けて安易に人員を削減したり賃金をカットしたりせず、生産性向上に向けた労働環境や人事評価制度の見直しなどを検討することも必要です。