給与ファクタリングとは?違法業者の手口や仕組みについて徹底解説

給与ファクタリングとは、個人が勤務先から受け取る給与(賃金債権)を業者に売って、給料日よりも前に現金化するサービスです。

事業者向けのファクタリングと異なり、個人向けのサービスとして提供されているケースが多いといえるものの、実際には違法業者の悪質な取引であることがあります。

給与ファクタリングは貸金業とみなされるため、貸金業登録を行っていない業者によるサービス提供は違法です。

また、貸金業登録を行っていたとしても、極めて高額で違法といえる手数料の支払いを求められるケースも存在します。

そこで、個人向けの「給与ファクタリング」について、違法業者の手口や仕組みについて解説していきます。

給与ファクタリングとは

「給与ファクタリング」は、事業者向けのファクタリングとは異なるサービスです。

個人が使用者(勤務先)に対して有する賃金債権を給与ファクタリング業者が買い取り、金銭交付後に個人を通じて債権に係る資金の回収を行います。

しかしこの取引は貸金に該当するため、貸金業登録を行っていない業者によるサービス提供は違法です。

実際には偽物のファクタリングの手法であり、個人に貸付けを行うヤミ金融の存在も確認されています。

「給与ファクタリング」などと称し、業として賃金債権を買い取るヤミ金融業者を利用してしまうと、年率換算で数百~千数百%になる手数料を支払わされます。

また、利用者から回収できない状況においては、大声で恫喝されたり勤務先へ連絡されたり、平穏な私生活を害される悪質な取立て被害に遭う可能性も考えられるでしょう。

取立てから逃れるために高額な手数料を支払ってしまうと、本来受け取るはずだった給与が少なくなり、生活が破綻してしまうおそれもあることから絶対にヤミ金融業者と契約しないことが大切です。

なお、金融庁でも給与ファクタリングについて、公式サイトの「給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!」にて注意喚起を行っています。

金融庁が注意を促す「給与ファクタリング」とは?

給与ファクタリングが違法である根拠

給与ファクタリングをサービスとして提供する業者が、貸金業登録を行っていない場合は違法と考えられます。

その根拠として、給与ファクタリングで譲渡されるのは「賃金債権」であることが関係します。

労働基準法24条1項は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と規定しており、労働者が賃金の支払いを受ける前に、第三者へ賃金債権を適法に譲渡した場合でも、使用者からの支払いは直接労働者へ行わなければなりません。

これを「直接払の原則」といいます。「直接払の原則」に関する法令解釈が争われた裁判例でも「労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同条(労働基準法第24条1項)が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがつて、右賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないものと解するのが相当(最高裁判例S43.3.12)」という判決が出ております。

そのため賃金債権の譲受人は使用者へ給与の支払いを求めることはできません。

このことから、賃金債権の譲受人は、適法に賃金債権を譲り受けたとしても、使用者に対し直接、賃金債権の支払いを求めることはできません。

 

そのため、給与ファクタリング業者は、使用者からの直接回収を前提とせず、実際には利用者へ債権を買い戻させること(買戻し特約)で資金を回収することになります。仮に、利用者が、買戻し特約を希望せず、使用者から直接、譲受人が受け取ることを希望したとしても、給与ファクタリング業者は使用者から直接、回収することが不可能ですので、給与ファクタリングは、期日前の買戻しによる回収か、利用者の代理受領による回収しか手段がないということが明らかな取引です。

一方で、利用者(使用者)は、「直接払の原則」は知らずとも、賃金債権の譲渡を使用者に知られたくないという理由で、使用者に対する債権譲渡通知を避けるために、支払期日の前までに譲渡した賃金債権を買い戻さざるを得ない状況となるのは必然といえます。給与ファクタリング業者は、使用者に債権譲渡通知を送付しても直接回収できないことは理解しており、実際に債権譲渡通知は送付しませんが、「送られたら困る」という利用者の心理を利用して、買戻しという形で資金を回収する仕組みになっているという訳です。

形式的には債権譲渡の対価としたファクタリング取引で、使用者の給与不払いリスクは給与ファクタリング業者が負担するとされていた場合でも、「直接払の原則」と「買戻し特約」という要素がある以上は、実質的には給与ファクタリング業者と利用者の返済合意による金銭交付(いわゆる、貸付け)と認められます(最高裁判例令和5年2月20日)。

給与ファクタリングによる金銭交付の取引は貸金業法と出資法の「貸付け」に該当するため、給与ファクタリング業者が貸金業登録を行っていなければ違法な「ヤミ金融業者」として摘発の対象となります。

給与ファクタリングの再契約にちょっとまった!相手はヤミ金融業者かもしれない?

給与ファクタリングの仕組み

「給与ファクタリング」は、個人が使用者(勤務先)から受け取る給与(賃金債権)を給与ファクタリング業者に売却し、給料日よりも前倒しで現金化できるサービスです。

事業者向けのファクタリングの仕組みを個人向けに転換させた「偽物」のファクタリングともいえますが、仕組みとして以下で手続が進みます。

  1. 利用者が賃金債権を給与ファクタリング業者へ売却
  2. 給与ファクタリング業者から利用者へ手数料を差し引いた残りを買取代金として渡す
  3. 給料日に利用者から給与ファクタリング業者へ給与を支払う

給与ファクタリングは、先ほどの最高裁判例や金融庁の法令照会(金融庁における一般的な法令解釈に係る書面手続「回答日:令和2年3月5日」)でも、実質的には「貸付け」であるという判断がされているため、給与ファクタリング業者は「貸金業登録」を済ませていなければ違法業者と判断できます。

偽装ファクタリングの手口

ファクタリングとして契約を結び、契約書にも「債権譲渡契約(売買契約)」と記載されている場合でも、実際には貸付けとみなされる取引(偽装ファクタリング)のケースも存在します。
金銭の貸付けに該当すると考えられるのは、たとえば譲渡した債権の回収がファクタリング会社から利用者へ委託(集金代行、代理受領委託契約など)されており、売掛先の不払いなどにより、売主が集金できなかった場合に次の手続が必要なケースです。

  • 利用者が債権を買い戻すことが必要とされているケース
  • 利用者の資金でファクタリング会社へ支払いが必要とされているケース

売却した売掛債権が返済不能になったとき、利用者に返済義務は生じないノンリコース契約であれば、(ファクタリング業者がその負担を負う契約)であれば、原則、貸金業には該当しません。

しかしこの形式的な要素以外にも、経済的な側面や実態に照らして判断することが必要であり、金銭の貸付けと判断される場合もあるため注意が必要です。

ファクタリングが貸金業に該当しないと判断されたケース

事業者向けのファクタリングは、売掛債権を利用者からファクタリング会社に売却し、入金期日よりも前倒しで現金化する金融サービスです。

金銭の貸し借りではないため、原則、貸金業には該当しません。

過去にファクタリングが貸金業ではないかと疑われたケースも存在しますが、貸金業ではないと判断された裁判例は以下のとおりです。

①下記を総合考慮し、貸金業法は適用されないと判断された事案

  • ファクタリング業者は償還請求権を有していない
  • 利用者も債権の買戻しを予定していない
  • 実質的に売掛先の不払いリスクはファクタリング業者へ移転されていると評価できる
  • 対抗要件具備は猶予されているもののファクタリング業者の判断で具備が可能である
  • 債権額面と売買代金の手数料について、担保目的であることを推認させる大幅なものではない

 

②下記を総合考慮し、債権の確定的な売買であると判断された事案

  • 契約上、売掛先の不払いなどで回収できなかった場合、その額について利用者が責任を負うものとはされておらず、負担はファクタリング業者へ移転されたと認められる
  • 債権額面と売買代金との手数料も、実質的に担保目的と推認させる多額のものではないこと

ファクタリングが貸金業に該当すると判断されたケース

本来、事業者向けのファクタリング取引は貸金業には該当しません。

しかし過去に取引が貸金業に該当すると判断された裁判例として、以下のケースが挙げられます。

  • ファクタリング業者が譲渡された債権に関する利用者の不払いリスクをほとんど負っておらず、債権額面とは無関係に金員の授受もされていたため、金銭消費貸借契約に準じると判断された事案
  • 利用者が弁済しなかった場合は債権額以上の額をファクタリング業者へ支払う旨の公正証書を作成していたため、ファクタリング業者が負担すべき不払いリスクを負担しておらず、貸金業法上の貸付けに該当すると判断された事案
  • 利用者は売掛先の資力を担保しないと規定されている契約であるものの、債権の性質や債権譲渡日、支払日までの期間の短さから不履行の可能性は極めて低いと考えられ、貸付けに該当すると判断された事案
  • 利用者は債権譲渡を売掛先に知られたくないため、期限までに譲渡債権を買い戻さなければならない状況にあったことをファクタリング業者も認識しており、譲渡債権を担保とする金銭消費貸借に近い経済的機能と認め、貸金の各種規制を潜脱する無効契約とされた事案
  • ノンリコースとされているものの抗弁事由が存在せず、売掛先における不払いの兆候のないことを利用者に表明保証するなど債務の保証を求めているため、金銭消費貸借契約に該当すると判断された事案

違法業者か見抜く方法

事業者向けのファクタリングは、売掛債権の売買契約による資金調達の方法であるため、合法であり、貸金業には該当しませんので、貸金業登録は必要なく、利息制限法や出資法の適用も受けません。

しかし個人向けの給与ファクタリングは、金銭の貸付けとみなされるため、業としてサービスを提供する業者は財務局または都道府県の登録を受けることが必要とされています。

また、貸金業においては、利息制限法と出資法の上限金利を守ることが必要であり、出資法の上限金利を超える契約や支払、受領は刑事罰の対象です。

年109.5%を超える利息の契約をすれば消費貸借契約(盟約の名目上は、ファクタリング契約)自体が無効となりますが、利用者が即座に「無効」であると判断することは難しく、また違法業者は法律を無視した回収行為をしますので、違法な取立てで平穏な生活を脅かされる可能性もあるため契約しないように注意してください。

なお、貸金業登録を行っている業者か確認する場合、金融庁の公式サイト「登録貸金業者情報検索サービス」で検索できます。

ファクタリングを装う悪質業者の取り立て方法とは?騙されないポイントを解説

違法業者に引っかかってしまったら

前述では違法業者を見抜く方法を説明しましたが、実際に違法業者と契約してしまったら以下の場所に相談すると良いでしょう。

  • 消費生活センター(消費者ホットライン)

  • 金融サービス利用者相談室

  • 日本貸金業協会

  • 弁護士

  • 警察

詳しく説明します。

 

消費生活センター(消費者ホットライン)

消費者ホットラインは悪質な契約によるトラブルの相談を電話にて無料で行っています。(別途通話料発生)
消費生活センターは地方公共団体が設置しており、令和5年4月の時点で全国の857か所にあり、お近くの消費生活相談窓口に繋がります。
土日祝日で消費生活センターが営業していない場合も、国民生活センターが対応しており、基本的に年末年始を除き利用できます。

受付時間:平日10時~12時/13時~16時
電話番号:188(全国共通)

 

金融サービス利用者相談室

金融庁が運営する金融サービス利用者相談室では金融機関とのトラブルについて相談ができます。
相談方法は電話とウェブサイト、郵送による文書など種類が豊富です。文書に関しては書類を提出しても返却は行っていないため、写しを送付しましょう。ただし金融庁が運営しているとはいえ、斡旋や調停はおこなっていないことは留意しておきましょう。

電話受付時間:平日10時~17時
電話番号:0570-016811(IP電話は03-5251-6811)
ウェブサイト受付時間:24時間
文書送付先:〒100-8967 東京都千代田区霞が関3-2-1中央合同庁舎第7号館 
      金融庁 金融サービス利用者相談室

 

日本貸金業協会

日本貸金業協会が運営している貸金業相談・紛争解決センターでは電話やFAX、郵便、対面での相談が可能です。
ヤミ金融業者への対処法や、多重債務の悩みなど相談できます。また債務の根本的解決のためのカウンセリングなどにも対応しています。

電話受付時間:平日9時~17時
電話番号
貸金業相談・紛争解決センター直通:03-5739-3861
指定紛争解決機関(ADR):03-5739-3863

ウェブ相談受付時間:平日9時~17時
FAX番号:03-5739-3024
郵便送付先:〒108-0074 東京都港区高輪3-19-15 二葉高輪ビル2階
      日本貸金業協会 貸金業相談・紛争解決センター
対面:電話にて事前予約制

 

弁護士・司法書士

弁護士・司法書士とひとことで言っても、得意分野があります。すでに付き合いのある弁護士や司法書士がいる場合でもヤミ金融に特化していなければ、調査時間に時間がかかってしまうため、ノウハウを持っている弁護士・司法書士に相談することを相談します。
しかし、弁護士に相談した場合、ヤミ金融業者1件につき3~6万円ほど費用がかかってしまうことは留意しておきましょう。

 

警察

警察に相談する際は、なるべく証拠を用意しましょう。
ヤミ金融業者との会話の録音や録画、振込先銀行口座など有効です。警察署へ直接伺う際は、悪質商法事件を取り扱う「生活安全課」に相談しましょう。

 

まとめ

給与ファクタリングは、一般的な事業者向けのファクタリングとは異なる、偽装ファクタリングといえます。
違法業者によるサービスの提供を受けてしまうと、高額な手数料を支払うことになり、多重債務に陥るなど経済生活を破綻させることになるでしょう。
また、違法な取り立てを受けることになれば、平穏な生活を害されてしまいます。
最高裁判所の判例でも、権利の実行について権利の範囲または社会通念上、一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱すれば違法としています。
恐喝罪や脅迫罪が成立することがあるため、もしも給与ファクタリングを利用してしまい、悪質な取り立ての被害に遭ったときには警察に相談しましょう。
契約途中で迷ったときには、一旦取引を中断し、正規のファクタリング会社に迷わず相談してください。