黒字廃業とは、利益が出ている状態でありながら、事業を継続できなくなった状態です。
赤字であれば廃業しても仕方がないものの、なぜ黒字なのに事業を続けることができないのか不思議に思う方もいることでしょう。
しかし黒字廃業はめずらしいわけではなく、特に後継者の不存在や資金繰り悪化を理由に会社をたたむといったケースが多く見られます。
そこで、黒字廃業について、事業を継続できない理由やそれによる影響、防ぐための5つの方法について解説していきます。
目次
黒字廃業とは
「黒字廃業」とは、会社の業績は良好で利益が出ているのに、事業を継続できずたたんでしまうことです。
「廃業」は経営者が自主的に事業を終わらせることであるため、「黒字廃業」では黒字なのに自主的に事業継続をあきらめることを意味します。
会社をたたむ方法には廃業以外にも「倒産」があります。
倒産は、会社が負債を抱えすぎて資金繰りがショートし、事業継続できなくなることです。
手形の不渡りなどによる銀行取引停止処分なども倒産とみなされますが、いずれも経営者が自主的に選択するのではなく、経済活動を継続できなくなった状態といえます。
経営者が自主的に事業を継続しない選択をする廃業とは意味が異なります。
黒字廃業の理由
利益が出ているのであれば、廃業する必要はないと考えがちです。
しかし経営者が自主的に会社をたたみ、黒字廃業に至る背景には、次の「理由」が関係しています。
- 後継者の不在
- 資金繰りの悪化
- 収支管理が不十分である
- 過剰に在庫を抱えている
- 入出金のズレが埋まらない
それぞれどのような理由で黒字廃業してしまうのか説明していきます。
後継者の不在
黒字廃業してしまう理由として、「後継者」候補が見つからないことが挙げられます。
特に中小企業では、現経営者の「高齢化」が進んでいるため、早期に後継者候補を見つけて次の経営者になってもらえるように育てていくことが必要です。
しかし業績も順調で黒字であっても、経営者の子や親族は別の会社に勤務していることや、そもそも会社をつぎたがらない場合もあります。
後継者候補を育成し、実際に事業を引き継ぐためには5~10年かかるといわれています。
そのため経営者が60代頃から後継者を決めて育成を進めていかなければ、事業承継に間に合いません。
後継者候補が決まっていれば事業承継の準備を進めることができても、後継者不在の状況を回避できなければ、黒字廃業を選択しなければならないといえるでしょう。
資金繰りの悪化
黒字廃業してしまう理由として、手元の資金不足などによる「資金繰り悪化」が挙げられます。
中小企業の約7割は赤字経営といわれているため、資金繰りが厳しい状況になるケースはめずらしいことではありません。
しかし売上が伸びていて、黒字経営であったとしても、売上代金が入金されるまで手元の現金が乏しくなることもあります。
手元の資金が足らず借入金の返済や仕入れ代金の支払いができなければ、たとえ黒字でも倒産してしまったり廃業したりという可能性はあると留意しておきましょう。
収支管理が不十分である
黒字廃業してしまう理由として、売上に対する支払いのバランスなど、収支管理が十分にできていないことが挙げられます。
収支管理が不十分な場合、手元の資金が枯渇状態であることに気がつけず、期日に支払いできないことで資金ショートします。
過剰に在庫を抱えている
黒字廃業してしまう理由として、在庫管理が不十分であり、不要な在庫を抱えすぎていることが挙げられます。
いずれ販売する予定であるため、販売機会を逃したくないことを理由に、多く商品などを仕入れてしまうこともあるでしょう。
しかし、すべてを販売できれば問題ないものの、売れ残りが多く発生すると不良在庫を抱えることになります。
在庫のまま保管された状態が長くなれば、管理費用などが発生し続けます。
処分したくても価値が低下しているため売れず、処分に費用がかかり損失が発生することになるでしょう。
過剰在庫は現金化しにくいため、資金調達手段を失うことで、廃業しなければならなくなることもあると留意しておきましょう。
入出金のズレが埋まらない
黒字廃業してしまう理由として、掛取引による入金と出金のズレが埋まらないことが挙げられます。
売上代金が入金されるまでに仕入れに充てるお金が必要になると、資金不足で廃業に至るケースもあります。
売上は先に計上されているため、帳簿の売上ばかりに注目していると実際には手元に売掛金が入金されていないことに気がつかず、入出金のズレが埋まらないまま支払いができません。
売上が先に計上されれば帳簿上は黒字であるため安心してしまいがちですが、商品やサービスの対価が入金されるタイミングと支払いのタイミングをしっかりと把握しておく必要があります。
黒字廃業による影響
黒字廃業は経営者自身の選択によるものですが、経営者本人のみに影響があるわけではありません。
たとえば黒字廃業により、次の3つの影響が発生します。
- 従業員の解雇が必要になる
- ステークホルダーに迷惑がかかる
- 資産価値が低下する
それぞれどのような影響があるのか説明します。
従業員の解雇が必要になる
黒字廃業を選択する上で、もっとも気にしなければならないことは、従業員の解雇が必要になることです。
事業を停止するということは、現場で働いてきた従業員を解雇することになります。
会社経営において、経営者は従業員の生活も背負っているといえるため、解雇という重い決断のために時間をかけた説明などが必要となるでしょう。
必要な手続や従業員の次の働き先への相談、退職金の準備など最後まで責任をもって対応する覚悟も必要です。
ステークホルダーに迷惑がかかる
黒字廃業をすることにより、その影響は従業員のみならず、取引先・株主・銀行・顧客などのステークホルダーにも及びます。
仮にメーカーが黒字廃業する場合、原材料を販売している取引先は売上減少により、連鎖倒産してしまう可能性もあります。
また、会社が廃業した場合には現預金だけが残るため、この残余財産から資本金に相当する額は株主に分配されますが、それ以外は返ってきません。
さらにそれまで取引をしていた銀行は取引先を失うことになり、必要だった製品やサービスが手に入らなくなった顧客にも、当然迷惑をかけることになるでしょう。
資産価値が低下する
黒字廃業することにより、会社が所有していた事業用資産は、低下した価値で売却しなければなりません。
事業用として使っていた設備などを売る場合、買取先を見つけることが難しくなるケースや、資産簿価が下がることが多いといえます。
売却できないものの処分費用などを負担しなければならず、売却できた場合でも資産の譲渡益や経営者の債務免除益などで利益が出ることにより、法人税を納めなければなりません。
業績は黒字なのに廃業しなければならず、さらにコストがかかることを考えれば、黒字廃業はデメリットがほとんどであるといえるでしょう。
黒字廃業を防ぐ5つの方法
黒字廃業による影響は、経営者以外にも従業員や関係者にも及びます。
それぞれの生活にも影響を及ぼすことになるため避けなければならないといえますが、黒字廃業を防ぐための方法として次の5つが挙げられます。
- 後継者育成を強化する
- キャッシュフロー管理を徹底する
- 入出金のズレを埋める
- 不要な在庫は処分する
- 資金調達を多様化する
それぞれどのような方法で防ぐことができるのか説明します。
1.後継者育成を強化する
黒字廃業を防ぐためには、後継者育成を強化していきましょう。
早期に後継者候補となる存在を見つけ、将来的に会社を引き継いでもらえる人材へと育てていくことが必要です。
従来までは、後継者候補を配偶者や子、親族などから選ぶ中小企業がほとんどでした。
しかし現在は、休廃業した経営者の約3割が後継者不在を理由として挙げており、子がいないことや、子がいても会社を継ぐ意思がないといった問題を抱えています。
そのため親族外から後継者候補となる人材はいないか、社内の役員や従業員に目を向けるケースもめずらしくありません。
現場を理解している従業員から選べば、育成にかかる期間を短縮できるものの、自社株を現経営者から引き継ぐときの資金がなく、実現しない場合もあるようです。
他にも自社株式を第三者に譲渡する株式譲渡や、事業設備や知的財産などを譲渡する事業譲渡など、M&Aで事業継続を検討するケースも増えつつあります。
2.キャッシュフロー管理を徹底する
黒字廃業を防ぐためには、キャッシュフロー管理を徹底しましょう。
キャッシュフローを確認することにより、黒字廃業や黒字倒産のリスクを判断できます。
確認しておきたいのは、「キャッシュフロー計算書」の次の2つの割合です。
自由資金比率=フリーキャッシュフロー÷自己資金増加額×100 当座比率=当座資産÷流動負債×100 |
「フリーキャッシュフロー」とは、会社が自由に使うことのできる余剰資金です。
そのため自由資金比率の割合を確認することで、キャッシュフローにどのくらい余裕があるのか把握できます。
目安としては、40%以上あれば安全と判断してもよいでしょう。
「当座資産」とは、流動資産のうち、現金化しやすい預金や売掛金などを示します。
そのため当座比率を確認することで、流動資産から資金調達できる資産をどのくらい保有しているのか把握できます。
目安としては100%を超えれば安全といえるものの、130%以上を目指しましょう。
3.入出金のズレを埋める
黒字廃業を防ぐためには、入出金のズレを埋めていきましょう。
日本の商取引は掛けによる信用取引がほとんどであるため、売上計上と同時に売掛金が発生します。
売上を上げてからその代金を回収するまでの期間が長ければ、その間に発生する支払いに充てる資金が不足し、黒字廃業するリスクが高まります。
そのため入出金のズレを埋めるために、売掛金はできるだけ早く回収し、仕入れ代金などの支払いは遅らせることが必要です。
4.不要な在庫は処分する
黒字廃業を防ぐためには、不要な在庫は処分しましょう。
在庫管理を怠ると、現金化しにくい不良在庫を多く抱えてしまいます。
不要な在庫が増えれば、管理費がかかるだけでなく、保管している商品の価値の低下で売りたいときにさらに売れなくなるでしょう。
その結果、資金繰りが悪化して黒字廃業に至る可能性は高くなります。
過剰に在庫を抱えないためにも、定期的に在庫確認を行い、不要と判断したときには処分することが必要です。
実際、不要な在庫は叩き売り価格となり、処分費用がかかるケースもめずらしくありません。
しかし市場ニーズが変化することで在庫はさらに処分しにくくなる可能性があるため、日ごろから無駄な在庫を抱えないようにすることが大切です。
5.資金調達を多様化する
黒字廃業を防ぐためには、資金調達の方法を多様化しましょう。
中小企業の資金調達方法といえば、銀行から融資を受けることに依存しがちです。
資金繰りに悩んだとき、真っ先に銀行の担当者に相談する経営者も少なくないことでしょう。
しかし保有している資産を売却し、流動性のある資産を増やすことで、いざというときの資金調達に役立ちます。
黒字廃業は、債務の支払いに充てる資産がなくなることにより、決断することが多いといえます。
そのため、現金を確保できる状況を作っておけば回避できるでしょう。
また、リスケジュールなど不測の事態の際にもサポートしてもらえるように、日ごろから金融機関とは良好な関係を築いておくことも必要です。
まとめ
黒字廃業は、業績が良好で利益が出ているのにもかかわらず、事業を継続しないという選択をすることです。
経営者の高齢化や後継者不足、資金繰り悪化など、黒字廃業しなければならない理由は多々あります。
しかし黒字廃業により、従業員や取引先などに多大なダメージを与えることは避けられません。
会社をきれいにたたむことは簡単なことではないため、もしも後継者不在による隠れ倒産のように経営余力を残している状態で廃業を迷っているのなら、会社存続の道を探ることも必要です。
たとえば入出金のズレで資金繰りが悪化し、このままでは資金ショートする可能性があるため、黒字廃業を迷っているのならファクタリングによる資金調達も検討してみてください。