「累損」とは「累積損失」を省略した言葉であり、会社の損失の累積金のことです。
実際、中小企業などは累損を抱えているケースが多いといえますが、そのすべての会社が経営悪化しているとは言い切れません。
ただし損失が溜まった経営や良好な状態といえないため、その後、債務超過のリスクなどを高めないためにも改善していくことが必要です。
そこで、累積とはどのような状態なのか、その原因や赤字の種類・債務超過の解消方法についてわかりやすく解説していきます。
目次
累損とは
「累損」とは、「累積損失」の省略であり、企業会計における純損失の累積額のことです。
純損失とは、事業所得・不動産所得・譲渡所得・山林所得の4つの所得の損失のうち、損益通算をしても控除しきれない金額を指しています。
損益通算とは、同一年分の利益と損失を合算することです。
たとえば会社勤務の方が年の途中に起業した場合において、その年の事業は赤字だった場合でも給与所得のプラス部分と事業所得のマイナス部分を合算することができます。
累損は帳簿上、貸借対照表の「純資産の部」に計上されることになり、「利益剰余金」がマイナス表示されていれば累損があると判断できます。
利益剰余金は利益や損失の累積金であるため、プラスであれば利益が発生していると判断できるのに対し、マイナスであれば損失が出ていると判断されるからです。
損失が膨らむほど、利益剰余金のマイナスも増えてしまい、増えたマイナスがそのまま累損として貸借対照表に残ることになります。
累損の原因
累損は損失が蓄積されている状態といえますが、その原因として次の2つが挙げられます。
- 赤字経営へ転落した
- 黒字で一掃されない損失が残った
それぞれの原因について説明します。
赤字経営へ転落した
累損の原因として、赤字経営への転落が挙げられます。
収入よりも支出の多い状態であるため、黒字から赤字へ転落すると累損が発生します。
ただし累損が発生していても、損失金額より減価償却費が大きければキャッシュフローはプラスとなり、経営は悪化しない場合もあるといえます。
また、長年に渡り使わないままの遊休資産を処分することで、キャッシュフローがプラスになれば、一時的な累損発生においても経営が悪化することはありません。
黒字で一掃されない損失が残った
累損の原因として、黒字で一掃されない損失が残ったケースが挙げられます。
過去の損失の累積が累損であるため、その溜まった損失を穴埋めするだけの利益を蓄積できれば、累損は一掃されます。
しかし利益が足らなければ損失は残り続けることとなり、銀行の融資審査や取引先の与信審査に影響を及ぼすこともあるでしょう。
赤字経営の種類
「赤字経営」とは、月間や年間などの単位で見たとき、利益が発生しておらず損失が出ている経営状態です。
利益が発生し続ければ資産は増えていくのに対し、損失が発生する状況が続けば資産は減少し、資産より負債の方が多い状態になってしまうでしょう。
倒産リスクを高める状態といえますが、赤字経営には主に次の3つの種類があります。
- 当期赤字
- 累積赤字
- 債務超過
それぞれの赤字経営について説明します。
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当期赤字
赤字経営の種類として、当期純損失を意味する「当期赤字」が挙げられます。
当期純利益とは、損益計算書で税引前当期純利益から法人税・住民税・事業税と税効果会計で発生する「法人税等調整額」を差し引いたときの利益です。
差し引き後、プラスではなくマイナスになった場合には、当期純損失となります。
当期赤字の場合でも、単に収益が伸びず、たまたま損失が出た場合などは累損や債務超過ではないこともあります。
累積赤字
赤字経営の種類として、限定された期間の損失の合計を意味する「累積赤字」が挙げられます。
累積赤字とは「繰越損失」がある状態といえます。
繰越損失とは、年間を通じて発生した総収入金額から、必要経費を差し引いたときの損失を翌年以降3年間繰り越すことのできる制度です。
創業年度や設備投資に多額の資金を費やした年などは、初期投資に費用がかかるため赤字になるケースも少なくないと留意しておきましょう。
債務超過
赤字経営の種類として、資産よりも負債が上回っている状態である「債務超過」が挙げられます。
債務超過とは、保有する資産をすべて現金化した場合でも、借入金などの負債を完済できない状態です。
貸借対照表上で、資産と負債がバランスのとれていない状態であり、金融機関から信用されにくいデメリットが生じる状況ともいえます。
債務超過がすぐに倒産につながるわけではないものの、放置すれば事業を継続できない状況に追い込まれるため、早期解消が必要です。
累損と税金の関係
累損は、黒字決算の利益を相殺する効果があり、税金負担を抑えることにも活用できます。
法人税を計算するときの所得金額で赤字となれば欠損金が発生しますが、欠損金で将来の課税所得を相殺できれば、税額を減少させることと似た効果があるといえます。
欠損金は、事業年度ごとの開始日から10年以内に開始した事業年度の金額について繰り越しできます。
ただし2018年4月1日よりも前に開始した事業年度の欠損金は、9年間しか繰り越しできないため注意しましょう。
過去の累損で利益をゼロにできれば法人税の負担もなくなり、節税効果を生むことができます。
累損は確かにマイナスの資産ではあるものの、将来の課税所得を減少させることができるため、節税目的で活用されるケースはめずらしいことではありません。
なお、累損による税金の前払いはできても、将来的に黒字化されなければ将来の減税効果は生じません。
黒字にならないまま、欠損金を活用できる期間を過ぎた場合、その効果も失われてしまうため、回収可能性の有無を判断してから繰延税金資産として計上しましょう。
累損と債務超過の関係
累損が発生すると、利益剰余金が減少、さらに減ってマイナスになり、そのマイナスが資本金よりも大きくなれば債務超過に陥ります。
ただし累損の発生がすぐに債務超過につながるわけではありません。
債務超過は倒産リスクが高い状態といえるものの、創業期や大型の投資導入の直後は、累損が膨らむことで債務超過に陥りやすくなります。
経営状況や方針によって、債務超過になっても仕方がない場合もあるといえます。
しかし赤字経営の常態化による多額の累損で陥った債務超過は、倒産リスクが極めて高い状況であるといえるため、抜本的な経営改善などの断行が必要となります。
赤字経営と債務超過の関係
赤字経営でも、たとえば一過性の赤字などの場合、将来的には黒字化されることが見込まれます。
しかし常に1年間の収益から費用を差し引いた結果、マイナスになってしまう状態が続けば、いずれ債務超過と呼ばれる状況に陥ることになるでしょう。
債務超過は、資産の合計よりも債務の合計が大きい状態であるため、赤字続きの状態はすでに債務超過状態または早晩債務超過に陥るリスクが高いと言い換えることもできます。
赤字が続けば将来に向けた投資もできず、企業競争力も低下するため利益率が低下します。
それによりキャッシュフローが悪化し、倒産するリスクは高くなってしまうでしょう。
信用力も低下するため、債務超過の状態であるならば、早期解消が必要です。
債務超過の判断方法
「債務超過」とは、債務総額が資産総額よりも大きくなり、財産をすべて売ってお金に換えたとしても債務を支払いきることができない状態です。
現在保有または所有している資産で債務を完済できない状態であるため、極めて深刻な状況ともいえるでしょう。
そこで、早期に債務超過に陥っているか確認し、万一資産より債務が上回っていれば、倒産リスクを高める前に改善することが求められます。
債務超過に陥っているか確認する方法は、次の2つの状況によって異なります。
- 正常時
- 経営悪化時
それぞれ説明します。
正常時
貸借対照表の「資産の部」の合計から「負債の部」の合計を差し引いたとき、プラスを表示するのなら債務超過では「資産超過」となります。
経営に不安を感じていない正常時の場合、債務超過になっている可能性は低いといえますが、直近2~3年に渡り赤字が続いているときは注意が必要です。
経営者の気がつかない部分で状況が切迫している可能性もあるため、次の経営悪化時の債務超過の判断方法で実態を確認することをおすすめします。
経営悪化時
経営悪化時は、手元の資金が足らず、資金ショートのリスクが高い切羽詰まった状態です。
切迫した状況にない場合でも、赤字続きのときや売上が急激に下落しているときなどは、貸借対照表の数字を実態に合わせた「実態貸借対照表」を作成してみましょう。
金融機関に事業融資を申し込むときなど、必ず決算書を提出します。
このとき、金融機関では独自の以下の修正を加え、「実態貸借対照表」を作成します。
- 回収可能性が見込めない売掛金を減額する
- 実在性が乏しい棚卸資産を減額する
- 役員に対する貸し付けのうち、返済されないと判断できる貸付金の減額する
- 減価償却を計算していない過去の有形固定資産を減額する
- 遊休不動産の時価への評価替えを行う
- 換金可能性のない無形資産を減額する
- 将来の退職金など決算書に記載のない隠れ負債を計上する
自社の現況を正確に把握できるため、貸借対照表の金額を修正し、債務超過ではないか確認してみましょう。
債務超過の解消方法
債務超過に陥っている場合、早期に状況を改善し、解消していくことが必要になります。
債務超過の解消方法として、考えられるのは次の4つです。
- 経営を改善する
- 増資する
- 債務免除してもらう
- 債務の株式転換を行う
それぞれどのような解消方法か説明します。
経営を改善する
債務超過を解消するのであれば、利益を出すことができるように経営を「改善」しましょう。
即効性のある改善方法とはいえないものの、いずれ債務超過を解消することにつながります。
増資する
債務超過を解消する場合、資本金を増やす「増資」を検討しましょう。
増資は、主に次の3つの種類があります。
- 公募増資(新株発行の際に不特定多数の投資家に出資を募る方法)
- 第三者割当増資(特定の第三者に新株を発行する方法)
- 株主割当増資(既存株主に保有株式数の新株を割り当てる方法)
なお、増資によって優遇税制が適用されなくなるケースなどもあるため、デメリットについても理解した上での選択が求められます。
債務免除してもらう
法的に民事再生手続や特定調停手続等再建型手続を行い、債権者に債務超過額以上の債務は免除してもらうことで、債務超過は解消できます。
債務免除後は、利益として債務免除益を計上できるため、負債を減少させることが可能です。
ただし債務免除益を計上したことで黒字転換した場合、法人税の課税対象となることは留意しておいてください。
仮に債務免除で債務超過は解消できても、法人税が払えないことを理由に倒産してしまえば意味がありません。
債務の株式転換を行う
債務を株式転換することを「デットエクイティスワップ(DES)」といいます。
債務超過額に見合う額の債務を株式(資本金)に変更してもらうことで、債務を減少させることができ、債務超過の解消へつなげることができます。
ただし債務の株式転換による債務超過の解消は、必ず債権者の同意が必要であることは留意しておきましょう。
債務を株式に転換する方法は主に次の2つです。
- 現物出資方式
- 新株払込方式
それぞれ説明していきます。
現物出資方式
「現物出資方式」とは、債権者が会社に債権を出資する形で株式の交付を受ける方法で、現金の移動はありません。
帳簿上の操作で手続できることがメリットといえるでしょう。
新株払込方式
「新株払込方式」とは、借入金返済のために新株発行し、その際に支払われた資金を返済に充てる方法です。
持株比率や利益などに影響を及ぼすため、経営権を脅かされることのないように、その点も注意した上での選択が求められます。
まとめ
累損とは、会社の損失の累積金のことであり、マイナスが溜まった状態といえます。
繰越損失は将来の利益と相殺することができることや、過去に支払った法人税を取り戻すことができるのはメリットです。
確かに節税対策に有効とはいえるものの、解消されない状態は信用力低下につながることは注意しておきましょう。
また、繰越損失の節税対策への活用においては、青色申告の承認を受けることが必要であるため、青色申告承認申請書を提出期限までに提出するようにしてください。
累損は損失が蓄積されている状態であり、主な原因は赤字経営です。
赤字経営は債務超過となりやすく、将来的な倒産リスクにもつながるため、早期解消のための経営改善を検討していきましょう。