法人税は、法人の所得に対する国税ですが、高い税率のまま課税されると資金力の低い中小企業などは税負担が重くなりがちです。
ただ、中小企業は法人税率の特例により、大企業よりも法人税率が優遇されています。
賢く法人税率を低く抑えることのできる特例を活用すれば、財務基盤を安定化することが中小企業の健全経営につながるともいえるでしょう。
そこで、法人税の軽減税率について、中小企業に対する優遇措置をわかりやすく説明していきます。
目次
法人税とは
「法人税」とは、法人の所得に対する税金であり、国税の1つです。
会社経営をしていると、1事業年度ごとの最終月に、すべての収支と損益をまとめて期間中の経営状況を明らかにする「決算」を行います。
決算後には、その結果を「確定申告」により税務署(国)に報告します。
その際、益金の損金の差が「法人所得」となりますが、「法人税」はこの所得に対して課税される税金です。
仮に所得がゼロ以下だった場合には法人税の負担はありませんが、会社経営において納めなければならない税金は他にもいろいろな種類があります。
法人の納める税金の種類
法人が納める税金は、基本的に次の5つに分けることができます。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
- 消費税
それぞれどのような税金なのか、一般的な税率について説明します。
法人税
「法人税」とは、法人所得に対する国税です。
会計上の当期純利益に税務調整を加えた後の「課税所得」に所定の税率をかけて計算します。
法人税額=課税所得×税率-税額控除額 |
法人税の「税率」は、事業年度の所得に対して原則23.20%です。
しかし大企業よりも資金力の低い中小企業の負担を軽減するため、資本金1億円以下の法人などについては所得金額の年800万円以下の部分を19%にする措置もあります。
法人住民税
「法人住民税」とは、会社登記をしている都道府県や市町村に対して納める税金であり、次の2つで構成されます。
- 法人税割
- 均等割
それぞれ簡単に説明していきます。
法人税割
「法人税割」は、法人が国に支払う法人税額を基準として、都道府県や市町村に払う税金です。
儲けの多い法人ほど、税額が高くなります。
- 都道府県…法人税額×1.0%
- 市町村…法人税額×6.0%
均等割
法人であれば等しく支払う義務のある税金が「均等割」です。
法人税割は法人税を納めている黒字の法人のみが支払いますが、均等割りは赤字の法人も支払うことが必要です。
均等割は、都道府県と市町村によって、それぞれ複数の区分に分けて負担する税額が決まります。
- 都道府県…資本金額などよる5つ
- 市町村民…資本金額・従業者数などによる9つ
資本金等の額 | 都道府県民税均等割 | 市町村民税均等割(従業者数50人超) | 市町村民税均等割(従業者数50人以下) |
1千万円以下 | 2万円 | 12万円 | 5万円 |
1千万円超1億円以下 | 5万円 | 15万円 | 13万円 |
1億円超10億円以下 | 13万円 | 40万円 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 54万円 | 175万円 | 41万円 |
50億円超 | 80万円 | 300万円 | 41万円 |
法人事業税
「法人事業税」は、法人の事業に対して課税されます。
事業所などのある都道府県で事業を営んでいることに対して課税される地方税の1つです。
法人事業税=課税標準額(所得等)×税率 |
資本金が1億円以下の場合には、特定の業種を除いて事業年度決算をもとに計算した所得が課税標準額となり、特別の規定がなければ法人税の事業年度所得と一致します。
税率は事業や法人の種類、開始する事業年度によっても変わってきます。
たとえば資本金1億円以下の法人の法人事業税の標準税率は以下のとおりです。
所得金額 | 標準税率 |
400万円以下の金額 | 3.5% |
400万円超800万円以下の金額 | 5.3% |
800万円超の金額 | 7.0% |
特別法人事業税
「特別法人事業税」とは、地方法人課税における税源の偏在を是正するために、法人事業税の一部を分離して導入された税金で、法人事業税の申告・納付義務がある法人は対象となります。
特別法人事業税=基準法人所得割額または基準法人収入割額×税率
「基準法人所得割額または基準法人収入割額」とは、標準税率で計算した法人事業税の所得割額または収入割額です。
「税率」については以下のとおりとなっています。
法人の種類 | 税率 |
資本金1億円以下の普通法人等の所得割額 | 37% |
資本金の額(出資金額)が1億円を超える法人の所得割額 | 260% |
特別法人の所得割額 | 34.5% |
収入金額課税法人の収入割額 | 30%(発電事業等・小売電気事業等を営む法人は40%・特定ガス供給業を営む法人は62.5%・一般ガス供給業を営む法人は37%) |
消費税
「消費税」は、商品販売やサービス提供などの取引に対し、課税される税金です。
負担するのは消費者ですが、事業者が納めることになります。
すべての事業者に納税義務があるわけではなく、課税売上高が1,000万円を超える事業者であれば課税事業者として納めることになる税金です。
法人が顧客から消費税を受け取った後は、仕入れなどで支払った消費税を差し引いた残りを納めます。
消費税の計算方法は、次の2種類があります。
- 一般課税
- 簡易課税
それぞれの計算方法について説明していきます。
一般課税
「一般課税」とは、売上で預かった消費税から、実際に支払った消費税額を控除する計算方法です。
消費税=課税期間中の課税売上げに係る消費税額-課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額 |
簡易課税
「簡易課税」とは、事業の種類に決められた課税仕入れの「みなし仕入率」と売上に掛けて、仕入税額控除を算出する計算方法です。
消費税=課税期間中の課税売上げに係る消費税額-(課税期間中の課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率) |
みなし仕入率は事業の種類ごとに以下のとおり異なります。
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業等)小売業・農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) | 80% |
第3種事業(製造業等)農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)・建設業・製造業など | 70% |
第4種事業(その他)飲食店業など | 60% |
第5種事業(サービス業等)運輸・通信業、金融・保険業、サービス業 | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
法人税法上の中小企業の定義
法人税法による「中小企業」は、以下の4つに分けて定義されています。
- 中小法人
- 中小法人等
- 中小企業者
- 中小企業者等
区分によって適用される規定や税金、税率などが異なる場合もあるため、それぞれの違いについて理解を深めておきましょう。
中小法人
法人税法上の「中小法人」とは、普通法人のうち、資本金または出資金の額が1億円以下である法人です。
資本金が5億円以上の法人との間に、その法人による完全支配関係がある法人は除きます。
また、中小法人に、相互会社・受託法人・投資法人・特定目的法人は含まれません。
中小法人等
法人税法上の「中小法人等」とは、以下に該当する法人です。
- 普通法人のうち資本金または出資金が1億円以下の法人(資本金や出資金の額が5億円以上の単独・複数の大法人に完全支配されている法人は除く)
- 出資または出資を有しない法人(相互会社除く)
- 公益法人等
- 協同組合等
- 人格なき社団等
中小企業者
租税特別措置法上の中小企業者とは、以下に該当する法人です。
- 普通法人のうち資本金または出資金が1億円以下の法人(大規模法人に発行済株式または出資総額の2分の1以上を所有されている法人と、2以上の大規模法人に発行済株式または出資総数の3分の2以上を所有されている法人は除く)
- 資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
なお、「大規模法人」とは、資本金または出資金が1億円を超える法人です。
中小企業者等
「中小企業者等」とは、中小企業者だけでなく農業協同組合等も含む以下の法人です。
- 普通法人のうち資本金または出資金が1億円以下である普通法人(大規模法人に発行済株式の2分の1以上を所有されている法人は除く)
- 資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
- 農業協同組合等
中小企業の法人税率の特例とは
法人税に関しては、「中小企業者等の法人税率の特例」により、租税特別措置法上の中小企業または中小企業者は税率が優遇されます。
どの程度まで税率が軽減されるのかなど、以下の2つに分けて説明していきます。
- 特例措置の対象
- 軽減後の法人税率
特例措置の対象
中小企業者等の法人税率の特例制度の適用対象となる一定の普通法人で、次に該当する場合には特例措置の対象です。
- 事業年度終了時の資本金または出資金が1億円以下である場合
- 資本または出資を有せず事業年度終了時に次の法人に該当するものを除いた法人
①相互会社
②資本金額5億円以上などの大法人との間に完全支配関係がある普通法人
③②以外で普通法人と完全支配関係があるすべての大法人が有する株式・出資の全部を、そのすべての大法人のいずれの法人が有するものとみなした場合において、いずれかの法人と普通法人との間に完全支配関係がある普通法人
④投資法人
⑤特定目的会社
⑥受託法人
⑦大通算法人
また、適用除外事業者に該当する場合なども措置の適用対象から除かれます。
適用除外事業者
「適用除外事業者」とは、基準年度(事業年度開始日前3年以内に終了した各事業年度)の所得金額の合計額を、基準年度ごとの月数の合計数で割って12をかけて計算した金額が15億円を超える法人です。
上記に該当する法人や、「通算制度における適用除外事業者」は、適用対象から除かれます。
なお、「通算制度における適用除外事業者」については、国税庁の公式サイト「通算制度における適用除外事業者の取扱いについて」を参考にしてください。
軽減後の法人税率
通常、普通法人の法人税率は23.2%です。
しかし資本金1億円以下の中小企業者等は、事業年度ごとの所得金額のうち年800万円以下の金額に対して19%の軽減税率が適用されます。
ただ、令和5年3月31日までの間で開始するそれぞれの事業年度については、15%の軽減税率が適用されます。
これは、エネルギーなどを中心としたコストプッシュ型の物価上昇で、中小企業の収益環境の悪化が懸念されているからです。
この軽減税率の適用期限は、令和7年3月31日までとされていますが、延長される可能性もあります。
その他税制上の中小法人に対する優遇措置
「租税特別措置法」における中小法人または中小企業者であることで、法人税の軽減税率適用以外で適用される税制上の優遇措置は以下のとおりです。
- 中小企業投資促進税制
- 中小企業経営強化税制
- 少額減価償却資産の特例
- 中小企業技術基盤強化税制
- 消費税の特例
- 交際費等の損金算入の特例
- 欠損金の繰越・繰戻
それぞれ説明していきます。
中小企業投資促進税制
「中小企業投資促進税制」とは、中小企業者等が機械装置など対象となる設備を取得・制作した場合、次のいずれかを選択・適用できる制度です。
特別償却(基準取得価額の30%)
税額控除(基準取得価額の7%)
また、税額控除限度額が対象の事業年度の法人税額の20%相当額を超えるため、対象の事業年度で税額控除限度額すべてを控除しきれなかった場合、1年間繰り越すことができます。
なお、中小企業投資促進税制の適用期限は令和6年度までです。
ただ、これまでも期限が近づくたび内容が追加・変更されながら延長を繰り返しているため、今後も延長される可能性があります。
中小企業経営強化税制
「中小企業経営強化税制」とは、特定経営力向上設備等を新品で取得・製作・建設し、国内法人の指定事業として供した日を含む事業年度に、次のいずれかを選択・適用できる制度です。
特別償却(取得価額から普通償却限度額を控除した金額)
税額控除(資本金3,000万円以下の法人は取得価額の10%・資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)
中小企業等経営強化法の経営力向上設備等に該当するのは、生産等設備を構成する機械・装置・工具・器具・備品・建物附属設備・特定のソフトウェアです。
対象となるためには、青色申告していることと、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けることが必要となります。
少額減価償却資産の特例
「少額減価償却資産の特例」とは、中小企業者等が取得価額30万円未満の固定資産を取得したとき、一定要件のもとで全額を経費として計上できる制度です。
青色申告をしている中小企業者または農業協同組合で、常時使用する従業員数が500人以下の法人が対象となります。
対象となる資産は、取得価額が30万円未満の少額減価償却資産です。
中小企業技術基盤強化税制
「中小企業技術基盤強化税制」とは、研究開発を行う企業に対し、法人税額か試験研究費の額に税額控除割合(12~17%)をかけた金額を控除できる制度です。
なお、控除できる金額は、原則、法人税額の25%が上限とされています。
研究開発したものが利益になると限らないものの、税制で還元を受けることができるため、次の開発費を増額することにつながります。
控除率は、試験研究費の平均売上高に対する試験研究費割合によって変わります。
適用期限の定めはないものの、試験研究を実施することが必要であり、研究においてかかった試験研究費が対象となる制度とされています。
「試験研究費」に該当するのは以下に該当する費用です。
- 製品の製造等に係る試験研究費
- サービス開発に係る試験研究費
製品の製造等に係る試験研究費
製品の製造や技術の改良・考案もしくは発明に係る試験研究のための次に該当する費用です。
①試験研究を行うために要する原材料費・人件費・経費
②試験研究のために外部に支払う委託研究費
③技術研究組合に支払う賦課金
④試験研究のために使用する減価償却資産の減価償却費
サービス開発に係る試験研究費
対価を得て新たな役務(サービス)の開発に係る試験研究のための次に該当する費用です。
①試験研究を行うために要する原材料費・人件費(専ら従事する情報解析専門家に対するもののみ)・経費
②試験研究のために外部に支払う委託研究費
③試験研究のために使用する減価償却資産の減価償却費
消費税の特例
「消費税の特例」は、売上が少ない事業者を対象とした制度です。
中小企業でも次の2つの制度により、事務負担や税負担が軽減される可能性があります。
- 事業者免税点
- 簡易課税
それぞれ簡単に説明していきます。
事業者免税点
基準期間(前々年度)の課税売上高が1,000万円以下の場合、その課税期間において行った資産譲渡等の消費税の納税義務は免除されます。
なお、基準期間ではなく、前事業年度開始日から6か月の「特定期間」の売上高が1,000万円を超えた場合は課税事業者となり、免除されませんので注意してください。
簡易課税
基準期間の課税売上が5,000万円以下の場合、一定要件のもとで簡易課税の選択が可能です。
簡易課税では、課税売上高をもとに消費税納付額を計算するため、事務的な負担を軽減できます。
交際費等の損金算入の特例
資本金1億円以下の中小法人であれば、「交際費等」の損金算入の特例が活用できます。
「交際費等」とは、交際費・接待費・機密費・その他の費用で、法人が得意先・仕入先・その他事業の関係者などに、接待・供応・慰安・贈答・その他これらに類する行為のために支出するものです。
交際費として過剰に支出することを抑える税制に、「交際費の損金不算入制度」があります。
損金不算入制度では、得意先などとの関係を維持するための交際費のうち、法人税上は一定割合を損金として認めない制度です。
ただし資本金または出資金が1億円以上の法人は、接待飲食費の50%を損金算入できます。
資本金または出資金が1億円以下の中小企業の場合、次の2つから損金算入の方法を選ぶことが可能です。
- 定額控除限度額の上限800万円までを損金算入する
- 接待飲食費の合計額50%を損金算入する
欠損金の繰越・繰戻
青色申告の確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じたときには、その金額を翌年度から10年間繰り越すことができます。
繰り越された欠損金と将来の課税所得を相殺できるため、税負担を軽減できることがメリットです。
相殺金額は中小法人以外では100分の50となるものの、中小法人は欠損金すべてを繰越控除できます。
また、前年度に法人税を納めている場合、欠損金を翌年度に繰り越さずに、前年度分の法人税から欠損金分だけ払い戻してもらうことができます。
まとめ
法人税は、法人の所得に対する国税であり、事業運営にかかわる税金ともいえます。
特に中小企業に税率の高い状態で課税されると、税負担が重くなり、納税資金を別途調達しなければならないケースも出てくるでしょう。
ただ、中小企業は法人税率の特例などによって大企業よりは法人税率が優遇されています。
また、法人税以外にも中小企業であれば受けることのできる税制上の優遇措置は複数あるため、うまく活用することで手元にお金が残りやすくなり、経営の安定化にもつながることでしょう。
税金は企業経営で必ず向き合わなければいけない課題である税率軽減などの制度を上手に活用するべきといえますが、多岐に渡る税制それぞれが年度によって取り扱いなど異なる場合もあります。
期間の延長や内容の変更があったことに気がつかずに適用させてしまうと、税額などが変わり余計な税負担が増えてしまう可能性もあります。
詳しい内容は中小企業庁の公式サイトなどを閲覧するか、専門家に相談するなど確認することが大切です。