民事再生とは、会社が負債を抱えすぎて消滅してしまうことを回避するために、債務整理した上で再建を目指す手続です。
裁判所を通して手続する法的整理の1つですが、会社を消滅させず事業を続けながら債務を返済するために行います。
そこで、債務が膨れ上がり今後どうすればよいか悩んでいる法人経営者を対象に、民事再生の手続や債務カット額、流れを解説します。
中小企業経営者向け!

民事再生とは
民事再生とは、民事再生法に基づいて行う手続です。
経済に行き詰まった法人経営者が、債権者など利害関係者の同意の下で再生計画を策定し、事業再建を図るための制度といえます。
会社が倒産危機に直面したときは、まず経営を立て直そうとするものです。
その際の手段として考えられるのが民事再生であるものの、手続が複雑なため専門家などを頼ったほうがよいでしょう。
民事再生について、次の2つを簡単に説明します。
- 破産との違い
- 債務カットされる額
破産との違い
破産は、個人なら自己破産、会社なら法人破産をして、これまでの借金を免除してもらう手続です。
裁判所が破産管財人を選任し、財産を差し押さえた上でお金に換えて、債権者の返済に充てる分配をします。
事業における民事再生と破産は、どちらも倒産として扱われるます。
ただし民事再生は再建型であるのに対し、破産は清算型の手続です。
再建型は会社を存続させることができるのに対し、清算型では会社は消滅するという違いがあります。
また、さらに民事再生は事業再生を図る上で、債権者が合意しなければ成立しません。
民事再生で手続したほうが破産よりメリットが大きいと感じてもらえなければ、債権者の同意を得ることは難しいといえます。
債務カットされる額
民事再生に関連する債権の債務カット額は、債務者自身による再生計画の中で決めます。
たとえば、以下で決定します。
- 債権の○パーセントを再生計画が確定した後の〇か月以内に一括で返済
- 債権の○パーセントを毎年○月○日限り10年間の分割返済
〇パーセントという免除される金額や、一括や何年分割など免除された後の弁済方法などは、特に規定がありません。
そのため法令や税務の制限などを勘案しながら、債務者が責任を持ち定めることが必要となり、債権者が納得できる内容で計画を立てることが重要です。
民事再生の再生計画は、債権者の多数から賛成が得ることができなければ裁判所に認可されないため、適切で妥当な免除の割合と弁済方法を検討することが必要です。
民事再生の種類
民事再生は裁判所の監督のもとで債務者との民事上の権利関係を調整しつつ、事業再建を図ることを目的とします。
会社更生法は株式会社のみが対象であるのに対し、民事再生法は個人から大企業まで対象です。
民事再生は、主に次の2種類があります。
- 再建型
- 清算型
それぞれ説明します。
再建型
再建型の民事再生には、次の2つの種類があります。
- 本業で将来発生する収益から再生債権を弁済し自力再建を図る自力再建型
- スポンサーに資金援助を受けながら再建を図るスポンサー型
清算型
清算型の民事再生では、営業譲渡などの手法で事業の全部または一部を受け皿法人に移管し、旧法人は清算します。
民事再生手続開始後に裁判所の許可を得て営業譲渡しますが、譲渡代金を再生債権の弁済財源に充てられます。
民事再生の流れ
民事再生は裁判所へ申立てを行い、債務の返済スタートまで複数の段階を経ることが必要となります。
手続の流れは、以下のとおりです。
- 申立て
- 保全処分
- 監督委員選任・監督命令
- 民事再生手続開始決定
- 債権届出・財産状況報告
- 再生計画案の作成
- 債権者の決議
- 裁判所の認可
- 返済開始
それぞれの流れを説明します。
申立て
民事再生では、まず債務者の主たる営業所管轄の地方裁判所へ申立てを行うことが必要です。
申立ての際には、次の書面を提出します。
- 申立書
- 陳述書
- 財産目録
- 債権者一覧表
- 印鑑(代表者の印鑑)
- 全部事項証明書または商業登記簿謄本
- 取締役会議事録
- 財務状況や財産に関する書類
書面の提出だけでなく、負債総額により変わる予納金も納めることが必要です。
保全処分
裁判所が申立てを受理すると、民事再生手続開始決定までは債務者の財産などを保全する命令が出されます。
民事再生申立てと同時に、申立て前日までに発生した債務の弁済を禁止する保全処分の申立ても行います。
保全処分が決定すると債務の弁済が禁止されることになり、債権者も財産の仮差押えや仮処分ができなくなります。
監督委員選任・監督命令
民事再生では破産管財人の選任はないため、財産管理や処分は経営者が行いますが、実務上は裁判所が弁護士から選任した監督委員の監督を受けます。
そのため会社の財産を処分する場合など、監督委員の同意を得なければできません。
民事再生手続開始決定
民事再生の申立てから2週間程度で、正式に民事再生手続開始決定となり、公告されます。
公告されることで、債権のある法人や個人は、定められた期限までに債権に関する届出を行います。
一般的には、手続前に債務者から債権者に対する説明会など開催することが多いといえます。
債権届出・財産状況報告
民事再生に関連する債権者は、債権を有する意思を表示する債権届出を行います。
民事再生を手続する債務者は、民事再生手続開始時点で保有する財産の評定を行い、その結果を踏まえた財産目録・貸借対照表を作成して裁判所に提出します。
再生計画案の作成
車検者からの債権届出を受けた後は、裁判所の定めた期日までに、将来の収益から返済できる金額を算出し分割で債権者へ返済するための再生計画案を作成し提出します。
債権者の決議
裁判所に提出した再生計画案に関して、債権者集会で決議を受けます。
債権者集会に参加した議決権を行使できる債権者の過半数・債権総額2分の1以上の賛成を得れば、再生計画案は可決となります。
裁判所の認可
再生計画案が可決されることで、裁判所は再生計画案を認可します。
返済開始
裁判所の再生計画の認可により、最初3年間は監督委員の監督のもとで再生計画に従う弁済を開始します。
民事再生のメリット
民事再生で事業再建を図ることには、主に次の4つのメリットがあります。
- 事業存続が可能
- 経営陣の退陣がない
- 従業員を残すことができる
- 債務が免除される
それぞれのメリットを説明します。
事業存続が可能
民事再生のメリットとして、事業存続が可能であることが挙げられます。
これまで通り事業を継続させつつ、債務カットできるのが民事再生であるため、法人が消滅する破産や特別清算とは異なる手続です。
再生計画の内容を実行することができれば、会社を縮小させることなく再建できる場合もあります。
残った債務は原則10年猶予されるため、余裕のある返済計画を立てることもできます。
経営陣の退陣がない
民事再生のメリットとして、経営陣の退陣がないことが挙げられます。
経営陣が退陣しなければならない場合、中小企業では会社経営できる人材をすぐに見つけることが困難です。
しかし民事再生では、計画通りに再建できれば、経営陣は変更なしで継続できます。
従業員を残すことができる
民事再生のメリットとして、従業員を残すことができることが挙げられます。
企業存続を前提とした手続であるため、社員など従業員は勤務し続けることが可能です。
むしろ技術や能力の高い人員は、退職しないように説得しなければならない可能性もあります。
債務が免除される
民事再生のメリットとして、債務が免除されることが挙げられます。
手続を申立てると、金融機関の預金は債務と相殺されることも禁止されるため、民事再生通知後の入金分は手元に残せます。
また、再生計画案は債権者の過半数から同意を得ればほぼ認可されるため、債権者全員から同意を得なくても債務免除してもらえる効果が大きいといえます。
民事再生のデメリット
民事再生で事業再建を図ることにはいろいろなメリットがあるものの、次の5つのデメリットには留意が必要です。
- 民事再生のメリット
- 社会的信頼を失う
- 手続に費用がかかる
- 担保権を行使される場合がある
- 専門的知識が必要になる
それぞれ説明します。
社会的信頼を失う
民事再生のデメリットとして、社会的信用を失うことが挙げられます。
どのような方法でも、倒産手続では社会的に経営が危ういと認識され、信用がなくなります。
民事再生でも例外ではなく、売上減少につながる恐れも十分あるため注意してください。
手続に費用がかかる
民事再生のデメリットとして、手続に費用がかかることが挙げられます。
申立ての際に裁判所に納める予納金は、債務総額により以下の通り異なります。
債務総額 | 予納金額 |
~5,000万円 | 200万円 |
5,000万円~1億円 | 300万円 |
1億円~5億円 | 400万円 |
5億円~10億円 | 500万円 |
10億円~50億円 | 600万円 |
など |
さらに民事再生は弁護士など専門家に依頼して進めなければ手続が難しいため、債務総額によって異なる高額の報酬を支払うことが必要です。
担保権を行使される場合がある
民事再生のデメリットとして、担保権を行使される場合があることが挙げられます。
申立てにより債権者に債務カットを申し出たとき、債務に担保が設定されていれば担保権を行使されることもあります。
担保が運営に大きな影響を与えるものだった場合、事業に支障をきたすこととも考えられます。
担保権を保有する債権者と、前もって相談し別途弁済協定を締結することなど、対策が必要です。
専門的知識が必要になる
民事再生のデメリットとして、法律や税務などの専門的知識が必要になることが挙げられます。
返済できない債務の一部がカットされることは民事再生のメリットですが、免除された額は債務免除益として扱われます。
仮に1億円免除された場合、その金額が法人税等の課税対象になり、再生の妨げになる恐れもあります。
民事再生は税務ルールが大変複雑であるため、手続を検討する場合には弁護士だけでなく民事再生の税務に精通した税理士にも相談が必要です。
様々な専門家を頼らなければ手続しにくい制度ともいえるでしょう。
まとめ
民事再生により、会社を消滅させることなく事業存続が可能となるため、経営難に陥っているときの立て直しにはまず検討したい手続です。
再生を図る手続は、民事再生法による民事再生だけでなく、会社再生法の会社更生もありますが、この場合は株式会社のみが対象となります。
また、裁判所を通さない私的整理などもあるため、もしも事業再生を図る際には民事再生以外の手続も把握した上で検討しましょう。
中小企業経営者向け!

