債務超過とは?状況や原因、キャッシュフローの改善について解説

「債務超過」の状態ときけば、すぐにでも倒産してしまいそうな危ない会社というイメージを抱く方が多いことでしょう。

しかし実際には債務超過とは倒産を意味する言葉ではありません。

ただ、その状態が続けば倒産リスクは高くなるともいえるため、そもそも債務超過とはどのような状態なのか、陥る原因や赤字との違いについて解説していきます。

債務超過とは

「債務超過」とは、貸借対照表の純資産がマイナスの状態であることを意味しており、借入金や買掛金といった負債額が現金や売掛金などの資産額を上回っている状態です。

在庫として保管している商品や事務所の設備などすべて売り払ってお金に換えたとしても、今の借金や固定費支払いなどを賄いきれない状態ともいえます。

ここでは債務超過について下記4つを確認しておきましょう。

  1. 債務超過と貸借対照表(バランスシート)の関係
  2. 債務超過と実質債務超過
  3. 債務超過と赤字経営の違い
  4. 債務超過と資金ショート

債務超過と貸借対照表(バランスシート)の関係

債務超過は貸借対照表の貸方(左側)に注目します。貸借対照表は「資産」「負債」「純資産」で構成される表のことです。貸方(表の左側)には会社が保有する資産、借方(表の右側)には会社が抱える負債と純資産がきます。

正常な状態であれば、資産の合計額と、負債と純資産の合計額は一致しますが、債務超過では一致しません。債務超過になると、資産よりも負債が多い状態に陥るからです。

そのため、貸借対照表上は負債を含む借方の合計額の方が貸方の合計額よりも大きくなります。

債務超過と実質債務超過

債務超過の他には、実質債務超過もあります。実質債務超過は、決算書上(貸借対照表上)は債務超過に陥っていないものの、実質は債務超過になっている状態のことです。

時価評価などが影響して、貸借対照表上は問題がなくても債務超過となっていることがあります。実質債務超過に陥りやすいのは次のケースです。

  • 回収不能の売掛債権が多い
  • 経営者に対する貸付金が多額にあるものの返済見込みが低い
  • 土地の時価が大幅に下落したことで含み損を抱えており、実態時価純資産がマイナス状態

実質債務超過でも経営は厳しくなります。

債務超過と赤字経営の違い

債務超過に陥ることを防ぐためには赤字経営を回避することが必要であり、キャッシュフローを悪化させないように注意することも求められます。

黒字でも倒産することはあるため、債務超過に陥らないように注意しつつ、資金繰りにも目を配りましょう。

債務超過と赤字経営の違いとして、まず「赤字」とは単年度の収益が費用を下回った状態です。

負債が資産を上回っているのではなく、負債の一部である支出が資産の一部である収入を上回っているとイメージすると分かりやすいでしょう。

赤字経営でもすぐに倒産するわけではなく、例えば一時的な赤字なら、利益剰余金により純資産を増やしているときやキャッシュフローの適切な管理があれば乗り切ることができます。

ただ、赤字続きのときや損失が莫大なときには、負債が資産を上回り債務超過に陥る可能性も高くなってしまうでしょう。

債務超過と資金ショート

会社が倒産してしまうリスクを高めるのは「資金ショート」であり、手元にある現金が不足し、枯渇すればたとえ黒字でも倒産してしまいます。

赤字状態が続けば資金ショートを引き起こしやすくなりますが、債務超過と資金ショートの大きな違いは緊急性です。

資金ショートすれば、借入金の返済に充てるお金がなく、期日に支払いできなくなります。

仕入れ代金や税金などの支払いもできなくなるため、倒産に直結する可能性が高いといえるでしょう。

資金ショートする主な原因として、次のことが挙げられます。

  • 赤字経営続きである
  • 税金や返済に関して十分に認識できていない
  • 売掛金と買掛金のバランスが崩れている
  • 借入金の返済期日まで短く本業の儲けより返済額が大きい
  • 売掛金の入金サイトより買掛金の支払いサイトが短い
  • 売掛金や受取手形ばかり増え現金化されていない

黒字倒産を防ぐには、手元の資金を増やすことが必要です。

例えば売掛金の入金サイトより買掛金の支払いサイトが短いなら、入金はできるだけ早く、支払いはできるだけ遅くする工夫も必要となるでしょう。

とはいえ取引先に直接、「早く売掛金を支払ってほしい」「買掛金の支払いを待ってほしい」と相談することは容易ではありません。

このような場合、ファクタリングを利用することで売掛金を前倒しで回収することができ、手元の資金を売掛先に知られず増やすことができます。

債務超過の判断方法

債務超過の発生を判断する方法は以下の2通りです。

  1. 貸借対照表による判断
  2. 実態貸借対照表による判断

それぞれの判断基準を見ていきましょう。

貸借対照表による判断

決算書の貸借対照表を利用した判断方法もあります。貸借対照表の資産と負債の数値を見て、どちらに傾いているかで判断します。具体的には、下記のとおりです。

  • 「資産>負債」 債務超過なし
  • 「負債>資産」 債務超過あり

資産の合計から負債の合計を差し引いたとき、マイナス(資産よりも負債が多い)状態となれば、債務超過に陥っていると判断できます。反対に、資産のほうが多い状態であれば、資産超過(プラスの状態)です。通常、負債のほうが資産よりも多くなることはありません。

また、単純にプラス・マイナスのみを見るのではなく、純資産の減り具合も確認しましょう。純資産は、主に下記の3つの項目をさします。

  • 資本金
  • 資本準備金
  • 利益過剰金

マイナス分がなく、一見すると資産と負債のバランスが取れているように見えても、純資産の状態によっては債務超過と判断できます。

例えば累積赤字があったり、上記の純資産を返済に充てていたりする場合、実質的にはマイナスの状態です。負債が純資産を減らしている以上、債務超過状態といえます。

なお、現金化できない資産を多く保有していることで実際には経営難に陥っているケースもあるため、純資産の減りを確認したときに負債を純資産から支払っていれば実質的には債務超過と判断できます。

実態貸借対照表による判断

資産として含まれているものの中には、実質回収できないものや価値が低下したものなどもあるはずです。

目に見えないマイナスを見つけるために、「実態貸借対照表」を作成しましょう。

実態貸借対照表は、今の時点での適切な資産額を割り出し、貸借対照表の数値を実態に即した数値へ修正した貸借対照表です。

修正方法は、資産と負債それぞれ次のとおりとなります。

【資産の修正方法】

  • 売掛金・貸付金・未収入金は、回収不能状態や長年回収できていないものは差し引く
  • 棚卸資産は架空在庫や不良在庫を差し引く
  • 仮払金・繰延資産は資産性のないものを差し引く
  • 土地は時価に修正する
  • 建物は減価償却した額に修正する
  • 投資有価証券は時価に修正する

【負債の修正方法】

  • 役員未払金・役員借入金は純資産とみなし差し引く
  • 退職給付引当金は積み立て不足額を負債へ計上する
  • 保証債務は保証人としての債務発生分を金額分負債へ計上する

債務超過のデメリット

会社が債務超過の状態に陥ることには、次のようなデメリットがあります。

  1. 銀行から融資を受けにくくなる
  2. 取引先から取引継続を懸念される
  3. 上場企業は上場廃止リスクが高まる
  4. 倒産リスクが高まる

それぞれ説明していきます。

銀行から融資を受けにくくなる

債務超過に陥れば、経営管理が不十分な危ない会社と認識されます。

そのため銀行から融資を受けて資金を調達したくても、新たな借入れは難しくなります。

また、投資家に出資してもらうこともできなくなるでしょう。

資金調達が厳しくなれば、新たな設備投資や新規事業参入は困難となるため、売上や利益率は落ち、今よりもさらにキャッシュフローは悪化してしまい倒産リスクは高くなります。

取引先から取引継続を懸念される

債務超過に陥れば、信用力の低い会社と認識されるため、新規で取引先を獲得することは困難となるでしょう。

また、既存の取引先とも取引継続を懸念され、取引量の制限や決済方法の変更を提示されたり取引が停止されたりという可能性も出てきます。

上場企業は上場廃止リスクが高まる

上場企業の場合、日本取引所グループ(JPX)の上場廃止基準である「債務超過が1年以上続くこと」に該当すれば上場が廃止されてしまうため、経営戦略上で債務超過に陥らないことが重要となります。

倒産リスクが高まる

債務超過が倒産に直結するわけではありません。次のような理由があるためです。

  • 負債には1年以上支払い猶予がある固定負債も含まれている
  • 流動資産に余裕がある場合には直近の支払いは滞らない
  • 開業したばかりであれば、初期投資による一時的な債務超過状態と考えられる

しかし、債務超過が続けば倒産リスクは高まります。資産の現金化に負債解消が追い付かなくなり、放置することで純資産が尽きてしまうためです。状況の改善が見込めない赤字経営や貸倒れによる高額の不良債権などをそのままにしておくと、債務超過が継続する恐れもあります。早急の対策が必要になるでしょう。

債務超過の原因

会社が債務超過に陥る理由として、主に次の5つが挙げられます。

  1. 赤字続きである
  2. 評価損が発生している
  3. 特別損失を計上している
  4. 借入をしたが回収できない
  5. 設立したばかりで事業が軌道に乗っていない

赤字続きである

債務超過に陥ってしまう原因で最も多いのは赤字経営が続くことです。

赤字経営が続けば、現預金など資産が減少するため、資産よりも負債が多い状態となり債務超過に陥ります。

評価損が発生している

資産の簿価と時価の差額で評価損が発生している場合も、債務超過に陥る原因となります。

例えば所有している投資有価証券などが購入したときよりも価値が下がっているときなどは、債務超過に陥る可能性が高くなってしまいます。

特別損失を計上している

自然災害の発生や新型コロナウイルス感染症による影響など、突発的で発生が予測できなかったことが要因となり、債務超過に陥ることもあります。

例えば豪雨災害などによる損失や、休業による損失など、臨時的に出費がかさむことで特別損失を計上することが必要となれば債務超過に陥ってしまいます。

借入をしたが回収できない

新規事業を始めたり、設備投資をしたりするときに、借入を利用することがあります。当初の想定通りに利益を得られれば難なく返済できますが、思ったようにうまくいかなかった場合、収益は上がらず負債だけが増加します。

借入の返済に充てる予定だった収益が得られない上、事業継続のためには新たに融資へ頼る必要があり、膨れ上がった利息や再度の借金で負債が増え続ける状態です。

設立したばかりで事業が軌道に乗っていない

設立したばかりの会社は初期投資がかさみ負債が膨らみやすくなります。事業が軌道に乗るまでにも時間がかかるため、経営もすぐには安定しません。そのため、事業が安定するまで赤字が続き債務超過に陥ることもあります。

設立からある程度経過しても赤字が続くようなケースでは債務超過に注意する必要がありますが、設立当初はよくあるケースと考えても問題ないでしょう。

また、会社法で資本金の制限がなくなったことから、資本金を少額に設定して創業するケースもあります。資本金が少額の場合でも、貸借対照表上は債務超過になりやすいです。

債務超過の解消方法

すでに債務超過に陥っている場合、その状態が続けばいずれ倒産する可能性を高めます。

そのため現在の状況から抜け出すことが必要となりますが、債務超過を解消する方法として次の7つが挙げられます。

  1. 利益を上げる
  2. 増資する
  3. 経営者借入金を債務免除する
  4. DESで負債を資本に切り替える
  5. 資産を売却する
  6. 融資・補助金・助成金を活用する
  7. 法的手続を行う

それぞれ説明していきます。

利益を上げる

前述のとおり、債務超過とは単純に考えると資産よりも負債が多い状態です。利益を上げて資産を増やせば、負債との差額を減らせます。

利益を上げる方法は、前年度よりも多く売ることだけではありません。例えば支出面を見直すことも利益の増加につながります。

利益を上げるために見直すべきポイントは、人件費や原価、経費などです。例えばルーチンワークのための人材を常勤で雇うよりも、外部サービスに委託したほうが総額は安く済む場合があります。

原価や経費も生産ラインの見直しや発注先の変更など、手を加えると利益増加が期待できます。

利益を上げるときのポイントは、架空計上など書類上のみで解決しようとしないことです。事業内容を見直し、着実に利益を上げることが大切です。

増資する

中小企業が債務超過を解消したいとき、もっとも簡単な方法として「増資」することが挙げられます。

経営者や創業者一族などが債務超過を解消できる第三者割当増資を引き受けることで解消できますが、即効性はあっても根本的な赤字経営解消にはなりません。

株主構成や経営権などにも影響するため、慎重な判断が求められます。

経営者借入金を債務免除する

経営者から会社が借りているお金があるときには、経営者が会社に対する債権を放棄する債務免除した分だけ債務超過は解消できます。

ただし債務免除すると、会社はその分の利益を得たとみなされるため、得た利益には法人税が課税されることを踏まえた上で判断してください。

DESで負債を資本に切り替える

負債を資本に切り替える「DES(Debt Equity Swap)」も債務超過を解消する方法として挙げられます。

金融機関などの債権者が債務超過した会社の株式を取得し、債権を株式へ振り替えます。

その資金で借入金を返済すれば債務超過を解消することができる流れです。

純資産を得ることができ信用も向上することがメリットですが、債権者である金融機関も、経営に参画しやすくなることや、持ち直した会社から配当収益や売却益を得ることができる可能性があることはメリットといえます。

ただし株主増加で経営に干渉される頻度が増えること、債務免除益で税負担が重くなることは留意しておいてください。

いずれにしても上場企業など信用力が高い企業でなければ実行は難しい方法のため、中小企業では現実的ではないともいえますが、方法の1つとして理解しておくとよいでしょう。

資産を売却する

土地や有価証券など、含み益を抱えている資産は、売却による売却益計上で債務超過を解消できる可能性があります。

車両や機械など減価償却資産も、償却後の簿価となっていることが多く、売却すれば売却益が発生する可能性が高いです。事業に大きな支障がない固定資産であれば売却も視野に入れましょう。

固定資産売却の他には、資産の一種である売掛金などの債権を買い取ってもらうファクタリングもあります。

数ヶ月先の債権などを早期に現金化できることから早期の資金繰りの立て直しに有効です。資金化した売掛債権を負債の返済に回すことで債務超過の状況も改善されます。

ファクタリングのメリットは、自社が債務超過に陥っているかどうかが審査に大きく影響しないことです。自社に対して債務を有する取引先の状況が優先されるため、自社の業績に関係なく買い取ってもらえる可能性があります。

融資・補助金・助成金を活用する

まずは手元の資金を増やすことが大切です。融資や行政などによる補助金・助成金を利用して、キャッシュフローの改善を試みましょう。

活用できる制度やサービスとして、主なものを4つ取り上げます。

  1. 事業再構築補助金
  2. 経営安定関連保証(セーフティネット保証)
  3. 資本性劣後ローン
  4. スーパーサポート資金

事業再構築補助金

新型コロナウイルス感染症が長期に渡り影響を及ぼしたことで回復が遅れている中小企業向けに設けられた補助金です。事業転換や新分野展開など、事業再構築を計画している中小企業が応募できます。

補助金額は、応募する枠と従業員数によって様々です。例えば「成長枠」の例では、従業員20人以下で100〜2,000万円、21〜50人で100~4,000万円、従業員数101人以上の企業なら最大7,000万円となります。

経営安定関連保証(セーフティネット保証)

なんらかの理由で経営安定に支障が生じている中小企業に対して行われる、保証限度額の別枠化等の措置です。事業所のある市町村役場で申請します。

経営安定の支障として様々な事由が認められます。例えば取引先金融機関の破綻や、自然災害などの突発的災害も申請の対象です。保証限度額は一般と別枠が設けられており、いずれも普通保証2億円以内(無担保保証8,000万円以内、無担保無保証人保証2,000万円以内)と定められています。

資本性劣後ローン

他の債権よりも支払い順位が劣る借入金のことを、劣後ローンと呼びます。資本性劣後ローンは、借り入れても自己資本と見なされるのが特徴です。新型コロナウイルス感染症や震災などの影響を受けた企業に対して、日本政策金融公庫が貸付を行う制度です。

帳簿上は資本の一部として扱うため、自己資本比率の改善につながります。例えば新型コロナ対策資本性劣後ローンでは、限度額が直接貸し付け15億円まで、返済期間は最大20年となっています。

スーパーサポート資金

埼玉県による中小企業応援貸付の制度です。スーパーサポート資金はあくまで埼玉県独自の名称であり、自治体によって異なる名称で似たような応援貸付が行われています。

スーパーサポート資金は、直近決算の売上高など一定の要件を満たした中小企業のみ申請できます。融資金額は100万円以上10万円単位で、最大2,000万円まで可能です。国の補助金制度の要件を満たしていない場合は、スーパーサポート資金のような自治体の補助金や貸付制度を検討してはいかがでしょうか。

法的手続を行う

自社のみでは解決できない場合、法的手続を行う選択肢もあります。例えば民事再生法や会社更生法の利用です。

民事再生法は、弁済期にある債務を自己の資金で弁済できない状態など、債務超過に陥った個人または企業が利用できる法的再生の手段です。また、債務者のみならず債権者側から申し立てることもできます。

再生計画を遂行して再建できれば、経営の継続が可能です。再建が困難と判断されれば、破産手続も検討されます。

会社更生法も、民事再生法と同じく再建型の倒産手続を行うための手段です。民事再生法との違いは、株式会社のみが会社更生法を利用できる点にあります。民事再生法が債権者側からも申し立てできるように、会社更生法も株主や会社債権者のほうから申し立て可能です。

まとめ

債務超過とは会社の負債総額が資産総額を超えている財務状況であり、赤字とは費用が収益を超えている状態です。

赤字が続けば債務超過に陥る可能性は高くなるものの、すぐに倒産するわけではありません。

ただ、信用の低下などで資金調達が厳しくなり、経営状況をさらに悪化させてしまいます。

債務超過を解消するには、増資・DES・債務免除・資産売却などの方法がありますが、いずれにしても定期的な貸借対照表の確認と健全な経営体制へ整備することは欠かせないといえます。

会社を立て直し黒字化する前に、手元の資金が枯渇すれば倒産しかねません。

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資金調達だけでなく財務基盤を構築するための財務支援も可能です。債務超過の場合、財務状況に問題が生じる可能性もあります。早期の見直しができれば、改善が難しくなる前に経営状況を好転させることもできるでしょう。

さらに、PMGでは補助金や助成金の申請可能一覧の作成、業務提携による申請のサポートも行っています。補助金や助成金の利用を検討されたい事業者様もPMGへお問い合わせください。

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