企業間取引で使われることの多い「与信」という言葉ですが、信用を供与することを意味しています。
たとえば代金前払いや代金引換の取引であれば、債権発生後の未回収は起きることがなく、与信も必要はないといえるでしょう。
しかし企業同士の商取引のほとんどは、その継続性や頻繁性からその都度お金を受け取らず、後払いで取引することが多いため与信管理が重要となります。
ただ、与信とはそもそもどのような意味なのか、どのように与信管理を行えばよいのかわかりにくいと感じることもあるでしょう。
そこで、与信とはどのような意味なのか、与信管理の方法や流れについてわかりやすく解説していきます。
目次
与信とは
「与信」とは「信用」を供与することを意味していますが、企業間の取引は商品やサービスを販売した後に代金を受け取る「与信取引」により行われます。
与信取引の場合、すでに商品やサービスは提供しているのにもかかわらず、その代金を回収できるか確実とはいえません。
もしも販売先が資金難に陥り、定めていた期日に手元の資金が不足していれば、支払いされず発生した債権が回収できない可能性もあります。
この不確実性を伴う取引が与信取引の特徴といえますが、企業間取引は頻繁に継続して行われることがほとんどのため、リスク回避のためにその都度代金を受け取ると事務手続や資金管理を煩雑にさせます。
そのため与信取引を続けるためにはリスクを継続して管理し、回避・低減させることが重要です。
与信管理とは
「与信管理」とは、たとえば販売先の情報収集や分析で信用力や動向を予測し、取引量や・取引額・決済方法を調整するなどの方法が用いられます。
将来、販売した後払い代金を回収できるか確実ではないため、販売先が代金を払えなくなる状況に陥らないか、継続的にリスクを管理することで回避・低減させていきます。
たとえば倒産リスクの高い会社との取引においては、販売する量や限度額を絞ること、後払いではなく現金決済で売るといった方法でリスクを回避することができるでしょう。
損失を抑え販売した代金回収を可能とするための方法が与信管理です。
与信管理が大切な理由
商品やサービスを売った販売先から、発生した売掛金を回収できなくなる貸し倒れや焦げ付きを防ぐためにも、与信管理は大切です。
企業間取引で与信管理を徹底して行うことにより、与信取引によるリスクを回避・低減させることができますが、会社にとって与信管理が重要とされる主な理由は次の5つといえます。
- 業績を悪化させないため
- 連鎖倒産を防ぐため
- 資金繰りを悪化させないため
- 貸倒損失の発生回避のため
- 対外的信用を低下させないため
それぞれ説明していきます。
①業績を悪化させないため
与信管理が杜撰な場合、それまで必死に稼いだ企業努力による利益が一気に失われることになりかねません。
たとえば利益率10%の取引で1千万円焦げ付けば、同じ利益率で損失を取り戻すために売上は1億円必要です。
新たに1億円売上を上げることは容易なことではなく、かなりの営業努力や負担が必要となるでしょう。
そのためにも焦げ付き発生を回避し、業績を悪化させないことが重要です。
また、損失を計上することになれば決算の見た目を悪化させ、銀行融資などの資金調達方法を失うこととなることも留意しておいてください。
②連鎖倒産を防ぐため
与信管理が重要である理由として、「連鎖倒産」を防ぐことも挙げられます。
連鎖倒産とは取引先の倒産により多額の不良債権を抱えることとなり、資金繰りが悪化で共倒れしてしまうことです。
保有する売掛金の額が大きければ、もしも回収できなくなったときの損失も計り知れません。
販売先から入金されるまでは1~2か月かかりますが、その前に仕入先に対する支払いが発生します。
固定費や家賃、従業員の給料なども支払うことが必要となるため、売掛金が未回収になることは企業経営にとって大きな痛手です。
売上構成比率の高い販売先が業績不振に陥ると、とたんに売掛金を回収できなくなり、自社も連鎖倒産してしまうリスクが高くなると留意しておくべきです。
特定の販売先にばかり売り上げを集中させないように、徹底した与信管理を行っていきましょう。
③資金繰りを悪化させないため
資金繰りを悪化させないためには、保有する売掛金を適切に管理し、「黒字倒産」しないように注意することも必要です。
黒字倒産とは、利益が出ているのにも関わらず、手元の資金が枯渇し倒産してしまうことです。
売掛債権管理が不十分だったことを理由に、回収できなくなる不良債権を抱えることになれば、黒字倒産してしまうリスクを高めてしまいます。
仕入先への支払いと売上のバランスを調整し、発生した売掛金は確実に回収できる与信管理が非常に重要です。
④貸倒損失の発生回避のため
売掛金を回収できなくなる不良債権を発生させれば、帳簿には「貸倒損失」を計上することになります。
取引した金額は売上に反映されなくなり、損失を発生させることで利益を圧迫します。
貸倒れとなった債権の金額によっては、それまで黒字経営だった場合でも赤字に転落する可能性もあるため、貸倒損失発生を回避し安定した利益確保に向けた与信管理が重要です。
⑤対外的信用を低下させないため
焦げ付きが発生すると、業績や財務状態を悪化させるだけでなく、周囲からの評価も低下します。
販売先の与信管理ができないことは業績を安定させることができないことを意味するため、信用力が低いと判断されるからです。
仕入れ先からも管理能力の低い信用できない会社と懸念されるようになれば、安定して原材料など仕入れることが難しくなるかもしれません。
しかも焦げ付いた代金を回収する業務は、売上・利益を伸ばす業務とは異なり後ろ向きな作業です。
従業員も本来なら発生しなかった業務を担当することとなり、モチベーション低下や負担増加でやる気を失う可能性もあります。
結果、現場の士気を低下させるなど悪い影響が及ぶ可能性も十分あるため、企業の信用力維持だけでなくモチベーション向上のためにも与信管理が重要です。
従業員が後ろ向きではなく前向きな仕事に取り組むことのできる環境整備を重要と考え、焦げ付きは発生させないための与信管理を徹底して行いましょう。
与信管理を行う方法
与信取引を続ける上で与信管理は大変重要なことといえますが、管理を前提として販売先を評価することと、それを踏まえて設定した信用枠から債権を管理していくことが必要です。
具体的には次の2つの方法で与信管理を行っていきましょう。
- 取引規模に応じて情報を収集
- 取引先評価後に信用枠を設定
それぞれ説明していきます。
①取引規模に応じて情報を収集
営業担当者などが販売先に直接出向き、情報を収集し評価していきます。
具体的には、
- 販売先へのヒアリングや雑談
- 地域や業界からの情報収集
- ホームページや就職情報サイトの情報閲覧
- 口コミサイトの閲覧
- 企業調査サービスなどの活用
などで情報を収集します。
その後、安全な取引を続けることのできる販売先か評価していくことになりますが、登記簿謄本なども確認しましょう。
保有する不動産に担保が設定されている状況なども知ることができます。
また、帝国データバンクなど、企業調査を請け負うサービス会社などを利用すれば、以下の項目を調べてもらうことが可能です。
- 企業概要
- 代表者
- 役員
- 大株主
- 従業員
- 設備概要
- 系列
- 沿革
- 業績
- 取引先
- 銀行取引
- 資金現況・不良債権状況
- 現況と見通し
- 決算書
- 不動産登記
さらに企業の総合評価を点数として公表しているため、販売先の格付けや与信管理に役立てることができるでしょう。
②取引先評価後に信用枠を設定
販売先を格付けによる信用限度額を設定することが必要です。
今取引している金額が適切か見直し、リスクに応じて減額したり増額したり現実的な与信限度額を決めていきます。
たとえば毎月の取引額が300万円で、発生している債権の回収期間が3か月という場合、保有債権額の平均は900万円となります。
これまで債権が未回収になったことはなく、与信管理により支払能力も十分問題がないと判断できるときには、限度額を1,000万円に設定しても妥当と判断できるでしょう。
しかし過去に支払いが遅れたことがある場合や、収集した情報から未回収リスクが懸念されると考えられる場合、取引限度額額を減額するなど見直すことも必要といえます。
販売先の限度額を見直し変更した後は、一方的に減額するのではなく、販売先と交渉するようにしましょう。
まだ支払ってもらっていない状況で追加取引が発生したときには、限度額を超えないか確認することも必要です。
単に限度額を見直し設定しなおすだけでなく、実際に発生した売掛金は確実に回収していくことが重要となります。
もしも期日通りに支払われず、遅延が発生したときにはすみやかに催促し、いつ入金されるか確認することも必要です。
催促しても支払いがないときには督促するなど、あきらめず継続した管理を確実に行っていくことも重要といえます。
まとめ
企業間取引において、代金を回収できなくなることは絶対に避けなければなりません。
そのため安定した利益を確保し、リスクを回避・低減するために与信管理は大変重要といえます。
主な与信管理の方法は、販売先の情報収集と分析ですが、実際に販売先とかかわることになる営業担当者や調査会社からの情報なども参考にしていきましょう。
いつもと様子が異なるなど異常性を感じ取ることと、異変に気がついたときの早急な対処が与信管理には必要です。
発生した売掛金の未回収を防ぐためにも、合理的な方法で着実に与信管理を行うことが大切ですが、ファクタリングは与信管理にも活用できます。
もし自社の与信管理体制に悩んでいるときや、赤字経営や債務超過を理由として資金調達が厳しいときには、一度気軽にご相談ください。