売掛債権の時効は5年と言われているため、成立前に回収することが必要です。
仮に回収せず、保有したままの売掛債権を放置していると時効を迎えてしまい、さらに資金繰りは厳しくなります。
売掛債権が時効を迎えれば売掛先に代金を請求する権利を失うため、消滅時効前に適切に回収しましょう。
そこで、売掛債権の時効について、期間や成立を阻止する方法をわかりやすく解説します。
目次
売掛債権の消滅時効
商取引で発生する「売掛債権」とは、簿記上の売掛金のことで、商品などの販売を掛売りで販売したときに発生します。
売掛債権には時効があり、そのまま放置すれば請求ができなくなってしまいます。
売掛債権の時効は、旧・新民法という法律の定めで以下の次のとおり違いがあります。
- 旧民法
- 新民法
旧民法
2020年4月1日以前の商取引には2017年以前の民法が適用され、職種別に時効までの期間が異なります。具体的には、次のとおりです。
医師・薬剤師の診療・調剤に関する債権、施工・工事に関する債権 | 3年 |
卸売・小売業で売却した商品の代価に係る債権、デザイン作成料、学習塾や習い事の月謝 | 2年 |
旅館・飲食店などの宿泊料や飲食料 | 1年 |
新民法
新民法では短期消滅時効は廃止され、債権の消滅時効は以下の2つのいずれか早いタイミングです。
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この時効は、2020年4月1日の改正民法以降の商取引に適用されています。
「債権者が権利を行使できるとき」とは客観的起算点と呼ばれ、権利を行使するための障害が法律上なくなったと判断されるときを示します。
たとえば支払期限が定められている債権などのうち、期限が到来していない状態などが該当すると考えられます。
「債権者が権利を行使できることを知ったとき」とは主観的起算点といいますが、上記の状態であることを知ったときです。
ほとんどのケースで、代金を請求できる債権者は、客観的に権利を行使することで可能になったタイミングにおいてその事実は認識していると考えられます。
そのため、状況は様々ですが10年ではなく5年の消滅時効が適用されることが多くなると認識しておきましょう。
売掛債権の時効の起算点
売掛債権の時効の起算点(期間のはじまり)は、その期間が午前0時から始まるときを除き、支払期限の翌日からとします。
この起算点の考え方を「初日不算入の原則」といいますが、たとえば支払期限が令和6年8月31日の場合の時効期間は、同年の9月1日から数えます。
時効が成立するのは、令和11年8月31日です。
上記を踏まえて、以下の3つで起算点を判断しましょう。
- 主観的起算点
- 客観的起算点
- 期限のない契約の起算点
主観的起算点
主観的起算点とは、権利を行使できる事実を認識した時点です。
「債権者が権利を行使できることを知ったときから5年」
が該当します。
商取引では契約書に支払期日を記載するため、代金や費用を請求できる日は認識しています。
そのため支払期日の到来に気がつかないことはほぼなく、実質的に消滅時効は5年と考えられるでしょう。
客観的起算点
客観的起算点とは、法律上、権利が行使できる状態になった時点です。
「債権者が権利を行使できるときから10年」
が該当します。
先の例で、代金の支払期限が令和6年8月31日の契約を締結した場合、債権者はこの期日到来まで売掛金の回収はできません。
しかし支払期限を過ぎれば代金の請求が可能であるため、客観的起算点は支払期限と同義ともいえます。
期限のない契約の起算点
契約締結の際に支払期限を定めていなかった場合、いつでも権利を行使できる状態となります。
そのため契約日が時効の起算点となり、契約書に記載されている契約日が重要になると考えられるでしょう。
なお、業務委託契約などの請負代金については、成果物を納品したときが時効の起算点となりますが、修正があれば修正後の完成品を納品したときを起算点とします。
売掛債権の時効を阻止する方法
売掛債権の回収が進まない場合は、時効の成立前に法的手段を含む次の方法で時効を阻止できます。
- 内容証明郵便で催告する
- 協議継続を書面で合意する
- 訴訟を提起する
- 支払督促を申し立てる
- 民事調停を申し立てる
- 債務を承認させる
- 一部を弁済させる
それぞれ説明します。
内容証明郵便で催告する
売掛債権の時効期限が迫っているのに未払いの状態が続いており、時効期限までに支払督促や訴訟の準備が難しい場合には、買主へ内容証明郵便で請求しましょう。
この催告により、時効は6か月間延びることになります。
協議継続を書面で合意する
催告をして売掛先と合意できなくても、今後、売掛金債権に対する協議を行うことを記した書面による合意を得られれば、時効を延ばすことができます。
時効を延長できる期間は次のとおりです。
- 書面合意から1年を経過する日
- 書面合意の協議期間を1年よりも短い期間で定めた場合は、その期間が経過する日
- 一方が協議続行を拒絶する通知を書面で行った場合は、通知から6か月が経過する日
書面の合意による延長は民法改正によって新設された規定で、2020年4月1日以降の商取引に適用されます。
訴訟を提起する
「訴訟」とは、裁判所に訴えでて相手に債権回収の権利と支払いの義務を法律的に確定してもらう手続です。
民事訴訟を起こせば、時効を阻止できます。
相手と話し合いができないときや、相手の協力や合意が得られない場合でも、有効かつ確実に債権を回収につなげられます。
売掛債権が60万円以下の場合は「少額訴訟」が可能であり、1日で審理・判決に至るため、通常訴訟より早期回収を目指せます。
また、相手が財産を隠す可能性がある場合は「仮差押」で、財産を差押える前の手続を行っておくことが必要です。
1回の期日で終了せずに期間がかかることもあり、弁護士が裁判所に出頭することが必要なため、費用も高額になる傾向が見られます。
支払督促を申し立てる
「支払督促」とは、裁判所を介して相手に売掛金を支払うように督促してもらう手続です。
通常の民事訴訟よりも簡易な手続であり、相手が反論をしなければ訴訟と同様の強制執行ができるため、確実に回収ができます。
ただし、相手が異議を申し立てた場合は通常の訴訟に移行します。
また、支払督促は相手の住所地の裁判所に申し立てる必要があり、遠隔地だと負担が大きくなると留意しておきましょう。
民事調停を申し立てる
「民事調停」とは、売掛先と話し合いを行い、互いが合意できるよう紛争の解決を図る手続です。
時効が直前に迫っているときの一時的な措置で、平行して裁判所に民事調停の申し立てを行います。
裁判所で話し合いを行い、支払いを前提とした手続です。
売掛先と話し合いもできず、合意の見込みもなければ手続しても意味がありません。
債務を承認させる
売掛先が売掛債権の存在を承認した場合も、時効は中断されます。
たとえば、売掛先に債務残高確認書を作成してもらい、売掛金債務があることを認めてもらうことなどの方法です。
ただし相手の同意や協力が得られない場合は手続できません。
一部を弁済させる
売掛先が売掛債権の一部を支払い、債務の存在を認めれば、時効の進行を阻止できます。
ただし相手が弁済に同意せず、協力を得られない場合は時効を阻止できません。
まとめ
売掛債権には時効があります。
未回収のまま放置すれば、時効成立により請求する権利を失う恐れがあるため、早期回収が重要です。
ただし長年付き合いのある取引先など、請求の仕方で関係性が変わるため、相手の状況も見極めた上での慎重な対応が求められます。
まずは期日になっても支払われることのない売掛債権がある場合、売掛先になぜ遅れが生じているのか確認し、いつまでに支払ってもらえるのか確認しましょう。
売掛債権の支払いが遅れると、口うるさく催促されると認識されたほうが、優先して支払ってもらえるかもしれません。
また、ファクタリングを使えば、貸し倒れリスクもファクタリング会社に移転されるため未回収で悩むことはなくなります。
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