法人化を検討しているけれど税金が気になるのなら、シミュレーションしてみましょう。
個人事業主で収益が伸びてきたため法人化したものの、税金の負担が重くなってしまうのはデメリットといえます。
適切なタイミングか判断するためにシミュレーションを行い、具体的な尺度や目安としましょう。
そこで、法人化した後の税金について、シミュレーションや概算の計算方法を解説します。
目次
法人の納める税金
法人で事業を運営する場合、納めなければならない税金として「法人税」が挙げられます。
法人税は会社の事業活動による所得に課税される税金であり、法人税・法人住民税・法人事業税の3つをまとめて「法人3税」や「法人税等」といいます。
税金には国へ納める「国税」と都道府県や市町村に納める「地方税」があり、法人税は国税、法人住民税と法人事業税は地方税に含まれます。
国税 | 法人税 | 法人の所得に課税 |
法人地方税 | 法人の所得に課税 | |
地方税 | 法人事業税 | 法人の事業自体に課税 |
法人特別事業税 | 法人事業税の一部を分離した税金 | |
法人住民税 | 法人税割(法人税額をベースに課税)・均等割(会社の規模などに応じて課税) |
法人税は、事業年度ごとに計算し、事業年度終了日の翌日から2か月以内に、税務署へ申告し納めます。
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所得と利益の違い
法人税は、法人の「益金」から「損金」を差し引いた所得に課せられる税金ですが、「所得」と「利益」は以下の違いがあります。
所得 | 税法に基づく税務の言葉・考え方 |
利益 | 経営成績や財務状態を把握するための会計の言葉・考え方 |
益金 | 商品販売・役務提供・資産譲渡の収益 |
損金 | 法人資産を減少させる原価・費用・損失などから一定額を差し引いた額 |
そのため所得と利益は、それぞれ以下の計算式で算出できます。
所得 = 益金(売上収入・売却収入) - 損金(売上原価・販売費・損失費用) 利益 = 収益 - 費用・損失 |
益金と損金は法人税法上の考え方であり、会計上の収益や費用と必ずしも一致するとはいえません。
収益から費用を差し引いた額が利益であり、法人税法の規定で税務調整を行い、課税所得を計算します。
具体的には、法人税の申告書上で決算書上の利益に、以下の加算・減算を行って所得の金額を求めます。
所得の金額 = 当期純利益(会計上の利益) + 損金不算入 + 益金算入 - 損金算入 - 益金不算入 |
損金不算入 | 費用・損失であるものの損金にならない(交際費の損金不算入など) |
益金算入 | 収益ではないものの益金である(受贈益計上もれなど) |
損金算入 | 費用・損失ではないものの損金である(繰越欠損金の損金算入など) |
益金不算入 | 収益ではあるものの益金ではない(受取配当等の益金不算入など) |
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法人化すべき年収の目安
個人事業主やフリーランスが会社を設立し、法人化を検討するのであれば以下の売上や所得などを目安にするとよいでしょう。
- 2年前の課税売上高が1千万円超
- 前年の前半6か月の売上が1千万円超
- 所得が800万円超
- 事業拡大を予定中
それぞれ説明します。
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2年前の課税売上高が1千万円超
個人事業主の法人化は、2年前の課税売上高が1千万円を超えるタイミングを目安としましょう。
2年前の課税売上高が1千万円を超えると、消費税の課税事業者として納税義務を負います。
法人化で設立する会社は個人とは別人格であり、個人事業主の売上は影響しません。
そのため法人化した後も、最大2年間は消費税の納税義務が免除されます。
前年の前半6か月の売上が1,000万円超
個人事業主の法人化は、前年の前半6か月の売上が1,000万円を超えるタイミングを目安としましょう。
2年前の課税売上高が1千万円を超えないケースでも、前年の前半6か月の売上が1千万円を超えており、人件費(役員報酬含む)が1千万円を超える場合は消費税の課税事業者として納税義務を負います。
そのため前年の前半6か月の売上が1千万円を超えないか、確認した上で法人化を検討することが必要です。
所得が800万円超
個人事業主の法人化は、所得が800万円を超えるタイミングを目安としましょう。
まず個人事業主で納めるべき所得税は、所得や財産が多いほど税率も上がる累進課税で計算されます。
しかし法人税の税率は、所得800万円以下の部分は15%、所得800万円超は23.20%で固定されるため、所得が800万円を超えるタイミングで法人化すれば税負担を軽減できます。
事業拡大を予定中
個人事業主の法人化は、事業拡大などを予定している場合、検討するとよいでしましょう。
新たに取引先を増やしたいときや人材を増やしたい場合には、個人事業主のままでは社会的な信頼性が低いため、信用力を上げたほうが有利です。
銀行融資や助成金・補助金などの制度を使う場合でも、個人事業主よりは法人が審査において有利といえます。
また、株式会社を設立する場合には増資で資金調達する方法も活用できるため、事業拡大を予定しているのなら法人化を検討するとよいでしょう。
法人税のシミュレーション
会社を設立した後、法人税をどのくらい納めなければならないのか、事前に知りたいときには一定の条件のもとでシミュレーションすると安心です。
たとえば以下の前提条件で法人税のシミュレーションをしてみましょう。
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法人税の計算においては、まず以下の計算式で課税所得を算出することが必要です。
課税所得 = 会計上の利益 + 益金 - 損金 |
上記の前提条件を計算式にあてはめると以下の課税所得になります。
2千500万円 = 2千万円 + 1千万円 - 500万円 |
次に法人税の計算における法人税率は、普通法人のうち資本金1億円以下の中小法人であれば以下の割合が適用されます。
課税所得年800万円以下の部分 | 法人税率15% |
課税所得800万円超の部分 | 法人税率23.2% |
そのため上記の課税所得2千500万円の場合、以下の法人税額となります。
120万円 = 800万円 × 15% 394万4千円 = 1千700万円 × 23.2% 514万4千円 = 120万円 + 394万4千円 |
上記のシミュレーションを参考に、法人化の後にどのくらいの法人税を納めることになるのか、計算してみるとよいでしょう。
法人の税金をざっくり計算する方法
法人税のシミュレーションは、それほどむつかしくありません。
ただ、大まかなに納税額を知りたいときには、ざっくりと算出できる以下の計算式を活用するとよいでしょう。
概算の決算時の納税額 = 税引前当期純利益 × 実行税率 + 約7〜8万円 |
上記の計算式の「税引前当期純利益」とは、事業年度で稼いだ会社の利益です。
「実効税率」とは、法人税・地方法人税・住民税・事業税の合計額の割合であり、合計税率です。
所得に対して課税されるいろいろな税金を一括で算出できるようにまとめた税率であり、毎年の税制改正や事業所の所在地、事業形態などで異なります。
会社の利益に「実効税率」をかけて、7〜8万円足せば大まかな納税額を算出できます。
ただし上記の計算式で算出できる納税額は、会社の所得に課税される税金のみであり、所得以外に対する消費税などの税金は含まれていません。
また、計算式で算出した額はあくまでも概算であり、決算申告での納税額とは異なるものであることと認識しておいてください。
シミュレーション後に法人化する場合の注意点
法人化後の税金について、シミュレーションした後に実際に会社を設立する場合、以下の6つに注意しましょう。
- 予想以上に費用がかかる
- 役員報酬の受け取りに変わる
- 社会保険料の支払い義務が発生する
- 住民税均等割りの納税義務が生じる
- 事務手続が煩雑になる
- 交際費の損金計上が制限される
それぞれ説明します。
予想以上に費用がかかる
法人化は、会社設立における費用など、予想以上に費用が掛かることに注意してください。
会社を設立するとき、合同会社は6~10万円程度、株式会社は20~25万円程度の費用が必要です。
また、司法書士などに手続を依頼した場合、報酬も別途発生します。
個人事業主であれば、税務署に開業届を提出すれば開始できるのに対し、法人化では初期費用がかかることは理解が必要です。
法人登記とは?個人事業主の法人化するメリットをわかりやすく解説
役員報酬の受け取りに変わる
法人化は、個人事業主とは異なり、経営者の受け取れるお金が役員報酬に変わります。
会社経営では、経営者個人と会社は別人格とされるため、お金も明確に分離されます。
そのため個人事業主では自由にお金を使えたのに対し、法人化した後は役員報酬として受け取ったお金のみを自由に使うことができます。
役員報酬は定期同額給与となり、1年間は同じ額になることも認識しておきましょう。
社会保険料の支払い義務が発生する
法人化は、社会保険料の支払い義務が発生します。
会社経営においては社会保険に加入することが必要であり、社会保険料は事業者と労働者の労使折半となるため、人を多く雇用すれば負担する費用も増えます。
経営者一人で運営している法人でも、国民健康保険と国民年金の合算より高額の保険料が発生するため負担が重くなります。
住民税均等割りの納税義務が生じる
法人化は、赤字だった場合でも法人住民税の均等割りを納めなければなりません。
個人事業主で事業を営んでいる場合、確定申告で赤字になれば所得税を納める必要はなくなります。
法人の場合、法人税割と均等割を合わせた法人税を納めることが必要ですが、決算で赤字の場合法人税割の負担はありません。
しかし均等割は、資本金や従業員数で納税額が決定するため、たとえ赤字でも納めなければならないと留意しておきましょう。
事務手続が煩雑化する
法人化は、事務手続が煩雑化する点に注意しましょう。
個人事業主では、確定申告のための会計処理や、通常の事務手続はそれほど複雑といえません。
しかし法人化では、会社設立における手続や設立後の会計処理、保険や雇用の手続など個人事業主とは異なる手続が必要です。
事業年度ごとの決算申告の準備や手続も煩雑になります。
交際費の損金計上が制限される
法人化は、交際費の損金計上に限度があり、制限されます。
個人事業主の場合、交際費を損金計上することに対する上限は特にありません。
しかし法人化した場合、経費として扱うことのできる交際費は制限があります。
飲食費は50%を経費に計上ができるものの、資本金1億円以下の会社は年間800万円までとなるため、接待などが多い場合は法人化すると計上できる経費が少なくなってしまいます。
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法人税の節税方法
法人税は、以下の制度の適用や方法で節税できます。
- 軽減措置
- 赤字繰越
- 未払費用計上
- 在庫整理
それぞれ説明します。
軽減措置
法人税には、資本金が1億円以下で特定条件を満たす場合、軽減措置の対象です。
法人税の税率は原則23.2%ですが、中小法人の場合、平成24年4月1日から令和7年3月31日までの間で開始する各事業年度分の年800万円以下の所得金額の部分は、税率15%に(本則19%)軽減されます。
繰越欠損金
法人税は、「繰越欠損金」を活用することで抑えることができます。
事業運営で赤字が出た場合、法人であれば最大10年まで繰り越すことが可能です。
過去の赤字と当期の黒字を相殺できる制度が「繰越欠損金」であり、法人税額を計算するとき、翌事業年度以降の黒字から差し引くことができます。
また、前年度に所得発生により法人税を納めている場合において、欠損金が発生したときには当期欠損金を前期所得に充当し、納めた法人税を還付してもらえる「欠損金の繰戻しによる還付」の制度もあります。
未払費用計上
法人税は、「未払費用」の計上で今期の所得を減らし、節税することができます。
「未払費用」は、今期中に発生したものの支払いは来期になる費用であり、将来的に支払う必要があるため経費として計上することが可能です。
そのため未払費用を期末に計上することにより今期の所得を減らせるため、毎月の所得や損金が大きいほど節税効果が期待できます。
在庫整理
法人税は、不要な在庫を整理することで節税できます。
在庫の整理は、売却損・廃棄損という形で損金計上することが可能です。
小売業や製造業などは在庫を保管している業種のため、期末に不良在庫を廃棄したり安く処分したりすることで、経費として計上できる金額が増えます。
まとめ
個人事業主とは異なり、法人として事業を運営すれば、法人税などの税金を納めることが必要です。
法人化した後の税金がどのくらい発生するか知りたいときには、先にシミュレーションしておくと、大まかな納税額を知ることができます。
法人は納めなければならない税金が多く、税制改正で決算における事務手続も煩雑化しやすいといえます。
そのため節税対策には専門的な知識も必要となるため、日々の会計処理にミスはないか、適切な手続ができているか定期的に確認するようにしましょう。